「よーし。良い感じだね」
飾り付けもバッチリこなして星野アイは満足そうに頷いた
なにを隠そう本日はアクアとルビーの誕生日である。感動も一入だった
もう五歳にもなるんだ、と思ってすらいた
こんこん、と玄関からノック音が聞こえてきて星野アイは目を向けた
「ミヤコさんかな……? はぁい!」
「めでたいですわーーっ!」
開けると貴族令嬢服に身を包んだクリソベリルがいた。なんだかデジャヴだった
す、とやはり星野アイは扉を閉めてしまう
「えっ。どうして……どうして? よ、よよよ~!」
良いから入ってと星野アイの手が伸びた。そんなところまであの時のままだった
しかし右手に収まるのは物騒なものでも何でもなくケーキを持ってきていて
「……ミヤコさんは?」
「ぐすっ、お母様は……忙しくてこれませんでしたわ」
そっかあ、と虚空を眺めてミヤコさんを思う
ありがとうミヤコさん。万感の思いがそこにはあった
「ケーキ届けてくれてありがとね、クーちゃん」
「……くるしゅうないですわ」
星野アイにケーキを手渡して笑みを見せる
涙目でちょっとかわいそうだった。あとで埋め合わせは絶対するからね、と星野アイは誓った
ケーキを受け取って配置して帽子、眼鏡、マスクを着用した後星野アイはクリソベリルと共にアクアとルビーを引き取りに出掛けるのだった
「アクアくん、ルビーちゃん。お迎えに上がりましたわよ~!」
「わーい!」
クリソベリルが声をかけると両手を掲げながらアクアが真っ先に飛び出して星野アイのもとへ駆け寄る
最初は突進するのかと身構えたりしていたけどどうしてか止まってくれるとわかってからは母の方から引き寄せて抱き締めていた
「ごめんね……アクア」
「あふ……あふ……」
兄が悶絶しているところを間近に見て死んだ目のままルビーが近寄ってきた
おいで、と星野アイは片手を広げる
「ごめん。ごめんね、ルビーも」
「うん……」
ルビーはむしろ突進してくることの方が多い。身構えてから受け止めていた
二人の髪をゆっくり撫でて暫し目を瞑る。そんなことをしていると時間を忘れてしまいかねなくて名残惜しいながらも最後に二人を強く抱きしめてから離れた
「俺は今、なんでも出来る気がする」
「でしょうね」
アクアは頬を染めて体から湯気が出ていた
いつもより妹に冷たい目で見られている気がした
クリソベリルは例のごとく真っ白になっていた
「クーちゃん……また帰っちゃうの?」
「そうなりますわね」
アクアとルビーの誕生日の時クリソベリルは必ずといって良いほど早めに帰る。星野アイはその栗色の瞳を覗き見るようにみていた
なんか近いですわね、と苦笑いを浮かべていて
「ケーキありがとう。クーちゃん」
「なにかありましたら連絡くださいまし。わたくし、すぐとんできますわ」
大きく頷くとクリソベリルは扉から離れていった
実は羽根が生えてるのかな。星野アイはゆったりと歩いている背格好をほんの少し目で追ってから鍵を閉めて部屋に戻った
パーティーハット被りガーランドを首にかけたアクアとルビーが母を迎えた
「結局またクリソベリル捕まえられなかったんだね、母さん」
「うん、残念。今回こそはって思ってたんだけど……」
星野アイはやや背中を丸めながら席につく
誕生日席に座るアクアは複雑そうな顔を浮かべていた
「やっぱりクーちゃん、なんだかんだ邪魔したくないのかも」
「──そうなのかなぁ」
ルビーに言われてみてようやく星野アイはクリソベリルを思った
都合の良いタイミングでいて都合の良いタイミングで帰る。言われてみればそんな表現が当てはまっていた
「食べよっか。ケーキ」
顔を上げて笑みを見せると双子はほぼ同時に頷いた
ケースを開けると苺のホールケーキが出てくる。“おめ”の字が大きすぎて力尽きたあとがあるチョコレートが中心に乗せてあった
