壊れてしまったレフィーヤさん~妖精は髪を切り、そして英雄に依存する 作:37級建築士
知っている人も知らない人も、こいつがどのようにオラリオへと干渉したか今明らかに
説明文多めな回です。会話のセリフ少なめですがしっかり読んでいただけると幸い
とある異端児の禍事(まがつこと)
あるモンスターがいた。彼は知恵を有した怪物、つまりは異端児であった
ダンジョンより生まれ落ち、同じく異端児と群れを成し、ダンジョンという世界を生きていた
種族はヘルハウンド、特に変わった個性も無く、言葉も話さず、感情も大人しい。集団の中で孤立まではいかなくとも、その存在は影が薄くいつも後ろを歩いている
与えられた名はハルピン、彼は生まれ落ちた時より自分が他者と違うことを理解していた。故に、孤立ではなく独り気まま
毛並みが良いゆえに、他の陽気な異端児に触れられることもあり、その時は周りと仲睦ましく時を過ごす
だが、そんな和やかな時があっても、彼はどうしてか独りを選ぶ
皆の誘いを丁重に断り、望んで彼は独りに落ち着くのだ
……いつからだろう
独りを望む、この行為は周りに独りが好きだと思われていると彼も感じていた
だが、それは彼に言わせてみれば勘違いだった。彼は独りが好きではなく、独りで集中できる時間が欲しかっただけだった
……おれはちがう、まわりとはちがう
異端児の多くは地上を求めている。中には好敵手との戦い、それか色ボケた願い、そういうのが大半な中
彼は、自分が異様なものに惹かれていることを知っていた
空を見る。といっても、ダンジョンでは岩の天蓋を見るだけの行為
しかし、彼の眼には遠く離れたナニカが見えていた
見えるのは夜の世界、いくつもの星がちりばめられ、そして星が循環し空間が振動する
見える世界は転じて乱れ、乱雑で混沌
白昼夢を見るように、固形で在り、無形でもある、何かとも形容できない世界を見続けるのは、なんとも面白いと彼は感じていた
時間を超えて、流れを逆らって、こことはちがう世界の構造を覗き見るのは、地上のあこがれをとうに超えていた
未知への探求、彼ハルピンは知りたくなった。生物がどこから生まれ何から始まったか
自分が見る世界はこことは違う場所で、そして目を凝らして思考をとがらせれば、自分は流れの逆方向へと遡れると
世界の始まり、好奇心はうごめきだしたら止まらない
その先が恐ろしい世界だと理解していた。理解してなお、彼は見続けた
知りたいを止められなかった。だから見続けた
この、神と人が共に歩む世界の外側、亀裂の先から除く深淵を、愚かにも見惚れてしまっていた
何の意図も、気づきも無く、ただ不運に
彼は、世界の切れ目の奥に視線を向けてしまった
ウラヌスは察知し、ヘルメスは推測し、フェルズが調査した
すべてが手遅れとなった時、総じて皆は思った
無垢なる者、君はなんと愚か者であったことか
オラリオより生まれた一匹の異端児、彼が覗き込み続け、そして見てしまったのは螺旋の都市、生命すら誕生以前の世界、そこにいる怪物の名はティンダロスの猟犬
侵入であれば事態はより深刻なものだった。侵入であったのなら、オラリオはすでに崩落の時を迎えていた。
今回のことは比較的マシだ。はるかにましな事態だった。そもそも、猟犬以前に、彼が外なる宇宙の、それこそ神なんてものを見てしまえば、世界はとうに覆っていた
外なる危機は比較的まだマシな状況にある。だが、だがしかしだ。観測の時点ですでにことは手遅れ、ダイスは転がりだしてしまった。
不運は、彼の正気を殺してなお飽き足らず、不浄の毒を馳走になってしまったのだから。やはり此度ことは禍(まがつ)の事であった
ある日、一匹のヘルハウンドは外の世界の、更に先を覗き混んだ。そこで見た怪物、ティンダロスの猟犬を認識してしまったことで彼は浴びるほどに怪物の不浄を体へと注ぎ込んでしまった。
