壊れてしまったレフィーヤさん~妖精は髪を切り、そして英雄に依存する 作:37級建築士
状況を整理しよう
今、僕とレフィーヤさんが一緒に暮らしている場所、そこは治療院の病室、ではなくなった。
着替えをすませ、荷物をまとめて僕らは病室を移る。足を運んだのは、ここ治療院の土地内に作られた一軒家だ。
そこはもともと簡易倉庫にしていた場所、けど本来はディアンケヒト様が無断でファミリアのお金を使って建てた小さな住まい。どうも、極東文化のチャシツなるものとして使うつもりだったらしいけど、結局趣味はその時の気分で全く使わず、結果的に物置になってしまったものだとか
それで何がどうして僕たちのことにつながるかというと、なにぶん僕の負担を減らすために少しでも良い居住環境を用意したいとアミッドさんが配慮してくれたのだ
無論、住めるように改装するお金もかかるけど、そこはロキファミリアが、つまりはアイズさん達が個人的に出資することで解決していた
そして、残る所有権も
『やだ!わしの秘密基地取らないでアミッドエモン』
『掃除もしない、要らないゴミ(骨董品)を詰め込むだけ詰め込んで、いい加減邪魔なのです!敷地の無駄遣いです!!』
『アミッドエモン!!』
『意味の分からないあだ名をつけないでッ!! もう、この主神やだあッ!?』
なんだかひと悶着あったらしくて、けどその甲斐もあってレフィーヤさんは良い部屋を手にしたわけなのだ。
お世辞にも、以前まで使っていた病室はひどく無機質で、あまりいい気分にはならない場所だった
けど、今のここはただの民家、離れの小さな極東風一軒家、そこかしこから漂う生活感が何とも心地いい。
畳とヒノキに障子、異文化で彩られた住まいはとても心が落ちつく。タケミカズチファミリアのホームと似ているからだろう。新年にお邪魔して炬燵に入れさせてもらったことが懐かしい
あとは、ここに炬燵があれば完璧だけど、今の時期は夏の前触れを感じる頃合いだからまだ無理な話だ
……でも
終わりのない、いつまで続くかもしれないこの日々
一週間、ここまで経過して一向に精神の変化はない。往診で調べても、呪詛の影響は未だ強く残っている
だから、ふとこんなことを思ってしまう。このまま、ずっと呪詛が解けずに心が壊れ続けるままなら
僕たちは、ここで生涯を終えることになるのではないかと、なんて
どうか、思い過ぎであることを祈りたい
〇
「……今、なんと」
「————ッ」
日が落ちて、夕食を済まして、そしてあとは寝るだけ
けど、そうはならないのがこの手繋ぎの日々だ。問題は突如として降ってわいてくる
「……ですから、言いました。お、お風呂です……お風呂、入りたい」
恥じらいながら、そう告げるレフィーヤさん
お風呂に入りたい、それは間違いなくまっとうな要求だ
というのも、病室にいた間レフィーヤさんはお風呂に入れていない。代わりに、ベッドの上で裸になり、お湯で湿らしたタオルで清潔に丁寧に拭き、桶とお湯で髪を洗う
今のレフィーヤさんは服薬する薬の影響で寝ている時間はほとんど起きないから、その間にアミッドさんや女性のその他団員さんがやってくれていたわけで
でも、やはり入浴はしたいのだ。ぼくだってそう思う、理解はできる
あとは、それをどう実行するべきか
「……目隠しで、どうにか頑張りましょう」
腹をくくって、僕は提案を飲んだ。
女の子に不憫なおもいをさせる申し訳なさ、それを思えばこれぐらいなんとでもなるさ、と心を強く抱いて、さあ行こうと
つないだ手を持ち上げるように引いて
「ま、まって!」
「!?」
引いた手に力が入る。極東風の小さなテーブル、その上に引き戻される左手、置いた湯飲みが揺れて危うく倒れそうになった
「そんな、簡単に引き受けないで……その、あなたはどうするのですか」
「……ぼ、僕ですか」
「わたしだけ、お風呂に入るなんて……その、不公平です」
「でも、仕方ないですし……寝た後に、一人で」
「だから、不公平ですッ あなた、どうしてそう負担ばかりッ…………あ」
かっとなって、怒って
けど、すぐに感情に冷や水をかけられたように黙る
感情は振るわない。レフィーヤさんは、強く僕の手を握る
「……ご、ごめんなさいッ」
「!」
「ごめ、ごめな……ぁ、わたしッ……わたしは、だめ……だめだめ、ダメッ!?」
目に、涙を浮かべる。繋いだ手がもはや痙攣しているほどに、気は乱れ感情はヒビまみれになる
……ポタ、ポタ
「あぁ、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいッ!!」
「……落ち着いて、大丈夫。僕はなにも」
「わたしッ……また、あなたなに……ごめんなさい、めいわくかけてごめんなさいッごめんなざいッ!!?」
繰り返す謝罪の言葉、震えて力が抜ける手が離れそうになる。けど、絶対に離すまいと僕は掴んだ
机をどけて、真正面からもっと近づいて、僕はレフィーヤさんの左手を掴む
右手も左手も、強くつかんで離さない
「大丈夫です……レフィーヤさん、ほら手を」
「……ぁ、ひぐ……ぅ、あぁ」
つなぐ、繋ぎ止める。心を壊さないように
「……ぁ、すぅ……は、ぁ」
「落ち着いて、落ち着いて……大丈夫、繋がっているから」
両の手のひらから伝わる感覚、手を繋ぐことへの執着はきっとこれにある
レフィーヤさんは、自分の心が壊れやすいことを自覚している。だから、繋ぎ止めるものを欲しているのだ
手を離すだけが危惧することじゃない。ちょっとしたことでも、不安を与えないようにしないといけない
……でも、それは
今、感じている不安は申し訳なさ
レフィーヤさの心は罪悪感を生じやすい。もともと、人に対して優しく振る舞う人だったから。そこには、他人が感じる不快感や喜び、相手の気持ちを量る想像力が豊かな証がある
だから、今はそれが、とても厄介だ
「……不公平、それにならない方法を考えましょう」
「は、はい……ぅ、ぐす」
「あぁ、泣かないで……その、僕が損をしない方法を考えますから。それなら、安心でしょ」
頷く、二回。涙で濡れる頬をハンカチでぬぐう
この時、可愛いと感じるのは、黙って胸の奥に沈めておく
損ばかり、というのはきっと違う。こうして、ドギマギする瞬間を見られるのは、きっと役得というものだろうし
……けど、本当にどうしようか
僕が損をしない、けどそれが僕の自己満足なら結局レフィーヤさんは負担になる
レフィーヤさんが思う、レフィーヤさんの想像する僕ことベル・クラネルが喜ぶ方法
そんな、なんとも回りくどい条件で正解を見つけないといけない
……いっそ、目隠しをしない。そんなこと絶対ダメ!!
……逆にレフィーヤさんが目隠し、いやそれどんな変態の所業!?
「ぐぬ……ふぬぬぅ」
ない頭を必死に絞る、どうしたものかと唸って
すると、そんな僕に答えを出したのは
「…………あの、その……あなたが、いいのなら」
「?」
「……恥ずかしいですけど、あなたが良いなら、わたし」
次回に続く
次回、ちょっとエッチな展開
でも大事、入浴はストレスケアに必須。治療行為ですから、ですからッ……どうか信じてください!!
今までいっぱいダンまちのエッチな小説を書いている私の言葉を信じてください!!!
次の投稿は日曜ぐらいに