壊れてしまったレフィーヤさん~妖精は髪を切り、そして英雄に依存する   作:37級建築士

4 / 28
期待させるほどそういうシーンではないかも、健全に進めたい


(4) 着替え

 事件より四日目、皿を落としてレフィーヤさんが発狂した日、僕は久しくホームに帰り、そしてまた泊まりの介護に戻る

 

 五日目、目を覚ました四日目と比較してレフィーヤさんはずっと呆けていて、眠っているのか起きているのか曖昧だった。

 無論、その間も手は離せないまま。

 

 僕は部屋を出ることなく、けど、その間に少しことは起きていた。ファミリア同士でだ

 

 結局、早朝にアイズさんから連れられて、この隔離医療室に連れてこられた四日目の日、僕は一度もホームには帰れていない。

 無論、事情を説明していた。だけど、帰ってこない僕にしびれを切らして直接顔を出すのは当然、神さまをはじめ皆も病室へ足を運んだ。

 

 そこで、皆眠っているレフィーヤさんを見て、話を聞いて、一応は理解をしてくれた

 意外なことに、誰も僕の希望を否定しなかった。というか、もとより答えは決まっていた様子だったのだ

 

 その後、ロキファミリアのみんな、そして主神のロキ様本神(ほんにん)も僕に顔を出した

 

 気さくな振る舞いは一切なく、ただただ切実に、僕に対して頭を下げ続けていた。違和感を感じたのは仕方ないことだと思う

 

 これは後で聞いた話、ロキ様は僕に顔を出す前、というか神様がここへ入る前に先んじて顔を合わせていたらしい

 あくまで聞いた話だけど、相当なやり取りがあったことだけは想像できる。

 

 犬猿の仲とは今更知らないことじゃない。そんなロキ様が、このオラリオの最強の一角にあるファミリアの主神が、僕らヘスティアファミリアに頭を下げたことは、後にも先にもこの一回だけだろう

 

 

 

 

 

 

 

~六日目~

 

 

 日常生活において、手をずっとつないだままというのはなんとも弊害の多い。レフィーヤさん自体外傷もなく肉体的にはいたって健康だから、大抵のことは自分でできる

 つないだ手も、両の手があれば上着を着替えることもできる。ずっと接着剤で固定されているわけじゃない。

 

 だけど、それでも離れられないのは大変厳しい。なんせ、手を繋いでいるのはほぼ同年代の異性

 

 それも、エルフで顔立ちもいい、とてもかわいい女の子、つまりレフィーヤさんだから。

 つまり、要約すると、女の子の着替えはとても大変だということ

 

 

 

……ふに

 

 

 

 手に触れる感触、太ももから、拳のところがお腹に触れている

 

 熱い体温、少し汗で湿った肌の感触の生々しさは、早々忘れられない記憶となって頭に居座り続けるだろう

 

 顔だけは、表情に出してしまえばそこで終わり。なんとも、苦痛な綱渡りだ

 

 

「は、履けました……下は、もう大丈夫ですから」

 

 

 乱れた声色、恥じらいを感じるのはレフィーヤさんの方だ

 

 目をつぶってるとはいえ、目隠しでタオルを巻いているとはいえ、僕がレフィーヤさんの下着にも触っている。

 

 ショーツを履いて、その後は寝巻の下

 

 残るは上の服、そして

 

 

……ごそ、ごそごそ

 

 

「絶対、絶対開けないでくださいね……ねッ」

 

 

「……が、がんばる」

 

 

「…………うぅ、くッ」

 

 

 意を決した、そんな声と共にレフィーヤさんはばさっと脱ぎ捨てる音を立てる

 

 大きな音は、着ているパジャマの上。そして、残るは、下着

 

 布のこすれる音を覚悟したら、聞こえたのはパチンと金属質の音

 

 

 

……た、確か、これは

 

 

 

「……想像、してますか」

 

 

「ご、ごめんなさい」

 

 

「……まあ、別にいいです」

 

 

 意外と怒らない、でもつないだ手からは一瞬お怒りの気配がした

 

 けど、すぐにそれは消沈する

 

 なんだか、妙な気分。いつもなら、怒られる流れなのに

 

