「ようこそ。陽東高校へ──!」
ベレー帽が特徴的なおかっぱの髪型とどこか勝ち気そうな双眼をもつ少女、有馬かながいた
廊下を歩いていると通行の邪魔するように両手を広げていてアクアにルビーは表情が死んだ
「お疲れー」
「ロリ先輩お疲れー」
双子は無視して仲良く腕を組んで帰ろうとしていた
「待ちなさいよ。ちょっとは待ちなさいよ!」
ずんずんと言い寄りながら有馬かながアクアの肩を掴んだ
「だって俺達ここの中学から普通に高校上がっただけだし。どんなもんかなって見に来ただけだし」
「そうだねーお兄ちゃん……あっ!」
がしり、と双子は肩を掴まれて
えい。と有馬かなは信じられない膂力でもって兄と妹の間にわって入った
「あーん。お兄ちゃーん!」
ほんの少し離れただけなのだが切なく両手を伸ばしていた
「妹が泣いてる。行かないと」
「それどうにかしなさいよこのシスコン!」
指を指して有馬かなは抗議していて。あーあー聞こえない、と兄は耳を塞いでいた
そんな二人を空虚な眼差しでルビーは見る
「──ママとクーちゃん以外に浮気はダメだよ? お兄ちゃん」
「ほら。妹が面倒臭くなる前にいかないと」
アクアは目が淀んでるルビーを指差していた
「あんたたちデキてるの!? ねぇ、聞きたいこと増えたんだけど!? とにかく待ちなさいよ!」
アクアは渋々といった様子で腕を組んで脚を止めた
ぷく、とルビーは剥れていて
「ほ、ほら。偶然会ったのもなにかの縁じゃない? 何年ぶりよ。アクア」
「──んー? 十年ぶりくらい?」
アクアが十数えてから諦める。な、なによ。ちゃんと覚えてるじゃない。と有馬かなは毛先をくるくるさせていた
そんな二人の様子に主に妹の目が死んだ
「──重曹なめる天才子役」
「十秒で泣ける天才子役! ──ねぇ、ゾワっときた。もしかして妹さん重症?」
口に片手を添えてアクアに近づく。俺に振るな、と兄は首を横に振った
ルビーは妙な雰囲気を纏い笑みを張り付けていた
「と、とにかく。ほら、どこか違うところで話しましょうよ?」
「あー。芸能人特有のってヤツ?」
「わ、弁えてるじゃないの……なんかムカつくけど」
ふむ、とルビーを横目にアクアは顎に手を添えた
すん、とした顔を妹は浮かべている。これを快諾と見ていた
「──これはクリソベリルを間入れないと血を見る気がする」
しかして窮地なのはそうなので高速で端末を操作して耳に当てた
「助けてくれ」
ただそれだけ伝えてから切った
「秒で来るって」
「誰が!?」
クリソベリル。というとえぇ? と有馬かなは首を捻って人指し指を口許に添えていて
「まさか──」
「お待たせしましたわぁっ!」
何故か屋上から来たようで階段を下がって貴族令嬢が登場した
待ってないよ、とアクアは溢して。いえーい、とルビーとハイタッチしていた
「で。あなたは──有馬かなさんですわね?」
「あ。あーーっ! やっぱり。ぴえヨンの弟子だ!」
有馬かなに指差され。うふふ、とクリソベリルは頬に白銀の手袋をしている片手をやっていて擽ったそうでもあった
「そういうあなたは十秒で泣ける天才子役さんですわね?」
「お?」
「星野アイとの共演、数知れず」
「おお?」
「その上、アクアくんもすごいと仰ってましたわ!」
「──ヤバ。めっちゃいい人じゃん」
有馬かなは目を輝かせていた
そうだな。そうでしょー。とアクアとルビーは得意気に頷いていて
「それほどでもないわよ。クリソ……?」
「クリソベリル」
「そうそう、それそれ!」
クリソベリルが言い直すとあっはっは、と有馬かなは体を反らし腰に手を当てて笑っていた
これにはルビーの顔が引き吊っていて
「潰していいよ。クーちゃん」
「わたくし、怒ってませんわよルビーちゃん」
「そういえば、なんであんたがここに?」
ああそれは、とクリソベリルが後ろを向いて屈んだ
有馬かなが信じられないといった顔で双子を見つめた
「さぁ!」
「さぁじゃないけど!」
背中に乗れ、ということだと悟り。有馬かなはやや頬を染めながらアクアを見た
いってこい、とアクアは親指を立てていてルビーは笑みを張り付けたまま深く頷いていた
「うぅ……わ、わかったわよ。乗れば良いんでしょ乗れば!」
よいしょ、とアクアを横目にややスカートを気にしつつクリソベリルの背中にしがみつく
「ではあとで合流致しましょうね!」
うおはやーっ! という有馬かなの声だけが残された
その後ろ姿が階段を下がっていき、廊下には静寂が戻った
「……行こっか。お兄ちゃん」
「ああ、側を離れるなよ。ルビー」
うん、と妹は兄と再び腕を組んで歩き出した
「ただいま帰りましたわーっ!」
「おかえり、クー……その人は?」
お、お邪魔します。と有馬かなはデスクで作業しているミヤコに挨拶していた
