壊れてしまったレフィーヤさん~妖精は髪を切り、そして英雄に依存する   作:37級建築士

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苦手に思われるかもしれないので注意喚起、健全注意報

覚悟してください。人によってはご褒美ですが


(28) 匂い

 

 

 

 街を見て、災害の後始末が続く中そこだけはきらびやかな光を保っていることに違和感を感じえない

 

 無論、壊れた建物はある。だが、それでも嫋やかな香は通りに充満しているし、薄紅色に照らされる魔石灯は淫靡に周囲の空気を染める

 歓楽街というのは、いつの世でもその在り方を変えることはないのだ

 

 

「……ここが」

 

 

 教えられた道順をたどって、手をつないだ僕らは目的の場所へと至った

 

 アイシャさんの名前を使って、誘導されるままに部屋の前にたどり着く。もちろん、その間も僕の手はずっとレフィーヤさんの手を握っている。離すことがないように、指と指を絡めあって、大切に結んで

 

 うっかりほどけて、落としてしまわないように

 

 

「レフィー、えっと……開けていいかな」

 

 

 最終確認、うつむいて顔を隠したまま、この間何もしゃべっていないレフィーはこくりと小さくうなずいた

 

 けど、隠しきれないものが二つ。ピンっと伸びたエルフの名が耳の先が、火が付きそうなほどに赤面して、そして少し揺れていたことを僕は見逃さない

 

 

 

 僕とレフィーヤは、初めてラブホテルへと入った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時をさか上ること数時間前

 

 川でずぶ濡れになった僕ら二人、どうしようかと濡れた服のまま立ちどまっていた時のことだ

 

 

 

 

 

 

~日没前~

 

 

 

 

 

「傷、まだ残りそうなのですか」

 

「……」

 

 

 橋の下を出て、適当な川沿いのベンチに座した。僕の右隣にレフィーがいて、そしてレフィーの横顔には口の端から大きく伸びた裂傷が赤い線となって残っていた

 

 レフィーは傷を見せないように、僕の肩に顔をくっつけている。ただでさえずぶ濡れの男女が並んでベンチに座っているのだ

 

 視線を集めるなら、当然みられるかもしれない。顔の傷なんて見られてうれしいものじゃない

 

 

「……一生傷です、から」

 

「そう、ごめん……嫌なこと、聞いて」

 

「あなたのせいじゃありませんから」

 

「……そう言ってくれてうれしい、かな」

 

 

 防ぎようのなかったこと、あの時レフィーはティンダロスの汚染で怪物となった。それ自体はどうもしもを言い繕っても防げることじゃなかったから、気に病んでも自己満足にしかならない

 でも、責任がないとも言いたくない。せめて、その傷を隠すぐらいは、努めたい

 

 

……傷、傷があってもレフィーは

 

 

 横目に、肩に頬を寄せている横顔は以前と変わらない。濡れたせいで小さくくしゃみをする貴方は、どこまでもあどけなく愛らしいと肯定の評価しか出ない

 

 

「……服、濡れたままですね」

 

「絞ったけど、さすがにすぐには」

 

 

 

 

 空は快晴なれど、ずぶ濡れの身には効果も薄い。一度、ロキファミリアのホームに連れていくべきか、そう思うベル

 

 提案するべく、声をかけようとまた顔を向けた

 

 

 

 

「ねえ、レフィー……一度」

 

 

 

 向けて、ふとレフィーの髪に、というか服に、主に全体的に

 

 そよいだ風向きが変わったせいもあるだろう。ベルはレフィーヤの匂いに今になってようやく気付いた

 

 

 

「ホームに……むぐッ」

 

 

 突然、鼻腔を刺した刺激の匂い。それは川の水の匂いかと思うが、それでは自分も同じ匂いだ

 

 レフィーの良い匂いをなまじ覚えているがゆえに、その匂いは戸惑いを隠せなかった。控えめに言って、そう、臭いと感じたのだ

 

 

 

……洗ってない、犬の匂い?

