おしのこ!   作:すさ

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ホワイトデーですわ

 本日は3月14日、つまりホワイトデーである

 小学校からそわそわしながら兄と帰っている妹がいた

 

「お、お兄ちゃんはさ。チョコレート貰った人に返したりするの?」

 

「それを……聞いてくれるのか。ルビー」

 

 アクアは目をゆっくりと開いてどこか遠い目をした

 意外な反応にルビーは口を結んでしまう

 

「前に爆発チョコレート貰ったって言ったよな?」

 

「うん……それがどうかしたの?」

 

 あれさ、とアクアは前置いて

 

「誰からの贈り物だったのかわからなかったんだよな……」

 

「えっ、なにそれホラーじゃん。コワっ」

 

 だよな、とアクアは力ない笑いを浮かべつつ頷く

 変な人に好かれるのかな、なんて妹は溢していて

 

「一応探す努力した方が良いのかな……?」

 

「気になるんなら……?」

 

 気にはならないな、と空を見上げていた

 それはそうでしょうね、とルビーは頷いていて。深刻そうな顔を浮かべていた

 

「……その、どうかと思うよ?」

 

「うん、わかった。俺懲りたよ。流石に」

 

 はは、とルビーは苦笑いを浮かべる

 あーあ、とアクアは溢していて

 

「顔面良いと得って言うけどこういうこと何度もあると流石に自信なくなってくる」

 

「……前もそんなことあったの?」

 

「……なくはなかったかな程度。というか医者だったんだよ。正直いうと」

 

 へぇ、とルビーは頷いていて

 お医者さん、とだけ呟いていた

 

「職業柄賄賂じゃないけどお菓子貰うことはあってさ。まぁそこは年寄りばっかり相手してたから問題なかったんだけど……」

 

 ぴたり、とルビーの脚が止まった

 どうしたんだよ、なんてほんの少し先を行ってしまった兄に振り向かれていた

 その姿。眼鏡をかけて白衣に手を突っ込んだ男性の姿と重なっていて

 

「……ど、どんなお医者さんだったの? 都会で手術とか沢山してたの?」

 

「宮崎だよ宮崎。悪かったな、田舎医者で」

 

 宮崎。それを聞いて瞳が震えた

 苦笑いを浮かべるそんな姿でさえ重なって見えていった

 

「──せんせ?」

 

「あぁ? どうしたんだよ、ルビー」

 

 腕を組んでいるその様がやはり似通っていた

 ああ、とルビーは鼻と口を覆うように手を合わせて瞼を閉じた

 

「な、泣いてるのか……? ごめんな、恐かったよな?」

 

「ちが、違うの。これは……その。なんでもない!」

 

 そうか? なんて首を捻るそんな姿も見えてしまえばそうとしか見えなかった

 

「わっ、わたしが! わたしが、守ってあげるから!」

 

「……。それは心強いな」

 

 ハンカチを探そうとスカートに手を突っ込むとほら、とハンカチが目の前に存在していた

 使わないのか、なんて言われてしまって。ありがたく使うことにした

 

「……なんで、今まで気が付かなかったんだろ」

 

 ぽつり、と溢して涙を拭う。わかってしまえばもう止まらなかった

 兄の言動、行動。思い出を整理していくとカッチリと雨宮吾朗とはまることしか確認がとれなかった。それはあっさりとした作業だった

 

「おまえさっきから変だぞ。本当に大丈夫か?」

 

「も、もう! 全然平気だって言ってるでしょお!?」

 

 歩みを開始して。ぐしゃぐしゃになったハンカチをスカートに入れようとしていた

 

「返せ」

 

 手が目の前に来たので目を丸くしてしまう

 これはお兄ちゃんの手だ。確認するように呟いてから頷いていてハンカチを置いた

 短く息を吐いてポケットに入れる。アクアは目線を上にしていた

 

「久しぶりに手繋いで帰ろうかルビー」

 

「……うん」

 

 その人は姿形が変わってもやはりそこにいる気がして。ルビーは強くその手を握っていた

 全く仕方がないな、と呟き笑うその時だけはやはり兄の顔だった

 

「ただいま」

「ただいまっ!」

 

 元気だなーと兄は溢していて。えへへ、とルビーは笑っていた

 靴を脱いで直ぐに手を洗う

 

「ち、ちか……!」

 

 肩を寄せ合って手を洗っているとアクアの顔が近かった

 それだけで頬が赤くなってしまう

 

「ふふふ、そんなにチョコが待ち遠しいか? ルビー」

 

 むぅ、と剥れていた

 ドンカンせんせ、と呟いてすらいた

 

「……そろそろだろ。もうちょっと待ってろよな」

 

 アクアはルビーから離れて玄関に走る

 胸のところで小さく手を握りふとその兄の背中をじっくりと見てしまっていた

 やがて玄関扉がこんこん、と鳴ってから鍵が開いて

 

