「とりあえず今日はここまでで良い」
じゃあな、とクリソベリルの肩を叩いてから五反田は帰っていく
その背にアクアがついて行く。事務所にはルビー、あかね、クリソベリル、MEM、デスクにミヤコが残った
「──はい。緊急会議です」
各々ソファーに座り、クリソベリルからお茶を淹れられた後、ぴっとルビーが真っ直ぐ手を伸ばした
あかねとクリソベリルとMEMの視線が集中する
「お兄ちゃんはアリか、ナシか!」
「──そ、そんな。卑猥です!」
ルビーは地獄みたいな議題を出してしまっていた
あかねは両手を口で重ねてのけ反る
「あかねさんはお兄ちゃんに卑猥なことされたいんだぁ?」
「い、いや。そんな、そんなことは……あるかもしれませんけど」
ルビーがからかうような声を出すと指をつんつんとしてから赤面していて
ふー、とそんな初々しい反応をするあかねに溜め息をついてしまっていた
「──まず。第一にお兄ちゃんは、マザコンです!」
あら、とミヤコが目を向けていて
うふふ、と手を組んでルビーは笑みを深める
「ママー、ママー、なでなでちてーと夜ではごろにゃんごろにゃんします!」
「……あり、かも」
あかねは顎に手を添えて答える。ぐぬぬ、とルビーは口を結んだ
嘘は言っていないにしろ、そこまで印象が良いとは思わなかった
「これはわたしもだけど……星野アイにゾッコンです! アイさんアイさんってごろにゃんごろにゃんします! 最近ガチでアイさんのナイト目指してます!」
「まぁ……わかる、かも」
こちらも躊躇いがちにあかねは答えていて
むむむ、とルビーはなおも唇を尖らせていた
「シスコンです! わたしはもちろんクー姉さんにもごろにゃんごろにゃんしたりします!」
そっそんな、とクリソベリルは小さく溢してしまっていて
とんでもないことになってるアクアを不憫に思った
「……知ってました」
こくり、と頷いていて。ぐはっ、とルビーはついに頭を垂れる
真っ直ぐな瞳を向けられて最早言い寄ることすら難しくなっていた
「……あかね、お姉ちゃん」
目を死なせながらそれを告げた
ええっ、とあかねは胸元を片手で抑えていて
「は、早くない!? わ、わたし……まだアクアさんとはそんな関係じゃ……!」
「だってだって! 絶対お兄ちゃんあなたみたいな人好きだもん! わたし近くで見てたからわかるもん!」
「そ、そんな……ほら、アクアさんにだって選ぶ権利が」
目元に両手をやりながら泣いたフリをしていた
あかねはそんなルビーに圧倒されるばかりで
「──星野アイ、良いよね」
それを告げて突如としてMEMが立ち上がった
角が生えたようなカチューシャとプリンのような色合いの髪色が特徴的な童顔の少女だった
「……良い」
ルビーは立ち上がり真っ直ぐ吸い込まれるように進みその両手を重ねる
これにはクリソベリルも腕を組んで満足そうに笑みを浮かべてから立ち上がり、自動販売機へと消えていった
「きゃーっ! 生MEMだぁ! かわいい~っ!」
「あ、ありがとう。あなたも信じられないくらいかわいいね」
MEMと手を重ねあってルビーは小さく跳んでいた
「……アクアさんって。さっきの格好いい男の子?」
「うんうん。そうなの、わたしの双子の兄でね! 残念なの!」
そうなんだ、とMEMは穏やかな笑みを浮かべてからやや頷いていた
その微笑みは聖母のようにも思えなくはなかった
「ああ、MEMちゃんとは他人の気がしないよ……っ!」
「そ、そう……? 嬉しいなぁ」
瞳を輝かせてはいるがMEMはやや反応に困っていた
ルビーは同志が出来て舞い上がっているようでもあった
「話が来た時はなにごとかって思ったけど……来てみるものだね」
「歓迎するよー! ほらほら、新生B小町まだまだメンバー募集してるし!」
そうなの、とMEMはたじろいでから、ふっとどこか消え入りそうな笑みを浮かべていた
ルビーは不思議そうに首を捻っていて
「確かに男の子はああいう娘たまらないかも……」
「そうでしょ!?」
MEMは今一度あかねに視線を戻していた。ルビーも同調して頷く
そんな、とあかねが顔を隠して小さくなっているところを二人は顎に手を添えて観察していた
「……頑張ってね」
