壊れてしまったレフィーヤさん~妖精は髪を切り、そして英雄に依存する   作:37級建築士

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曇らせ、か~ら~の~


(25) ノック

 

 

 

 病室を出た、明かりも何もない部屋で目を覚ました僕は、重い体を引きずって無理やりにドアを開けた

 

 長く続く廊下があったはず、けど引き戸を開ければそこはもう青空の下。たくさんの悲しみを見て知って聞かされて、それでも前を向かないといけない

 選んだ道は自分の意思で。救うために抗ったから、しなければよかったなんて言えるわけもないし、いうべきでもに。けど、なによりも、言いたくない

 

 

 歩け、歩いて歩いて、顔を上げ続けろ

 

 

 

「………………」

 

 

 

……どこも、泣いてばかり

 

 

 

 

 治療院を後にして、記憶を頼りに歩き続けるも道順は不確かに感じる。それほどに、街はボロボロで、行く先々で人が泣いている

 皆、泣いている、そして恐れている。子供が泣いて、恋人が泣いて、家族が友達が泣いて、けど誰も抱きしめたり傍に寄り添うこともしない

 

 恐れている。いつだれが化け物に変わるかも知れず恐れている

 

 

 

「……ぁ」

 

 

「責務はあるが責任は感じてくれるな……悪いのは、あくまで敵の方なんだからな」

 

 

「へるめす、さま」

 

 

 肩にかけられた僕の上着、わざわざ取りに行ってくれたのかと思うと気が回り過ぎてちょっと気持ち悪い

 

 

「……普通にそこは感謝して欲しいぜ、ベル君よ」

 

 

「あ……え、あの」

 

 

 掴まれた手首、子供の手を引く親のように、ヘルメス様は進行先を変えた

 

 大通りではなく、暗い小道へとすすむ。目的地から回り路になる進路変更に疑問符が浮き出る

 

 

「近道は構わないが……見ない方が良いものはある」

 

 

「……え」

 

 

 

 理解が回らない頭に、行く道中でヘルメス様は懇切丁寧に説明をしてくれた

 

 僕が眠っていたこの一月、オラリオで起きてきな数々の異変、そして今に至る災害の痕

 

 実質、戒厳令に近しい惨状が起きているのはそうなのだが、此度のことは真相を知るヘルメス様が事態に対処に大きく関与している。だから、今起きている災害対処にも当然支持を出しているわけで

 

 つまるところ、此度の災害はティンダロスという怪物の持つ不浄を原因とした汚染拡大の側面を持つ

 

 故に、ある程度の対処方法を知るヘルメス様をはじめ、ギルドの権力を用いて災害現場を封鎖しているのだ

 

 現状、オラリオにあるいかなる道具、秘術、奇跡ですら浄化できない異端の不浄

 

 できることは、拡大を防ぐ隔離処置。故に

 

 

 

 

 

「……う、くぷッ」

 

 

「すまない、ここは現場に近いからな……死臭の対処もしているがまだ追い付いていないんだ……早く通り抜けよう」

 

 

「…………は、はぃ」

 

 

 

 街を見て、倒壊している建物があって、たくさんの被害者がいて

 

 だから、こういうことも予想できるし、理解は行くから腑にも落ちた。多くの犠牲者の痕跡、遺体、まき散らした生々しいもの、そこにティンダロスの不浄の泥が残っているなら

 

 そして、その現場が未だ撤去されないまま残っているなら

 

 

 

 

……見ても、正気を減らすだけか

 

 

 

 

 死臭を放つ惨殺現場がいくつも点在する中、裂けて通ることは何も間違っていない

 

 夢の中で遊んだ遊戯、正気度を減らして狂気に陥る暇は僕にはない

 

 会わないといけない人がいる。行かないと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数度、肺に吸い込んでしまった死臭と泥臭、息も絶え絶えな僕と、もう慣れてしまったのかまったく動じないヘルメス様と歩き続け、そして今ようやく黄昏の館にたどり着いた

 

 悪い空気をたっぷり吸って、少し息を整えてから戸を開けようか、なんて思った矢先に

 

 

……アルゴノゥトク∼ン

 

 

「!」

 

 

 聞き覚えのある声がして、振り向くやもうゼロ距離に褐色肌とチューブトップが飛び込んできて、ぶえ!?

 

 

 

「アルゴノゥトくん!」

 

 

 

「てぃ、ティオナさん……わっぷ」

 

 

 

「よかった、よかったよ~!!目覚めたんだね、無事だったんだね!!レフィーヤ助けてくれてありがどぉおおおお!!!」

 

 

 

「……う、んん~ッ!」

 

 

 

 黄昏の館入り口にて、出会いからすぐ飛びつきからの抱き着きで息ができないベルがいる。つつましやかなサイズだが、胸に抱きしめられている事実は揺るがない

 

 いい匂いがする。それに柔らかさもある。鮮烈で、生々しい感覚で脳がしびれてしまう、はずなんだけども

 

 

「ふふ~ん、なになに~? 甘えちゃってるの?」

 

 

「!」

 

 

