本日は壱護ミヤコの全面協力のもと事務所のレッスン室をお借りして大がかりな会をしていた
星野アイも忙しい合間を縫って、おっけー☆ と軽いノリで参加してきたのは記憶に新しい
「──本日は特別な日ですわ」
白銀の手袋はそのままなもののTシャツジャージ姿のクリソベリルがいた
正座するアクアとルビー、星野アイの前に立ち、腕を組んで仁王立ちしていて
「アクアくん。前へ」
「──お、おう」
アクアが立ち上がり、真っ直ぐとクリソベリルを見た
す、と目が開かれる。身長差は感じられない
「アクアくんにこの、クリソベリルの拳を伝承する日が来ました」
「そうなのか……?」
静寂があった
クリソベリルが目配せするとこくり、と星野アイは頷いていて
「ルビー。端の方にいってようね」
母と共に奥の方に娘が連れていかれる
ルビーは後ろ髪引かれるように背後確認していた
「──ルールは簡単です」
「競技なんだな……?」
ある意味競技ですわ。と頷いていた
アポ無しなのでグダグダだった
「わたくしは今から全力であーちゃんとルビーちゃんにタッチしに向かいます。アクアくんは止めてください」
「全力で……? 俺死にたくないぞ?」
星野アイがアクアをその気にさせよう、と娘に耳打ちをしていた
ルビーはこれにやや頷いていて
「きゃー。怪獣クーちゃんだ。たすけてー」
「いやー。いやー。お兄ちゃんたすけてー」
棒読み気味に星野アイとルビーが抱き合って声を合わせていた
ふむ、とアクアは腕を組んで頷いていて
「──ハンデをくれ」
「わたくし、アクアくんには両手は使いません」
よしそれでいこう、と澄まし顔でアクアは頷いた
言葉通りクリソベリルは両手を後ろにやる
「更にハンデです。わたくし、十秒は動きません」
「どんなことをしても?」
「……。はい」
なるほど有難い。とアクアは両手を拳にして固めた
ほっ、とクリソベリルは息を吐いてから笑みを浮かべていて
「わたくしを一度でも倒したらアクアくんの勝ちとしますわ。では始め」
すっ、とクリソベリルは目を瞑った
アクアが軽く跳んでから動く
「いけいけーアクアーっ!」
「お兄ちゃん頑張ってー!」
母と娘の声援を背に受けて取り敢えず突進した
びくともしねぇ、とアクアは苦笑いを浮かべる
「十……九……」
「いや遅いなクリソベリル。そんな嘗め腐っていいのか?」
アクアは歯を食い縛り体重を使ってクリソベリルの体を押していた
僅かにだが後ろに退きつつある
「八……七……」
「……くっ。巨木を相手してるか俺は」
アクアは一旦クリソベリルから離れて考える
要は引き倒してしまえば良いのだ、と思い出したらしい
「ねぇ、ママ。あれ何してるの?」
「わたしにもわからないよ。ルビー」
星野アイは取っ組み合う二人の様子を微笑ましく見守っていた
あはは、とルビーはやや苦笑いを浮かべていて
「六、五、四、三、二、一──」
「数えるの飽きただろ、クリソベリルッ!」
アクアは勢いを着けてクリソベリルの片足にすがるような形で押した
あら、とバランスを崩して仰け反る上体に短い感嘆をする
「悪いが不戦勝──」
「ゼロ」
即座に脚を後ろにして踏ん張りその瞳が開かれた
ええっ、とアクアは瞠目していて
「衣服を掴まなければ直ぐに後ろまでいってしまいますわよ?」
言いながら反復横跳びの要領で星野アイとルビーに近付いていく
もうあんな遠くに。とアクアは口を開いていて
「き、きゃー。怪獣クーちゃんに食べられるー」
「い、いやー。お兄ちゃんたすけてー」
母は終始笑みを溢して娘を抱き締めていた
推しにあまりに頻繁に抱き締められてルビーは頬を染めていて
「嘗めるなクリソベリル……ッ!」
アクアは脚を踏み切った
クリソベリルは何故か反復横跳びで近寄っている。真っ直ぐに追いかければ追い付けそうだった
「うおおおお、おぉっ!」
