おしのこ!   作:すさ

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強くならねばと願う時ですの

 本日は壱護ミヤコの全面協力のもと事務所のレッスン室をお借りしての割りと大がかりな会をしていた

 星野アイも忙しい合間を縫って、あっやるやる~と軽いノリで参加してきたのは記憶に新しい

 

「紳士たるもの、いざという時に大切な人を守れないようではいけませんわ!」

 

 その声はやはり妙に響いた。基本的に体育会系というのはもはや誰もが思っていることであった

 

「淑女たるもの、いざという時に身を守れるということそれ即ち女子力なのです!」

 

 流石に貴族令嬢衣装から解放され白銀の手袋はそのままなものの、Tシャツジャージ姿のクリソベリルがいた。もはや新鮮だな、とはアクアの談だ

 服装は別としてたまにまともなことを言うし実行するのがクリソベリルというよくわからない生物なのだった

 

「セェイ!」

 

「せい!」

 

 やっていることといえば正拳突きであった。三人の声が反響する

 当然かもしれないが息ピッタリだった

 

「セェイ!」

 

「せい!」

 

 クリソベリルが師範代顔で綺麗な正拳突きしていた

 なにが悲しくてレッスン室でこんなことやらなきゃいけないんだろう、とはもはや誰も突っ込むことはなかった

 

「流石ですわ、あーちゃん。ブランクを感じさせません」

 

「わたしも強くなりたいからね。アクアとルビーのためにも」

 

 星野アイはにやり、と笑みを見せた

 方向性あってるけど違う気がする。アクアは楽しそうな推しの顔を見てその懸念を飲み込んだ

 

「ふぅ……ふぅ。結構良い運動になるね」

 

 そんなことをしているとルビーが額に片手をやってへたりこんでしまった

 確かに結構とばしていた。クリソベリルも反省したようで眉を下げて近寄ってくる。ルビーの目線にまでしゃがんでいた

 

「……行程が前後致しましたが、まずは柔軟を致しましょうか。あ、水分補給もお忘れなく。これは柔らかい筋肉を作ることが目標でもありますから」

 

 ありがとう、とルビーは差し出されたスポーツドリンクを両手にもって。キャップを捻った

 ふふ、とクリソベリルは笑みを見せていて

 

「そうですわね、まずは身長が近いお二人で背中合わせになって背筋を伸ばすのです」

 

「ぷぁ。えぇ……なんかやだよ」

 

 スポーツドリンクから口を離してあっさり告げる。ルビーのあんまりな言葉に立ったまま氷付いたアクアがいた

 うーん、とクリソベリルは唸って顎に手を添えている

 

「大丈夫だよルビー。アクアはやさしいから」

 

「……そうかなぁ」

 

 未だに正拳突きしている星野アイを尻目に渋々といった感じで頷いた

 す、とルビーは立ち上がって端の方にスポーツドリンクは置いてから氷付けアクアに近づく

 

「ごめんね……ベタベタかもだけど、ゆるしてね?」

 

 キラキラとした瞳と小さな手が向けられた

 アクアは氷解した。ルビーを守護らねばならぬと覚醒した

 

「あはは、お兄ちゃん高い。高いって!」

 

「良いだろ別段、この方が伸びるだろぉ!」

 

 二人は背中合わせになってキャッキャしていた

 仲良しパワーは永遠ですわ。クリソベリルは腕を組んで満足そうに頷いていた

 

「ねぇクーちゃん……久しぶりにあれやろうよ」

 

「あれですわね。わかりましたわ」

 

 星野アイが人差し指をちょいちょいとやってくる

 明らかに挑発していた。クリソベリルは大きく頷いた

 

 半身に構えた星野アイとクリソベリルが片腕同士を合わせあって距離を取った

 す、と星野アイが円を描いて構えるのに対して、クリソベリルはぎちぎち、と両手を拳にして構えていて

 

「なんか始まったぞ」

 

「ママ頑張って!」

 

 ふっ、と星野アイは笑みを浮かべる

 結局アクアとルビーは端の方で座ってスポーツドリンクを飲んでいた

 

「……てやーっ!」

 

 拳を振り上げて距離を詰める

 星野アイは目線を脚にやってクリソベリルを引っかけた

 

「うおおおっ!?」

 