 大きさは違えど覚えのある感覚、つい夢の時と同じように抱き着いて顔をこすり付けてしまった

 

 とっさに肩を掴んで距離を置くも、ティオナさんは

 

 

「あれ、もういいの?別に嫌じゃなかったけど……むしろ気持ちいい」

 

 

「……す、すみませんッ!?」

 

 

 顔を赤くしたティオナさんに僕はひたすらに謝るばかり。さっきまでダウン気味だった気分が嘘のように晴れ晴れしくなったのは、心の奥で感謝している。言わないけど、くれたものには感謝しかない

 

 

「ベル君、君が会いたいのは」

 

「は、そうです!大丈夫です!」

 

「……ん、なんのお話?」

 

 

 信念が揺らぎそうになるも、僕は踏みとどまってティオナさんを乗り越えた

 

 会いたい人がいる、この思い早々に揺らいでしまっては見せる顔が無い。早く、早くレフィーに会いに行かないと

 

 

 

「ちょっとちょっと、勝手に行っちゃ駄目、案内するからアタシも一緒だよ」

 

 

……ムラ

 

 

「……う、うん」

 

 

「アルゴノゥトくん、なんだか辛そう……何か我慢してる?トイレ?」

 

 

「……いえ、お気になさらず」

 

 

 

 

 腕に絡みつくティオナさんの人肌、生々しい女の子の匂いと温度が心を騒がしくする

 

 異性を相手にするのは得意じゃなかったのははじめから、けどなんだ?どうして僕は今こうも異性を意識している?

 

 異性を生々しく意識してしまう心当たりなんて、ある、うん、ありました

 

 

 

……ベル、あんあんッ

 

 

 

……せっしぼーん、知りませんか?良いエッチのあとに言う言葉らしいです

 

 

 

 思い返す記憶、容易には消えてくれないピンク色の体験。夢とはいえ、触った感覚も出てしまった衝動も、全部全部記憶に新しく残り続けていて、うん……ぼくって最低だ

 

 

 

「……すぅ、はあぁぁぁ」

 

 

「ん、どうしたの」

 

 

「精神を穏やかにする呼吸です、気になさらず」

 

 

「?」

 

 

 

 心中穏やかでない僕を知らず、ティオナさんは相変わらずスキンシップたっぷりで連れて行く。ヘルメス様はそんな僕を見て壺に入ったのか笑っていた

 

 ちなみに、ヘルメス様はどうしてか出禁らしい。神ロキと何かあったのだろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初めて入る館の中、僕が向かったのは団員が宿泊している区画の、いわゆる女子寮的な場所

 

 時折見られる女性団員からの視線が痛い。でも、敵を見るような目で見ることはなく、皆敵意のない視線で、それに挨拶をしてくれたり、また

 

 

 

「お礼、いっぱいだね」

 

 

「……えぇ」

 

 

 今しがた、曲がり角を行く際にすれ違ったエルフの女性、アリシア・フォレストライトさんから深々と頭を下げてお礼の言葉を貰ってしまった

 

 高潔なエルフらしい彼女が、ここまで礼を尽くすことからも

 

 

「誇らしいでしょ、なんて」

 

「……いえ、それよりも」

 

 

 感謝されることを誇らしく思うより、それだけレフィーヤに対して皆思いを途絶えさせず続けてきたことに、レフィーヤを大事な仲間として思い続けていることがうれしく思える

 

 外のことを思うと素直に喜ぶべきじゃないかもだけど、それでも

 

 

……レフィーの救いは、望まれたことなんだ

 

 

「……」

 

「どうしたの?」

 

 

 心配げに声をかける、すこししかめた顔をしてしまったからだ

 

 難しい、思い悩み続けても容易く答えは出ないし、かといってこれは間違っている、こっちの方が正しいと決めるのもはばかれる

 

 レフィーを助けたことは、そのせいで起きてしまったことも、今は、ただ悩み続けて腹の中で痛みを感じるぐらいでちょうどいい

 

 

「気分、悪いの?」

 

「い、いえ……えっと」

 

 心配させるのは良くない、何か誤魔化せること

 

 

「……うれしくて震えているだけです」

 

 

 嘘ではない、誇張しているが事実でもあることを述べる

 

 

「レフィーに会いたい。ずっと眠ったままで……色々あったけど、でも……やっぱり本人の声を聴きたい」

 

「……本人?」

 

「はい、実は眠っている間もずっと……見てまして」

 

「へえ、そっか……ふ~ん」

 

 

 にまにまと、いじらしい笑みで見てくるティオナさん。のろけなのか、みたいなことを言いたいのだろう。無言でわき腹をつついてくる 

 

 嘘は言ってない。でも、夢に見ていたものは、流石に言えない。憑かれていたとはいえ、あそこで得た感情は本物でもあった。裸のレフィーヤに魅力を感じないなんて、どう言い繕ってもウソがばれる

 

 

「果報者って奴? レフィーヤ、うらやましいねえ」

 

「……あの、レフィーは」

 

「はいはい、のろけ話はまた今度……ほら、ここだよ」

 

「え、あの!」

 

「じゃ、あとはごゆっくり!」

 

