おしのこ!   作:すさ

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キャンプですの?

「キャンプですの?」

 

「アイがようやく休む気になったみたいだから一泊二日ね……みんなで行ったら楽しいよねって」

 

 事務所に最早住んでいるミヤコは事務作業終わりにそう溢していて

 なるほど、とクリソベリルは腹筋を一旦やめて頷く

 

「それは素晴らしい考えですわね」

 

 立ち上がって母の顔を見た。目元が暗い気がする。ミヤコがいつ休んでいるのかは娘をしてわからないところがあった

 

「──ちょっと内容にケチつけてみたら通っちゃったの。どういう気まぐれなのかしらね」

 

 デスクで頬杖をついて草臥れた笑みを浮かべていた

 限界が近そうに思えた。この機会にたくさんリフレッシュしてほしいと願っていた

 

 キャンプ当日。助手席で爆睡するミヤコをよそに斎藤社長が運転して、後部座席に星野アイ、アクア、ルビーに貴族令嬢衣装のクリソベリルとなかなかの密度で走行していた

 

「ミヤコさん。ぐっすりだねぇ」

 

「事務経理まるごと押し付けちまってるからなぁ……なんとかするこいつもすごいんだけどよ」

 

 そうなんだ、と星野アイは瞠目する。ミヤコがすごいことはわかっていたつもりになっていたが言葉通りまるごとやっているのならその想像はゆうに越えていた

 斎藤社長はかかるBGMをつまみを操作することで小さくしていた

 

「……すまねぇとは思ってるんだけど、おまえも心配だからな」

 

「そっか」

 

 星野アイのマネジメント事態は斎藤社長が担っていてアクアとルビーのことがあってからというもの何年もにわたって過保護なくらい護ってくれてもいた

 共演者とトラブルになった時に割って入ったり、飲みに誘われようとされても割って入ってきたりする。プライベートがないとも言うが、星野アイとしてもプライベートはアクアとルビーに割きたい思いが強く結局そこのところの融通はしてくれるので気にならなくなっていった

 

「母さんが心配になるのはわかる。俺もはやく大きくなりたい」

 

「ママ、お兄ちゃんがナイトになってくれるって」

 

 ルビーが堪らずキラーパスをした

 アクアは裏切られたような顔を向けるがそもそも元々反応が露骨なのでこのくらいでは母の牙城は崩せないことを妹は知っていた

 

「え~? 嬉しいけどそのころわたしおばさんになってないかなぁ。ちゃんと守られ甲斐があるようにしなくちゃだね」

 

 あはは、と星野アイは笑い飛ばしていた

 その間クリソベリルはじっと窓の景色を眺めていて

 

「ねぇ、クーちゃん。大丈夫? 顔色悪いけど」

 

「……ええ。大丈夫ですわよ、あーちゃん」

 

 真面目に車酔いしそうとは流石に言えずクリソベリルはただただ耐えた

 そう? と星野アイは心配そうに眺めていて

 

「クリソベリル……柑橘系の飴なめてるといいかもしれない」

 

 ぽつり、とアクアが助言してくれて。あっ、とクリソベリルは思い出した

 確かと胸元をまさぐって小袋の感触を引き当てる

 

「そういえばハッカ飴ありましたわ」

 

「それどっから出してるんだ。どっから!」

 

「ふふっ……やめてよお兄ちゃん、笑っちゃうから!」

 

 そうか? とアクアもルビーにつられて笑ってしまっていた

 しょーもねぇ、と溢しながら斎藤も笑みを含んでいる

 

「わたくし甘いものも好きですけれど渋いものにも目がありませんの」

 

 真顔で告白してからビリ、と小袋を破ってガリガリと早速噛んでいた

 噛んじゃったの。星野アイもこれには堪らず体を震わせて口元に手をやっていた

 

 結局大惨事になることはなく。一行はキャップ場に降り立った

 一行の目の前には立派なコテージが建っていた

 なんかもうなにも考えたくないけど自然は感じたい、というミヤコの希望に合わせたものでもあった

 

「──持ちますわね」

 

 車のトランクからコテージに入れようとした星野家三人とミヤコの荷物をクリソベリルが持っていく

 きび団子あげたら付いてきてくれるかな、と星野アイはその後ろ姿を追いつつ思った

 

「……火を見ると落ち着くわねぇ」

 

 斎藤社長が早速暖炉を焚くとミヤコがやってきてその前で三角座りしていた

 重症ですわね。目の端に映る母の姿はクリソベリルすら圧倒されるものがあった

 

「釣りにでも行くか?」

 

 言いながら斎藤社長はもう準備万端だった

 釣り道具をもって釣り人特有のポケットの多いベストを着用していた

 

「行ってみる?」

 

 荷物を大体配置し終わって星野アイがアクアとルビーに目を向ける

 二人は顔を見合わせていた

 

「大丈夫か、ルビー?」

 

「う、うん! 行きたい!」

 

