壊れてしまったレフィーヤさん~妖精は髪を切り、そして英雄に依存する 作:37級建築士
ちょっと別視点のお話です
※直接的すぎる表現があったので一部訂正
レフィーヤが部屋を出たというのはティオナをはじめ、やはりロキファミリアの間では驚きを隠せない速報であった
レフィーヤはベル・クラネルの下で介抱を受けており、そして原因不明の倒壊事故による不幸な大負傷で意識不明となったベルに心を痛め、それからこの一月の間は碌に部屋からも出ずに日々を過ごしていた
精神の不安定は見られなくなり、ホームへの帰還を一同は喜ぶのだが、依然レフィーヤは壊れているという言葉がしっくり来てしまった。レフィーヤはベルへの依存がなくなった分、他者への拒絶がひどくなった
そこには、報告から聞いた顔に残る一生傷も関係しているのではと一同は推測し、レフィーヤの安静な処置に賛同することになった
世話役は、特に親しいもので、それでも無理な時は手の空いている女性団員で、部屋から出ないレフィーから必要最低限の日常生活の世話をし、そうして日が流れていくことに皆慣れてしまった
慣れていた故に、レフィーヤが部屋を出たというのはまさしく神話級の驚愕となった。岩戸を押し開けて出ただけに飽き足らず、その上男とエスケイプだ、騒がない方がどうかしている
「レフィーヤが出て行った!」
「ベル・クラネルが追いかけて行ったぞ」
「これ、やっぱり……二人の関係って」
「男女二人、看病を通じて……プラトニック」
ずっと開かずの間と化していたレフィーヤの部屋が急に開いたのだ。その上、籠っていた主は足早に同い年の男の子と出かけて行ったのだ
皆レフィーヤを心配し驚いたが、しかしこの場で皆一様に迷いが出てしまった
これ、男女の問題では、と
他人の恋路に口を出す行為に皆等しくブレーキがかかった
「いやいや、でもこれ追った方が」
「いやいやいや、それこそお邪魔なだけじゃ、俺は馬に蹴られたくないね」
「俺槍使いだけどよ、男女の関係に横槍入れるのはごめんだね」
「俺もやだね。というかイチャつく若い二人なんか見てみろ、死にたくなるぞ」
「モテなくて辛い」
「男作りたい」
「彼女が出来ない」
レフィーヤが抜けたロキファミリアホームにて、抜け出して去っていく二人を見て皆驚き、からの迷走。
時間は立つも皆口々に駄弁っているだけ。何だったら二人の間にやはり特別な関係があったのでは、それは何時から、もしかして入院する前からフラグは立っていた?
ベル×レフィーヤ、ありでは?むしろ正解では?アイズさんにつきまとうよりはずっと清純では?なんと弁論は多岐にわたって脱線からの脱線を繰り返し、次第に追いかけようと提案するものは一人も出ず、皆朝帰りになる二人を想像して男も女も年齢関係なく赤面した
アオハルかよ、これが神々の言っていたアオハルかよ、と
しかし、ことがことなので報告は上にも届く。団員よりエスケイプする二人についてリヴェリアが知るや
× × ×
「……構わないさ、好きにさせればいい」
口元を隠し、笑いを噛みつぶしながら言葉を発した。
報告した団員はその隠しきれない笑みに戸惑いを見せるも、すぐに安堵の気持ちから自らも続いて笑った。団員は久しく、リヴェリアの安らいだ顔を見ていなかった故
一月、そして合わせて11日
レフィーヤが壊れてしまった日より続いたこのオラリオの異変の数々。とくに、近日に起きた群発的怪物災害では精神もすり減らした
現在、怪物の出現報告は無く厳戒態勢から警戒態勢に格下げされている最中、ストレスにストレスを重ねてリヴェリアも一人自室にこもり、シャワールームで苦言を吐き捨てていたものだった。
湯を頭から浴び、水が反響する音に紛れさせながら何度も怨嗟の言葉を吐き捨てた。正体不明の怪物に、事情を明かさない神々に、なにより同胞に何も出来ないでいる無力な自分に
そんな、曇りがかった心の状態の最中、この愉快で奔放なベルとレフィーヤの報告と来たものだ
笑った、それはもう笑ってしまった
報告者が部屋を後にした瞬間に、たまっていたものを笑いで吐き出した。うれし涙も悔し涙も、全部全部吐き出した
