本日は業務を終えた星野アイ、アクアとルビー、クリソベリル、ミヤコと事務所で休んでいた
苺プロダクションはアイドル業、ネット配信、広告費等で社内も進化を遂げていたがミヤコのデスクはそのままに休憩スペースが異様に発達したわかりやすいワンオペなスタイルが確立されていた
「トリックオアトリートですわぁーっ!」
「賑やかだねー。クーちゃん」
事務所内に貴族令嬢の声が通った。紙袋を持ちながら入所する
なにか買ってきた来たらしい。ソファーに双子と共に腰かけている星野アイはこれを嗜める
「これ。例のものですの! みなさんで食べてくださいまし!」
「そっか……ハロウィンだもんね。ありがと。クーちゃん」
星野アイは手渡された紙袋のなかを開いて確認する
御菓子ばかり入っていた
「クーちゃんありがとう」
いえいえ、とルビーに一礼してクリソベリルはソファーに腰を降ろした
「お夕飯は済ませたんですの?」
食器洗い機には使い終わったらしいものが入れられていた
事務所内にはキッチンも完備している
「もう済ませてあるよ」
そうなんですの、とアクアに顔を向ける
こくり、と素直に頷いていた
「折角だしみんなでお菓子食べよっかあ」
「良い考えですわね!」
クリソベリルの持ってきたお菓子は茸と竹の子状のものから煎餅、ミックスナッツまで様々だった
流石に全部は食べきれないだろうとある程度皿に明けてから冷蔵庫等に保存しておくことにした
「死後の世界との扉が開き、先祖の霊が戻ってくるだって。どこかで聞いたことあるね!」
「お盆みたいなもんだな」
確かに、とルビーは兄に同調していた
「ハロウィン……ハロウィンなぁ……」
ルビーがスマホ片手に感心したように頷いていた
アクアもこれに腕を組みながら唸っている
「どうしたの。アクア?」
「いや……その、仮装とかしたことなかったなって」
ああ、と星野アイはピーナッツを口に放り込んでから頷いた
毎年恒例になっている仮装は星野家ではやったことがないことでもあって。ほんの少し目の光を失わせていた
「衣装あるけど……着てみる?」
デスクで腕を枕にして寝ていたミヤコがむくりと起きて溢す
誰がともなく頷いた。星野アイに至っては拝んでいた
とりあえず子供たちから、と衣装室に入る
今は星野アイ及びB小町メンバー専用のそこではあるがいつまでも星野アイにおんぶにだっこではいられないだろう、と様々なサイズが用意されている
それでも今は使わないものなので衣装の種類は多いとは言えないが、要点は抑えてあるようだった
「見てみてお兄ちゃん。魔女の衣装かわいいー!」
「ルビーはなに着ても似合いそうだな」
そうかな、なんてハンガーをもって自分の衣服に合わせながら頬を染める
アクアはこんな時、ああ守護らねばと目が輝くのだった
「お兄ちゃんは吸血鬼?」
「まぁ、ベタだけど悪くないなーって」
わざわざ歯まで用意してある徹底ぶりだった
なんならアクアの生え代わりつつある歯にぴったりとはまっていた。まるで最初から用意されていたようで察するものがあった
「ミヤコさんもきっと仮装してる俺たち見たかったんだろうなって」
「あー。そっかあ」
ルビーがああでもないこうでもないとしてる試着室にほんの少し体を預ける
他は王子様であるとか、宇宙飛行士であるとか男の子のものは本当に数えるくらいしかなかったが女の子のものは充実していたようで。思わず笑みを浮かべてしまう
「こんなのにしてみたよ。お兄ちゃん!」
兄は開け放たれた先の妹の衣装に親指を立てるより他になかった
「きゃわああぁっ!」
「お二人ともよく似合いで……あふっ」
アクアは吸血鬼の衣装、ルビーは頭に羽を付けている魔法使いのような衣装をしていた
お兄ちゃんに合わせたんだね。星野アイはほっこりしていた
あまりの仲良しパワーにクリソベリルは片手を頭にやって思わず気を失いそうになっていた
「あああ。きゃわいーっ! わっ、きゃわいーっ!」
星野アイは頬を染めて胸の前で手を合わせて興奮していた
自然と笑顔があふれていた
「どーしてそんなにかわいくなっちゃったの!?」
「そ、そんなにかわいいかなぁ……」
宇宙一かわいい、と星野アイに言われ双子はまんざらでもない顔を浮かべていて
ファースト仲良しからのセカンド仲良しですわね、とよくわからないことをクリソベリルは溢していた
「すまないな、ルビー。俺に合わせてくれて」