 やや引き吊った笑みを向けつつルビーは頷く

 そうか、とアクアは腕を組みながら笑みを向けていた

 

「では、いってらっしゃいまし」

 

 えっ、と星野アイが後ろ髪引かれるようにちらりと背後をみる

 四人をクリソベリルは見送ろうと細かく手を振っていた。斎藤社長がいるのなら問題ないだろうし、ミヤコを一人にするのが引っ掛かったのかもしれない

 

「……荷物持ちとして来い、クリソベリル。一人にしてやれ」

 

 クリソベリルは片手を頬にやってミヤコをみた。死んだ目ながら微笑を浮かべて小さく頷いている

 少し迷ってから結局待ってくれていた四人を追いかける。荷物持ちといってもほとんどは斎藤社長が持っていたので斎藤社長、星野アイと双子の後ろでなんとなく歩いていた

 

 

 

 目の前には自然が広がり鳥の音が聞こえる

 湖はそれなりに大きいが水中は意外と澄んで見えた

 

「当たりがきたら教えて下さいまし」

 

 虫除けスプレーを済ませた後、壱護、星野アイ、アクアとルビーで竿を三本使って釣りに勤しんでいた

 クリソベリルはその後ろ姿を見守るように前で手を組んで待機している

 

「あっ」

 

 やがて星野アイの竿が大きくしなった

 引きながら器用にリールを巻く。しばらくはそうしていたのだが

 

「待ってこれ、どうしよ──!」

 

 獲物が大きいのかバランスを崩してつんのめってしまった

 そんな竿が後ろからぱしり、と握られていて

 

「大丈夫ですわ。落ち着いて」

 

 あれだけ暴れてた竿がぴたり、と収まっていた

 クリソベリルの瞳はじっと水面を見ている。まだいますわね、なんて呟いていた

 

「……いっしょに引こう。クーちゃん」

 

「その方が良さそうですわね」

 

 その横顔を見てから星野アイは水面に目を映す。リールを回してクリソベリルが竿を支えた

 抜群の安定感によりなんなく魚を釣り上げることに成功した

 

「……結構でかいの釣ったな」

 

 斎藤社長が自分の釣りを中断して近付きそれを見に来る。エラから尾ビレにかけ朱色の縦帯が通っており、ほぼ全身に小さな黒点が散りばめられていた

 大したもんだ、と呟いていて

 

「そうなんだ」

 

 星野アイは一度頷くと片手で針を抜いてぺいと魚を湖に返した

 負けてられねぇ、と斎藤社長は笑みを浮かべていた

 

「──な、なんかこっちも来た!」

 

 ルビーが仰天顔を向けていてアクアが妹の肩を支えながら必死に竿を抑える

 クリソベリルの目が光り駆け付けようとするも気づいた頃には星野アイが二人の後ろにいて

 

「はい、よいしょー!」

 

「よ、よいしょ」

「よいしょー!」

 

 あれで大体のコツを掴んだらしく。やや頬を染めているアクアと別の意味で赤くなってるルビーの世話に勤しんでいた

 クリソベリルはそんな三人に満足そうに頷いていて。やがて夜も更けていった

 

 

 

「結局アイの魚が一番デカかった気がするな」

 

 星野アイは双子と一緒に風呂に入り終わり。ふぁー、とターボドライヤーをミヤコから受ける斎藤社長がいた

 えー? と星野アイは惚けたように溢していて

 

「じゃあわたし、クリソベリルと入るから。任せたわね」

 

 乾かし終わったのかターボドライヤーを止めてすぐそんなことをミヤコは溢していて

 未だにやや髪の毛が湿っている斎藤社長は苦笑いを浮かべるしかなかった

 

「お父様、いってきますわね」

 

 おっおう、とクリソベリルに頷いて。斎藤社長はただミヤコが用意したらしい夕食のバーベキューを眺めていた

 肉、野菜が串に通してあり、魚やマシュマロもあってあとは焼くだけになっている。なかなか豪勢な仕上がりになりそうであった

 

「──社長はクーちゃんにちょっと厳しいよね」

 

 バーベキューにきゃいきゃいする双子を見つつ星野アイは溢していた

 ふん、と斎藤社長はこれを鼻で笑って

 

「ミヤコがあれだけ甘いんだ。俺が厳しくしなきゃ、もっと頭悪くなるだろ」

 

 今焼いてやるからな、と斎藤社長は立ち上がり双子へ笑みを向けつつ言っていて

 そういうことは疎いながら、別に考えなしってわけじゃないんだと察することはできた

 

 どうせだから、とバーベキューコンロを外に持ち込んで斎藤社長が調理していた

 じゅうじゅう、と肉や野菜が焼けていき。食欲をそそる臭いがしてきていて。星野アイをして待ちきれないものがあった

 

「そろそろ焼けそうだぞ。アクア、ルビー」

 

「ほんとか!?」

「本当!?」

 

 真っ先に紙で出来た皿を持ちより、斎藤社長からトングで焼けた肉や野菜が渡される

 ふあぁ、とルビーは悶絶していて

 

