壊れてしまったレフィーヤさん~妖精は髪を切り、そして英雄に依存する 作:37級建築士
見えてないからノープロブレム
事前に浴室の中を、その中での配置は入念に記憶に叩きこんだ
洗う為の道具は一か所にまとめて、シャンプー等の瓶も胴部分に巻き付けた紐の数で区別をつけている。
月明かりのない曇天の夜、明かりをつけていない浴室で、勢いよくお湯の噴き出る音が響いた。手に持ったシャワーヘッド、出てくるお湯を、掴んだ手にそっと触れさせる
「……ちょうどいいかな?」
尋ねる、頷いたレフィーヤさんは見えないけど、手でわかる
手を繋ぐだけで、大抵のリアクションは読めるようになってきた。一週間も経てば、別段変わったことじゃない、これぐらいのことはできるようになる
「……」
「緊張しますね、かなり」
「だね、本当にそうだね……あはは」
繋いだ手は離せない。だから、今もこうして禁忌を犯しているのだ
× × ×
家屋からせり出す様に作られたこの浴室、傾斜のかかった天井には天窓があり、換気のために開けられているけど、光は入らない。
裸で、触れあっている。見えていないけど、繋いでいる手は感情の熱が漏れ出ていた
恥ずかしいのに、それでも我慢して、今こうして向かい合って、手を取っているのだ
僕に損をさせたくない、そして、僕から離れたくない
申し訳なさと、依存して求めてしまう相反する感情、好きでそうなっているのではないから、レフィーヤさんは悪くない
誰かに責任があることじゃない。仕方ないこと、だから、せめて同情は僕からあなたへ贈る
安心させてあげたい、悲痛な声はもう聴きたくない
「……では、いきます」
手に取ったシャワーホース、魔石仕掛けの装置から流れ出るいくつもの湯の線
柔らかく、暖かな雨をそっと足に
床で、膝立ちになっているであろうその足元にお湯をかけていく
…………サァ
「……————ッ」
声が出ている。言葉になっていない、感嘆の声がまろびでている。甘く溶けた心地
久しく当たるたっぷりのお湯の味、太ももに触れて、次第に上へといって、お腹に
「ァ……ん、はわぁ…………あ」
「————ッ」
気持ちが良いのか、声を我慢しない
それはわかる。お湯は暖かくて気持ちいい、床に伝わる熱気で僕も足元から温まっている
けど、その声はどうにかならないものか
「……れ、れふぃーやさん」
「え、あぁ……声、出ちゃいます」
「……やっぱり、自分で」
「だめ、それだと……あなたが洗ってくれることになる」
「…………それは、あぁ」
シャワーを持った方が良いのでは、そう提案する。今は向かい合って、そして僕の左手がまっすぐ前に、レフィーヤさんの利き腕を、右手を掴んでいる
「お湯、体の方をお願いします……胸のあたりから、肩のあたりに……足を、洗いますから」
「は、はひ」
シャワーをかけられながら、レフィーヤさんは手さぐりで何かをつかむ。気泡の潰れる音、石鹸の匂い、海綿を泡たてて、下のあたりを洗っているようだ
見えないけど、想像はできてしまう。投げ出した足を洗って、先っぽやふくらはぎ、内腿
隅々まで、その手に掴んだ海綿で泡をまとっているだろう。色のない体に、もこもこの白が染められていくイメージが浮かんでしまう
「たぶん、貴方に洗われた方が、その……駄目な声、出ちゃうから」
「……ご、ごめん」
「あ、あやまらないでください……その、感謝していますから。はい、えぇ」
気まずくなるやり取り、その上互いに顔が真っ赤になる
暗くて見えないとはいえ、裸で在ることには変わりない。目の前で揺れ動く気配、裸のレフィーヤさんに意識しない方がどうかしているのだ
……本当に、まずいよねこれ
聞こえる息遣い
泡が肌を包み、こすれて潰れる音が、下から、徐々に上へ
「……お腹のところに、お湯を当ててもらえますか」
「うん」
「少し、冷える夜ですね……あなたもお湯を浴びてくださいね……じゃないと、悪いから」
「……わ、わかった」
返答が短く味気ない、余裕がなくなっている
目の前で動く黒の挙動に、僕の脳内は色を付けてしまいそうになるのだ
泡で洗い流されていく下腹部より下、肌色があらわになって、見えてしまいそうだ。想像で肌色を見てしまう、自分の本能が情けない
