おしのこ!   作:すさ

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黒川あかね

「そんなわけでこちら星野アイ役をやってくれる黒川あかねちゃんです。拍手っ!」

 

「よっ、よろしくお願いします!」

 

 星野アイの紹介で深々と礼をする。おー、とアクアとルビーとクリソベリルが拍手した

 肩まで伸びる髪を持つどこか透明感のある瞳をした少女だった

 

「げぇっ!? あんただったの。星野アイの代わり!?」

 

「あっ。かなちゃん……久しぶり」

 

 あかねは小さく手を振っていた。星野アイが間に入ってはいるがその不穏な雰囲気は事務所内を侵した

 あら、とこれには溢していて

 

「あれ……? 知り合い?」

 

「な、何回か……共演を」

 

 やや躊躇いがちにそう答えて。そうなんだ、と頷いていた

 ふん、と有馬かなはわかりやすく顔を背けていて

 

「なーんか息が合わないのよ! そんなに絡みなさそうで良かったわ!」

 

「か、かなちゃん酷いよぉ! ほら仲良くしようよ!?」

 

 びしり。と指を指されあかねは涙目だった

 

「……有馬。そんなにどやすことないだろ?」

 

「うっ、うぅ。アクアまで……美人だからってこの女の肩持たないでよぉ」

 

 やれやれ、とアクアが半泣きになった有馬かなに嘆息する

 妹に目を向けてみるがルビーも首を横に振っていた

 

「……あっ。この人が、クリソベリルさん?」

 

「こんにちは。あかねさん」

 

「こ、こんにちは」

 

 律儀に深々と礼をするので思わず星野アイの方を見る

 やや苦笑いを浮かべながら頷いていた

 

「不思議の国のアリスの演劇、素晴らしいものでしたわ。あーちゃんに選ばれるわけですわね」

 

「い、いやぁ。わたしはそんな……」

 

 あかねは小さくなって頬を染める

 うんうん、とクリソベリルは満足げに頷いていて

 

「──ところで、星野アイの役をされると聞きましたが」

 

「あっ、そっか。見せてあげて」

 

 星野アイから声をかけられて。はい、と目を瞑りゆっくりと見開いた

 

「クーちゃん☆」

 

「……」

 

 クリソベリルは目を鋭くさせて腕を組んで引き吊った笑みを浮かべていた

 その不穏な雰囲気になにかを察したのか星野アイがあかねの背後に忍び寄り。ひょこ、と顔を出して遊んでいた

 

「星野アイが……二人だよ。ほら。クーちゃん☆」

「ほ、星野アイが……二人だよ。クーちゃんっ!」

 

「……ふふっ」

 

 あかねはたじたじ、といった様子だった

 くすり、としてクリソベリルは表情こそ柔らかくなったが顎に手を添えてうーん、と唸っていて

 

「確かに……確かにすごいですわ。しかし、なにか……なにかが足りません」

 

 目を強く瞑り、眉間に深くシワを寄せていた

 

「あっ是非是非。仰って下さい!」

 

 あかねは瞬いてから真面目な顔に戻りメモとペンをとりだす

 それ、とクリソベリルは人差し指をメモに向けた

 

「狂気ですわ」

 

「クーちゃんひどいよー!」

 

 ぽろ、とあかねは目を死なせてメモとペンを落とす

 星野アイは両手を目元にやって明らかな泣いたフリをする。即座にアクアが駆け付けようとしていたが妹が腕を掴んで止めていた

 

「くそっ、止めてくれるな。ルビー! 推しが泣いているッ!」

 

「お兄ちゃんは本当に……」

 

 ルビーは兄を可哀想なものを見る目で見ていた

 両手を後ろで組んで再びクリソベリルとあかねの話に耳を傾ける母を確認し、アクアは口を真一文字にする

 

「あの人、なんだか……初対面だけど仲良くできそう」

 

 そうだな、とアクアもルビーに頷いて賛同していた

 

「わ、わたし……狂った演技も、できます。できます、よ?」

 

 わたわた、と落としたメモを拾う。ペンは有馬かながわざわざソファーから立ち上がり拾って渡していた

 

「うんまぁ、今回は完璧にわたしを演じる必要はないからね。どちらかっていうとヒール役だし」

 

「それであれば確かに問題ありませんわ」

 

 そうでしょ、と星野アイは微笑んでいてこれには素直に頷いていた

 

「よ、良くないんですっ! わたしが頑張りたいんです!」

 

 やや剥れながら言い聞かせるように告げていた

 これにはクリソベリルも思わず、目を丸くしてしまうところがあった

 

「ねー? いい娘でしょ?」

 

 星野アイがあかねの肩に両手を添えて笑みを作っていた

 ええ、とクリソベリルは大きく頷く

 