 

 

 

 

 鼻をふさぎ、しかしそんな態度を見られてしまえば失礼となる。ベルは平静を装い、何事もなかったふりをする

 

 しかし、その間もレフィーの匂いは鼻を付く、そして、当の本人も

 

 

 

 

「……ベル」

 

 

 

 隠しきれないベルの表情に、のんきに甘えていたレフィーの表情に青ざめた色が浮き出る

 

 

 

「わ、わわわわ! その、これはその」

 

「落ち着いてれふぃ、別に……よくよく嗅いでみたらそこまで悪いものじゃ」

 

「それはそれで問題です! うぅ、ちょっと待ってです、待ってください!考える時間をください!!」

 

 

 うぅだのあぅあぅだのと、困惑した様子でレフィーは自分の匂いを確かめるように鼻を利かせ、そして自己嫌悪

 

 くっついていたはずが、今は一人分距離を開けて、ベルはレフィーを見守っていた。というか、かける言葉が見つからなかった

 

 そういえば、レフィーは気を病んで部屋に籠っていたとのことだ。つまり、入浴などがおざなりになるのは、まあ、仕方ないかもしれない。仕方ないかもしれない

 

 

 

……レフィーが、ちょっと臭い?

 

 

 いつも可憐であどけない少女が、よくよく見れば水でまとまっているものの髪は伸びているも切りそろえられていない感じ。

 

 エルフの清廉な様子とは変わって、今のレフィーは、あまり使うべき表現ではない言葉が浮かぶ。けど、それなのに、どうしてかちょっと、心がざわつく

 

 

…………ちょっと、興奮した、かもしれない

 

 

 

「れ、れふぃ……その」

 

 

「……におい、これはダメ……わたし、何考えていたの?部屋にこもってずっと、ずっと、でも三日に一回はこっそり夜中にシャワーで洗ってましたし」

 

 

「じゃあ、最後に洗ったのは?」

 

 

 

「……い」

 

 

 

「一日?」

 

 

「その、七倍」

 

 

 言葉をなくしたベル。レフィーヤは言いながら自身の言葉に青ざめだした

 

 

「……わ、わたし……くん、くんくん……だめ、これは本当にダメな匂い……あわわわわわッ」

 

 

 羞恥、自己嫌悪、自らの現状に嘆き頭の上に曇り雲を生み出すレフィーヤ、かける言葉に戸惑う一方で、この背徳的なレフィーに好奇心のような気持ちを抱いてしまったベル

 

 二人は沈黙したまま、天の太陽は日没へと歩を進める

 

 衣類が乾きだしていく中、意を決してまた言葉を発しようとしたベル。しかし、その言葉を言う前に

 

 

 

「……何してんだい、お前さん達」

 

 

「!」

 

 

 声を遮るように、偶然通りがかったアイシャ・ベルガが話しかけてきた

 

 

「……アイシャ、さん」

 

 

「なんだい、あんた目を覚ましたのかい? なのにこんなところで何油売ってんのさ」

 

 

「えっと、それは……なんといいますか」

 

 

「ん、そこの小娘はロキファミリアの……サウザンド、いや」

 

 

 じろじろと視線を指す。そして、鼻息一つで

 

 

 

「なんだい、臭そうな女引き連れて……あんた、そういう趣味だったのかい?」

 

 

 

「!?」

 

 

 

 まっとうな意見、それもちょっと引いているマジなリアクションで、鼻を摘まみながら言い放った。

 言いながらまずいと思ったのか、まあ別にいいんじゃないかだのと、むしろそれが好きな男だっているだろうさ、だのと、擁護する言葉の全てが電撃のごとく確実にレフィーの心へと伝わってダメージを与えた。もう焼け焦げてボロボロだ

 

「くさい、わたしはくさい……臭いエルフ……ハハ」

 

 

「れ、レフィーヤさん……は、粉に!?」

 

 

