「あっ。クーちゃんだ!」
ルビーが駆け寄る。あら、とクリソベリルはしていた
アクアはルビーのあとに続くようにゆっくりと歩み寄る。なにかと多忙の星野アイに代わりミヤコとクリソベリルがアクアとルビーの引き取りに行くことはよくあった
「楽しかった?」
ミヤコは屈してルビーの目線に合わせる
ルビーは何度か頷いていて興奮が伝わった。手に画用紙を持っている
「うん! 今日はお絵描きしたの!」
「かーさん書いてみた」
ルビーは差し出すようにアクアはやや適当にそれを寄越していてミヤコは貰った画用紙を凝視していた
天才かしら、と聞こえたのをクリソベリルは聞き逃さなかった
「うまいわねぇ……! ありがとう。アクア、ルビー」
くしゃくしゃ、とミヤコは二人の頭を撫でる。二枚の画用紙を畳んだ膝に置いて屈託もない笑みを浮かべていた
わたくし早速消えますわ。クリソベリルは自分の存在がゆるくなる感を覚えた
さようなら、と挨拶して家路につく
夕日が眩しかった。アクアはルビーと手を繋いでミヤコとクリソベリルの前を歩いている
「頑張れば帰れなくはないんだけどな」
「それはダメよアクア。危ないわ」
ミヤコは鞄を大事そうに抱えながら言う。アクアもミヤコのその言には頷けるところはあった
たまに星野アイが迎えに来てくれはする。しかし常に迎えに来てもらいたいという思いもないとは言えなかった
「ミヤコさんに対する態度と全然違うもんね……」
「それは仕方ないというかルビーもだろっていうか……」
アクアは取り繕うような顔をした
星野アイが完全防備で来てくれた日にはわーい、と声を出してアクアは駆け寄る。ルビーはその度に目を死なせていた
「──クー。また気絶してるの?」
「はっ!」
ミヤコがクリソベリルの目の前で片手をひらひらとするとぴんと背筋を伸ばしてクリソベリルは覚醒した
全くもう、と困ったように感嘆して笑みを向けていた
「じゃあ業務が残ってるから帰るわね……クー。迷惑かけない程度にしなさいね」
「わっかりましたわ! お母様」
マンションまで着くとミヤコが星野アイ宅の鍵を開けて帰っていく
疲れた顔をしていた。アクアとルビーもこれには苦笑いを浮かべるより他になかった
「ただいまー」
「ただいまー」
アクアとルビーは申し訳程度に言ってから靴を脱いで入っていった
お邪魔致ししますわ、とクリソベリルも断ってローヒールを脱いで入っていく
「お風呂沸かしてきますわね。お二人もお手洗いお忘れなく」
おー、はーい。とのアクアとルビーの声が響いた
いつも良い返事をしてくれる。クリソベリルは気持ちが良かった
手袋を外して流しで手を洗ってついでに星野アイ、アクア、ルビーが使っている透明のコップを洗っておく
「オレンジジュースありましたわ」
冷蔵庫からそれを見つけて。コップを二つ机に置いてオレンジジュースをおいた
紙パックのものだ。とりあえず注いでおく
「……クリソベリル。いつも言うようだがそこまで気遣わんでも良いんだぞ」
「なんだか落ち着かないんですの」
おいしー、とルビーがオレンジジュースを一口して笑みを見せていた
それはよかった、とクリソベリルも頷いていて
「おいしいですわ!」
台所からクーちゃん用、とのシールつけられた取っ手がパンダのマグカップ持ってきて対面に座りオレンジジュースを飲んでいた
アクアは別になにかを言うわけでもないがそんなクリソベリルの姿を見てなんだか微妙な顔を浮かべているのだった
「……なぁルビー」
「なぁに」
ルビーがやや首をもたげていた
机の上に二枚画用紙を広げている。一応買ってあるものではあったがあまり出番がなく、ルビーの自由帳と化していたものだった
「書こうぜ」
二枚の画用紙を取り出し鉛筆一本持ちながら目を光らせる。誰を、とはもはや言うまでもなかった
ふん、とルビーは鼻で笑って部屋の奥に消えて色鉛筆を持ってくる
「やるなルビー」
「ママはカラーじゃないとね」