……サアァァ
「……ぅ、ぁ……すぅ、あ……はあぁ」
「————ッッ」
また、声が漏れ出ている。
お腹の位置、見えるイメージで、美白で綺麗なお腹にシャワーをかけ続ける。
胸より下、今レフィーヤさんの左手はそのあたりを洗っているだろう
丁寧に、汗や皮脂にの汚れを残さないように、女の子の洗いは丁寧に、時間をかけている
「…………ん、ぁ……その、ベル」
「あ、なにかな」
「い、いえ……その、なんといいますか」
「?」
言葉が濁る。なんというあもじもじと
そういえば、やけに洗う手間がかかっている
……サラアアァァ
「ん……ん、ぁ…………ぁ、うぁ……くッ」
「あの、何か変……レフィーヤ、さん?」
声色がおかしい、悶える声を我慢して、何かを待つようなしぐさをしているような
つないだ手は、どっと熱くなる。
見えないけど、レフィーヤさんの震えが不規則に続く
「……く、ぁ……ふぅ、んッ……ベル、だめ……だ、めッ」
「!?」
濡れた質感が肩に触れた。額を預けて、密着して
うつむいたレフィーヤさんは、お腹より下にシャワーを浴びながら、ただただ震えていた
海綿の泡立つ音も聞こえない。
「……えっと、その……ぼくは、どうすれば」
「なにも、聞かないでッ……い、1分、いや30秒あれば、ぁ……いいです、からッ」
悲痛な声、辛そうに何かを訴える姿が目に浮かぶ、はず
今聞いた声の奥、その色の裏に隠れた色香が、妙に頭に残る。
混乱して、けど何も見えなくて
だから、余計に聴覚だけは鋭敏になる
「……ぁ、ぁ……あ、ぁァ」
声がする、噴き出るお湯の雑音に紛れて、別の音が紛れている。その音が、レフィーヤの発した色香の籠る声とつながっているようで
答えが見えそうで、けどそれを見てしまえばもう戻れなくなりそうで
だから、僕は
「あぁ、えっと……お風呂だと、歌いたくなるなぁ……そう、たしか、ビバノン?」
思い出した、いや思い出しきれていない、命さんがお風呂時に歌う奇妙な歌の歌詞、下手で適当にだけど、僕はとにかく自分の声を浴室に響かせた
聞いてはいけない音を聞かないために、繋いだ手と、肩に触れた頬の熱、マズいことを拾って、真実に触れてしまわないように
どうにか、声を出し続ける
けど、無論その間も、僕に触れているレフィーヤさんは、なんとも奇妙な震えを起こし続けていた
30秒、そう言ったのに、かかった時間はきっと二分以上、まだ続く
歌が二週目に入って、ようやくレフィーヤさんが息を切らしながら喋るようになる。長い、本当に長いこの数分を、僕は容易に忘れられそうにない
〇
…………かぽーん
「きゃ、ごめんなさいッ」
思わずなのか、謝罪の言葉が出る。縁に置いた桶が床に落ちて音が鳴っただけなのに
暗いから、少しのことでも敏感に反応してしまう
「……だ、大丈夫ですよ。なにも、問題ないですから」
「それは、そ……そうですね」
……ちゃぷん
「……なにも、問題なんて」
ない、そう言い切れる自信は、無い
「…………気持ちいい」
「!?」
「今のは、その、違いますッ お、お風呂が気持ちいいからで……さっきのは、あ……い、言わせないでくださいッ」
バカ、そう小さくつぶやいた
久しく聞くツンとした言葉に、逆に僕は安心感を抱いてしまう。
うん、変な話だ
「……お風呂、本当に気持ちいいです」
……ぎゅ
「そ、そうだね……うん」
つないだ手、湯の中で、そっと伸ばした手が重なっている。
ただでさえ、向かい合って三角座りで、その上手を伸ばして、窮屈な入浴だけど
それでも、今のレフィーヤさんには感嘆の息が漏れ出るほどに、甘美なひと時だ
「お風呂、やっぱり一緒でよかった」
「!」
「あ、今変な意味で考えましたね……ふふ、変態」
「だ、だって、そんな……」
くすりと、リラックスした声色で、また笑いが漏れ聞こえた
「ごめんなさい、でも一緒に浸かれてよかったって意味で……だって、貴方だけ目隠しをして傍で待たせるなんて、やっぱり悪いから」
「……でも、だからって一緒になんて」
「いいじゃないですか、役得だと思えばいいですよ」
「…………そんなこと、僕は」