 ぐるん、とクリソベリルが空で一回転して着地する

 そのあまりの体幹にアクアが驚嘆していた

 

「てや。てやっ! てやー!」

 

 クリソベリルが放つ拳は星野アイの片手にそらされて空を切る

 ふん、と星野アイは鼻で笑った

 

「……衰えたね、クーちゃん!」

 

 星野アイの瞳が光り、ぴたりとクリソベリルの喉元に手刀が止まった

 ぐぬぬ、としていた。クリソベリルは貴族衣装でないと半分しかパワーだせないを信じるのであればある意味で衰えてはいるかもしれない

 

「……なんかよくわからないけどすごかったな」

 

「ママかっこいい~!」

 

 双子は思わず拍手してしまっていた

 お互いに息を切らしながら笑顔を向けあう

 最後に距離を取ってお互いに一礼した

 

 とりあえず四人で休憩を取ることにした

 星野アイ、アクア、ルビー、の三人は座ってスポーツドリンクを飲みクリソベリルはスポーツドリンクを一口だけ飲んで立っていた

 

「……なんだったのか聞いて良い?」

 

「護身術だって。クーちゃんが鬼やってくれるの」

 

 アクアに星野アイはぴっ、と人差し指を立てて説明してくれる

 護身術というよりは闘牛使いとかそんな感じに思えたことはもちろん口には出せなかった

 

「あーちゃんにもしもがあってはなりませんし最初は力加減を弱めていましたのですが……重々ご存知かと思いますけれど、あーちゃんって一を知ったら千にするものですから。わたくしから色々学びとられてしまいましたの」

 

 クリソベリルは肩で息をして腕を組みながらそんなことを溢していた

 武道もいけるのか、とアクアは感心せざるを得なかった

 

「でも正装のクーちゃんには勝てる気がしないかも。あなたたちができちゃった時とかすごかったんだよ。よしお任せなさいって言って毛が逆立ってたし」

 

「おほほ、そうですわね……ありました、そんなこと。お恥ずかしい」

 

 苦笑い浮かべてから涼しい顔をしていた

 星野アイはその時のことを鮮明に覚えている。だから本当にキレたクーちゃんが恐いことは知っていた。なぜか自分を大切に思ってくれていることも知っていた。それらはなんとなく一方的だけどそのうち理解できると良いな、とも願ってもいた

 

「あの時、止められてよかったなぁ……」

 

 クリソベリルはただ俯く星野アイを見つめていた

 行き場のない怒りはアクアとルビーの顔を見てどこかに行ってしまい。今となっては完全にゆるキャラになってしまっている。不甲斐ない、と思わなくはないのだ

 

「……超サ◯ヤ人かよ。いっそ納得しちまった」

 

 その金髪と合わせて逆立ってたとなるともはや画風が違う住人になってしまうのでは、とアクアは危惧していた

 どちらかというとキン◯マンがすきですの、と当人は妙に詳しかった

 

「もしかしてママとクーちゃんは飛べたりとかするの?」

 

「いや……護身術すげぇな。俺もたまに頼んで良いか?」

 

 ルビーの質問にあえて被せてアクアは脱線しすぎた話を戻そうと躍起になっていた

 

「もちろんですわ。この道はわたくしでもまだまだ修行中の身ですけれど。それでよろしかったら!」

 

「……まぁクリソベリルのそれは身体能力に物を言わせてる感はあるからな。でも頼むよ。俺も男だ、誰か護ったりするかもしれない」

 

 小さな拳を握って立ち上がったアクアにクリソベリルは大きく頷く

 まずは大きくなってからですわね、だとか考えていた

 

「そこまでして護りたいものがあるのですのね?」

 

「もちろんだよ。ほら……男手俺だけだし」

 

 なるほどなるほど、とクリソベリルは笑みを向けて頷いた

 す、とこっそり星野アイがその背後を取った

 

「捕まえた! ──あっ」

 

 アクアは反射的に身を屈ませた

 母の両手は空を切った

 

「まってよ、アクア。待ってぇ! いたくしないから!」

 

 星野アイは両手を下に向けて大股で追いかける

 対して無言の疾走をアクアはしていた。目がマジだった

 これは時間の問題ですわね、と思ってたまたま目があったルビーと笑い合った

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