「なんかこう、わたしがお兄ちゃんを吸血鬼にしちゃいましたーみたいな感じにしたかったの!」
お兄ちゃんは本当は王子様でね、と目を輝かせながら説明してくる妹の話をうんうんと兄は頷きながら聞いている
アクアは腕を組んで穏やかな笑みを見せていた
「はーまずいよー。クーちゃん笑えないかも。本当に気をやりそうになるねー」
「わかって頂けて嬉しいですわあーちゃん。わたくし、常に残機を削られていますの」
ちょっとわかったかもーと星野アイは再び笑っていた
ちょっとですの、とは言いつつも笑みを浮かべていて
「よーし。二人にこんなかわいい姿見せられたら負けられないよー行ってくるねー」
ぐっ、と片手を拳にして母は燃えていた
ここまでかわいくきめてくれたので二人が唸るような仮装をしたかった
「あっ、母さん待って!」
衣装室に消えようとする星野アイをアクアが呼び止める
ルビーにも手招きして三人で集まり。えっ、それで良いのと驚嘆していた
双子はそんな母に対し激しく頷いていて
「わかった。良いよー」
わりと軽く言って。片手で丸を作ってから衣装室に消えていく
ふふふ、と双子が怪しく笑い合っていたのでクリソベリルはやや首をかしげていた
「おまたせー」
それは全体的に桜色の衣装であった。見るものを癒すそんな力を感じつつ、どこか生きる活力が沸いてくるようないっそ原初的な姿だった
「待ったよねー?」
首もとには羽根の上からハートの意匠が施されていて、胸元には赤い下地に三つの青い星の意匠が施されている。両手にはショッキングピンクの手袋をしていて
黒い帯が腰に巻かれ桜色、桃色、黄色からなるスカートを穿いていて。ショッキングピンクのニーハイブーツに通している
それは──星野アイのアイドル衣装そのものの姿だった
「あああああ」
双子は二人して叫んでいた
あああ。とクリソベリルも叫んでいた
「ねぇねぇ。これって結局アクアのリクエストでしょ? どうなのか教えてほしいなー」
身に纏うとなんだかスイッチが入るようで前傾してそんなことを訊ねている。一番星は無邪気に、しかし蠱惑的に笑っていた
片方だけで束ねられた髪をよくみるとどこか憎めない顔をしたうさぎの意匠がなされている髪飾りがあった
「俺は今……っ! 最高に感動している……っ!」
大袈裟ーとけらけら笑う星野アイがいた
推しがアイドル衣装で自分の前にいる。その上で自分に笑みを向けている。これほどの致命傷はなかったのか涙すら浮かべていた。両手を拳にしてぷるぷるさせていた
「ママ……やっぱりママは神だよ……! ああ、ママは神だよ!」
ルビーをして語彙を失っていた
そうかなぁ、なんて頬を染めながら笑みを向けていて。そんな顔ながら娘との距離を詰めていった
縮地ですの? とクリソベリルは溢す
「嬉しいこと言っちゃう娘はこうだーっ!」
「あああああ」
抱き上げられて娘は悶絶していた
あああ、とすぐ側にそこ顔があって赤面してまた叫んでいた。軽くパニックだった
なお星野アイはその反応が終始楽しいようであはは、と笑っていた
「クーちゃん見てみて! アイドル服ーっ!」
そうやって娘を抱きつつぴょんぴょんしながらクリソベリルに近付いて。その人が真っ白になってることを知り、おーい。とその顔の前で手を振っていた
たまりませんわ。それが遺言とばかりに溢していた
「……写真、とりましょうか」
ミヤコが端末片手に覚醒してデスクから立ち上がった。真っ白になっているアクアとクリソベリルがかくかく、と動き出す
星野アイ以外がどこか呆然としたような、そんな様子で
「アクアもっと近くに来てよー?」
「あっ、はい」
アクアはかくかくと歩くと星野アイの隣に収まり。しゃー、と申し訳程度に口を開けて両手の指を曲げた
あそっか、とあまりの事態に仮装してたこと忘れてたらしい妹も母に捕まりつつ、しゃーと棒読みながら片手の指を曲げていた
「ほらほら、クーちゃん! 固まってないでがんばって!」
真っ白になったクリソベリルはなんとなくアクアの隣辺りで収まり、両手を前で組みながら空虚な笑みを向けている
「撮るわね」
端末がタップされるそんな直前にハッピーハロウィン、だなんておどけている。ミヤコはくすり、と笑みを浮かべてしまう
片手で娘を抱えて息子の頭に手を置きながら人差し指だけ浮かせる形で指をさす
その瞳は眩いほど輝いて見えて。満面の笑みでウィンクしていた