 ショックを受けたレフィーヤから色が消えて、端から粉になって消えていく。その粉を拾い集めながらベルは必死に訴えた

 

 

 

「アイシャさん、今すぐ体を洗える場所と着替えを用意できるところを教えてください!」

 

 

「はあ?」

 

 

「あなたの言葉がとどめになったからです!いいから、レフィーが粉になって消える前に!!」

 

 

「……くさい、わたしは、きたないおんな……エルフのはじさらしです、ごめんなさい……グスン」

 

 

「アイシャさん!!」

 

 

「な、なんだい! ええい、わかったっての……たく、その強気少しでいいから春姫に分けてやれっての。着替えに風呂……歓楽街の宿でいいなら、紹介してやるけどさ」

 

 

 

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

 普段であれば押されて戸惑う色香の強い異性を相手に、ベルは珍しく食って掛かってアイシャを説き伏せる。

 

 その勢いに負けてアイシャは知り合いのやっている都合のいい店を紹介するのだった。

 

 

 

 そして、時は流れて

 

 

 

 

 

~日没~

 

 

 

 

 

~歓楽街、宿泊所~

 

 

 

 

 

 

 鍵付きの部屋、窓のない部屋

 

 ガラス張りの浴室で、湯の流れていく音が部屋にも伝わって聞こえる。背を向けた先では、今まさしく裸のレフィーが身を清めているのだ

 

 

 

 

「……————ッ」

 

 

 

 

 夢で見続けてきた淫靡な光景、でも所詮は悪夢の中で見続けてきた幻想だから、忘れ去ろうと決めていた

 

 なのに、これでは正夢ではないか。妄想とはいえ拝んでしまったレフィーの生肌に、感触、そして、心地

 

 なまじ、介助で触れ続けてきたから柔らかさと体温を知ってしまっているか、きっと想像できてしまった。けど、これは現実で、きっとあの時に感じたいろんなものは期待で生み出された幻覚であり偽りの感覚

 

 けど、もしも

 

 

 

 

「ベル」

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 ここは男女が愛を交わすお宿

 

 間違いが起きてしまえば、夢の出来事を再現してしまえば

 

 幻も偽りも、総じて本物置き換わってしまう

 

 かもしれない

 

 

「……あなたも、どうぞ」

 

「わ、わかった」

 

 

 

 背を向けて、目を閉じていた傍で、透明な声が耳に触れる。

 

 わずかに目を開けてみて、そこには湯気をまとったレフィーがタオルで身を隠していた。

 

 

 

「……着替え、しますから」

 

 

「み、見ないようにするね……うん」

 

 

 

 ベッドから飛びのくように、僕はレフィーに背を向けたまま浴室へと向かう

 

 ここは、何も隠すことができない部屋。見ようと思えば、入浴中にこっそりガラス越しに着替えだって見れる

 

 当然、そんなことをすれば気分を害してしまうし、よくないことだ。けど、それでもこんな場所にいてしまったら偶然にも見てしまう、かもしれない

 

 ともに湯上りで、ベッドに座して後はどうするのか。何も考えず、勢いだけでこんな場所に来てしまった

 

 結果的に、連れ込んだのは僕だ。そして、同意して、連れ込まれることを受け入れたのはレフィーだ

 

 

 

「————ッ」

 

 

 

 今になって、日中に触れたレフィーの匂いを思い出す。刺激があって、生々しい匂いを発していた

 

 もう、ここは悪夢じゃないのに、取りついていたティンダロスのかけらも何もない。あるのは、僕自身

 

 選択肢はある。可能性もある。

 

 

 

…………レフィー

 

 

 

 心に熱がともる。好意の行きつく先にある想い、そして欲

 

 理性が消えないように、僕は冷や水のシャワーを全身から浴びた。冷たい、骨に染みる。だけど、冷めてはくれない

 

 

 熱い

 

 

 

 

 

次回に続く

 

 

 




今回はここまで

次回も健全なベルレフィを提供します。健全って大事、エッチなのはよくないことです!
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