「ありがとう!」

 

「冷めない内に食べるんだぞ」

 

 笑みを向けつつ。ルビーへ溢していて

 簡単な机のところに設置した折り畳み椅子の上で二人同時に割り箸を割って食べていた

 

「わたしにも下さいな」

 

「……焼けるまで待ってろ」

 

 むぅ、と星野アイは割り箸を添えた紙の皿を持ちながらやや膨れる

 限界まで腹を空かせていたらしい

 

「……野菜食え。野菜」

 

「いじわる社長」

 

 とにかく簡単に火が通る野菜を取り敢えず紙の皿に乗せていく

 その上で串焼きをバーベキューコンロに乗せていて

 

「……時間、かかりそう?」

 

「待ってろ。わかったから」

 

 小首を傾げながら器用に箸でつまんで一口、二口と野菜を食べている。咀嚼してやや落ち着いていた

 ぐるぐる、と斎藤社長が串を回していく。やがて頷いて串ごと皿に乗せた

 

「いいね。おいしそう」

 

「熱いから気を付けろよ」

 

 うん、と頷いて。結局アクアとルビーの座る席の対面に座ると自分が貰った串を箸で抜いて振る舞っていた

 全く。と斎藤社長は笑みを浮かべていてしかしその目の前にはクリソベリルとミヤコがいた

 

「……野菜食え野菜」

 

「うん。体に良さそうですわね、お父様!」

 

 野菜モグモグですわするクリソベリルにそうね、とミヤコは笑みを向けていて

 生野菜と混ざっていた焼き肉をトングで掴み取り、焼き直してからさりげなくその皿に入れた

 

「あら。そんなことする?」

 

 ミヤコはそれを確認すると上目遣いで見詰めて席に戻っていった

 モグモグのモグですわ、と永遠くれてやった野菜を食べてる娘がいるのでいい加減焼き上がった串をまるごとくれてやるのだった

 

 

 

「おやすみ。アクア、ルビー」

 

 寝息をたてる二人の額に唇を落とす

 自分も寝てしまっても良いのだが、なぜだか目が冴えてしまって。起こさないように細心の注意を払いつつ抜け出して布団を肩までかけ直した

 

「……クーちゃん?」

 

 呼んでやると簡単なタオルにくるまったクリソベリルが目を向ける

 暖炉の前で三角座りしていた

 

「眠れませんの?」

 

「クーちゃんこそ」

 

 うーん、とクリソベリルは暖炉の火を眺めていて

 なにか言うか言うまいか悩んでいるようで

 

「お二人、飲み過ぎてしまったようで。仲良く眠ってるんですの」

 

「……そっかあ」

 

 星野アイは苦笑いを浮かべつつ。その背にそっと触れた

 冷たいかと思ったその背中は温もりがあった

 

「寒くない?」

 

「わたくし、体温高めですのよ?」

 

 そうだったかも、とやや頷いてその隣に座る

 炎が揺れる様がまるで演目を踊ってるように思えていて

 

「また、頑張らなきゃ」

 

 そう呟いてすらいた

 ふとその横顔をみたクリソベリルは暖炉の方に目を向けて

 

「今宵の満月はいっそ眩しいくらいに綺麗でしたわね。都会とは全然違いますわ」

 

 などと宣っていた

 檻からでたばっかりだし他意はない。それは星野アイが一番よくわかっていた。しかし、それはそれとして気付くところがあった

 

「ああ……そっかぁ。それなら言っても良いかもね」

 

「なにがですの?」

 

 ひみつー、と笑みを溢して。色んな言い方あるんだね、と再確認していた

 そんなことをしているとあくびをしてしまって

 

「……眠そうですわね。お部屋に戻ることをおすすめしますわ。風邪引いてしまいかねません」

 

「でも施設のころは風邪引かなかったよね?」

 

 それを溢すとクリソベリルは固まっていて

 ああ期待はしてくれてるんだ、と安心してもいた

 

「……。いっしょに寝ちゃおっか?」

 

 闇夜に輝く瞳。対して信じられないものを見る目でクリソベリルは見ていた

 今いくとアクアとルビー起こしちゃいそうだし。そんな都合の良い理由まで見つけてしまっていた

 

「……お供しますわね。眠くなるまでこうして話していましょう」

 

「──それも良いね」

 

 揺れる火を見ながら語り合った

 アクアとルビーの背が伸びたこと。仕事がたのしいこと。今日一日面白かったということ。斎藤社長とミヤコなんやかんや仲良いねということ。他愛のない話を二人は重ねた

 

「……クーちゃ、ん」

 

 結局話疲れて気絶したようにクリソベリルの肩で寝入る

 寝息をたてる星野アイをゆっくりと横に寝かせて自らもってきていたタオルをかけると暖炉に目を向けた

 

「……これを絶やすと風邪を引いてしまいかねませんわね」

 

 火が揺れる様子を穏やかに見詰めながらそんな独り言を呟いていた

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