「あら。アクアくん……お待たせしてしまったかしら?」

 

 クリソベリルが開ききるとアクアが腕を組んで待っていて

 アクアはただ一度首を横に振っていた

 

「はい、アクアくん。お届け物ですわ」

 

 紙袋がアクアに手渡される。中身を確認してからナイス、とだけいった

 兄の後ろに存在してるルビーに目を移して一度瞬いていた

 玄関を閉めてしっかり施錠しドアチェーンをつけておく。よし、とクリソベリルは指差してからローヒールを脱いで部屋に入った

 

 

 

 赤のマグカップと青マグカップとパンダマグカップが並ぶ机に小さなハート型のチョコレートが皿に開けられていた

 それぞれのマグカップにはお茶が入れられており湯気が立ち上っている

 

「ミヤコさんのチョコレート滅茶苦茶美味しかったからさそれを教わりながら作ってたんだよ。な、クリソベリル」

 

 そういうアクアの顔をぽや、とルビーは見る

 ファイナル仲良しの波動がしますわ、とやや頷いてからパンダマグカップにてお茶を啜っていた

 

「アクアくんは器用ですから一度覚えると綺麗にハート型になったりするので」

 

「……お兄ちゃん、そんなにわたしがすき?」

 

 ぶふぉ、とアクアとクリソベリルは含んでいたお茶を噴き出して。二人してむせていた

 

「ご、ごめん。大丈夫……?」

 

「あ、ああ」

 

 ルビーの小さな手が兄の背中を擦る。妙なルビーの甲斐甲斐しさに嬉しいやら複雑やらのアクアだったがなんとか苦笑いだけは浮かべていて

 クリソベリルはいつも付いてあるはずの星野アイの番組がついてないことを含め、なにかを察したように頷いていて

 

「わ、わたくし。買い物行って来ましょうか?」

 

「ま、待て。クリソベリル。わかった。わかったから待て」

 

 アクアは口を拭いながらむくり、と起き上がっていて

 クリソベリルは所在なさげにただ座っていた

 

「お兄ちゃん……」

 

「ど、どうしたんだ。一体?」

 

 四つん這いになって近寄られた。とろん、とした目が向けられる

 そうだ、とクリソベリルは立ち上がり流しへ消えていき。おいおい、とその背を見ながら呟いていて

 

「……ぎゅってして?」

 

「わかったわかった。いくらでもやるよ」

 

 小さな体に手を回して。すりすり、としてきた

 いよいよもっていけない。アクアはしかし抱き締めることはやめなかった

 

「本当にどうしたんだ。一体?」

 

「……。しばらくこのままでいさせて?」

 

 どうして兄妹なんだろ、なんて呟きすら聞こえてきて

 アクアの衣服はやや濡れていた

 

「……泣くほどうまかったか?」

 

 囁くような慰めるような声にほんの少し頷いていて

 そうか、とアクアは笑みを作っていた

 

「そんなんだからモテちゃうんだよ」

 

「……今後は気を付けるよ。本当に」

 

 ふふ、とルビーは兄の胸の内で笑っていて

 せんせ、すき。とだけ密かに呟いていた

 

「……おまえは本当にかわいいヤツだな。最高かよ、この家族」

 

 それだけいってアクアは髪をゆっくりと撫でていた

 擽ったそうに身を捩っていて。兄は目を細めていた

 

「お兄ちゃんがたくさんたくさん命を救ったからかもしれないよ?」

 

「おまえ気付いてるか。ずっと褒めっぱなしだぞ? 後で悶えても知らないからな」

 

 むむ、とルビーはやや剥れていて

 せんせのいじわる、と蚊のなく声で呟いてすらいた

 

「お兄ちゃんはルビーのことも護るからな」

 

「……大好き。お兄ちゃん」

 

 はいはい、と言いながらアクアは頬を染めていて。その小さな背中を優しく叩いていた

 

「あーちゃんですわね」

 

 掃除しているクリソベリルからそんなことを言われて。兄妹同士ほんの少し見つめ合い、笑みを向けあった

 

「いこっか。お兄ちゃん」

 

「ああ。こんなの母さんが見たらたまげるぞ」

 

 そうかな、なんて言って。がちゃ、かたんと玄関が開かれる

 雑巾を絞りぶちこみ終わってクリソベリルは手を洗っている

 

「ただいまー!」

 

「おかえり母さん!」

「おかえりママ!」

 

 星野アイが帰ってきて。玄関に駆け寄る

 ただいま、とアクアとルビーを見下ろしてから今一度言って。荷物を降ろしてから包み込むように抱き締めた

 

 二人の間でぶつかりあった小指が絡まる

 ただでさえ推しの抱擁で余裕のなかった兄は口をぽかんと開いてルビーを見ていて

 当の本人はアクアに小悪魔的な笑みを向けつつ口元に人指し指を添えていた

 

 なおこの日から兄妹共にお風呂に入り難くなったのは言うまでもない

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