日の光が見えない日々に、一筋の光の柱が差し込んだから
あぁ、気分は爽快だった、リヴェリアはおもむろに葡萄酒の瓶を持ちロキの部屋へと向かうのだった。この喜びを共有するために
もう、禁酒の必要は無いと、我らが愛しい家族思いの女神の面へ叩きつけるべく、ノックを三回、小気味よく打ち鳴らした
「ロキ、久しく飲もう……私も久しく美味い酒を飲みたいんだ」
〇
「レフィーヤ、行ったんだ」
部屋で一人、読書に更けていたティオナ。外の騒ぎに出てみれば、事態を知ってはぁ、とあっけにとられるも不思議と落ち着いていた
アルゴノゥトくん、レフィーヤのこと好きだったんだ、レフィーヤ、アルゴノゥトくんのこと好きだったんだ
明るく奔放な彼女の思考がぐるぐるとこの相互的な答えを行き来する。想像して、頬に桃色が浮き出て、たまった熱を吐き出す様に大きくため息
「うっわ、両想いじゃん……やらしー」
逃げたレフィーヤ、追うベル、二人のことをアマゾネス的に思考してみた結果、どこか遠いところで人知れずしっぽりと仲良くしているのだろうと推測。男女の睦言に関しては種族柄そういった連中(同属の痴女共)の朗報ばかり耳にするため自然とそう解釈するのだ
二人、そういう関係に至っていたと、無論それが事実かはまだ確定していない状況だが、状況証拠からそう推測するのは当然の流れだ
「……あぁ、うん……そっか、アルゴノゥトくんとレフィーヤが……ぁ、なんだか複雑」
レフィーヤが部屋を出てきてくれた、それは嬉しい
しかし、仲の良いオタク友達であったベル・クラネル、彼が一緒にというのが引っかかる・どう考えてもいいムードにしかならなさそうな気配で、どうにも引っ掛かり過ぎる
男が女とヤってしまうことなんて、特に珍しくない話。だけど、なぜかだ
「なんだろう、微妙……微妙に、飲み込めない」
纏まらない思考、魚の骨が喉に引っかかったような不快感がずっと喉元あたりで疼いてくる
しいて、言葉をつけて表現するなら
……気に食わない
「いや、ダメダメ……あたし、何変なこと考えて」
らしくない、そうやって頭を横に振っている。人目のなく、部屋なのをいいことにあ~とかう~とか言っていたら
そんな、ティオナの声に招かれてしまったのか
「…………」
「うぅ~って……へ、アイズ! ど、どうしたの?」
床でのたうち回る体勢から、出で立ちを直してティオナはアイズの前にすっと立ち、その手を取った
自らの奇行の弁明をすることも忘れ、心配からその手を取った
「アイズ! ねえアイズ!」
「…………ティオナ」
手を取った、そして声をかけながらその身に傷があるのか不調があるのか心配して目を配らす
アイズ・ヴァレンシュタイン、彼女は静かに立って、しかしその目には涙が流れていた。いつも無表情な彼女の顔に、涙が浮かんでいた
悲しいのに、感情をかけらも表情筋にあらわさない彼女は、ただただティオナのされるがままになっていた
「座って、ちょっと待ってて……えっと、どうしたの?」
「……わからない」
「えっと、わからないじゃあ……あたしもわからない、なぁ」
ベッドを椅子代わりにして、ティオナは横に並び一杯の水を提供する。とりあえず、出されたものを口にするアイズ
だが、水を飲めど、その涙は一向に止まらない
「アイズ……ねえ、何があったの?」
心配して、声をかけ続けるティオナ
アイズは涙をぬぐい、うつむいたままま告白を始めた
「……気に入らない」
「へ?」
奇しくも、それはティオナにとって全く同じ言葉であった
「レフィーヤ、やっと部屋を出てくれた……けど、ベルと一緒に行っちゃった」
涙が落ちる、しかし始めた言葉は途中で止まらず、続けて語る
「私、ベルがホームを出るところ見てた」
走り去るベルの姿、声をかけるも反応は無く、ベルはレフィーヤを追いかけて行った
ホームに入り、皆から聞いた。レフィーが部屋を出たと、それで自分の見間違いや思い違いは無いと理解させられた
「ずっと、レフィーヤの面倒を見てくれたベルに……お礼、言いたかった。でも、言えなかったのは、別にいい」
