おしのこ!   作:すさ

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思い出のランドセル

「そろそろアクアとルビーも小学生な訳じゃない? だから、今日はランドセル買いにいっちゃいまーす!」

 

「いえーいですわー!」

 

 星野家にてクリソベリルが貴族令嬢風の衣装に身を包み万歳をした

 体を大きく見せて威嚇してるんだよね。星野アイはもはやその生態を把握しつつあった

 

「俺もはや突っ込まないぞ。いいのか?」

 

「いまいち諦めてないけどもう諦めた方が良いと思うよお兄ちゃん」

 

 アクアが目に見えて呆れるとルビーはそう諭した

 就寝時以外はほとんどクリソベリルの顔を見ている気がする。アクアも実際のところ無駄な抵抗だということに気が付きつつあった

 

「ネットで買った方が早いとは思ったんだけどやっぱりみんなでわいわい実物選んでこそかって思って……」

 

 口元に指をやって空中を見る。ランドセル選びは一生に一度のことだから簡単に済ませてしまうと勿体ないという思いもあった

 クリソベリルはそんな星野アイに手を組んで目を煌めかせる

 

「なんて冷静で的確な判断力なんですの!」

 

「ああ。それは……とても良い判断だね。アイ」

 

 うへぇ、とルビーがアクアにしているところで星野アイの笑みが深まった

 なんか腹立つなぁと仄かに思う。バカにされたと感じたらしい

 

「クーちゃん。それハマらなかったから」

 

「ええっ!? そ、そんなぁ……よよよ~!」

 

 鋭く指差しての一言だった。クリソベリルは涙目になってしまう

 星野アイは今日もちょっぴりクリソベリルにだけ厳しいのだった

 

 例のごとく星野アイが星野アイであるため帽子、眼鏡、マスク着用のもとこれに挑む

 それでも目を引いてしまうのは星野アイだから、というより隣を歩く貴族令嬢のせいだったりするのかもしれない

 

「目的地到着~」

 

 星野アイの案内により特に迷うこともなく一行の目の前にはランドセル専門店が存在していた

 季節外れなため量販店では売ってなかったりしたのだ。どうしても静かなところで買いたいという狙いもあった

 

「これだけ色々ランドセルが並んでるのも新鮮だなぁ……」

 

「わぁ、スゴいスゴい!」

 

 入店して早々ルビーは駆け出してしまう

 ランドセル、と展示されているランドセルを指差して興奮していた

 

「そうだね。ランドセルたくさんあるね」

 

 アクアは慈愛の眼差しでこれを受けた

 ランドセルそのものにはどちらかというと感動は少ないが妹は格別にかわいい。そんな顔をしていた

 

「本当にランドセルしかありませんわぁ。壮観ですわね!」

 

「うん。なんかここで買うと作ってるところ見れたりするみたい」

 

 面白いよねぇ、と星野アイはきゃいきゃいするルビーとその背を追うアクアを目で追いながら溢していた

 はへー、とクリソベリルは頬に片手を添えて眺めていて

 

「これ。これなんかどうかな!?」

 

 ルビーがランドセルを試着しての一言。オーソドックスな赤色のランドセルだ

 アクアは無言で親指を立てていた。目の端で光る涙を隠せなかった

 

「──あぁ、もう小学生になっちゃうなんて。かわいいかわいいってやってるとあっという間だね」

 

 星野アイは目を細め柔和な笑みをしてそう溢した

 早速供給過多ですわ。クリソベリルは中空を仰ぐと己の存在がゆるくなる感を覚えた

 

「見てみて! ランドセル!」

 

「うわー。かわいすぎるー! わたし生まれ変わったらルビーのランドセルになりたいーっ!」

 

 ぴょんぴょん、とルビーは跳ねて背中を見せる

 星野アイは大袈裟に狼狽える。これ以上ないほど浄化されていた

 

「えへへ。そうかなぁ」

 

 ルビーはやや恥ずかしがって頬を掻いている

 ヤバいこれは男の子が放っておかない。星野アイをして危機感を覚えた

 

「よかったなルビー。おまえのことは絶対護るからな。一緒に行き帰りしような」

 

「……えっ? う、うん!」

 

 アクアはルビーにやや怖いくらいの笑みを向けてそんなことを言っていた

 そっかアクアが見てくれるなら大丈夫だね、と星野アイは密かに安心していた

 

「俺さ。実はそんな拘りないし適当に済ませようかなって思ってて」

 

「えー? そう言わずちょっと背負って見せてほしいよ。お願い」

 

 星野アイはアクアに手を合わせる

 それを見てふっ、とアクアは笑った。星野アイの真意を察したらしい

 きっと恥ずかしがってるんだね。アクアもアクアだが母は母で息子に甘かった

 

