「お遊園地ですわぁーっ!」
「そうだねクーちゃん」
星野アイが貴族令嬢服で万歳するクリソベリルに笑みを向けた
小学校高学年になったアクア、ルビーに遊園地に行こう、と星野アイは持ちかけてこれが通った形となっていた
「あっちにえぐいジェットコースターあるな」
「あっ、お兄ちゃんこわいんだぁ」
つんつん、と兄の胸の辺りを指で押す妹に別にそんなんじゃないけど、と頭を掻いてから嘆息する
「観覧車とか乗りたいですわね!」
指差しながら興奮してる三十路手前がいた
高いところ大好きだもんね、と星野アイは頷きながら思った
「取り敢えずあのえぐめのジェットコースター乗ろうよ!」
わーい、とルビーが走って向かっていく
なお、案の定長蛇の列であった
「──遊園地ってさ。アトラクション乗る時間より待ってる時間のが長いよね」
「ルビー。夢がないぞ」
長蛇の列を眺め、ルビーは死んだ目をしていた
同じく死んだ目のアクアはそれを嗜める
「──こんなこともあろうかと、優先権なるもの予約してたよー」
星野アイがスマホ片手に笑みを作る
帽子、伊達眼鏡、マスクに隠れた顔ではあるがその得意顔は窺えて
「はい、神」
「──知ってたけど神!」
「流石ですわ……!」
アクア、ルビー、クリソベリルは三者三様の賛辞を溢した
「すぐ乗れたねー。優先権様々だ」
ウキウキとする母を挟むように双子はアトラクションに乗っていてクリソベリルはルビーの隣に座っていた
起動音がして四人の脚が地上から離れていく
「あっこれマズイ」
「あっこれバカなヤツだ」
ルビーとアクアは持ち手をしっかり握る。双子の懸念をよそに後ろ向きのまま無情にもアトラクションはスタートした
「に゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛っ!」
途中で回転して。ルビーの顔面が崩壊した
「あああああっ!」
アクアが絶叫していた
「あっはっはっは!」
「おーッホッホッホッ!」
星野アイとクリソベリルは二人して笑っていた
えぐめのコースを通ったりしてぎゃー、やらわー、やら人がするとは思えぬ声を出している二人とは違い常に笑顔でそのアトラクションを終えたのだった
「あっ。もう一回いく?」
「あれを、あれをもう一回は……っ!」
地上に降り立ってから母からそんなお誘いがあったのだが
アクアは涙ながらにこれを蹴って。そっかあ、と残念そうな顔をされた
なおルビーはしばらく喋れないほど気をやり、兄に引っ付いて離れなかった
「わたくしもあれもう一回は勘弁ですわね。単純に酔いますわ」
アトラクションを見上げ珍しく死んだ目をしているクリソベリルがいた
あまりにぐるぐるされるので酔ったらしい
「……そう? じゃやめるー。違うジェットコースター乗ろっか」
「ねぇ、ジェットコースターから一旦離れよう!?」
「同感」
星野アイはルビーとアクアの意見を快く汲み取り、一行はコーヒーカップに行った
結構な人気なので、それはそれで待った
「なんだか落ち着くねー」
「ジェットコースターばかりかと思ったけどこういうのもあるんだな」
「スケートとかも出来るみたいだよ?」
例の如く母を挟んでアクアとルビーは座っていた
へぇ、とアクアは溢していて
「わたくし、ぐるぐるしたくなってきましたわ!」
丁度星野アイの対面に座る形となったクリソベリルだったが丸いハンドルを握ってしまっていて
いいよー、と星野アイがこれを軽く流してしまった
「嫌な予感してきた──ッ!」
「セェイ! セイッ!」
アクアの声を置き去りにしてコーヒーカップは高速回転した
あはは、と笑う母の両隣で虚無表情の双子がいた
「はっ、いけません。大丈夫ですの!? アクアくん、ルビーちゃん!?」
それはクリソベリルにしては迅速な対応だった
双子の目は死んだままだが、なんとか笑みを向けられていて
「ああ、お兄ちゃん。生まれ変わってもいっしょだから……」
「俺を置いていくな……ゆるさないぞ」
