壊れてしまったレフィーヤさん~妖精は髪を切り、そして英雄に依存する 作:37級建築士
「……ッ……————ッ」
息を吐いて、吐いて、吸って吐いて、しぼんで癒着してしまった肺が久しく取り込んだ大量の空気に悲鳴を上げている
一月ぶりの有酸素運動、走ってわき腹に痛みを感じるなんて初めての体験だ
追いつけそうなのに、まだ全快と言えない体の具合が口惜しい
届く距離なのに、キープするしかできない
「レフィー、待ってッ」
「……ぅ、駄目です!」
瓦礫の合間を抜いてだだっ広くなっている住居区画を走り抜ける。時折見るシートを被されて隠された現場を通るから、また気分が悪くなりそうだ
どこに行くのか、どこまで行くのか。
そして、なによりも
……どうして、逃げて
会いたくない理由があるのか、そう思ってしまうだけで胃がキリキリと痛む。
でも、そんなことはないはずだと、僕は信じている。信じたい
あのわずかに目が覚めた時、手を取って泣いてくれていたレフィーのことを、レフィーの、こと
「……ぁ」
知恵が動く、記憶を頼りに答えを導く思考がぐるぐると回った
「……は!」
そんな中、追っていたレフィーが姿を消して、一瞬目を離してしまった
「は!……うぅ、えっと……そこッ!!」
川沿いの道を走っていて、橋を渡って向こう岸に行ったと思えばレフィーは進路を真下に変えていた。
川の下、鎖で立ち入り禁止の封がされている階段を降りた先、遊覧船の乗り場。川の下の船に飛び乗って、そのまま下の道を走る。向かう先には、地下水道の入り口がある
「そこまで、して……あなたは」
逃げられる、このままではマズイ。そう思った時に僕は橋の上から飛び降りていた
「!」
「まって、レフィー!」
着地した船の屋根、けど踏ん張る力だが思ったように入らない
というか、傾いていて
「!」
揺らぐ船の上、揺れの反動に吹き飛ばされるように僕の体は飛んでいた
水面の上、日差しが反射する輝きの中に、頭の先から足先まで飛び込んでしまったのだ
「————ッ!?」
鉛のような衣類の重み、雪のように冷たい水をたっぷりと吸い込んで、手足の関節が固定されたみたいに動かない
泳ぐ方法も、息の仕方も、全部全部真っ白だ
苦しい、辛い、レフィーに追い付けない。そう、追いつけないのだ
溺れているのに、まず真っ先に悲しむのはレフィーのこと
呆れられる言葉をはかれてしまう。だけど、水のなかじゃあその言葉すら聞こえない
『—————————ッ!!』
叫んでいる、雑音混ざり合って騒々しく響く水面と水中の境目で
その音の主は、僕の胸ぐらをつかむようにして強引に息を吸わした
「馬鹿!どうして……あなたって人は」
「!」
押し付けられるようにして抱かされた金属柵、川下の道の濡れた石畳に触れて、ようやく我を取り戻す
流れに飲まれないように、必死に柵に腕を入れてしがみついてる。今更になって、溺れそうだったことの恐怖がいっぱいに溢れかえってきたのだ
「……バカ、本当にバカ……バカなベル・クラネル」
「れ、レフィー」
隣にいて、僕よりも先に上がって、引き上げるために手を掴んだ。柵をよじ登らせれて、引っ張り上げて、そして壁際にもたれかかる
力なく座り込む僕に、レフィーは見下ろす立ち位置で存在した
あれほど追っていたレフィーが目の前に
力強く、生気に満ちた瞳はぎらぎらと憤りの熱を見せている
けど、同時に
「……レフィー、泣いているの」
「別に、濡れているだけです」
びちゃりと、濡れて重くなった服を裾を少し翻す様に揺らして、毅然と答えてみせた
「あなたの方こそ、泣いているのでは」
「……うん、泣きそうかも」
「ふぅん」
「うれしくて、泣きそう」
「……————ッ」
夢じゃない、現実で会えた。眠っていた時に見たものが仮初であると知ってからはずっと飢えていた。乾いていた、レフィーに会いたい気持ちを満たしたくて、傍にいてほしくて
ずっと、ずっと震えながら待っていた
「……れ、レフィ……退院、おめでとう」
「そ、それ……私のセリフです……もう、調子が狂う」
いじらしく、睨んで地団太を踏む。意地っ張りで素直で感情が豊か、そんなレフィーヤさんを久しぶりに見れたのがうれしくて、結局また泣いてしまった
涙が止まらなくて、僕も同じ言い訳をした
「泣いてばかり……もう」
傍に近づき、膝をついて、僕の顔に手を添える、掌の温度で暖めながら、親指で涙を払う。泣かないでと、優しく接して言葉をかけて
「……濡れているだけです、から」
「嘘」
「レフィーも、一緒だね」
一呼吸の間を置いて
「「泣いていない、濡れている……だけ」」
口を揃えて言った言葉、一言一句、最後の間の付け方まで全部揃っていた
次回に続く
今回はここまで、次回が長めになると思われなのでここで切ります
再会した二人、ここから本当の甘いベルレフィを提供、健全ですよ、こいつは