 妙に、大人しすぎて、調子が狂いそうだ

 

 

「フロントホックです、じゃないと……その、つけにくいですから」

 

「……その、なんというか」

 

 もっと、着やすいものではだめだろうか、そう聞こうとしたけど、すんでのところで言葉は留まる

 

 

「……はぁ、わかってます。もっとつけやすい下着があるでしょって、でも、これは」

 

 言い淀み、けど大きくため息を履いて

 

 

「崩したくないから……胸の、形」

 

 

「————ッ」

 

 

 想像してはいけない、必死に頭を横に振って邪念を捨てる

 

 

 想像なんてしてはいけないのだ。ただでさえ身近にいるから、レフィーヤさんの以外とすごいスタイルとか、そういうのを考え出したら本当に止まらなくなる

 

 ただでさえ、ドキッとすることが多いこの日々だ

 

 逃げられないレフィーヤさんに、不快な日々を送らせることはしたくない

 

 だから、耐えないと

 

 

 

 

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

 

 

 経過すること、10分

 

 

 着替えは終わる。脱いだ服は、下着も含めて今は袋の中にある

 

 

 

 そこまで終えて、レフィーヤさんは僕の顔からタオルを外した

 

 

 

 

「……目を、開けていいですよ」

 

 

「————……ッ」

 

 

 恐る恐る目を開けてみると間近にレフィーヤさんがいる

 

 とても近い、手を繋ぐ距離というのは本当に恋人の距離感で、未だに歯のかみ合わせが狂った気分だ。つまり、落ち着かない

 

 

「……ありがとう、ございます」

 

 

 顔を赤らめて、視線を下に傾けながらつぶやく

 

 未だ慣れない他人の手による着替え、不快感は否めないし、早々慣れるものじゃない

 

 親兄弟ならまだしも、僕は他人だ

 

 

「……」

 

 

 そう、他人

 

 だから、こうして日々を送る中ふと思う

 

 あの日、怪物に襲われて心を壊された日、確かに僕はレフィーヤさんを助けた。不完全ながら

 

 けど、それにしても

 

 

 

 

……どうして、依存対象が僕なんだろう

 

 

 

 

「……なに、呆けているんですか」

 

「あ、いや」

 

「…………」

 

 

 つないだ手を振って、レフィーヤさんは催促する。促されるまま、僕は立ち上がって

 

 

 

「……行きましょう。新しい、部屋に」

 

 

 

 まとめた荷物を持ち、そしてレフィーヤさんを支える

 

 

 

 

 その間も、疑問を抱いたまま

 

 

……聞き出せ、無いよね

 

 

「ほら、ちゃんと立ってください……」

 

「あぁごめん」

 

 

 謝る、謝ってばかりな返事にレフィーヤさんはふんと鼻先を背ける。愛らしい振る舞いで、所作の一々に乙女を感じてしまうのは、仕方ないことだろう

 

 聞きたいこともある、だけど聞けずじまい

 

 手を離すことができない、それだけで時間は過ぎていく

 

 何かできること、それを思うとやはりこの疑問を解消することが大事ではないかと僕は思う

 

 

 

 

「……しっかり、掴んでください」

 

 強く、手のひらだけじゃなく、もう一方の手で腕に絡みつく。体を預けて

 

 まるで、恋人が身を寄せるように

 

 

 

「おねがいします、もうこれ以上……あなたの前で吐きたくないッ」

 

 

 

「!」 

 

 

 しかし、口にする言葉はひどく悲痛で

 

 しっかりつかんだ手は、体の不安をそのままに僕へと流し込む。感情の色を、僕は深く知ってしまう

 

 

「……レフィーヤさん」

 

 

 つかんだ腕、日常の些細な異動ですら、この人は僕の傍から離れられない

 

 レフィーヤさんは依存している。自覚して、その上で苦しくて

 

 胸の奥には、いつも僕に対する申し訳なさをいっぱいに抱え込んで、それでもと心を強くまっすぐ立たせて、今日も歩いている

 

 

 レフィーヤさんは僕に依存している。その理由は知っていても、その奥の本心をまだ僕は知りえない 

 

 

 

 

次回に続く




今回はここまで

次回、病室変更
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。