本日は12月24日。つまりクリスマスイブである
嘘を吐き続けるため星野アイはこの日ほど神経質になることはなかった。主に直帰して直ぐSNSで自分が平和に過ごしてるそんな様子を撮り終えて自宅に缶詰になる
アクアとルビーには事務所で安全に過ごして貰う。そんな計画を毎回立てていた
そんなこんなで一人で家にいるとああ、なにやってるんだろうなぁという思いにかられた
毎回アクアとルビーの協力があっさりと通ってしまっていることも引っ掛かっていた
ベルがなって玄関からこんこん、なんて音がした
す、と立ち上がって玄関に立つ
「……クーちゃん?」
今は星野アイ一人しかいない上に深夜だ
流石に警戒してか細い声を出した
「わたくしですわよ」
その声が聞こえて。はっ、と目を見開いて鍵を開けた
ドアチェーンを外していない。クリソベリルはそれを確認して笑みを浮かべていた
「感服致しました。素晴らしい警戒心ですわ。あーちゃん」
「クーちゃん……こんばんわ」
ドアチェーンを外して扉を開ききり貴族令嬢の顔を見る
くりくりとした円らな瞳がそこにはあった。右手には何か買ってきたらしい袋がある
「こんばんわ。お邪魔いたしますわね」
「うん。あがってあがって」
やや頷いて。クリソベリルを部屋に通した
玄関扉は厳重に閉めておく。もう二度と刺されるようなことがないように心掛けていた
「一応聞いておきますけれどわたくしの他には誰か来たりとかはありませんでしたか?」
取り敢えずリビングに戻ってソファーに座る。うん、と手を洗ってるらしいクリソベリルに答えた
それはよかった、とだけ溢していて
「……いつもクーちゃん来てくれて助かるよ。暇をもて余しちゃってて」
「そうでしたの」
言いながらゆったりと隣に座ってくる
相変わらず姿勢が良い。ぴんと軸があるようなそんな風にも感じられた
「いつも一人だと何して良いのか、わからなくなっちゃってて」
それを聞いてやや頷いていた
目線を横にやる。テレビの横にルビーが取って来たうさぎのぬいぐるみが飾ってあった
星野アイは目線を下げてしまっていて
「──あの子たちがいないと、こんなにも寂しいんだって」
クリソベリルはそれを黙って聞いていた
なにを言うわけでもなく、黙って聞いていた
「……ごめんね。話、聞いてもらっちゃって」
「構いませんわ」
左右に首を振ってから同じくうさぎのぬいぐるみを見てほんの少し目が細められている
そんな姿を見ると昔と変わってないなぁ、なんて思ってしまった
「──ねぇ、あーちゃん。実は一つ気になることを見つけまして」
ん? と星野アイは小首を傾げた
大したことないといえばないのですが、と前置きしてから口を開いて
「アクアくんとルビーちゃんのプレゼント。用意するのでしょう?」
「ああ。それは……うん」
曖昧に頷くとクリソベリルは人差し指を立てて笑みを向けていて
じゃん、なんて買ってきたらしい袋からクリスマスカードを出していた
「気持ちがこもったプレゼントにはクリスマスカードは必要不可欠ですわ」
「……開くと音が鳴ったりする?」
「こういうのは初めてかと思いまして」
微笑を浮かべると片手を伸ばす
はい、とクリソベリルは両手でクリスマスカードを手渡した
「初めてってことはないけれど嬉しいな。ありがとークーちゃん」
こくり、とクリソベリルは頷いていて
器用に開封してクリスマスカードを開き、その音にしばらく耳を傾けていた
「ああ。なんだか、落ち着くなぁ」
「一応四枚ほど買っておきましたわ」
そうなんだ、なんて笑みを浮かべていて
星野アイは手に収まるメロディーを奏でるそれを持ちながら立ち上がり色鉛筆を取りに行った
「言ったかもしれない話、していい?」
クリソベリルは答えの代わりに目線を合わせてきた
そこまで期待されるなんて、と思いながら頬を掻きながら腰を下ろす
