おしのこ!   作:すさ

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唐突な水着回ですわ

「うーん。大きなプールですわ……!」

 

 長い金髪を束ねて高いところで結び、競泳水着に身を包んだクリソベリルは腰に手を当てて大きく頷いていた

 プール施設の利用。星野アイが星野アイなこともあり実現不可能なものにも思えたが、もはや貸し切ってしまおうかしらとのミヤコの一言で実現したものでもあった

 

「早いな、クリソベリル」

 

 クリソベリルが日光の反射するプールを眺めていると後ろからアクアがやって来た

 なんだよ、とやや頬を染めながら腕をくんで藍色の短パン姿を晒している

 

「いえ。アクアくんも早かったですわね」

 

「まぁ男はそんなに行程ないからな……」

 

 そんなものなんですのね、とクリソベリルは頷く

 アクアは片手を頭にやって首を横に振っている。早速頭が痛そうだった

 

「あーごめんね。お待たせお待たせ……あれ? アクアは?」

 

 星野アイがルビーを連れてプールに出てきた

 髪を上の方で束ね、白色のビキニに着替えていてクリソベリルをして露出高いですわね、と思わずにはいられなかった。主に胸部が心配だった

 

「わたくしの後ろに隠れてますわよ?」

 

「おま、クリソベリル。裏切ったな!」

 

 アクアは言いつつクリソベリルの背面に引っ付いて離れようとしない

 恥ずかしがってるのですわね、とクリソベリルは大きく頷いていた

 

「お兄ちゃん?」

 

 スクールキャップとゴーグルを頭に着用して桃色のワンピースのような水着に着替えたルビーがクリソベリルの背後を覗きにいく

 アクアは覚悟を決めた顔をして震える手でルビーの手を求めた

 

「お待たせ、アクア」

 

 星野アイがアクアの目線までしゃがんで今一度笑みを見せる

 ぐふ、とアクアは目線を下にやって膝をついた。そんなことじゃもたないよお兄ちゃん、と妹は苦笑いを浮かべつつ呟いていて

 

「こ、今回の主役はルビーじゃないか。お前がうまく泳げて楽しめればそれで良いんだ……俺は」

 

「……うん」

 

 膝をついた兄から言われる言葉にさほど説得力を感じなかったのか反応に困るルビーがいた

 やっぱり恥ずかしがってるのかな、と母は笑みを向けながら思う

 

「準備運動から致しましょうね。折角の機会ですから思い切り堪能しましょう」

 

 四人で屈伸、伸脚、肩のストレッチ、腕のストレッチ、手足をブラブラさせ軽く柔軟した後、クリソベリルからプールの中に侵入する

 水位はクリソベリルの腹部くらいで子供では脚が付かない恐れがあった

 

「アクアくん。懸念した通り脚がつかなさそうですわ」

 

「……やっぱりか。まぁわかったよ」

 

 アクアは頷くとプールに侵入して両手を広げるクリソベリルのところまで泳いでいく

 捕まえましたわ、とその小柄な体躯を抱いて星野アイとルビーを待った

 

「いや焦ったな……ここまでとは」

 

「うまく泳げてましたわよ」

 

 アクアの顔は青ざめていた。体が未だに小さいため思うように水を掻き分けることができない

 アクアでさえそうなのだから、ルビーはもっとそうなのだろうと母に捕まる妹に目を向けた

 

「いくよー? ルビー」

 

 う、うん。と星野アイに引っ付いたままルビーが入水する

 母もそんなルビーをしっかりと抱いてプールに望んだ

 

「──なんですの?」

 

「い、いや……そんなに抱き締めてもらうと近いなって」

 

 アクアの目は死んでいた。安全地帯だと思っていたクリソベリルすら刺激にしかならなかった

 あらあら、とクリソベリルは余裕の笑みを見せていてアクアはやや腹が立った

 

「こ、こうかな?」

 

「そうそう上手だねールビー。もっと脚でバタバタしてみて」

 