ここぞ、というところで飛び掛かった
クリソベリルの目が光り、アクアの方に振り向いてから地面とアクアの体の間に自分の体がくるように滑り込ませた
「──土壇場で甘さが出たな。これで触れまい」
アクアは星野アイとルビーの前で両手と両足を広げた
「本当にそう思いますの?」
「あっ。マズ──!」
アクアはフェイントに引っ掛かり、クリソベリルの進行を許してしまった
最後に母の手がクリソベリルの脚に触れた
「はーいタッチ。クーちゃんの勝ちー」
あはは、と星野アイは笑っていた
カオスだな、とアクアは思わず溢してしまっていて
「ふっ。まだまだですわね──アクアくん」
「──なぜだろう。そこまで悔しくない」
クリソベリルは腕を組んでうんうん、としていて
アクアは終始微妙な表情を浮かべていた
「じゃ、次わたしねー」
すくっと母がたって、えっ。とアクアは溢した
「──このわたくしを越えてみなさいな、あーちゃん」
「サイクロンテンポ見せちゃうからね」
やや噛み合いに欠けるやり取りの中で、ハンデ無しの二人の対決が始まろうとしていた
クリソベリルが大きく構えてからぎちぎちと拳を握った。対してす、と手のひらを前にするような半身の構えを取った
「これ俺達いる?」
「……ほら。雰囲気とかあるじゃん?」
なるほど、とアクアは頷いていて、ママ頑張ってー!とルビーは声援を送る
双子は肩を並べて二人を見守っていた
「ルールを確認しますわね。わたくしが全力でアクアくんとルビーちゃんにタッチしますが。それまでにわたくしが倒れたら勝ちですわ」
「なんやかんやあるけど押し倒せばいいんだよね! わかったよー。やろやろ!」
にやり、と星野アイはしていた
ふ、と短く息を吐いていて。クリソベリルは踏み切った
「いやー。ママたすけてー」
「おいくっつくなバカ。兄貴とはいえ健全な男子だぞ俺はっ!」
ルビーがここぞとばかりに兄に抱きつく
やはり扱いに困っている部分もあるのかアクアの頬が染まっていた
「逃がさないよ。クーちゃん」
星野アイは直ぐにクリソベリルに追い付いた
右に傾けても左に傾けても星野アイはそれに合わせて体を向けていて。ふふ、とこれにはお互いに笑ってしまう
「……仲良し見せつけられてるなぁ」
「こっちも仲良しで対抗だね、お兄ちゃん!」
ルビーはアクアを強く抱き締めた
おまえさては今までの当て付けも入ってるだろ、と兄は目を死なせていた
「先行はもらうよ、クーちゃん。30歳パンチ!」
ぶん、と放たれた拳はクリソベリルの片手に阻まれる
「30歳……キィーーック!」
淀みなく綺麗な回し蹴りを放たれて。これは腕で受けた
くっ、とクリソベリルは歯噛みしながら目を輝かせる
「むっ。それなら、30歳……突進ッ!」
「ぐっ! 30歳はわたくしにも刺さりますわ!」
でしょー、とクリソベリルの腹に頭を埋めながら笑みを浮かべていて
星野アイの体と縺れるように倒れた
「さ、流石あーちゃん。精神的優位を狙った見事な手前でございました──ぐふっ」
「えー。わたしの勝ちぃ……?」
白目を剥いて死んだふりをしていた。しっかりとその背は地面に着いていた
星野アイはそんな様子のクリソベリルに両手をわきわきさせながらいたずらな笑みを見せていて
「確かクーちゃんの弱いところは……ここっ!」
やめてくださいまし、と腹を擽られて笑い転げていた
やめないよー、とこれを拒否してなおも擽っていて
「……。ルビーのそれかわいかったかも。俺もっとがんばれそうだ」
「うん。わたしもそんな気がしてきた」
アクアは頷いていて。双子は肩を寄せ合って三角座りしていた
妹は久しぶりに真顔になっていた
「……まぁ、誕生日くらいはハメはずしても良いかもな」
「そうだね」
妹は兄に笑みを向けてからそろそろ笑い疲れて声が掠れてきたクリソベリルとえいえい、とやってる母を穏やかな表情で見ていた