おしのこ!   作:すさ

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おもちのびーるですわ

 本日は星野アイが星野アイなこともあり、N○Kホールで大晦日を過ごしていて星野アイ含むB小町の五人はステージの裏で順番を待っていた

 

「てかやばー。ぜんっぜん盛れてないんだけどぉ」

 

 スマホを片手に嘆く彼女に星野アイは近付く

 全然かわいいのに、なんて心にもないこといっちゃいけないとだけ思った

 

「盛れてる……盛れてるよ。ちゃんと大丈夫だよー」

 

 メンバーの一人にエールを送った。順番にはまだほんの少し余裕がある

 斎藤社長が狙った出し物にも毎回頷いてくれていて汚れ役をかって出てくれていると星野アイは感謝していた

 

「あんたが主役なんだから頼むわよ」

 

 違うメンバーにばしり、と背を叩かれた

 ほんの少し痛いくらいのそれはしかし、信頼の裏返しでもあって。嬉しくもあった

 

「あぁ~緊張するよぉ。緊張しない? アイちゃん」

 

「してるよぉ、わたしだって。もぉドキドキなんだから。触ってみる?」

 

 いいよぉ、と両手を前にしてその娘は笑う

 ちょっと小心者のフリもうまくなってきていて。こなれてしまった

 

「あっマジにドキドキしてるじゃん。珍しいねーアイ」

 

 ぴと、と背中を触られて。その顔を見る

 髪を耳にかけて目を泳がせた。そうかな、なんて溢してみる

 アイなら大丈夫、とその娘ははにかんでいた

 

──B小町さんスタンバイお願いしまーす!

「はーい!」

 

 あっ、と星野アイは止まって手招きする

 しょうがないな、と四人の内誰かが笑みを溢してから円になっていた

 

「B小町ーっ!」

 

「ファイ、オーっ!」

 

 いっそシンプルすぎるそれが、薄氷の上にあるようなこの関係を物語っているようで

 星野アイほか四人はステージに急いだ

 

 

 

 ミヤコ、アクア、ルビー、クリソベリルと最前列に座りその催しを楽しんでいた

 すでに何名かのアーティストの出し物を終えていて。興奮した面持ちであった

 

「興奮しきりですわ」

 

「こんな間近で見ると迫力があるね」

 

 そうだな、とアクアはルビーに笑みを向けて頷いた

 眩しすぎてくらくらですわ、とクリソベリルは揺れていて

 

──次はB小町の皆さんで“アイドル”です。よろしくお願いします

 

『──全然アイドルの曲っぽくないけど。これ良いの?』

 

 星野アイはそんな風に溢して。問題ない、と斎藤社長に言われてしまった

 言われてしまえばそっかあ、としか言えなくて。メンバーがどういう顔をしてるかなんて見ることは出来なかった

 

「──天才的なアイドル様っ!」

 

 星野アイはセンターでびしりと真っ直ぐ指先を伸ばした

 曲調こそポップだがそれは補食行為だった。弱きを食する強者の行為だった

 

「──誰かを好きになることなんて私分からなくてさ。嘘か本当か知り得ない。そんな言葉にまた一人堕ちる、また好きにさせる」

 

 それは星野アイのソロ語りだった。ここまでは予定通りだった

 四人は憂いのある瞳でその時をただ待った。それが来るのをわかっていた

 クリソベリルはそんな様子を神妙に見つめていて。ただ腕を組んだ

 

「Ah その笑顔で愛してるで誰も彼も虜にしていくその瞳がその言葉が。嘘でもそれは完全なアイ!」

 

 曲調が変わる。えっ、と一度暗くなってしまったステージをみた

 スポットライトが星野アイではなく、四人を狙っていた

 

「──はいはい あの子は特別です。我々はハナからおまけです。お星様の引き立て役Bです。全てがあの子のお陰なわけない」

 

 えっなに、と星野アイは溢した。マイクは切られていた

 それは呪詛だった。死にいく者たちの最後の叫びだった

 

「──洒落臭い妬み嫉妬なんてないわけがない。これはネタじゃないからこそ許せない」

 

 星野アイは初めてステージで動揺していた。こんなもの、リハーサルになかった

 四人が何をしようとしてるのか、理解が及ばなかった

 そんな折、肩をぽんと触られた気がして。その人と目があった

 

「完璧じゃない、君じゃ許せない、自分を許せない──」

 

 その人は少し頷いてから星野アイを求めるように手を伸ばして歌っていた

 そうか、と思った。それは四人の願いなんだ、と飲み込むまで時間がかかった

 ごくり、と固唾を飲んでからマイクを持つ両手に力をいれた

 

「誰よりも強い君以外は認めない!」

 

 四人の叫びのような声だった

 そういう、ことなんだね。そう察してからぽろり、と一筋涙を流した

 みんなで有名になろうよ、なんて夢を語っていた日々をこんな時に限って思い出していた

 

「──誰もが信じ崇めてる、まさに最強で無敵のアイドルっ!」

 

 わたしそれならそれで食べちゃうよ。星野アイは笑っていた

 衆目を指差しながら、食べ散らかしながら笑っていた

 

「──唯一無二じゃなくちゃイヤイヤ! それこそ本物のアイっ!」

 

