星野アイは伊達眼鏡とマスクは着用しているが帽子はない。今日はそれほどのことが起こっていた
黒いスーツに身を包み、下は同色の丈の長いスカートを穿く。胸元にはブローチが付けてあって
同じような服装のミヤコ、流石に貴族令嬢衣装自重したクリソベリルに挟まれる形で護られていた
「アクアも、ルビーも──あんなに大きくなったんだね」
アクアが目礼をしながら行進してルビーが手を振りながら行進する
そんな姿を星野アイはまともに見ることができて。感激していた
「アクアくんにはわたくしですら抜かされましたわ」
「……そういえば、そうだね」
目を閉じると未だに小さかったアクアやルビーが瞼の裏に浮かんでくる
寂しさより先に愛おしさの方が勝っているようで
「良かったですわね、あーちゃん」
「──うん」
こくり、としていて。片手で目元を拭っていた
星野アイの瞳は一層輝いて見えて。そんな折、不意に一人の女子生徒に手を振られた。艶やかな長髪と輝く瞳が特徴的などこか雰囲気のある少女であった
「なにかと思いましたけど──不知火フリルさんですわね」
「彼女、最近スゴいの……わたしも頑張らないとーって思っちゃう」
「まだ頑張るところあるんですの……?」
クリソベリルをして驚くところがあって
あはは、と星野アイは笑っていた。
「日々勉強だよ」
「──恐れ入りますわ」
言い放っていた。その瞳はずっと先を見据えているようでもあった
クリソベリルは言いながら演台に視線を戻す。そろそろ挨拶がありそうだった
「偉い人の言葉ってなんで長く感じるんだろうね」
「どうしても間延びして聞こえますから」
なるほどねー、と星野アイはクリソベリルと隣り合い笑みを浮かべているようで
表向きの親であるミヤコは他の保護者が見えたら一礼を繰り返していた
「そろそろアクアとルビーも戻ってくるよね?」
「今回はあっさりと写真撮れそうですわね」
そうだねぇ、と感慨深く答えていた
ミヤコもこれには安堵の表情を浮かべていて
「ルビー誰かと話してる……もう友達できたんだね」
「えーとあの方は確か寿みなみさん、でしたっけ……?」
クリソベリルはその視力でもって見てからこめかみ辺りに指先を添えてからそう溢す
ふぅん、と星野アイはそれにやや頷いていて
「よく知ってるね、クーちゃん」
「わたくし、雑誌とかもそれなりに嗜みますから」
人差し指を立てて笑みを向けられて、そういえばそうだったね、と相槌を打つ
そんな折、校舎から出てきた不知火フリルを指差してルビーが何事か話していた。宣戦布告のようなものをしてるように見えた
兄はそんな妹を心配そうに見守っていて
「──ルビー、張り切ってるね」
「あなたに追い付きたくて堪らないのですよ」
ありがたいなぁ、とだけ星野アイは溢す
ルビーが寿みなみを巻き込んで不知火フリルを挟む形で引き連れて向かってきた。アクアはその後方でなんとなく歩いている
「あー。やっぱりバレてたのかな」
「鋭いですわね……あーちゃんとは最近よく共演してましたけれど」
うん、と星野アイは頷いていて。不知火フリルは小さな笑みを浮かべていた
その長髪が風に揺れている。どこかその場にあってその場にいないようでいて、しかし人の興味を引き付けてならないそんな少女だった
「ま、ママー! ミヤコママーっ!」
あらあら、とミヤコは駆け寄るルビーに笑みを向けてからよしよししていた
わたしもよしよしされたいな、との星野アイの欲望が口に出ていた
「──こんにちは。星野アイさん」
お忍びで来ていると察したのか声を落として囁くように挨拶してきた
夜を照らすような瞳であった
「こんにちは。ルビーと仲良くしてくれてありがとね」
星野アイもこれに答えて会釈する
いえ、と言葉少なに返してから不知火フリルは目を反らした
「後輩、なんですか?」
「そんなところ。とってもかわいいの」