双子は虚空を眺めながら目を回して軽くトリップしていた
星が見えていそうだった
「ああ。アクア、ルビー……ごめんね」
これを重く見た母が双子の肩に腕を通し体に寄せて撫でていた
いいんだよ母さん、楽しんでねママと二人は小声で力なく溢していた
「……本当に申し訳ありません」
「クーちゃんも悪くないよ……」
しゅん、としたクリソベリルがルビーに宥められる
誰も悪くない、とアクアもやや頬を染めながら頷いていた
最早観覧車行くかと一行は観覧車に並びこれに乗る
クリソベリルと星野アイが対面に座り、それぞれの隣にアクアとルビーが座った
「たかーい! きれーっ!」
「全長五十メートルだって。遠くが見えるわけだ」
双子が初めて芳しい反応を見せていて。良かった、と星野アイは胸を撫で下ろしていた
クリソベリルも覗き窓から見える景色に目を煌めかせていて見とれているようであった
「見てみろルビー。ジェットコースターのコース見れるぞ」
「園内も一望できるんだね。次はスケートやってみたいかも!」
いいかもな、と施設を指差しながら二人は笑い合っていて。いいねー、とそこに母が挟まり覗き窓に映る二人を見て笑みを作る
やはり仲良しですわ、とクリソベリルは腕を組んで頷いた
観覧車での景色を楽しんだ一行は次にアイススケート場に脚を運んでいた
スケート靴を借りて氷の上を滑れるようになっていて所々座るところも存在していた
「ひゃあ! お、お兄ちゃん……はなさないでね?」
「わかったわかった」
いい加減妹の扱いがこなれてきたアクアがその両手を持って氷の上を共に滑る
脚がぷるぷるしているがルビーの顔はやや火照っていて吐息も溢していた
「せ──お兄ちゃんすき! 結婚して!」
「色々障害あるしもう少し大きくなってから考えようなー」
えー、と言われ。えーじゃない、とアクアは叱っていて。そんなやり取りもなんだかこなれてしまっていた
仲良いね、と星野アイはクリソベリルと共に二人を見て笑い合っていて
「あーちゃんは滑らないで良いのですの?」
「うん、わたしは極めちゃってるからねー。クーちゃんもビックリすると思うよ?」
へぇ、とクリソベリルは目を丸くしていて
実は夜目も利くんだよね、と星野アイは思っていた
「そういえば──卒業ライブ、お見事でした」
「うん。まぁみんなさー歳取っていくからしょうがないけど見送る側に立つとね」
B小町の発足メンバーは星野アイに食われたあの日以降も活動を続け、結局20代後半になる星野アイを見守りながら卒業していった
「でも、なんでだろうね。一人だけ残ってくれてるのは嬉しいな」
「きっとあーちゃんが心配で心配でしょうがないのでしょうね」
ありがたいなぁ、と星野アイは微笑み未だに脚を震わせながら兄と滑るルビーを見つめていた
「新規メンバーはみんなフレッシュでさぁ。二人だけおばさん混じっちゃったぁみたいなー」
「──そんなことは決してありませんよ?」
クリソベリルは目を鋭くさせていた
あはは、と星野アイはこれには参ったようで
「やだなー笑い話だよ、クーちゃん。本気にしないで?」
星野アイはなおも真っ直ぐと双子を見据えていて
しかし、その目からは覚悟が浮かんでいた
「わたしは30越えてもアイドルしたい。そうする必要がある。理由が、ある」
クリソベリルはただ黙ってそれを聞いていた
口を結びなるべく反応らしい反応をしないように配慮してるようにも見えた
「──斎藤社長にもそんなワガママ通してみたの。なんていわれたと思う? クーちゃん」
「二つ返事でオーケー」
二人の声が重なっていて。あはは、と笑い合った
だからね、と星野アイは前置いて
「30越えておばさんになったわたしでも推してね。クーちゃん」
わざわざクリソベリルに手を重ねてきてそう告げていた
「あなたのことですからそれはそれで人気出ますわよ。わたくしはそう思います」
がんばるよ、とだけ星野アイは溢していた
話が終わる頃にはルビーが兄の手無しで滑れるようになっていて。アクアから拍手されていた