おしのこ!   作:すさ

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三人目

 事務所でアクア、星野アイ、ルビーと長机を挟んでMEM、有馬かな、クリソベリル、ミヤコが集まっていた

 

「おつかれー!」

 

 それぞれの前にはワインであったり、お茶であったり、ジュースであったりといった様々な飲み物がおかれていて

 その前にはフライドポテトやサラダといった簡単な料理が大皿に置かれていた

 

「悔しいわ……壱護に出し抜かれたようで」

 

 まぁまぁ、とクリソベリルが母にお酌する。くっと飲んでいた

 豪快に呷っているそんな様子を穏やかに見詰めていて

 

「飲み過ぎないで下さいましね」

 

「……わかってるわ、クー」

 

 ふふ、とミヤコに微笑んでしまう

 母は言いながらも空になったグラスをクリソベリルに向け、お代わりをせがんでいた

 

「あかねちゃんにもちゃんとお礼言っといたよ」

 

「彼女、素晴らしい演技でしたわ」

 

 クリソベリルは手を組んで目を輝かせていた

 そうだね、と星野アイはクリソベリルに頷いていて

 

「ルビーのこと誉めてたよー。頑張って泣いたもんね」

 

「……こう、そういう空気を作ってくれたから。やり易かったの」

 

 ルビーは目を細めていて台本を見た時に感じた不安を思い出しているようでもあった

 色々と解釈違いも感じながら演じていた為、周りのサポートがなければ心が折れてしまっていたかもしれなかった

 

「クーちゃんのミヤコさんも良かったよ」

 

「……ええ。ありがとうございます」

 

 笑みを向けると恥ずかしそうにクリソベリルは小さく笑みを作り頬を掻いていた

 勿体ないなぁ。星野アイもどこか捨てきれない思いを抱えていて

 

「──最後のスタッフロールでみんなで“アイドル”歌ったのやたら当たりましたわね」

 

 クリソベリルはスマホ片手にB小町チャンネルの動画一覧を見ながら溢した

 

「結局個別でアップしたんだったか」

 

 アクアがスマホ片手に呟いていて。マグカップで紅茶を飲んでいた

 本編も二十万近く再生されているがその倍近くは再生されていた

 母はそんな息子をじっと見ながら同じく飲んでいて

 

「お兄ちゃんラップの才能あるんじゃないの?」

 

「やめてくれ。そろそろ才能の方向音痴になりそうだ」

 

 アクアは片手で頭を抱えた。あはは、と星野アイもこれには可笑しそうに笑う

 有馬かなもそんな二人の様子を見て笑みを浮かべていた

 

「……クーちゃん。本当は歌手の才能あったのかもしれないね」

 

「わたくし、やたら声が通るだけですわよ?」

 

 うん、と星野アイはやや伏し目がちになっていて

 マグカップをほんの少し傾けてから口を開いた

 

「B小町チャンネル開設しといて曲とかメンバー紹介とかしかのせてなかったから、ビックリされちゃったのもあるんだろうね」

 

「動画ってのは短い方がやっぱり見られる傾向にありますから。今の時代は特にそうです。まぁ単純に最後のみんなでアイドル歌う出し物が貴重すぎたってのもあったのかもしれませんよね」

 

 人差し指を立てつつMEMは語っていて。そうなんだ、と星野アイもこれには素直に納得をした

 

「あーちゃんの声はやはり美しいですからね。皆さんに紛れていてもファンであればわかってしまうのかもしれません」

 

「ねー。ソロないし絶対にバレないと思ったんだけどなぁ……あれ」

 

 星野アイは両手で器用にマグカップを回しながら飲んでいた

 

「──でも、顔出てないとはいえみんなと一緒に歌えたの嬉しかったな。こう、ドリームチームみたいで」

 

「……アイさん。ドリームチームのところもう一度下さい」

 

 アクアは良い顔の良い声でそう告げた

 ん? と星野アイは首を捻らなくはなかったが、指先を立ててから口を開く

 

「ドリームチーム!」

 

 母は快く元気に答えてくれた。ありがとうございます、と胸を抑えてアクアの情緒は乱れた

 ルビー、有馬かなの目が明らかに死んだ

 

「そうだ、アイさん。俺、舞台の仕事もらえそうなんだけど……」

 

「あかねちゃんが所属するところの舞台ね。よかったね、アクア」

 

 こくり、とアクアは頬を染めながら頷いていて母は微笑む

 プロデューサーに推しといた甲斐があったかも、と密かに思っていた

 

「あそこの劇団、今は大丈夫そうだけどわたしあまり良い印象なくて……気を付けて、アクア。あかねちゃんを護ってあげてね」

 

「……ああ、わかってる。アイさん」

 