星野アイ、これにはくすりときてしまった。笑いをこらえつつ蝋燭を五つ差して灯をともした
「ハッピバースデーアクアとルビー。ハッピバースデーアクアとルビー。ハッピバースデーディア……アクアとルビー──」
ぱちぱち、と三人でリズムを取る
アクアは微笑を浮かべながらケーキを見ていて、ルビーは母の顔をじっと見ていた
「ハッピバースデーアクアとルビー! わー!」
「わー!」
ぱちぱち、と三人は拍手する
いけるかな、と星野アイはややケーキを前にやってアクアとルビーは促された通り蝋燭を拭き消す
実質三つと二つを拭き消すものだったのでそれは簡単にできてしまって
「やったー! おめでとー!」
「おめでとう」
「やったー!」
星野アイは今一度拍手する。アクアはルビーに拍手を向けていてルビーは万歳していた
ケーキを取り分けてアクア、ルビーに三つ行き渡るように切り分けた後、夕食用に作っていたハンバーグと野菜炒めにごはんを付けて振る舞った
「おいしい! ありがとうママ!」
ルビーは早速食べ進めていた
良かった、と目を細めて星野アイはアクアを見る。いつもより多めに拝んでいた
「アクア。食べても良いよ」
星野アイは息子がいつも拝んでくれてるからもはや慣れてしまっている
多分アクアはたくさん感謝するから拝むんだよね、程度に思ってこれを見逃していた
「──いただきます。アイもたくさん食べてね」
キラキラとした瞳と良い顔と良い声で告げていた
たまに呼び捨てにされるけど注意した方がいいのかな、と星野アイは思っていたが思うだけに止まっていた
──それはそれで嬉しい気がする。母は息子に限界まで甘かった
「おいしい?」
アクアが食べ進めている様を眺めて訊ねる
やはり自然と自分の食は止まってしまっていて
「──ほっぺた落ちるかと思った」
ハンバーグ一口して一言溢す
アクアはしばらく噛んでいた。健康のためには良さそうだよね、と母もこれをスルーをしていて
「そっか。嬉しい」
言いながら箸で白いごはんをかき混ぜてほんの少しつまむと口に運んでいた
別に自分が洗ってるのだからもしもはないのだけど、なんとなくやってしまってることでもあった。チキンライスなら食べれるんだけど、とか考えてしまう
「ご馳走様でした」
「ご馳走様でした」
「うん。今日は本当におめでとう。アクア、ルビー」
アクアとルビーは料理に手を合わせる
星野アイはこういう時張り切りすぎて大きく作ってしまうのだが、残すこともなく食べてくれて嬉しかった
「──お待ちかねの、プレゼントだけど。はい、これはルビーに」
「スマホ……!」
母から手渡された箱をもって目を煌めかせていた
ふふ、と笑みを向けていて
「欲しそうだったから。大丈夫だと思うけれど賢く使ってね」
天井を指差して言い含めておく。うん、とルビーは母に笑みを向けていた
結構ガッツリしたものくれるよな、とアクアは苦笑いを浮かべつつ呟いていて
「アクア……その、筆記用具って。言っちゃあれだけどそんなもので良いの? ゲームとかおもちゃとか欲しくないの?」
一度二度といわず毎回そうなのだから流石に星野アイも察するところがあって。ルビーのために我慢してるのかなとか思わなくもなかった
遠慮してるならもっとワガママ言ってほしいと願ってもいた
「母さんは普段から気付いたら買ってくれるじゃないか……それで十分だよ」
そうなんだ、と星野アイは快く頷いていて。はい、と両手にもって筆記用具をアクアに手渡した
キラキラとした瞳と笑顔、ラッピングされた箱を持ってる推し。眩しすぎて主にアクアの網膜が焼かれた
「それに──俺はもう欲しいものは貰ってるんだよ。母さん」
「ふぅん……そうなんだ」
筆記用具を大事そうに抱えていた
本当に欲がないんだねアクアは。星野アイは笑みを向けるがそんな息子がやや心配でやはり甘やかしたくなるのであった