「ベルを見て、目覚めてくれたのがうれしかった……わたし、ベルに会いたかった。起きたベルに、お礼を言いたかった」
「……でも、そんな思いの全部が、嫌な気持ちで塗りつぶされちゃった」
思い返す、それは走り去っていくベルの姿
すぐそばを横切った。だが、その目に自分は止まっていなかった。きっと、気づいてすらいなかった
ベルは、ずっとレフィーヤを見ていた。いや、レフィーヤしか見ていなかった
「……アイズ」
「ベルが目覚めたことはうれしい、レフィーヤが部屋を出たのもうれしかったよ……でも、なのに、なのになのに! ベルが、わたしを見なかったこと!レフィーヤを追いかけたことが、気に入らないって思っちゃった!!!」
ぼたり、ぼたり、大粒の涙がたくさん振り落ちてく
感情の爆発に、アイズの表情はくしゃくしゃに壊れていた。無表情なんてどこにもなかった
そこにいたのは、純粋で、感情のままに泣きじゃくる少女のものだった
「ティオナ、わたし……悪いことばかり、ずっと心の中で浮かんでくる……ベルを取らないで、ベルを奪わないでって!」
「……アイズ」
「言えばよかったのに、どうして言わなかったんだろって」
絞り出すように、苦渋を噛みしめて告白をやりきった。感情を吐き出して、ただただ涙を流す
今、この瞬間の吐露は急に起きたことではなかった。全ては、治療院に担ぎ込まれた時より、無痛のとげが刺さっていたのだと、アイズは気づく
そして、そのとげはティオナの中にもあったと、胸に手を当ててようやく彼女もまた気付いた
ティオナの肩に額を預け、泣き続けるアイズ
一方で、ティオナもまた、気づいてしまった以上、同じく
……ぽつり
「そっか……そうだったんだ、あたしも刺さってたんだ」
アイズのことを言えないと、無自覚に流れ出した涙に気づき、拭い去るも消えない涙腺の震えに気づけば二人、傷をなめを舐め合うように涙を流していた
「……うぅ、ひぐ……あいずぅ」
「え、なんで……ティオナも……ごめん、わたしのせいなの?」
「ち、ちがうよ……これは、目汁! 目汁だから!!」
あどけなく笑いでごまかすも、あふれ出した感情の涙は止まらない。
止められるわけがない、何故ならこれは失恋の涙だから。一方はまだ、完全には気づいていないが
「……ッ」
「ごめん、アイズ……ちょっと、貸して!」
そう、失恋だ、重量の差もあるが共に失恋だ。
だから慰め合うのも交代交代に、ティオナは自分よりも豊かな胸を持つアイズに、慰めさせを強要するのだった。
すでに涙で濡れたアイズの胸に、顔をうずめて背中に腕を回し、いっぱいに涙を吐き出していく
「……ティオナ、ずるい」
「ごめん……だって、私も」
「…………ティオナの胸も、あとで貸してね」
「うん、もちろん! でも、小さいのは許してね」
泣きながらも笑い合う二人、同じ種の傷を持つ者同士、さめざめと互いの胸で涙を晴らすのだった
どんな理由や背景があろうと、失恋は失恋
すっきり吐き出して、それからはさっぱりと前を向く。でないと、親友の恋を応援することなんてできないのだから
「ティオナ、ベルのこと……どう、思っているの?」
「もちろん、好きだよ……アイズは」
「……同じ。それも……二人とも」
息をそろえて、一言一句同じ
「「ベルもレフィーヤも好き……嫌いになんてなれない」」
少女二人は涙を流し、そして一歩大人へと近づく
次回に続く
以上、他キャラクター視点の心情描写掘り下げ回でした。ベルレフィは次回から
ベルとレフィーヤの視点ばかりで偏ってましたので、ここらで一度掘り下げないと疑問が残ったままでしたからね、ベルの回復にレフィーの状態に対して皆どう思っているか、特にベルとアイズの関係を見ないふりして進めると違和感ですからね
本作はベルレフィの二次創作、ですから失恋という形をとりました。一応これも曇らせに入るのかしら、健全な曇らせ
PS
一瞬、ここで失恋したアイズが病んでしまってベルとレフィーヤの敵になり、結果レフィーヤを殺したアイズをベルが倒すという裏ボス的なシナリオ展開を思いつきましたが
流石にそれは誰も望んでないと思い止めましたとさ。てへ