不墜の一番星 作:チョコミントバナナDX
二対の綺羅星が視界を埋め尽くす。
僕の中にナニカが流し込まれていく。
「こういうときは確かこういうんだったよね、"貴方が悪いんだよ"」
眼前に迫るあまりの魅力に脳が悲鳴を上げる。
「ま、まて、俺は事務所の中でも君とはそんなに関わっていなかった筈だ」
「だーめ、私にそんな嘘は通用しないんだから。知ってるんだよ、君が私の心を治そうと奔走していた事。確かに最初は私も自分の心が壊れてるなんて思いもしなかった。でも、B小町のメンバーと本当の意味で対等な仲間になった時心のナニカが癒えるのを感じたんだ。そう気付いて周りを見てみたらびっくりしたよ。色々な方向から君のメスが迫ってきてたからね。危うく気付かないまま完全に治されて普通の少女にされるとこだったよ」
言葉一つ一つに、悍ましい程の恋慕が篭っている。
「なら、そう気付いたなら、大人しく治されておけばよかったじゃないか。何故こんな凶行に出た」
「あのね、嘘はとびきりの愛なんだよ。だから私は何より最初に君に愛されていたの。騙してでも幸せにしようとした他でも無い君に」
「違う!僕のコレは愛じゃない、唯の破壊衝動だ!完璧で完全な君の何もかもを普通の幸せで壊して凡俗に落とす。これ以上の天賦の才能への復讐はない!」
「ざーんねん、何を言ってももう無駄だよ。君の思いを私が知らない訳ないの。君、天才が嫌いなんでしょ。自分が共感しか出来ない凡人だと思い込んでいるからね。だから私を同じ凡人にして助けようとしたんだよね?」
「…だとしても、だとしてもだ!"嘘はとびきりの愛"なんだろ!僕に愛を表現するなら騙されたフリをしてくれるのが君の愛情表現じゃなかったのか」
「だから最初に言ったじゃない"貴方が悪いんだよ"って」
「ま、まさか、僕が失敗して、中途半端に君を治したから」
「そう、もう私は君には嘘をつけない。君が、そうした。でもいいの、私は欲張りだから。嘘の愛も真実の愛も両方君から手に入れる。もう嘘の方はとびきりの物を貰ったから、後は何処にでもいる男女の様に。一つになろ?」
「まて、待て、やめろ。その目でアイを注ぐな。その星明りには誰も抗えないんだ。君に惚れたら僕はさいg」
言葉は最後まで紡がれず、その男は星に灼かれて消えた。
これは星を堕とそうとした凡人が星に魅入られ消えるまでの物語である。
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ある日、僕が社長補佐として勤めている事務所に人型の着ぐるみが連れ込まれてきた。
着ぐるみ自体は人間の中身を生きたままくり抜いて作られた悍ましい狂気の産物だ。
だがそれは自立して動いている。
気になって中身を見ると中には一番星が生まれていた。
成る程、苦痛と共にくり抜かれた少女の闇の中に生まれた小宇宙。
確かにコイツは傑作だ。星が人の皮を被って動いてやがる。
即ち、人でありながら星としての魅力を兼ね備えてるという事だ。
絶対にあらゆる人間を魅せることができるだろう。
…ふざけるのも大概にしろ。
ここまでの事をしなければ上に行けないのか。
ここまでの事をしなければ勝負にもならないのか。
それが真実であるなら正攻法で上を目指している我々凡人の夢、努力、人生、その全てが無意味だという事じゃないか。
これは凡人として生きたの僕の人生のため、憎しみを持って僕が壊そう。
そう、思い立ってからは早かった。
普通に殺しても意味がない、それで壊れるのはガワだけだ。
あくまで僕が潰したいのは中身の星。
であれば中身を別の何かで満たしてしまえばいいだろう。
例えば、そう、普通の幸せな少女だとか。
誰にも届かない希望の星が凡庸な幸せに潰される、これ程僕の心をくすぐる物はない。
さて、ここからが難題だ。それを成し遂げる為には今も生きたまま苦しんでいるあのガワを蘇らせないといけない。
そこで、先ずは五感から攻める事にした。
ちょっと好みな色、なんとなく聴き心地のよい旋律、過ごしやすい最適の室温、吸った空気に乗るちょっとした癒しの香り。
そう言った原始的な信号でガワの意識を呼び覚ます。
ただ、味覚だけは少し苦戦した。どうやら食べるという行為そのものに根元的恐怖が植えつけられているようで下手に反応を探ろうとすると過去が思い起こされてせっかく呼び覚ました心が弱っていくこともあった。
観察と考察の結果、恐怖の正体は食事への異物混入の被害妄想だという結果が出た。
そうと判れば対処法はすぐ決まった。
事務所で出す食事を全て大皿で出す事にしたのだ。他人も食べるものなら少しは何も混ざっていないと思える筈だ。
そしてもっとも強く恐怖を覚えている米は、彼女自身に作らせる事でトラウマを少しずつ薄めていく。
そうして一年も経つ頃には、彼女は最低限、五感からは快感を得られる様になっていった。
無論、この一年にやった事はそれだけでは無い。
日光浴を徹底させ事務所に緑を増やし、鬱を遠ざけた。
眠れない彼女の元にグループメンバーをけしかけて、誰かと過ごす夜の安心感を教えた。
社長や社員の妻によるスキンシップを増やし、人肌の温もりを与えた。
これらの努力の成果もあってか彼女はびっくりする程、その才能を開花させなかった。
僕はこの計画が順調に進んでいる事を喜び、2年目以降に進める次の段階に備えた。