「悪役だという話は聞いてます。ルビーちゃんが主役だってことも……聞いてます。でもその上で星野アイさんを演じたいんです! か、完璧にやりたいんですっ!」

 

 なるほど、とクリソベリルは溢していてアクアとルビーに目を向けた

 

「お二人はどう思われましたか?」

 

「めちゃくちゃアイさんだった」

「……アイ様と似てた」

 

 双子は二人して顎に手を添えながら答えた

 他ならないアクアとルビーの意見にやや目が泳ぎ、頬を掻いてから息を溢した

 

「……わたくしが間違ってました。ごめんなさいあかねさん。忘れてもらっていいですわ」

 

 両手を前で重ねて深々と一礼する

 い、いえ。とあかねはなぜかペンをメモに走らせていた

 

「その、クリソベリルさんの指摘も鋭いなってわたし思ってて……だから、頑張ります」

 

「熱心だねぇ」

 

 メモ帳に綴った狂気という文字を○で囲んで真剣な眼差しを向けていた

 星野アイもそんなあかねの横顔には感心するより他なかった

 

「──あんたそんな片意地張ってたら病むわよ。アイさんが良いって言ってるんだから譲りなさいよ」

 

「が……頑張りたい」

 

 あかねはメモ帳とにらめっこをしている

 はぁ、と有馬かなは肩を竦めていてどこか遠くを見ていた

 

「どうなっても知らないわよ……ほんとに」

 

「……その、かなちゃんはわたしを心配してくれてるんだよね」

 

「は、はぁ!? どーしてあんたの心配なんてしなきゃなんないのよ!」

 

 びしりと指摘してるがその語気はどこか勢いをなくしてしまっていて思わずあかねは笑ってしまっていた

 嘗められてる、と思ったらしくますます有馬かなは赤くなっていて

 

「かなちゃんはこうやっていっつも気にかけてくれるんですよ?」

 

「そういうこと言うな、黒川あかねっ!」

 

 メモ帳を一旦しまってからうふふ、と笑みを浮かべていた

 そんな様子のあかねをみてクリソベリル細かく頷いていて

 

「わたくしだけでなくて本人やアクアくんやルビーちゃんの意見も参考にして下さいまし。きっとあなたにしか出来ないものに仕上がるはずですわ」

 

「……それは、勿論です。クリソベリルさん」

 

 あかねは得意顔らしきものを浮かべていた

 クリソベリルは柔らかく目を細めていて

 

「わたしは自分のこと全くわからないから期待しないで」

 

「──いっそ清々しいですわね。あーちゃん」

 

「あっ。でもそういうの参考になります……!」

 

 むむむ、とまたメモ帳を取り出してペンを走らせていた

 熱心ですわねぇ、と思わず感嘆してしまう

 

「あ、アクアさん! アイさんについてなにか知ってることがあれば、たくさん教えて頂けたら……!」

 

 てて、とそのままアクアとルビーに近付いていき。意見を求めた

 うーん、とアクアは唸ってルビーはそんな兄の様子を固唾を飲んで見守っていた

 

「──というかL◯NEやってる? 連絡先交換しようぜ?」

 

「はっ。ええっ!?」

 

 アクアは端末を取り出して良い顔で言い放った。あかねは赤面し素頓狂な声を上げ、ルビーは絶句する

 そんな会話を聞いてしまった有馬かなの目は間もなく死んだ

 

「いや、別に普通じゃない? アイさんについて知りたいんだろ? 語りきれないから。めっちゃ長文送りつけてやるよ」

 

「あ。あぁ、そういう……」

 

 えっと、とやや目を泳がせてからぺらぺらとメモ帳を捲ってペンで走らせた後、ぺりぺりと切り取る

 

「ど、どうぞっ!」

 

「──たすかる」

 

 二つ折にされたメモを両手でもって差し出した

 アクアは指で挟むようにこれを貰って爽やかな笑みを浮かべていた

 

「その、気が付いたら連絡してくださいね!」

 

「ああ。勿論さ」

 

 頬を染めるあかねに輝く瞳を向けていた

 妹はそんな兄をじと、とした目で見ていて。アクアは顔を青くして体を震わせていた

 

「る、ルビーちゃんも。良かったら!」

 

 あかねは兄と同じように連絡先書いたメモを差し出していた

 ふぅ、とルビーはこれにため息を吐いてしまって

 

「……あなたにお兄ちゃんは勿体ないよ」

 

 片手で摘まむように連絡先を受けとった

 ゆっくりと首を振ってからぽん、と肩に手を置いていて

 

「なっ、なんの話ですか!?」

 

 なぜか諭されたとあかねは動転して声が上ずってしまう

 騙されちゃダメ、とどこか色のない瞳でルビーは語っていた

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