 歌い終わってから。星野アイは決壊したかのように涙を流していた

 どうして、どうしてそんなことしたの。そんな思いが溢れた。三人はそんな星野アイを覆い隠すようにして立って一人が抱き締めてくれた

 

「大晦日の大舞台。貴方にさらなる進化をさせるにはこれくらいする必要があった」

 

 アイちゃんは感激しちゃったんだねーなんて三人が適当に司会と話している内にその娘は耳元でそう話していて

 

「──私達も納得してやったことよ。胸を張りなさい、星野アイ」

 

 ありがとう、と溢して。ごめんね、と溢して

 星野アイは久しぶりにぐっちゃぐちゃになるまで泣いた

 拍手がいつまでもいつまでも鳴りやむことはなくて。それが恨めしい思いすら抱いていた

 

 

 

 ミヤコが運転する車の中で私服に着替えた星野アイはぼや、としていた

 わたしが食べちゃったんだ。そんな思いに今更かられていた

 

「──アイ。貴女が責任を感じることはないのよ」

 

 ミヤコのその言葉がいっそ臓腑に落ちていくようで重かった

 隣に座るルビーとアクアの顔もどこか浮かばなくて。笑顔を見せないととは思うのだけどそれは出来そうもなかった

 

「四人の献身がわかる素晴らしい演目でしたね」

 

 ぽつり、とクリソベリルは溢していた

 くっ、と星野アイは歯を食い縛った。悔しかった

 

「わたくしはあれほど美しいものを見たことがありませんでした」

 

「──クーちゃん。貴女といえ怒るよ」

 

 そうなのですね、とクリソベリルは頷いていて

 なんだかそんな態度が返って鼻についてしまった

 

「貴女に、わたしの気持ちが──!」

 

 星野アイの呪いは口を伝って出てきた

 

「はい。わたくしにはよくわかりせんわ」

 

 クリソベリルは危うく暴言になりかけたそれに上手く被せて溢していた

 えっ、と瞠目してしまっていて

 

「貴女はB小町のメンバーを愛していますわ。強く愛しています。ですからこれだけはわかるのです。貴女が誰かを踏みつけてのし上がることをどこかで嫌っていることが」

 

「そ、そんな……そんなこ、と」

 

 クリソベリルはその言葉をただ聞いていた

 そうか、と星野アイは察するところがあって

 

「──みんなで。みんなで、やっていきたかったな」

 

 星野アイはそう溢してから口元に片手をやって涙を堪えていた

 

「ごめん、ごめんね。アクア、ルビー」

 

「気にしないでママ」

 

 唇が震えていた。アクアは腕を組んでから黙って頷いてくれていた

 鼻を啜ってからふっ、と笑ってしまっていて

 

「これはわたくしが言えたことではないのかもわかりませんけれど、聞いて頂いても?」

 

「……うん。いいよ、クーちゃん」

 

 アクアとルビーのおかげで落ち着いていた。冷静に耳を傾けられる気がした

 クリソベリルはやや頷いてから口を開いた

 

「人は何かを犠牲にしないと何かを得ることは出来ませんの。あーちゃん」

 

「なにかを犠牲に──?」

 

 四人を犠牲に星野アイはまた輝く

 そのいっそ突き放したような言葉がなんだか深く突き刺さってしまって

 

「わたし、わたしはなにも犠牲にしたくない……クーちゃんだって犠牲にしたくないよ」

 

 ぼやけた視界を拭ってから負け惜しみみたいなことを溢してしまっていた

 クリソベリルはこれにも深く頷いていて

 

「……あなたは本当に欲張りですのね、あーちゃん」

 

「わたし、全部欲しいから」

 

 いっそきっぱりとした物言いだった

 迷いを振りきったようなそんな言葉だった

 

「では、わたくしはそんなあなたを最前列で見てますわね」

 

「うん。ありがとう……クーちゃん」

 

 穏やかにそう言われて仄かに心に火が灯った

 結局、この珍獣は檻からでたばっかりなのに欲しい言葉を作るようなそんな針の穴を通すこともするのだ

 本当に、興味が尽きなかった。どこまでも飽きることはなかった

 

「わたしならママに食べられるの本望だけどね」

 

「確かに」

 

 うんうん、と頷いてくれる娘と息子が愛おしくて堪らなかった

 ありがとう、と言ってからわたしは口を滑らせた

 

「愛してる」

 

 そんなことで言えてしまった。口に片手を添えてしまう

 出してしまってみれば簡単ですらあった。きっと動揺させられたからだ、なんて助手席を睨んで八つ当たりをした

 ルビーもアクアも呆然と星野アイを見るより他になくなっていて

 

「わたしも、ママのことを愛してる!」

 

 ルビーは瞳を輝かせてそう告げた

 きっとずっとずっと言いたかったことだったのかもしれない。愛おしくてたまらなかった

 

「言うまでもなく愛してるよ、母さん」

 

 アクアはやや頬を染めて笑いかけながらそう告げた

 きっとちょっと恥ずかしがっているんだよね。やっぱり愛おしくてたまらなかった

 

「そう、なんだ」

 

 涙を貯めながらながら笑っていた

 今すぐ抱き締めたい思いが溢れて止まらなかった。走行中なので家まで我慢しようとしてその道のりがとても長く思えた

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