2年目からは承認による幸せを与える事にした。
アイドルであればファンからの無償の承認が掃いて捨てるほど与えられるが狂気的なそれでは彼女は歪んでしまうだろう。
必要なのは対等な承認。有り体に言えば友情だった。
最初から予想されていた事ではあったが今、B小町の中で彼女とそれ以外のメンバーの差が開き始めていた。
このままでは彼女は一人で空に上がってしまう。
そう思った僕はグループ全体の方針として全員のレベルが必要基準に達するまでは前に進まない。謂わゆる、日本の小学校式の方針にしたのだ。
これであれば、原理上は不満を覚えるのは彼女だけ。そして彼女が人間らしい不満を覚えた地点で僕の目的は果たされる事になるのでよいプランに思えた。
だが、人間関係は複雑だ。これだけ注意して対策を施したにもかかわらず結局能力差による嫉妬を止める事が出来ず少しずつ彼女は浮き始めてしまった。
であれば次の策として共通の敵を作る事にした。
ファンの中で、出来るだけ醜悪な者達を彼女推しの厄介オタクに仕立て上げたのだ。
まだ彼女達は吹けば飛ぶ様な地下アイドルでしかない。
多少醜い程度ではファンを拒むことは出来なかった。
これにより、メンバーの彼女への認識は目障りな人気者から醜悪な者を引き受けてくれる仲間へと次第に変わっていった。
メンバーは彼女をよく遊びに誘う様になり、優しいアヒルに囲まれた白鳥の子は自身の特異性を見失っていった。
そんなある日、彼女らの友情を絶対的にする事件が起こった。
話によると彼女のファンがストーカーになり、接触を計ってきたらしい。
その時は、本当に偶々五人で居たという。
話しかけてきたソレに対して、彼女を守る様に四人が前にでてアイドルとしての矜持を捨て去り思い付く限りの罵詈雑言を浴びせ心を折り彼女を守ったとの事だ。
まぁ、想定外の出来事だったが結果オーライといった所だろう。
これにより彼女は完全に凡夫どもに絆され、孤高を失った。
2年目の総評としても、彼女はその潜在能力の0.1%も発揮できなかったと評価しても良いだろ「───コレが愛、私、もう、愛されてたんだ」う
さて、承認欲求を満たしたら後は普通に娯楽を勧め、アイドルの賞味期限切れまでダラダラと過ごさせれば良い。
計画の最終段階なのにこんな締まらない感じでいいのかとも思ったがまぁ堕落といった意味ではこういう物が相応しいのだろう。
ヒットの芽は一切なく、かと言って危機的なまでの無収入でもない。謂わゆるほどほどのぬるま湯の様な状態が続いたか「あれはあれで楽しかったけどね」らか事務所全体に緩い雰囲気が漂って来る事も時間の問題だった。
すかさず、アイドル以外の比較的緩く、お金がかからない趣味グッズを投入していき仕事以外にも楽しみを「君が毎日面白いものを紹介していくから、全部やりたくなっちゃってたなぁ」作り出す。
件の彼女がハマったのが僕の元来の趣味と全く同じ、シミュレーションゲームや高難度アクションゲーだったのは「だって一緒にいたかったんだもん」意外極まったが殆ど凡人となった彼女を騙す事くらいは僕でも「出来たかな?」容易い。
それと同時にソシャゲの声優や小規模なドラマのエキストラ、はたまたバスガイドや子ども用のイベントスタッフといった「いろいろな体験が出来て楽しかったなぁ」最早芸能界などあまり関係ない仕事までも斡旋していく。
そう、この頃は僕の復讐に付き合わせた四人のメンバーに対する罪悪感で胸が痛み始め「むぅ、私の心配はしてくれないの?」たのだ。このまま緩やかに社会復帰させていく事でせめてもの罪滅ぼしとしよう。
もう彼女からは一番星の輝きはおろか、豆電球一つ分の明かりも感じ「うまかったでしょー、私の演技」ない。ただひょんな事に完全に僕に懐いて「偶然なんかじゃないよ」しまい、家に来る回数が増え「出来れば同棲したかったけどね」たのは問題だが、まぁもとより次の段階で男を紹介する予定だった。彼氏が出来れば僕の事なんてすぐ脳内から「消えるワケがない」消えるだろう。
だってもう君はただのお「ざんねんでした!」
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ある日、動画サイトに一本の動画が上がった。
内容はなんて事ない、流行りの曲に合わせたパフォーマンスの動画だ。
しかし、投稿者と思しき少女のソレは全てが異次元だった。
画面越しだというのに一挙手一投足に目を奪われる。
そのあまりに愛らしい表情は見た者を虜にし、その歌声は聴いた者を恋に落とす。
その眼には煌々と星が輝いていた。
───ガチャ、
ふと、後ろからドアが開く音が聞こえた。
そこには、最初に作ったアイドル衣装に身を包んだアイが佇んでいる。
「どう?似合ってる?」
話し方だけは、昨日まで仲良くしていた女の子と酷似していた。
「ありゃ、可愛すぎて言葉も出ないか。流石私」
同じ顔、同じ体を動かしている筈なのに魅力の伝わり方が肌でわかるほど変わっている。
「──いいよ、なにも言わなくて、君の考えてる事は全部お見通しなんだから。でも、まぁ、これからはこっちの私に慣れて欲しいな」
そう言うとアイはとてとてとこちらにやって来て、ぎゅっと抱きついてきた。
「えーっと、こういうときは確かこういうんだったよね」
"貴方が悪いんだよ"