男が無事大人たちに逮捕されて。あっ、そういや今日ドームなんだと星野アイは電話をかける
「あは~刺されそうになっちゃった☆」
電話の外からも衝撃が聞こえるような、そんな内容であった
「クリソベリル。本当に見直したぞ」
「えぇっ!? わたくし、わたくし……アクアくんに褒められてしまいましたわぁ……!」
クリソベリルは永遠に枕をもふもふもふしていた
好きなのかな枕。そんな呟きをアクアは溢した
「ママを刺そうとするなんて。許さないッ! 許さないもん……!」
「ルビー……」
ルビーが涙ながらにそんなことを呟く
そんな折、いつの間にか近寄ってきたクリソベリルからすっとハンカチを差し出された
「あら。ハンカチさんどこへ。落としてしまいましたワ……」
はらり、とハンカチが舞ってルビーの前に落ちた
それを見てルビーは目を丸くしていた
「すっごいダイコン……ッ! びっくりした……ッ!」
生粋の突っ込み属性がアクアにはあった
しょうがない、と妹の前に落ちたハンカチを拾い妹の顔を拭ってやっていた
「あぁん……これですわ。たた、たまりませんわぁーーっ!」
「それが目的かよ……っ!」
クリソベリルはそんな二人の姿に両手を合わせて体をくねらせた
アクアは突っ込みながら丁寧にルビーの涙を拭った
「あのさ。ちょっと賑やかだよね、クーちゃん」
星野アイに叱られて今度こそしゅんとしてしまう貴族令嬢風少女がいた
「──お父さん迎え来てくれるって。クーちゃんもドームきてって言ってたよ」
電話を切ってから。星野アイはクリソベリルに笑みを向ける
爛々とした無垢な瞳がここぞとばかりに発揮されていた。この娘前世犬かなんかなんだろうな、と星野アイをして思っているところはあった
「わたくしおドームって初めてですわぁ! おドームっておいしいもの出しますの!?」
頼んでみるね、と星野アイは苦笑いを浮かべることになるのだった
しばらくして。玄関ドアを激しく開け閉めし猪突猛進とばかりに侵入してくる男がいた
「アイぃ……ッ! 大丈夫かぁ。おまえ怪我とかなかったのか!?」
斎藤社長。サングラスをかけた黒服の人で芸能事務所社長である
玄関から入ってくるなりアイの二の腕を掴んだ
「うん大丈夫。怪我ひとつないよ。クーちゃんのおかげ」
「よくやった我が娘! 俺信じてた。おまえもやれば出来るとおもってた!」
斎藤社長は満面の笑みを浮かべるしかなかったようで
星野アイは正面からその顔を見てしまうと苦労してるんだなぁと何度目かわからない感想を抱いた
「えぇお父様! わたくし元気100倍でしてよ!」
クリソベリルは両腕で力こぶを見せる
斎藤クリソベリル。いやクリソベリル斎藤かもしれない彼女はいっそ芸人にいそうな名前だった
「……放任主義は困るよ社長。ちゃんと責任持たないと」
「すまねぇ。本当にちょっと目を離したスキにどっかいくんだよコイツ……」
星野アイと斎藤社長が小声でそんなことを言い合う
あっ蝶ですの! とか本当にしかねないからな、と斎藤社長は続けた
「……わたし、入って良いかしら?」
さらに後ろから来たのはミヤコである
斎藤壱護の夫人。つまりは──
「あっ。お母様! ごきげんよう!」
うふふ、とクリソベリルは笑う
ミヤコは我が子を見て頭を痛めたように手をやった
左右に首を振りなにやってんだと言わんばかりだった
「急ごう。ミヤコ。アクアとルビーとクリソベリルを頼んだ」
「はあ……」
ミヤコはわかりやすいほど意気消沈していた
クリソベリルはそんな母の姿を見てしゅん、としてしまうのだ
「……お願いだから側にいてね、クー」
「はいですわぁ!」
背筋と腕が真っ直ぐと伸びる。いっそ妖しげな即答だったがミヤコをして二の句は出せなくなってしまう
「……俺が見てるから大丈夫だ」
「わたしも見てるよ」
「ありがとう……二人とも」
うんうん、と頷いているミヤコの横をアクアとルビーを持ったクリソベリルが通った
「おドームですわぁ!」
「おー。流石に人多いな。はぐれるなよクリソベリル」
「クーちゃんってほんと疲れ知らずだね……助かるけど」
壱護、星野アイとは別れて行動することとなり。兄と妹を抱えてクリソベリルは道を歩む
「いいこと、クー。うろうろしちゃダメですからね」
クリソベリルの容姿はただでさえ目立つが二人の幼児を抱えてもっと目立っていた
余程のことがなければはぐれはしないだろう。ミヤコからそういう期待を感じられた
「わっかりましたわぁ!」
ニヤリ、としてミヤコの顔に向く
ミヤコは笑みを見せながら感嘆した
──今宵はB小町初ドーム講演! 盛り上がっていくよーっ!
