おしのこ!   作:すさ

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公園ですの

 自転車を買ってみた、との短すぎる連絡を星野アイから受けクリソベリルはマンションから程近くの公園にいた

 貴族令嬢が仁王立ちしていた。めっちゃ目立っていた

 

「クーちゃんやっほ」

 

「……ご機嫌よう」

 

 完全防備の星野アイが笑みを浮かばせながら現れて手を振っていて

 そんな母の後ろからアクアが自転車を押して入ってきた。青を基調として水色のラインや幾何学模様がはいった小型自転車であった。一旦ハンドルから手を離し広げた片手を見せている

 

「ごめんね、クーちゃん」

 

 最後にルビーが自転車を押しながら公園に入ってきた

 赤を基調としてピンクのラインやハートの模様が入ったかわいらしいそんな小型自転車であった

 

「よろしくてよ」

 

 両方とも補助輪が付いていない

 クリソベリルはそれを確認してから頷いた

 

「んしょ……」

 

 ルビーが自転車に足をかける

 取り敢えず星野アイが後ろに付いている荷台を押さえながら走行するようだった

 

「アクアくんは自転車乗らないんですの?」

 

「俺はもう乗れるんだ」

 

 ふらりふらりと走行する自転車を眺めつつ、腕組みしてるアクアに目をやった。自転車は鍵を閉めて置いてきてしまったらしい

 そうなんですの、とクリソベリルは笑みを含めつつ頷いていて

 

「──絶対離さないでね」

 

「離さないよー」

 

 未だに荷台を押さえて走行していた。ルビーは真剣な顔を浮かべて真っ直ぐ前をみる

 ふむ、とクリソベリルは唸る。前輪がぶれていて足もぷるぷるしてる気がした

 

「──離してない?」

 

「離してないよー」

 

 そっと、星野アイはその荷台から手を離していて

 ふらふらとしながらも走行していた

 おお、とアクアがガッツポーズしていた

 

「ま、まって。なっ。あーーっ!」

「あああああ!」

 

 星野アイが大股で近付く

 その手をすり抜けて無情にもルビーの体は傾いていった

 

「ルビー……っ!」

 

 駆け出す兄より速い貴族令嬢がいた。ぴたり、とクリソベリルが自転車の隣にいて。目を丸くしてルビーはその顔を仰ぎ見る

 りん、と自転車のベルが小さく鳴っていた

 

「地面を踏みしめて。さあもう一度やってみましょうね、ルビーちゃん」

 

「う、うん……ありがとう、クーちゃん」

 

 ルビーは自転車にまたがったまま地に脚をつけた。そんな様子を見て両手を合わせて拝んでいる星野アイがいた

 クリソベリルは満足そうに頷き何事もなかったかのようにアクアの隣に戻っていく

 

「……ごめんね、ルビー」

 

「だ……大丈夫。わたし、頑張る。自転車乗りたいし」

 

 ルビーは自転車の上でガッツポーズする

 星野アイはひとつ頷くと再び自転車の荷台を握っていた

 

「すまなかったな、クリソベリル」

 

「わたくしこの手しか知らないだけですの」

 

 そうか、とアクアはその澄ました横顔が面白かったのか吹き出してしまっていて

 しかしじっと妹が自転車に悪戦苦闘している様を眺めていた

 

「なぁ、クリソベリル」

 

「なんですの?」

 

「その……悪かったよ。色々」

 

 クリソベリルは疑問符を頭の上に浮かべた

 腕組みしながらアクアは微笑んでいて

 

「扱い、悪かったかなって」

 

「ちょっとなに仰ってるのかわかりませんわね」

 

 アクアはぴくりとして渋い顔をした

 あれだけでコツを掴んでしまったようで、星野アイがルビーの自転車の横転を阻止していた

 

「わたくし、気にしてませんわ。アクアくんにいじわるされる分には気にもなりませんもの」

 

「……わりと気にしてるようにも聞こえるぞそれ」

 

 そうですわね、とクリソベリルは笑みを浮かべていて

 アクアは大きく溜め息を吐いていた

 

「なに意地張ってたんだろうな……」

 

 クリソベリルは曖昧に頷いていた

 青春ですわね、とそれだけ呟いていた

 

「見てー! 乗れたよ、お兄ちゃんクーちゃん!」

 

「──おおおーっ!」

 