ミヤコは一度笑みを溢してからPCに向かった
「──苺プロダクション。立派なものねぇ」
何故かミヤコのところにしかデスクとオフィスチェアがないが景観もよく、机やソファーやキッチンも完備してるようで思わずきょろきょろと見回してしまう。喫茶店じみていた
「ほんの少しお待ちを」
クリソベリルは有馬かなを丁重に地上に立たせ言付けてから緑茶缶を持ってきた
事務所内にある自動販売機から買ってきたらしい
「ふぅん。気が利くじゃない……?」
「適当に座ってください。わたくし達の方が速かったようですから」
ええ、と有馬かなは頷いてからちょこんと窓際のソファーに座る
緑茶缶に口を付けてあちっ、とやや舌を出して悶えていた
「あなたの背中、あとで文句の一つや二つ言ってやろうって気が失せたくらいには乗り心地悪くなかったわ」
「これでも鍛えてますのよ?」
そうだったの、と有馬かなは半ば呆れたように溢してから吐息を缶に吹き掛けて両手で器用にもって傾けていた
「──そういえばく、く」
「クリソベリル」
有馬かなが言い淀んでいると丸い机を挟んでクリソベリルは座ってくる
「長いわね! 丁度黄色いしベルね! はい決定!」
びしりと指を指された
ベルですの? と対面に座り小首を傾げていた
「それでベルさんはアクアのなんなのかしら?」
「まぁ、端的に言わせてもらいますと姉ですわね」
「姉!?」
仰け反って明らかに驚愕していた
義理のですけれど、と続けて。あぁ、と有馬かなは伏し目がちになる
「……ごめんなさい」
「いえ。構いませんわ」
何の気なしにクリソベリルは首を左右に振っていた
うん、と有馬かなは床の方を見ていて
「……なんだかわたし、口が悪いみたいで」
「そうですのね?」
うん、とここでは素直に頷いていた
へぇ、とクリソベリルはソファーに深く腰掛け直していて
「まあ、わたくしは気にはなりませんわ。かな先輩」
「せ、せ、先輩!? ちょっと待って。ベルさんいくつよ!?」
「30を軽く越えましたわ」
ごめんなさい、とか細い声で有馬かなが謝る
明らかにクリソベリルの目が死んでいた
「しかしテレビに出てる日数はかな先輩の方が多いですし」
「……。みんなあなたみたいな人だと良かったわ」
ふふ、とクリソベリルは笑みを向けていて
そんな折、双子が事務所に帰って来た
「ただいま」
「ただいま!」
おかえり。とミヤコが一瞬PCから目を外して笑顔を向ける
双子は腕を組みながら器用に二人して拝んでいた
「遅かったじゃない。寛がせて貰ってるわよ」
「その様子だともう大体クリソベリルに心を開いたか」
「ベルさんに先輩呼びされちゃったから!」
えへ、と両手で頬を指差して笑っていた
すげー腹立つ。ベルさんって。とアクアとルビーはやや険な雰囲気をまとっていて
「クリソベリル……こいつをあまり甘やかすな。どこまでも鼻が伸びて、アイさんでもなければ折れなくなってしまう」
「わたしは操り人形かぁっ!」
ぐしゃあ、と緑茶缶を潰していた
飲み終わったので潰してるらしい。きちんと立ってから捨てていた
そうして再びちょこん、と元のソファーに座った
「あーちゃんがかな先輩を贔屓にしていましたし、素敵な方に違いない、と」
「──あーちゃん?」
クリソベリルの顔を信じられないといった様子で見ていた。有馬かなの空気だけが止まった気がした
ふふふ、とルビーはこれを可笑しそうにして体を震わせていて
「見たか。クー姉さんの実力を! 星野アイをあーちゃんなんて気安く呼べるのはこのお方だけだーっ!」
「クー、姉……さん?」
ルビーが有馬かなを指差す。クリソベリルの空気だけも止まった気がした
瞳が震えて内なるゆるキャラが揺れていた
「生意気言って悪かったわ……ベルさん。いえ、ベル様。わたしっていっつもこうなのよ」
有馬かなはクリソベリルに対して手を合わせていた
触らぬ神に祟りなしの精神らしい
「スゴーい……アイ様の名前だすだけで態度が百八十度変わっちゃうんだぁ」
ルビーが手を広げて口元にやっていた
やれやれ、とアクアは腕を組んでため息を吐いていて
「そ、そうだわ。アクア! あなた、ドラマとか興味ない? まだ決まってない役があって──」
「──ある。やる。連絡先教えてくれ」
「いや順序ってものがあるでしょ……!?」
有馬かなは早速スマホ取り出して頬を染め仰け反っていた
ルビーが兄の顔を覗き込むように見ていて
「……どうして? お兄ちゃん」
「──今のままだと母さんの背中が全く見えない。これじゃ、護ることも出来ない。端役でも良いからやりたかったけど、それだけのために母さんの力借りるのもなんだかとか思ってて」
そっか、と妹は頷いて小さく笑みを作っていた
結局のところ、兄は星野アイを中心として考えている。それが確認できて安心してしまうところがあった