思わない、そう言い切れず言葉に詰まる
だからか
……ばしゃぁ
「!」
湯がいっぱいに水面を叩く音
乱れたお湯、繋いだ手が上に傾いて、上がっているのを感じる
……位置が、上に
「……お風呂、結構大きいですね」
「れ、レフィーヤ……さん」
声が近い、膝立ちで起きて、上体が上がっている
目の前に近づいている。隠すべきものも何もかも、湯から出してしまって、僕の目の前に、無防備に
「……少し、横に行けますか?」
「え」
「足を伸ばしたいんです。少し窮屈ですけど、並んで横になって、体を伸ばして……だめですか?」
「…………ぁ、それは」
近い、何もかもが近い
触れていない、けどすぐそばにいる。湿った声で、火照った肌で、傍に寄っている
見えていないから大胆なのか、レフィーヤさんは僕の返答を聞くまでもなく、体を滑り込ませる
「あ、ちょっと……ひッ」
……ふにゅ
触れた左腕に絡みつくように、左肩から、左腕、腰に太もも
体の側面にぴったりと、レフィーヤさんが密着している
…………ピチャ、さあぁぁ
「うぅ、少し窮屈ですね……斜めになっちゃう」
「……あの、これは流石にまずいんじゃ」
湯の中、音だけが聞こえる。見えはしない
だけど、これはもう見ていようがいまいが関係ない
……あた、当たってッ!!
「————……ぅ」
少し斜めに、レフィーヤさんが僕の体にのって、ぴったりと添い寝をするように、湯の中へと体を静める
とっさに、空いた右手を股間にやった。押し込めた
密着はいけない、本当にいけない
……まずい、これは本当にまずいですッ
「……ベル」
「ひゃ、ひゃい!?」
声が浮つく。動機が乱れる
どうして、なんだか大胆になるレフィーヤさんに、僕はもうどうにかなってしまいそうだ
入浴の介助、ただそれだけのはずなのに
なのに、なにがどうしてこうなったのか
「……ごめんなさい」
「え」
「…………わかっています、変なことしていることぐらい、自覚していますから」
だから、と
「……でも、これぐらいはしないと」
「れ、レフィーヤさん……もしかして」
「……————ッ」
熱くなる、湯の火照りだけじゃない
羞恥も、何もかも
今はただ、暗闇に紛れてレフィーヤさんの本音が露出されている。そう、思う
「……役得、じゃないとだめ」
くっついている、左腕に抱き着いて、その間もずっと手のひらを握って
繋いでいないといけないから、必要があるから、だから
「謙遜ばかりするから……だから、こうでもしないと、釣り合わない」
「……釣り合う、そんなこと……必要なわけ」
「…………ないって、本当に言い切れますか?」
「!?」
負担になんて感じていない。するべきこと、やるべきだと本心から思ったから、今僕はここにいる
そんなことはしなくていい、安心して欲しい
そんな言葉を吐きたい。伝えたい、だけど
喉の手前で言葉は止まる
「一方的で、いい……空回りならそれでいい。けど、これぐらいは、あなたが受けとるべき当然の権利だから」
意地になっている、だから、身を寄せる面積はより増える
「……!!」
「大丈夫、です……あなたはただ、お風呂を楽しんでいる、それだけなんですから」
足を伸ばして力を抜いて
確かに、湯を楽しみ、体の疲れが取れている。
そして、さらに
……ピチャン
……ピチャン、ピチャ
「ッ……ぅ、はぁ……ぁ…………………ん」
伸びをする声、よりそって、触れて
暗い中で、僕はレフィーヤさんの柔らかさを堪能してしまう
鎖骨に触れた額、山吹色の髪が肌をくすぐる。だから、僕も声が漏れ出てしまう
「…………気持ちいい、ですね」
「——————ッ」
長い入浴、たっぷりと時間をかけて、湯が、熱が、肌にしみこんで忘れられない思い出になるまで
じっくり、僕たちはお湯の熱を分かち合った
たっぷりと温まった。熱を帯びてレフィーヤさんは、今日この時より少しばかり
……布団、一枚でいいです
……二つもなんてもったいない、大きいから、問題ないですから
僕との距離が狭まった
次回に続く
以上、いちゃいちゃベルレフィ生活でした
次回より、流れが変わって本題に戻ります。二人が甘い時間を過ごす一方で、外の皆は何をしていたのやら