「……」

 

 

 話していたら、気づけばそこは扉の前。もう着いてしまっていた

 

 いきなり、ぶしつけに、この扉を開けて会いに行けと

 

 

 

……聞いておくべきだったよね

 

 

 

 今更だが、さっき聞き損ねた質問は、レフィーの近況だ

 

 ヘルメス様からも聞けなかったし、一応治療院にいなかったところからもう退院なのだと思うけど

 

 

 

「……レフィー」

 

 

 開いた手、今は何もないこの手のひらに、少し前はずっとレフィーヤの温度を感じていた

 

 手を離せばそれだけで発狂するほどに病んでしまった、いや壊れてしまった。顔に傷だってできたし、また心を蝕まれていてもおかしくないはず、だけど

 

 

 

…………あの時

 

 

 

 

 覚えている、かすかにだけど目が覚めた病室の景色だ

 

 まだ悪夢に溺れる前、傷だらけの僕の傍で手を握っていたレフィーヤの泣き顔を、僕は覚えている。

 

 悪夢の中で見た気になっているただの幻覚、なんていぶかしげになったりしたけど、でも

 

 

 

 

……『コンコン』

 

 

 

 

 

「レフィー……ベルだよ」

 

 

 

 

 気配を感じる、そこにいる気がする

 

 手は繋いでなくても、近くに寄り添ってきたからこそわかるのだ

 

 

 

 

「……会いたかった」

 

 

 

 

 手を繋がなくなったあなたが今どうしてこの部屋にいるのか、外の惨劇の時もどんなことがあったか

 

 知らないことを埋めたい。心配しているとかじゃない、ずっと独善的な欲

 

 仮初の悪夢で、交わし続けた逢瀬のせいで余計に寂しく感じる。あぁ、そうだ、会いたいんだ

 

 

「会いたくて、来たんだ……いいかな、開けても」

 

 

 恥ずかしくて、噛み合わせが悪くなるセリフを自ら吐いてしまう

 

 確かめるためにまたノック、けど返す返事は無い

 

 

「?」

 

 

 眠っているのか、それとも居留守なのか

 

 わからない、けどわからないままじゃあ止まれない。悪いこととはわかっているけど

 

 

 

……開いて、ない

 

 

 

 

……『ガチャ』

 

 

 

 

「————ッ」

 

 

 

 意を決して、開けたドアを押して、まず目に入ったのは整えられた部屋の模様

 

 使い込まれて乱雑に化粧品が置かれた机に、敷かれた愛らしい色のカーペット。壁に掛けられた魔法の杖がいくつも、レフィーの部屋なんだと思うものが随所に見れる

 

 そして、当の本人は、ベッドで今もなお寝て

 

 

 寝て、寝ていて、いや

 

 

 

……いない

 

 

 

「え?」

 

 

 

 いない、どこにもいない

 

 まさか間違えたか、そう思いドアの外側のネームプレートを見てみるけど、そこにはレフィーヤと書いてある。ティオナさんだっているから招いたはず

 

 じゃあどこに、この部屋にはトイレとかそういう扉もないし、まさか隠れて

 

 

……ひゅぅ

 

 

「…………まさか」

 

 

 風が吹く、カーテンが揺らぐ窓の扉がきしんで揺れていた

 

 もしかしてと、思いに駆られて踏み入って、窓の外を見て発見してしまった

 

 

 

「!」

 

 

 

 

 

「わ、わわわわわッ!!」

 

 

 

 

 

 

「……れ、レフィーヤさん!!」

 

 

 

 部屋着と思われるパステルピンクのパジャマ姿で、屋根を伝って、パイプを伝って、中庭に降り立つ瞬間を見てしまった。

 

 目が合って、素っ頓狂な声を上げて、そのまま走って逃げてゆく。レフィーヤさんたらどこへ行くのか、うん、本当になんで?

 

 

「え、えっと……追った方が、良いよね、良いはず!」

 

 少し迷って、けど決断して僕も窓から飛び出てみた。病み上がりの体でもどうにかこうにか動くのは冒険者だからか、でも傷のできたお腹がすごく痛い

 

 着地、足も痛い。血は出てないけど、骨に痛みがジーンと染み出てきた

 

 

「い、痛く……ないッ……がんばれ、僕!」

 

 

 逃げるレフィーの背を追って、どうにか僕は走るをやってみせる。

 

 傷口が開くかもだけど、どうしても見失っては怖いことになる気しかしない。会いたくて、ここまで来たんだ、あきらめては終われない

 

 

 走れ、走れ走れ!

 

 

 

次回に続く

 




はい、次回よりベルレフィでランナウェイ。曇らせの後は甘いベルレフィを挟まないと死ぬ病

悪夢の偽物レフィーヤには無い現実のレフィーヤを魅せていきたい、そんな気分


感想・評価等たくさん頂いております。UAもついに10万突破しました。思い付きで始めたこのお話も随分と大きく成長して、完結のハードルが上がって怖いぜぇ

レフィーヤを幸せにして終わるか、それとも……

参考になるかわからないけど虚淵作品のアニメでも見ようかな?
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