例の如く満開からやや過ぎて散ってしまった桜の下でミヤコ、クリソベリル、完全防備星野アイ、アクア、ルビーはレジャーシート二枚敷いた上で談笑し合っていた
「社長来れなくて残念だねー」
「本当にそれな」
ルビーはそんな風に溢す兄の方をまじまじと見てしまっていて。どうしたんだ、笑みを向けられて言われてしまう
そんな他愛のない行為でさえびくりと飛び上がって結局ふるふると首を左右に振ってしまった
病床で移り変わる景色の移り変わる様を見てくれた人がいた
そのやり取りは決して長いものではなかったし、どうなったかなんてわからなかったけど。確信があった
──この人は、雨宮吾朗だ
初恋の人だ。結婚考えてまでいた人だ
確信を得た時は取り乱しに取り乱してしまった。しかし、こうして兄と妹という現実に戻されるとしょんぼりして食事もうまく喉を通らなくなっていく
星野アイの作ってくれたものは美味しいので食べる。しかし、目の前にあるものはたこ焼きだ。銀なんとかってところの有名なヤツらしいけれど、箸を止めてしまっていた
「たこ焼き、熱っちぃですわ!」
ミヤコがクリソベリルを介抱していた
高速で食べたらそうなるよ、と笑ってしまって
「あっ、ルビー。やっと笑った」
「……え?」
母に顔を向けると首を捻り合った
たまにそういうことはある。そして次の瞬間には穏やかに目が細まっていて
「なんか悩んでそうな顔してたよ?」
こくり、として。そうなんだ、と目を伏せた
ルビーは未だに小さな手を見ていた。そもそもにおいて、星野アイの娘という時点で贅沢なのだ。なのに、兄が雨宮吾朗というだけでどうしてここまで露骨な態度を出してしまうのだろう、と。瞑目していた
「ねぇ。ママって、運命って信じる?」
「──運命」
星野アイはそれを呟くとクリソベリルを見ていた
いやそこまでなの、とルビーは苦笑いを浮かべるところがあった
「あったら、素敵だよね」
横目でそんな風にいわれた
クリソベリルはミヤコに桜を指さしながらあれは乗れますの、乗れませんのという話をしていた。なんの話だろう
「クーちゃんは木登り得意なんだよ?」
えぇ、とルビーは仰け反って。いよいよもってヒトかわからないその人を真っ直ぐと見ていた
そうして見すぎたのか目があって。にこやかな笑みを向けられて細かく手を振られる。かわいい。所作が上品だ。それに習うように細かく振り返した
「キミと会ったのは運命としか言いようがない」
「またまたぁ」
星野アイがアクアを軽くスルーするそんなやり取りでまた頭を垂れてしまう。どうやったらそういう風にできるのかずっと模索しているところがあった
そんな時に、もてもてだねーなんて母に言われて。はたとその目をみてしまった
「ルビーはお兄ちゃん大好きだもんね」
「……うん」
こくり、と赤面しながらしてしまって。今度は兄が反応に困る番だった
いや好かれるのは嬉しいんだけどさ、とは溢していて。後ろに手を回しつつ笑みを浮かべていた
アクアの方はなんとなく扱いの整理が出来ているようであった
「──でも、そういうのは多分わたしじゃなくて。クーちゃんのがわかるかもね?」
えっ、と。今一度クリソベリルの方を向いてしまう
あの辺に綺麗なちょうちょですの、と指差し、ミヤコが双眼鏡片手に頷いている
なにやってるんだろう。ぽつり、とやはり溢してしまってほんの少し笑ってしまう。またこちらに気が付いたようで手を細かく振っていた。かわいい。もちろん振り返した
「クーちゃん。ルビーがなんか聞きたいことあるって!」
こて、と首を傾げてから手招きしていた
不安だった。とてもそんなようには見えなかった
でもミヤコさんが聞いてくれるなら、とルビーは立ち上がる
「ていっ!」
星野アイのレジャーシートからミヤコのレジャーシートに飛び移る
ミヤコとクリソベリルの前にちょこんと座った
「たこ焼き食べる?」
「う、うん」