ふぅん、と片手で髪を解かして流していて
その瞳がようやくルビーに向けられていた
「なんだかわたし、ルビーちゃんにはほんの少し嫌われてしまってるようで……悲しいです」
しゅん、としていた
どこか芝居がかったようなそんな行為だった
「えっとその、嫌ってはないよ。目標ってだけだから!」
ルビーは笑みを作りながら後ろに手をやって恥ずかしげに答えた
そうなんだ、と星野アイはやや頷く。別にそこまで気にしてなさそうでもあった
「な、なんかうち場違いとちゃいます……?」
「だ、大丈夫だよみなみちゃん。でもなんかごめんね。巻き込んじゃったかも」
寿みなみが口に手を添えて耳打ちするように訊ねる。ルビーはそんな彼女に手を合わせて謝った
その後方でアクアは腕を組み静かに星野アイと不知火フリルの二人の会話を見守っていた
「──ミヤコさん、でしたよね? 星野アイさんから聞いてます」
「あら、そうなの?」
どこか好奇心が感じられる瞳が星野アイではなくミヤコを捉える
対するミヤコは首を捻って目を丸くしていた
「わたし、苺プロダクション所属なら必ずその名を吹聴して回ると聞いたのですが」
その目を細くして星野アイを見据える
あはは、とどこか誤魔化すように笑みを浮かべていた
「──なんかミヤコさんは言わないといけない気がして。迷惑だったら言ってね?」
そんな星野アイにミヤコは額に手をやってやや頷いていた
こんにちは、と不知火フリルは手を前で組んで丁寧に一礼する。そんな畏まらないでいいのよ、と困ったように微笑んでいた
「──それで、あなたは」
姿勢を正してからわざわざ目の前まで進んだ
一歩一歩踏みしめるようなそんな歩き方で気品のようなものを感じられた
「はぇ?」
対してクリソベリルはぽかん、としていた。絡まれるとは思わなかったらしい
その輝く瞳がゆっくりと閉じられてからまた開かれる
「クリソベリルさん。あなたの出てる動画最高。いっつも腹が捩れてます。毎日下さい」
ふ、と微笑んでいて唇の下辺りにあるほくろがやや目立つ形となっていた
両手を差し出してややおどけてみたような、そんな仕草だった
「えっ。ええ……」
そこまでされる心当たりが無さすぎて動揺するばかりで星野アイに助けを求めるように目を向ける。しかしこれには首を左右に振ることで拒否された
そんな、とクリソベリルはやや目を左右に流してから
「ま、まぁ……わたくしなりに頑張ってますからそう言って頂けると」
片手を頬に添えてからやっと答えていて
それに、と不知火フリルは地面を見てから真っ直ぐ射抜くようにその栗色の瞳を見た
「──あなたは何故か、他人の気がしない」
それを言うと胸元辺りで片手を握っていて
殺し文句だな、とのアクアの突っ込みがあった
「握手、してもらって良いですか?」
「えっ。えぇ……? も、もちろん。構いませんわよ」
ありがとう、と返していて。クリソベリルから快く差し出されたその手を柔らかく握る
不知火フリルにとってクリソベリルとの邂逅はそんな一瞬ではあったが濃密だったようで
「……とても、温かい」
「ど、どうも」
目をやや細めて満足そうに微笑んですらいた
やはり困ったように星野アイを見詰めて、こうなったら止められないと星野アイは再び首を横に振っていた
「ねぇLI◯Eやってます? 良かったら連絡先交換しましょうよ?」
「い、いや。まぁ、良いですけれど……」
二人が端末だしてふるふるしていた
友達できてよかったね、と星野アイは穏やかにそんな姿を見つめてもいた
「あいつも大概距離の詰め方バグってるな……」
「むむむ。クー姉さんは渡さない……渡さないんだから……!」
アクアが後方で呟いていて。ルビーはその一部始終をまともに見てしまい両手を拳にして燃えていく
難儀やわぁ、と寿みなみは困ったように笑みを浮かべてから溢していた