二人で示し合わせたように笑って並んで画用紙に向かっていた
満足そうに頷いてからクリソベリルはマグカップのオレンジジュースを飲み干した
ぐいぐい、と雑巾を扱う。別に床の方はやらなくても良い、とアクアから以前に言われてしまっている
リビングの方は二人がいるため出来ないが玄関側なら問題ないだろうととりあえず星野アイが手が届かなそうな位置の埃を掃除していた
「……前々から思ってたけどやたら絵うまいのなルビー」
「それ嫌味に聞こえるよ。お兄ちゃん」
どうやら完成したらしいとクリソベリルは笑みを見せる
雑巾をよく洗って一回絞る。雑巾がやや悲鳴を上げるほど絞った後流し台の下辺りにぶちこみ、よく手を洗って席へ戻った
「おつかれ。クリソベリル。毎度ながら助かったよ」
「クーちゃんありがとう」
「もはや日課になってしまいましたわね」
照れ隠しでそんなことを言ってるがまんざらでもない顔を浮かべていて
画用紙を大事そうに抱えるアクアとルビーもこれには思わず笑みを見せていた
そんな折クリソベリルが扉の方を見て膝立ちになる
床に片手を置いて臨戦態勢、といった感じになっていて
「多分母さんだと思うけどな……」
ははは、とルビーは苦笑いを浮かべる
感覚が人間のそれじゃない。双子はこういう時クリソベリルをどこか人外扱いしている母の気持ちが痛いほどわかった
しばらく間を置いてガチャ、カタンと鍵が空いた音がする
「ただいまー」
母さんだ、ママだ、とアクアとルビーは駆け出していった
あら、と星野アイは目を丸くする
「母さん書いてみた!」
「ママを書いたの!」
えぇ、と星野アイは靴を脱ぎながら溢していて
渡された二枚の画用紙を見てからまたえぇ。と溢していた
「クーちゃん。いるんでしょ?」
「ええ。お邪魔してますわ」
いいよー。と星野アイは軽くこれを流すと
画用紙を見ながら部屋に侵入してきた
「それよりもさ、これもう見た? スゴくない? スゴいよね?」
腕を伸ばしてクリソベリルの前に二枚の画用紙を並べて見せていて
はー。とクリソベリルも覗き見て感嘆してしまっていた
「遺伝だねー」
「遺伝ですわねぇ」
星野アイとクリソベリルは顔を綻ばせてからほぼ同時に溢した
一つは写実画のような綺麗で精巧な星野アイ。一つは芸術的で可憐な星野アイ
どちらが良いとは言い難い素晴らしい出来だった。およそ幼児の書く絵を越えていた。主にクリソベリルは供給過多で思考停止した
「どうしよ……っ! 綺麗な額縁入れて飾りたい~!」
二つを見比べるように見て顔を染める
星野アイは目をこれ以上ないほど煌めかせて着替えることすら忘れていた
「そ、そんなに良かった……? 母さん」
「お兄ちゃんの絵ほとんど写真だったもんね……力作過ぎるよ」
ルビーは呆れたようにそう告げていて
そっかあ、とアクアは苦笑いを浮かべていた
「うまく書けてるよー。とりあえず寝室に飾ろっか。裏側にテープで頑張ってさ」
幾度となく見比べてそんなことを溢していた
その目は真剣そのものだった
「確か両面テープあったよね。今やっておこっかなぁ……?」
星野アイは本気でそんなことを告げていて言われてしまえば止められる人はいなかった
「はぁ、ヤバい……傑作。この世に傑作が二つも出来ちゃった」
星野アイは腰に手をやって成し遂げていた
ルビーがやや頬を染めてもじもじしてから口を開く
「や、やっぱりアクアのとわたしのを並べると……」
「いや良いよルビー。ルビー良い」
星野アイの意思は固かった
アクアも腕を組んでこれには大きく頷く
「俺の絵、面白くないからな。その点ルビーの絵は暖かみがあって優しさが出てる」
「そ、そうかなぁ……」
えへへ、とやや頬を染めている
アクアは真顔で今一度大きく頷いていた
「アクアのはアクアので良いよ。確かに一瞬写真なのかなって思わなくはなかったけれど……ママは好きだよ」
不意の告白だった。ヴっ、とアクアは胸元を抑えて膝をつく
そんな兄にルビーは今回は柔らかな微笑みを向けていた