 きこきこ、とルビーが早くもペダルを回して走行していて

 アクアとクリソベリル二人してガッツポーズして興奮してしまっていた

 

 

 

「ルビーはとっても飲み込みが早いねー」

 

 星野アイとルビーはベンチに座り缶ジュースで喉を潤していた

 自前のストローで飲みながらご満悦顔で娘の頭を撫でている

 えへへ、とルビーは笑みを浮かべていて

 

「いきますわよー?」

 

 それ、とクリソベリルは白銀の手袋のままボールを投げた

 アクアは自転車の荷台に入れる形で入っていたグローブと野球ボールを取ってきていた

 

「これで、どうだ!」

 

 ぽす、とクリソベリルは片手でアクアのボールをキャッチする

 虚無表情のアクアがいた

 

「悪くない一球でしたわね」

 

 えーい、と女の子らしい投げ方でクリソベリルは投げ返してきた

 グローブで取る。無駄にコントロールが良かった。アクアの目はやや死んだ

 

「そういえば、学校はどうですのー?」

 

「結構楽しい」

 

 なるほどなるほど、とクリソベリルは頷いていて

 アクアは笑みを張り付けてなんとなく思い切り投げるのだが片手で止められてしまうのだ

 

「すごいねーアクアは。あんなに速い球投げれるんだ」

 

「……そ、そうだね」

 

 ルビーはキャッチボールというかドッチボールと化していそうなそれにやや引いていた

 星野アイは感心したように頷いていてえくぼを作っている

 

「くそ。クリソベリルが倒せない……!」

 

「わたくし倒れれば良いんですのー?」

 

 無駄に耳が良いな、とクリソベリルから投げられた球を受けとる

 アクアは投げるフリをしてみていた

 

「あら。投げれてませんわよ?」

 

 クリソベリル、腕を組んでいた

 真剣に楽しんでいるらしい。アクアはぷるぷる、と震えていた

 

「さては煽ってるだろ。そうなんだろ!」

 

 ぶん、と投げた球がやはりクリソベリルの片手に収まった

 にや、と笑みを浮かべていて

 

「お友達、できましたのー?」

 

「……どういう意味だよ!」

 

 ルビーと星野アイの方を見ると二人して手を振ってくれたので手を振り返していた

 アクアのつかの間の癒しであった

 

「そのままの意味ですわぁ」

 

 相変わらずえい、と投げたにしてはコントロールが良すぎるそんな球がグローブに吸い込まれるように収まってアクアは小さく溜め息を吐いてしまう

 ムキになることもないよな、と悟った顔をしていた

 

「やっぱりさ。子供は純粋だよな」

 

「あら。今そんなお爺ちゃんみたいなこと仰ってよろしいんですのー?」

 

 アクアから投げられた球をキャッチして笑みを向ける。緩急なくえーい、と投げ返していて

 ぱしっ、とこれを掴みとった

 

「よし。泣かすか」

 

 アクアは再び笑みを張り付けた

 

「アクア楽しそうだねー」

 

「……う、うん」

 

 アクアが必死に投げる球をひたすら片手でキャッチするクリソベリルがいた

 笑みは向け合っている。楽しそう、といえばそうかもしれなかった

 

「ルビーは学校たのしい?」

 

「うん、楽しいよ。たまに男の子に告白されたりするけど」

 

 それはそうだろうねぇ、と星野アイは頷いていて

 すぱぁん、とアクアからクリソベリルへ投げる球がまた速くなった

 

「でも、心に決めた人がいるっていってごめんなさいしてるの」

 

「えっ。そんな人いるの?」

 

「……う、うん」

 

 ルビーが口元に手をやって反対の手で手招きする。星野アイは耳に片手を添えてやや体を傾けた

 娘から聞こえたその名にほんの少し止まって。目線を上にした

 

「なんだかとっても頭良さそうな名前だね?」

 

「……頭良かった。お兄ちゃんみたいに」

 

 そうなんだ、と星野アイはルビーにやや頷いていて

 そろそろ肩で息をしている息子を見てクーちゃん、と声をかけるのだった

 

「アクアくん。熱のこもった良い球でございました」

 

「褒められてる気がしないなクリソベリル」

 

 クリソベリルからぽす、と最後は野球ボールが手渡されてアクアは息を切らしながらも犬歯を見せたような無邪気な笑みを見せているのだった

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