「いえーいですわぁーっ!」
輝くイルミネーションにあてられてクリソベリルは叫ぶ
そのあまりに通る声。アクアとルビーは知っていたように耳を塞いだ
「アイもノリノリね」
「みんなの夢だったからなぁ」
ミヤコ、アクアにルビーも小さく頷く
よっこい、なんて気合い一発して二人を肩車する。今さらだがクリソベリルはとんでもなく力持ちだった
「二人とも。良く見えるでございましょう?」
「うん。特等席だね」
「……うれしいね」
アクアとルビーはぽつりと溢す。クリソベリルは笑みを深めた
その瞳は爛々と輝いていて。やっていることはともかく、少女が少女たる純真さを遺憾無く発散させていく
ステージに登場したアイが一歩、また一歩と進む。アイを中心として四人が広がった
位置についてもマイクを片手に目を瞑り、胸を抑えていた
「わーっ! あーちゃんですわぁ!」
そんな声が届いたのか星野アイは少し笑みを浮かべていて
「溜めてる……溜めてるよアイが……っ!」
「こっ、こんなのもう耐えられないよぉ……!」
アクアが小さな拳を握りルビーは両手を祈るように組む
「うっ……うっ!」
ミヤコさんはもうハンカチで目元を抑える始末だった
そして、星野アイの瞳が開かれた
──わぁーーっ!
観客の波のような歓声がステージに響いた
「あーちゃーーん!」
「アイぃいい!」
「アイちゃあああ!」
「アイ……!」
瞬間、クリソベリル、アクア、ルビー。そしてミヤコの語彙はもう消失していた
「みんなーーっ! 今日は来てくれてありがとー! アイしてるよぉーーっ!」
──わあああっ!
マイク片手に叫ぶ一生懸命叫ぶ彼女にみんな語彙を消失していた
そうして、曲が始まっていった
──あなたのアイドル! サインはB!
うりゃおい! うりゃおい! ですわ! なんて掛け声がやたらとおって。星野アイは思わず笑みを深めて踊り出す
「……こんなの感動しちまうにきまってるんだよなぁ」
「お兄ちゃんダメだよ。わたしも我慢してるんだから。脳裏に焼き付けないと」
「……ぅう。くぅっあぁ……っ!」
アクアが目元を拭いながらそう溢した。ルビーもやや前のめりになって夢中になった
ミヤコはもうぐずぐずになっていた
「なぁにおっしゃい。これからいくらでも見れますわよ!」
クリソベリルは笑ってそう言ってのけた
「……はっ。マトモなこといってやがる」
「クーちゃんだってずっと見たいもんね」
アクアとルビーの言葉にうんうんと頷く
クリソベリルはどこか確信をしているようなそんなような仕草をしていて
──爆レツをあげる
「オイ! 今俺見た!」
「いやいや! わたし! わたしだもん!」
星野アイは指先でハートマークを作って。あいしてる、だなんて唇だけで言っていた
歌って踊って。それでいてファンサービスも忘れない。一人一人にウィンクするようで。一人一人をリスペクトするようで
「……流石ですわね」
クリソベリルは微笑んでいた。その輝きは彼女ですらわかりやすいものであった
ああ、これこそが星野アイなんだと魅了されるものがあった。その表現一つ一つに敬意を示さずにはいられなかった