「これで良い?」

 

 アクアは適当に選んだ黒のランドセルを持ってきて背負い両手を広げて星野アイに見せた

 たまらないね。星野アイは無言で親指を立てていた

 

「回った方がいいかな?」

 

「はあぁ……カッコいい。きっとアクアはモテちゃうよ」

 

 なるべくゆっくりと回っていく。それを見る母の目はこれ以上ないほど煌めいていて

 星野アイをしてなんと言って良いかわからなかった。語彙がなくなりつつあった

 

「そうだね」

 

 正面を向いたアクアはポケットに手を突っ込んで笑みを向けていて

 星野アイはアクアを拝んでいた。うちの子天才過ぎる。そんな何度目かわからない思いを抱いていた

 

「全く……でれでれしちゃって」

 

 そんなアクアを見てルビーは返って冷静さを取り戻すのだった

 結局赤と黒のランドセルを購入した。クリソベリルは途中燃え尽きたみたくなっていたが付いてきてはくれるみたいなので気にならなかった

 

 

 

 コンビニで菓子パンやスイーツを買い近くの公園まで歩いて星野アイ、ルビー、アクアはベンチに座っていた

 子供たちや親子連れが滑り台やアスレチックで遊んでいてのどかな風景が広がっていた

 

「コンビニで買い食いするのもたまには良いね」

 

 星野アイは長細い菓子パンをマスクと口の隙間に入れながら咀嚼している

 プライベートでは基本的に長細いものか小さいものしか口に入れられないがその生活にはもう慣れてしまっていた

 

「まぁ確かにこれはこれで悪くないな」

 

 アクアもルビーと一緒に買ったプリンを食べながら溢した

 そろそろ底をつきそうだ。やがて最後の一口を口にいれた

 

「……そうだね。お兄ちゃん」

 

 ルビーはすでに完食してしまっていて子供たちが遊んでいる様を興味深く見つめていた

 目を落として脚を上下に動かし笑みを浮かべる

 

「おーっほっほっほ! ぐるぐる回るやつですわぁーっ!」

 

 無事復活したクリソベリルは回転遊具一直線に砂埃を撒き散らして駆け出していく

 やっぱりうちにも遊具作るべきかな。星野アイは穏やかな気持ちでそれを見守っていて

 

「セェイ! セェイ!」

 

 遊具に乗ったらとにかく片足で蹴る。これを繰り返した

 最初は穏やかだった回転も徐々に速くなっていき、最終的にもはやなにが回っているのかすら見えなくなっていく

 

「とんでかないでねー」

 

 やたら勢い付いて回る回転遊具を眺めて一声かけた

 まぁとんでったらとんでったで近隣住民に迷惑かけちゃいけないから探すし捕まえる努力はするのだけど星野アイはそれをあえて口にはしなかった

 

「いやどうなってるんだアレ。やたらスゴい勢いで回ってるけど……近くの子供ドン引きしてるじゃねぇか」

 

「クーちゃんやっぱりスゴい……」

 

 アクアとルビーは目が点になるしかなかった

 遊具の周りを砂埃が舞ってる気がした。竜巻のようになっていた

 

「あっ。もしかしてあなたもやりたいんですの!? わかりましたわ!」

 

 それだけ勢い付いていたところを突然ピタリと止める。クリソベリルは勇気ある子供に遊具を譲ったようだった

 星野アイにはあの子供がいっそ救世主にさえ思えた。流石にわたしはとべないからね、と大きく胸を撫で下ろしていた

 

「それー。よいしょー。ああ、もう一声ですわね? よろしくてよ。恐かったら遠慮なくおっしゃってくださいまし」

 

 回転遊具が子供を乗せて穏やかに回っている

 クリソベリルもそれはそれで楽しんでいるようで笑顔を浮かべていた

 

「さっきのはどうかと思ったけどあれなら楽しそうだよな……」

 

「……。行ってみる?」

 

 ルビーはやや目を輝かせている。訊ねてはいるが答えは決まってそうだった

 しかしそんな顔を向けられてなおアクアはやや悩んだ。主に星野アイの方を見ていた。なるべく側を離れたくないらしい

 

「ありがとう、大丈夫だよ。いっておいで」

 

 笑みを向けていた。アクアは頷いてルビーと顔を見合わせ立ち上がる

 俺らも仲間にいれろ、と遊具を指差していた

 

「ふふっ……そっかあ」

 

 当たり前だけどまだまだ子供なんだよね

 星野アイは回転遊具できゃいきゃいする二人を眺めてどこか寂しかった気持ちが霧散していくのだった

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