 こと、とマグカップを置いて告げていて

 どこか怯えたような母の様子に一度瞬きながらアクアは真剣な顔をしてから頷いた

 

「──わたくし、考えすぎだと思いますわ」

 

「……それをあなたが言うの?」

 

 そんなことを言われてクリソベリルは瞬いてしまう

 やや目線を下にしてから小さく息を溢してすらいて

 

「そうですわね。わたくしが保証致しますわ。あーちゃん」

 

 星野アイとクリソベリルは暫し見つめあって。おー、とMEMが唸っていた

 ふ、と星野アイは笑みを浮かべる

 

「──うん。忘れて忘れて。クーちゃんがいうんなら多分大丈夫なんだ」

 

「信頼が強過ぎる……」

 

 首を振って忘れるようであった

 アクアは腕を組んで勝手に納得していた

 

「ただならぬキズナを感じる──」

 

「そこの三人とベルさん、ミヤコさんと社長もそうだけどもう身内みたいなものみたいよ」

 

 なるほど、とMEMは有馬かなに目を向けて頷いていた

 全く、と息を溢していて

 

「──新参者困らせてどうするのよ」

 

「い、いや。わたしは本当に大丈夫。ありがとね」

 

 これに広い心でもって対応する

 有馬かなとしても気分が良かったのかほんの少し毛先をくるくるさせていた

 

「あーあ。アイ様が後押ししてくれたは良いけど、メンバーも足りないし……困ったなぁ。誰か入ってくれないかなぁ」

 

 ルビーはわざとらしく全員に聞こえるようにそうぼやいた

 

「えっ。えぇ……? わたし?」

 

 ほぼ全員の目がMEMに集中して。そんなそんな、と両手を振って見せていた

 

「あ、あの。確かに──わたし憧れてなくはなかったけど。でもなんというか……年齢が」

 

「──へえっ?」

 

 星野アイがこれに反応して。きらりと目が光った

 いっそ怖いくらいの目を向けられて、いやいやいやとMEMはぶんぶんと首を横に振っていた

 

「あ、アイさんは別枠ですから! ゴッドですから。神様ですから! ごめんなさい……!」

 

 許しをこうように両手を合わせてから頭を何度も下げていた

 ふふ、と星野アイは困ったように笑っていて

 

「いやそうじゃなくて。わたしさー、確かに色々思うところあって続けてるところはあったけど──」

 

 隣のルビーに微笑みを向けるとルビーは穏やかに目を細めていて

 やっぱりわたしの娘かわい過ぎるよ、なんて再確認してしまってもいた

 

「ちょっとくらい年齢過ぎててもアイドルして良いんだーって勇気をもってもらうために続けてたところもあったんだけどなぁって……」

 

 星野アイの目を伏せてどこか残念そうなそんな様子にMEMは手を組んで頬を染めていて

 やがて決意を固めたように頷いていた

 

「わたし──」

 

「待ってください、MEMさん。アイドルになるということは──険しいですわよ? ユーチューバーで数字を取っているその時点でも素晴らしい功績なのですから……よく考えて頂いた後でも遅くはないのではありませんか?」

 

 MEMの言葉に重ねるように告げられていた。クリソベリルは身を乗り出して声をかける

 そんな姿はどうしても注目を浴びてしまって。そういうところだよね、と星野アイも表情を緩めてしまっていた

 

「あ、ありがとうございます。わかってはいるつもりで──夢だったんです。わたし、アイさんに憧れてて……」

 

「──そう、でしたか。不躾でしたね」

 

 クリソベリルは静かに着席した。本当にありがとうございます、とMEMはたじたじといった様子で頷いていた

 そっか、と星野アイ目を輝かせながら頷いていて

 

「──アイドル誕生の瞬間に立ち合うとはな」

 

「わたしもそうだったでしょうが!」

 

 そうだっけ。とアクアは有馬かなに首を捻りながら腕を組む

 あはは、とMEMは笑ってから後ろ手にしていて分かりやすく照れていた

 

「──これで新生B小町は三人ね」

 

 ミヤコは大きく頷いてから感慨深げに溢した

 契約はまだだが、貴重過ぎる有名でまともな戦力に期待を寄せているようでもあった

 

「もうちょっと早かったら動画にも捩じ込めたかもなのに」

 

「わ、わたし、あそこに入って演技できる気がしなかったし……よかったなぁって」

 

 そうなんだ、と星野アイに言われて大きくMEMは頷く

 

「──それについては考えがあるわ。わたしに任せて」

 

「お母様……もしかしてあれですの?」

 

 あれよ、とミヤコは笑みを浮かべている

 ええなになに、と星野アイは身を乗り出して好奇心旺盛なその目を向けていた

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