彼は生まれ変わった。壊れ、溶けて、固まり、汚れを抱いて不完全な生き物へと転じた。結論、悍ましい異端の怪物となり果てた
名も忘れ、そして正気を失うことを恐れ続ける。不浄に蝕まれる体はそのまま、心だけは理不尽にもそのままに。故に、苦しみは永劫
自ら死ぬこともできず、生と死の概念を奪われた呪いは決して解けない。
残るのは、痛む心を安らげること。清浄を補うために、彼は他の清浄を食らう。犠牲者を生んだその日より、彼は食らい続けていく。己の中の不浄を薄めるために
外なる領域の観測で、異端児は怪物でありながら怪物ではない存在となり果てた。ティンダロスの不浄を浴び、今もなお狂気に苦しむ悲嘆の怪物
【ティンダロス・モンストル】
此度の騒動、最も救いがないのは誰よりもおいて、異端児である彼である
~ダンジョン下層、禁域~
ギルドより、虚偽の名目で進入禁止が言い渡された彼の地へ進む一行、ヘルメスファミリアの団員たちは指定座標へと接近する
湿り気を帯びた洞穴の道、ダンジョンクリスタルが照らす周囲の景色に皆視線を回す
マジックアイテムを使い、姿を消し去り息を殺す。狙いは、対象の封印
異端の獣、ティンダロスの怪物。転じて、ティンダロス・モンストル
名前を付けたのはヘルメス自身、彼ら彼女達団員は主神より、その正体の一部を聞かされた。
モンスターの正体、その異質さ、そしてその獣は何処から降りた存在か、知る限り話はしたが依然それでお理解は追い付かず、否むしろ理解を拒み納得の振りをする
理解してはいけない、安易に覗き込んではいけない
あの怪物が現れて以来、世界は不安定で亀裂が生じてしまうから
神ヘルメスは眷属達に語り聞かせた。いつもの飄々とした無責任で流動的な彼が、震える手を抑えながら、恐怖を噛みしめて忠告を与えた
……ここは、俺たちの世界だ、彼らのものじゃあない
……星振の時は来やしない。外の連中に手出しはさせない、させてたまるかだ
……汚染は食い止める。その為なら、俺達の一部ぐらいたらふく食らわしてやるさ
神ヘルメス、彼は自らの眷属に肉体を託した
不浄なる獣が求める清浄な物体、この世界においてもっとも清らかなもの、神々の血肉を瓶に封じた
ダンジョン下層、禁域として指定された箇所へ、生贄をささげる。
行う手順は安易なもの。しかしそれ以外の最善はなく、故にアスフィ達は忠実に実行した
グレートフォール、その滝壺より降りて、水が流れつくもう一つ先の大洞窟
空間は広く、なだらかな岸壁に囲まれた空間に入り口は一つ
……チリン
仕掛けは鳴る。彼女の耳にだけその知らせは届く
対象は中へと進み、完全に食いついた
「……起爆します、耳と口を塞ぎなさい」
餌は撒かれた。怪物は穴の奥に、
観測は許されず、視認も許されず
マジックアイテムで仕掛けられた起爆トラップ、アスフィが撃鉄を引き爆音があたり一帯に轟いた
『——————————————ッ!!?!?』
「周囲を警戒ッ!?」
爆音が乱反射するなか、団員たちは事前に渡された耳飾りの効果で伝達に即応する
塞いだ入り口、そしてそれ以外の方向全て
ダンジョンに損害を与える手段、その危険性を踏まえて厳戒態勢を取る。
…………どうなる、来るかッ
塞いだ入り口の奥、その先からは不自然なまでに声はしない
封印は成功、であれば脅威はその他の方向。ダンジョン下層で多大な爆発を産めば、連れられてやってくるモンスターも数知れず
武器を構え、皆その時を待つ
モンスターが来る。その時を
だが
「…………何も、来ない」
声を発したのはエルフの女性団員、ローリエが皆に尋ねるように、恐る恐る言葉を発して
そして、皆一様にその疑問が伝播する
音は響いた。だがしかし、何も起きない
「だ、団長」
「……撤収します。皆、隊列を作って進みましょう」
警戒を下げる。アスフィの言葉に皆重く息を吐いた
「なんか、めちゃくちゃ疲れる」