「サンタさんの話。あれ聞いたらわたし、びっくりしちゃって……サンタさんは優しい嘘だから。そういうのもあるんだぁって感動したの」
机の上にクリスマスカードを広げて色鉛筆と一緒に持ってきた定規を用意し机に向かった
「そうですわね」
クリソベリルは深く頷いた。これはクリソベリルもそうだったが星野アイはサンタクロースなんて存在を知ることもなかった
しかし、子供を通してその存在を体験してみてようやく見えてくるものがあったようで
「優しい嘘なら吐いても良いんだって認められてる気がして」
定規を器用に傾けてカクカクした字を作っていく
なるべく、母が書いたと悟られないように。夢を壊さないように。星野アイは工夫を凝らした
「わたしもそうなりたいなぁって思ったりするの」
ふ、と星野アイはクリスマスカードに吐息を吹きかけてから二つ折りにして音を止める
クリソベリルはそんな様子をただ黙って、しかし何となくその辺にあったコミックを手に取って読んでいた
「クーちゃんはさ……こうなりたいとかって思うことあるの?」
「ありませんわね」
きっぱりと答えていた
そっかあ、と星野アイは溢していて
「良いなぁ……わたしもそうなりたーい」
そんな呟きが聞こえるとコミックから目を離して丁度上目遣いのようになって
それ男の人にやったら一撃なのに、なんて思っていた
「もしかして、あーちゃんになりたいって答えを待っていたんですの?」
「いやいや、まさかぁ。そんなことないよー」
そんな答えを受けて。ぱたん、とコミックを閉じて蛍光灯辺りを見ていた
そうですわねぇ、なんて考え込んでいて
「わたくしはミヤコさんと壱護さんと出会い。あーちゃんと、アクアくんとルビーちゃんと関わることができてとても充実していますから」
「そっか」
ふわり、と笑みを溢しているところに。気が付きましたか、なんて溢してクリソベリルは首を傾げていた
星野アイも真似するように首を傾げてしまっていて
「あーちゃん。わたくしは救われていますの。今も、昔も」
「それはちょっと知ってたかも」
くす、と星野アイは吹き出した
貴女には敵いませんわね、だなんてクリソベリルは呟いていて
「……クーちゃんはさ、自分に自信がありすぎるんだよ。だからそんなにカッコ良いこと簡単に言えちゃうんだ」
「そこはお互い様ですわねぇ」
あはは、と二人は笑いあった
仕切りに笑って。あーあ、と二人して笑い疲れていた
「はい、クーちゃん。メリークリスマス」
星野アイは両手でクリスマスカードをもって促した
そんなつもりじゃなかったのですけれど、と苦笑いを浮かべつつこれを両手で掴んで受け取った
「これからもクーちゃんのこと、たくさん教えてね」
困った顔を浮かべながら頷きつつ赤と緑でできた鮮やかなクリスマスカードをゆっくりと開いた
自らで選んで買ってきたものだというのに、それが宝物のように両手で包みこんでいた
「ねぇ、あーちゃん。サンタさんから直接手紙をもらっちゃうなんて体験絶対ないなんて思いませんか?」
ふふ、なんて星野アイは頬を染めながら笑っていて。擽ったそうだった
メリークリスマス クリソベリル。いっそシンプルなその内容に目を通して暫し目を細めてメロディーに耳を傾けていた
「ずっと大好きだよ。クーちゃん」
「──例えそれが嘘だとしてもわたくしは嬉しいですわ」
星野アイからその栗色の瞳に映る自分の姿がみえるようだった
確かにクリソベリルのそれほどは愛してはいないのかもしれない。でも、大好きなのは確かだった
「そういえば、アクアくんとルビーちゃんのプレゼントもう考えてあるのですの?」
「うーんとりあえず諭吉いれちゃおって思って。後で買い物いくの」
口許に人差し指を添えて至極真面目そうな顔でそんなことを言っていた
これにはサンタも敵いませんわね、とクリソベリルは笑ってしまった