MEMは小さく告げてからガッツポーズする
「わ、わたし……そんなことは。ほら、かなちゃんだっているし」
ふぅん、とルビーは笑みを深めていく
まさか、とMEMは目を見開きなにかを察したようでもあった
「お紅茶でよろしかったでしょうか?」
「あ、ありがとうございます。クリソベリルさん」
いえいえ、とクリソベリルは笑みを向けていて
あかねは見上げながら紅茶缶を両手で持って小さく礼をしていた
「アクアくんはなんというか……とてもおモテになるようで」
クリソベリルはどこか遠くを見ていた
その顔には心配のようなものも浮かんでいる
「……その、かなちゃんって娘もアクアくんが好きなんですね?」
「あからさまに」
クリソベリルが答えると深刻な顔をしてMEMは腕を組む
うーん、と目を瞑り頭を悩ませているようで
「……わたしは有馬先輩より、あかねちゃんが良いなぁ」
「い、いや。そんな……えっ。本当に!?」
うん、とルビーは顎に手を添えたまま頷く
いよいよあかねの顔は真っ赤になってしまっていて
「そ、そんなことないですって。ほ、ほら……やっぱりアクアさんが選ぶことですし」
「うーん。そういうところなんだよね」
お兄ちゃん好きそう、と続けてルビーは目を細める
最早なにを言ってもそこに収束する気がしてあかねはえい、と勢いよく紅茶を飲んでいた
「いっそ好みのタイプを聞いてみる、というのは如何でしょうか?」
クリソベリルが指を立てるとそっか、とルビーは端末を操作して顎に手を添えた
ぽろん、と秒で返事が来る
「うぅ……助けてください、クリソベリルさん。みんなしてわたしをいじめるんです」
「その……御愁傷様ですの」
「み、見捨てられたっ!?」
半泣きになりながらちびちびと紅茶を啜っていた
クリソベリルは困ったような笑みを向けてから、ただそんなあかねの側に立っているしかなくなっていた
「出たよ出た出た。お兄ちゃんのタイプ!」
そんなことをしていると兄とのやり取りが一通り終わったようで皆固唾を飲んでその発表を心待ちにしていた
「──まず顔が良いこと!」
あー、とMEMは苦笑いを溢してしまう
あかねはメモ帳を取り出してペンを走らせていた
「太陽みたいな笑顔、完璧なパフォーマンス、まるで無敵に思える存在、どこか吸い寄せられる天性の瞳……だって!」
「や、やっぱりアイさんなんだ……」
むむむ、と唸りメモ帳と睨み合う
顎に手を添えて納得するように頷いていた
「……お兄ちゃんはアイ様大好きだからね。30代でも全然いけるとか言ってたし」
ふ、ふぅん。とあかねはかりかりと頬を染めながらメモに星野アイと綴り○を重ねる
静かに闘志を燃やしていた
「……ねぇ、クリソベリルさん」
MEMはクリソベリルに目を向けた
なんでしょう、とその円らな瞳が向けられる
「その、みなさんとはどのような関係で?」
「ああ申し訳ありません。わたくし、アクアくんとルビーちゃんの義理の姉に当たります」
ミヤコがPCから目を離してMEMを一瞥する
ぞぞ、とMEMは体を震わせて吐血せんばかりに意識をやった
「ご……ごめんなさい……!」
「いえ。全然大丈夫ですわよ!」
明るく言い放ってすらいた。ごめんなさい、と再び小さく謝っていて
あら、とクリソベリルは頬に手をやる
「それでそれがどうか致しましたの……?」
「ああ、その……何でもないです」
そうですの? と小首を傾げていて
ずっとメモ帳とにらめっこしているあかねに目をやっていた
「……あの。それわたしも聞いた時に思ったよ。MEMちゃん」
「そ、そう?」
ルビーはゆっくりと頷いていた。はうっ、とクリソベリルが胸を抑えて勝手に地面に膝をつく
だっ大丈夫ですか、とあかねがメモ帳は手に持ちつつもその身に駆け寄っていた
「当てはまらなくはないもんね……クー姉さんに」
ルビーは小さくなってしまったクリソベリルに目を向ける
事務所の時が止まったかのように、しばらく誰も何かを言わなかった
「……はぇ?」
結局膝を抱える形になって小さくなっていたクリソベリルは顔を上げた。目が点になってぽけ、と口を開けている
あかねは目が死んでペンとメモ帳を落としてしまっていた