「仕方ないでしょうルルネ、此度のことはそれだけ異常な事態、ということですから」
「異常って、その異常な内容……あんまり教えられてないですけど」
「……団長、神ヘルメスのおっしゃった意味は」
「ローリエ、それは深入りしないとの決まりです」
「…………ですが」
それでもやはりと、此度のことは皆疑問に思わざるを得ない。ヘルメスファミリアの行動はオラリオの状況に即した任務、または主神独自の采配によるものが大きい
神ヘルメスはトリックスターだ。そのことゆえに、皆言われる命令には納得し続けてきた。ヘルメス様の言うことだから仕方ないと
だが、今回だけはその様相が違った
皆、任務を告げられる前のヘルメスが忘れられなかったのだ
「奇妙だよね、まあかなりヤバい件に首突っ込んでるってのはわかる。わかるけどさ」
「そう思うなら仕事をしてください。件の怪物がいる以前にここは下層ですから」
「下層ねぇ、そうなんだけどさ」
緊張感のないルルネの振る舞い、アスフィが諫めるも、その言葉にはどこか説得力が無い
先行して、列の先を進むルルネ、獣人である彼女は、誰よりも先に異変に察した
「ヘルメス様の忠告はマジだった……ってことっすね。これ、ヤバいっす」
進行が止まる、皆横並びに、ルルネが指さす先を凝視した
対象が奥へ入るまで、彼らは皆潜伏し、待機していた
故に、ティンダロスの怪物が通り過ぎた後は、今初めて見てしまったのだ
「……まあ、楽できるってのはいいっすけど」
警戒の仕様も無いと、ルルネは肩の力をおろす
だが、引きつった表情だけは未だ直らず
「ほんとに、異常な事態だってことは理解してる……こんな光景、冒険者始めてこの方一度も。いや、誰だって見たことないんじゃないですか」
同意を求める声、アスフィ達は唸るような返事しかできなかった
彼らの視る先、事前にここに来る道中にモンスターはいた。帰りに通る道、またも起きるはずの戦闘に構えていたが、それはもはや無用
全てが、皆一様に狂っていた
「……呪詛」
「らしい、ものですね……けど、こんなものは冒険者だろうと怪物にも当てはまらない。異常事態、ということですねヘルメス様」
多く、モンスターがいた。見渡す限り、数えて二十そこらはいる
だが、その多くは眼前に冒険者がいるというのにまったく察知する様子が無い。
目がある者は光をなくし、天を仰ぐか力なく潰れていた
獣も虫も、すべからく精神が壊れていた。時折奇声を発するように叫び、そして自傷行為が見られる
自らの腕や触覚を食らい、無意味に壁へと進み続け、そして思い出したように奇声をあげる
正気度はもはやゼロに近い、発狂状態、精神の崩壊。ダイスを振るまでもなく、モンスター達は終わっていた
精神のみを壊す不浄の闇、ティンダロスの怪物は今もこの洞穴の奥に存在している。その事実が、団員たちの表情に陰りを生む
「……ぁ、ひッ!?」
声を上げる。水滴が頬を撫でただけで、気丈なエルフ娘のローリエが声を上げた。
「……これ以上、ここにいたら皆おかしくなりますね」
「だ、団長」
「わかっています、早く抜けましょう。こんなところ、わたしでも気が狂いそうになる」
アスフィの声に皆応じて声を出す。進み、急ぎ禁域を去っていく。
そしてこの日を境に、ダンジョン29層の特定域は禁足地となった
次回に続く
……クトゥルフとかなんかで色々とヤバイ事態!!そう思っていただければ幸い
【討伐対象】
<<ティンダロス・モンストル>>
不浄を浴びた怪物。猟犬の特性を得ているため清浄なモノは全て食らいつくす。形は不定形
今作では可哀そうなレフィーヤさんを描いていますが、作中で一番かわいそうなのは外を覗き込んでしまった異端児くんです。先の展開も踏まえて、彼が一番報われない子になる予定です。愛してあげてください
次回の投稿は未定、詰めて書いていったので少し休みます。ではでは~