ミヤコからすすめられたたこ焼きを一口する
はふはふ、としながら飲み込んだ
「美味しい? ルビーちゃん」
こくり、とミヤコに頷いてからクリソベリルに目を向けた。ドレスを両手で脚に滑り込ませるように正座していた
あまり意識したことなかったけれど大きかった。170近くあるとの話は聞いたが、もしかしてそれ以上あるのかもとすら錯覚してしまう存在感だった
それだけを見れば星野アイとも引けを取っていなかった
「ふー。ふー。はい。アクア、あーん」
母と兄がたこ焼き食べさせあってるそんな様子にほんの少し目を沈ませていて
瞑目してすらいた
クリソベリルは目尻を下げて小さく頷いてからほんの少し立ち上がり、座り直す
目を開けていい、と言わんばかりに肩を触ってきた
「人を愛するということは難しいですわね、ルビーちゃん」
そんな声を掛けられてあまりにも意外で目を開いてしまった
そこには慈愛でその栗色の瞳を細めた人がいた。彼女の姿で二人の姿は見えなくなっていた
「“本気”なんですの?」
「──多分」
クリソベリルは背後確認をした。はい、後は自分で食べてね。と星野アイは示し合わせたようにアクアにすすめる
それはそれで嬉しいので兄は滅茶苦茶頷いていた
「わたくしには──まだ間に合う、とそう思うのです」
「……?」
流れる風に金髪が揺れる。ただ笑みを浮かべていた
要領を得ない言葉にいっそルビーは首を捻る
「関係を壊したくないというその思い。わたくしには、それは美しいことだと思いますわ」
言い当てられてぴくり、としてしまう
だから、と再三言った
「あなたはまだ間に合います。それは……普通のことですわ。誰しも誰かを愛したいと願うものなのですから」
「──うん」
「どうしても。どうしても胸が苦しくなったら。もうその時は告白してしまいなさいな」
したんだけどね、と呟いて。大胆ですわねと感服された。まあ、とミヤコも驚いている
そうしているとなんだかもやもやしていたものが解れていくようだった
「しょうがありませんわ、相手が相手ですから。粘り強く行きなさいな」
「……ドンカンで困っちゃう」
あはは、と二人は笑みを向けあっていて
あれは苦労しますわね、と溢していた
「……わたしのこのキモチも。いつか消えていっちゃうの?」
「消えはしませんわ。永遠に残ります。でも、折り合いは付けられると思いますわね」
首を左右に振ってからそう溢していて
そうなんだ、と頷いた。なにかを察するところがあった
「……クーちゃんもそんなことあったの?」
「……わたくしのものはもっとずっと醜いなにかでしたが。やっつけました」
滅茶苦茶気になる。ルビーはぽつり、と溢していた
そんな大したことではありませんわよ、とそれを拾ったようで彼女にしては苦い笑みを浮かべていた
「アクアはさールビーを誑かしちゃったんだねー。まぁカッコいいからしょうがないよね」
「……本当に身に覚えがないんだけどな」
そうなの、なんてそんな母の声が聞こえていた
ルビーは今一度その小さな手を見ていた
「でもわたしは、ママも好きだから。ママを悲しませることはしたくなくて……」
「……つらいですわね。ルビーちゃん」
こくり、としたらぽろり、と涙が流れていた
クリソベリルはふぅ、と短く息を吐いて。口を開いた
「何度も言うようですが、その気持ちは……素晴らしいものですわ。胸を張りなさいな」
笑みを向けられた
今にも消えそうな透明感がそこにはあった。あなたはここへは来てはいけない、と言われているようでもあった
それが、堪らなく愛しくて。そんな時だからこそルビーはわかってしまう部分があった
「クーちゃん……!」
「あらあら」
なにがあったのかはわからないけれど。抱き締めたくなってしまった
親子ですわね、とクリソベリルの手は優しく頭と背に回っていて。そうやってしばらく静かに泣いていたら、また笑顔であの残念な兄に突っ込める気がした