 母に支えられながらルビーは水面を泳ぐ

 じっ、とアクアがその二人の姿を見守っていて

 

「よろしかったらアクアくんも」

 

「……気持ちは嬉しいけど遠慮しとくよ」

 

 そうですのね、とクリソベリル小さく頷いて目線を星野アイに移していた

 ルビーが多少移動したら大きく一歩踏み出すを繰り返していた。安定感抜群だな、とアクアは溢してしまっていて

 

「ゴールあんなに遠い……!」

 

「あそこまで泳ぐことはないよルビー。疲れたら教えてね」

 

 うんとルビーは頷いてバタバタと水面を蹴る

 がんばりやさんだ、と母はルビーを支えながら感心してしまう

 

「がんばりすぎて脚吊るなよ」

 

「うん……お兄ちゃん」

 

 主にクリソベリルに引っ付いているアクアに偉そうなことを言われてコメントに困るルビーがいた

 泳げること事態は疑ってはないのだが、母と一緒に練習している自分とは違う方向で楽しんでいそうでならななかった

 

「──はっ、はっ。くぅ……ちょっと、疲れてきたかも……!」

 

「それは大変。脱出!」

 

 星野アイは即座にルビーを抱えてプールの端まで歩く

 結局泳いだ距離は僅かだったがそれでも頑張ったことには変わりない。とりあえず縁に座らせていた

 

「わたくしたちも行きましょうか」

 

 おずおず、とアクアは頷く

 それを確認してからクリソベリルもなんなくプールの端まで歩いていった

 

「あっ、アクアちょーだい。クーちゃん」

 

「よろしくてよ」

 

 なに。と声を出したのもつかの間、アクアはクリソベリルから星野アイへと手渡されていて

 ひしっと抱かれたものだから、あああ。とアクアは目が回っていた

 

「大丈夫だよーアクア。しっかりバタ脚しようねー」

 

 自分で顔を水面にやったりブクブクしていたが母に支えられながらバタ脚を開始していた

 クリソベリルはプールの端から出るとルビーのもとに駆け寄った

 

「ルビーちゃんはもうプールには入らないのですの?」

 

「……うん。そうだけど」

 

 ルビーは三角座りをしながら星野アイとアクアを眺めていた

 その体をやや小さくさせている

 

「ではルビーちゃん、整理体操致しましょうね。入る前にやっていたあれで十分ですわ」

 

「……あっ、そっか。わかったよ、クーちゃん」

 

 すぐ戻ってきますわね、とルビーに断ってから一旦更衣室にまで戻ってこんなこともあろうかと多めに持っていっていたタオルケットをシャワーを掻い潜って持っていった

 

「あっ。これ……」

 

「……寒さは乙女の天敵ですのよ?」

 

 肩から掛けられてルビーはびくり、とする

 ほんの少し湿っているそれがタオルだとわかると笑みを向けていて

 

「ありがとう。クーちゃん」

 

「お二人が上がるまでしりとりでも致しましょうね」

 

 うん、とルビーは有り難くタオルにくるまって母と兄の様子を見ていた

 良いよ良いよとひたすらアクアを全肯定する母ととにかく先を見ることで推しを紛らわす息子で奇妙な駆け引きをしていた

 

「キツツキ」

 

「キズ」

 

「ズッキーニ」

 

「ニーズ」

 

「ずかん……あっ。またんが付きましたわ」

 

 わたしの勝ち、とルビーは微笑を浮かべる

 もう何度負けてるかわからない。クリソベリルは舌を巻いていた

 

「アクアも疲れたって」

 

 ばしゃ、アクアは星野アイから解放されて膝と両手を付く

 確かに息を切らしてはいた。よく頑張った方かな、とルビーも笑みを向けている

 

「大丈夫? アクア」

 

「──滅茶苦茶元気。超元気」

 

 そんな息子の背に手を乗せて覗き見て訊ねる

 アクアは震えながら親指を立てていた

 

「……二人は泳がないで良いの?」

 

 ルビーがやや首をもたげる。星野アイ、クリソベリルは顔を見合わせた

 やる? やりますわ。一秒に満たない行為の後どちらともなく頷いた

 

「うおおお、がんばれぇー!」

「二人とも頑張って~!」

 

 アクア、ルビーは仲良く肩を寄せ合ってタオルにくるまり、プールの飛び込み台の上に立つ二人を見た。折角だから、ということでレースしてみることになったのだ

 星野アイはにこやかに双子に手を振ってから水面を見る。クリソベリルは軽く跳んで体の感覚を確かめているようだった

 

「ふふふ、あーちゃん相手に手加減は致しませんわよ?」

 

「相手として不足なしだよ、クーちゃん」

 

 二人して前屈するように構える

 ちら、とクリソベリルは星野アイの真剣な横顔を見てから笑みを浮かべた

 

「うおおお!?」

 

 アクアが感嘆する。合図も何もなく二人同時に動いた

 ゆらゆら、と星野アイはプールの底を優雅に泳ぐ。対してクリソベリルは気を付けのような体勢になっていた

 

「クリソベリルのやつまだ底にいるのか。魚雷かなんかかあいつ……」

 

「クーちゃんスゴい……」

 

 実は陸と水中の両方で生活できるんだよね。星野アイは綺麗なクロールで水中を泳ぎながら笑みを浮かべた

 レースは25メートルだ。水中深くを泳いでいるクリソベリルは不気味だが、今のままであれば星野アイが優勢だろう

 

「てやー!」

 

 ざばぁ、とクリソベリルが浮上して平泳ぎしていく

 息継ぎのタイミングで息を吐いていた

 

「げぇ、クリソベリルはえぇ!」

 

「クーちゃんスゴい……」

 

 訳のわからない速さで真面目かつ優雅にクロールで泳ぐ星野アイに並びかけていた

 しかし、距離にしてもう三分の一くらいしかない。星野アイにはリードがあったためこのままゴールできるかもしれなかった

 

 星野アイは平泳ぎする珍獣を息継ぎのタイミングで見ていた

 負けるつもりはないよ。腕を回す速さを上げていっていた

 

 クリソベリルは息継ぎのタイミングで星野アイを見て笑みを浮かべた

 大袈裟に水を掻いていた。自然と推進力が上がった

 

「並んだぞ。並んだ!」

「ええっ。どっち!? どっちなの!?」

 

 やがてぴたり、と指がついた

 どっちとも言えず指がついた

 

「あー……クーちゃんの勝ち?」

 

「いえ、わたくし見てました。あーちゃんの方が速かったですわ」

 

 見てちゃダメじゃん、と向かい合った先にあった両手を重ね合わせて笑っていた

 二人して勝利を譲り合う奇妙な光景が広がっていた

 

「俺も仲良ししたい」

 

「真顔で言わないで」

 

 星野アイとクリソベリルはなおも勝利を譲り合い笑い合っている

 拳をぷるぷるさせているアクアにルビーは口を真一文字にした顔を向けていた

 

 結局クリソベリルが押しきって星野アイの勝ちということになり一行は整理体操に勤しんだ

 貸しきったにしては贅沢な使い方だったが、当面の目的は果たしたといえる

 

「いやー激戦だったな」

 

「見てて面白かったね。お兄ちゃん」

 

 ああ、とアクアはルビーと屈伸しながら頷く

 母の方は目に良すぎるためあまり見ることができないでいた

 

「そういえばルビーちゃんにしりとりで負け越してしまいましたわ……」

 

「クーちゃんは同じ文字とか濁点の言葉で攻めたりとかあまりしないからね」

 

 そんなことを伸脚している星野アイから言われて心底感心してしまう

 はへー、とクリソベリルは口を開けていて。本当におさかなさんみたいだね、なんて思われていた

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