「やってきました! ジャパンアイドルフェス! わたしたちが立つのはなんとなんとメインステージ!」
観覧車と○ジテレビが聳え立つ某所にてルビーがおーっ、と拳を掲げていた
後ろからはMEM、有馬かな、ミヤコといった顔触れも見えている
「メインステージって聞いた時のコネの力感は半端ではなかったわね」
「あはは……」
有馬かなは目を死なせて嘆く。MEMもこれにはコメントに困っていた
こっちよ、とミヤコが先導して建物内を指差す。一行は取り合えず建物内に侵入し楽屋へ急いだ
“B小町様”
「ここまでされるといっそ清々しいわねっ!」
楽屋に貼られたその文字列を指差す。有馬かなは突っ込まざるを得なくなっていた
MEMはたじたじ、といった様子で。ルビーだけがどこか神妙な顔を浮かべていた
「アイ様……。わたし、頑張るからね」
その名を軽くなぞり、小さく決意を溢す
ミヤコが開けてくれて三人が中に入っていった
ミヤコとは一旦別れて、じゃ寝るわと楽屋に入室して早々有馬かなは倒れるように寝てしまっていた
畳で横になってすーすー、と静かな寝息をたてている
「──かなちゃん、もしかしたら眠れなかったのかなぁ」
「ぐっすりだねー」
うん、とMEMは着替え終えたルビーを見た
あっ、と既に手袋をしている手を伸ばす。髪がほんの少しハネていることに気がついたらしい
「ごめんねぇ、ほんのすこーしだけハネてたから」
「……あっ、ありがとう。MEMちゃん」
うん、とMEMは頷いていて。目を輝かせた
きっと誰にも負けないよ。足先から頭まで見てルビーに笑みを溢す
「MEMちゃん……とってもかわいい」
そうかな、と目線を横に反らして頬を染める。前で手を組んでから軽く体を揺らしていた
それは煌めく瞳に魅了されているようでもあった
「──ありがとう。ルビーちゃん」
うん、と満面の笑みをして頷く
そんなルビーの姿はどこか星野アイと似通って見える。MEMはしばらくじっ、と見つめてしまっていた
「……そ、そんなに見つめられると恥ずかしいよ」
「そうだよね。ごめんごめん」
気のせい、ということにしてふいと目を反らす
ルビーはやや頬を染めてから目線を落とした
「わたしも──アイ様の期待に答えないと」
手袋した手をぎゅむ、と握る。ルビーは今一度覚悟を口にしていた
一緒に頑張ろうね、とMEMは感心したように頷いてしまって
「……もっと気楽にやりなさいよ。気楽に」
ぱち、と有馬かなは目を覚まして。むくり、と起き上がる
おはよー、としゃがんでMEMが笑みを向けて。有馬かなもうとうとしながらも頷いていた
「化けたじゃない、MEM」
「まだまだ若い娘には負けられないから」
ふふ、と有馬かなはMEMと笑みを向けあっていて
そんな会話をする余裕すら感じられていた
「えぇ……あんたそれで期待に応えるだの応えないだの嘆いてたの?」
「き、聞いてたの!?」
ルビーが瞠目して口に手を当てていた
有馬かなはルビーの方に目を向けて口を開く
「そりゃ聞くでしょ!? 流石にわたしもここで爆睡する勇気ないわ!」
真っ直ぐ指を差していた
ふぅん、とルビーはにやけていて
「先輩も恐いんだ?」
「は、はぁ!? わたしを誰だと思ってるの!? 有馬かなよ! 衆目に晒されるのは慣れっこなの!」
なるほどねー、とルビーはうんうんと納得したフリをしていた
全くもう、と有馬かなは未だに言い残したことがあるようで立ち上がっていた
「殆どのアイドル志望の女の子あんた見たら泣いて逃げ出すでしょって話をしてるの!」
ルビーはそれを言われると口をもごもごさせながらもじもじとスカートの端辺りを握っていて
すん、とした顔を有馬かなは浮かべていた
「大体ね、アイさんみたいなよく分からない人の期待になんか答えてたらキリがないんだから。わたしたちは出来ることをしたらいいのよ」
指先をルビーの胸元に突きつけるように近付いてつらつらと述べる
よく分からない人、とのMEMの反芻があった
「……出来ることを、する」
そうよ、と得意顔を向けるとふ、とルビーは吹き出してしまって
わかりやすく有馬かなの顔が不機嫌で歪んでいった
「なんなのよ。落ち込んでるかと人が思ったら──」
やや片眉を上げてしまって。いやそうじゃなくて、とルビーは片手で口を抑えながら鏡を指差す
「顔、顔」
「……えっ、なによ。あ゛っ!? 跡付いてる!? どーしよMEM!?」
有馬かなの顔には近寄らないと分からない程度の畳の跡がついていた。かなちゃん若いしすぐに治るよ、と助言されていた
鏡の前で悪戦苦闘する有馬かなにルビーはやはり腹を抱えて笑ってしまっていた
結局本番までには治っていた
JIFメインステージ。それは夢にまで見た星野アイとの共演への第一歩といえた
じりじり、とひりついた暑さで汗がマイクに落ちる
──B小町のみなさんで、“サインはB”です。よろしくお願いします
進行役に促されてルビー、有馬かな、MEMがステージに立つ
有馬かながポーズを取って笑顔を作った
「あなたのアイドル──サインはB!」
曲が始まり、B小町曲特有の躍りながら歌う演目はポップな曲調と合わせ豪快かつ鮮烈な滑り出しを演出した
その歓声も爆発的で、注目度そのものも高く思えた
歌うこともそうだが踊ることにも気が抜けない
それでいてファンサービスまでしないといけない、となると母の偉大さがわかるようで。ルビーはしかし、笑みを溢してしまっていた
“楽しい”
自分を注目してくれていることが楽しい。この手とこの脚が自由に動くことが楽しい。自分の躍りで心を打ってくれているのが楽しい
その全てが、ルビーの一つ一つの所作に込められていく。楽しすぎて、なにかをする度に勝手に笑みを作る
そんな折有馬かなから一瞬見られたことを感じた
張り切りすぎた、とその横顔を一瞬だけ見たが観客を求めるように手を伸ばしてから笑っていた
あんたになんか負けないわよ、とそう言われている気がした。むしろ背中を押されるようでもあって安心していた
MEMは位置的に見にくいが彼女がなにかする度にその名を呼んでその人しかいないとばかりにMEMのイメージカラーである黄のペンライトを振っている観客がそれなりにいる
こまめに手を振ってる様子だけはわかる。見られることについては慣れているのだろうと心強く思った
ふと、星野アイ激推しという団扇を見てしまった
勘違い。ルビーは踊っている真っ最中だというのに目を鋭くさせてしまう
そういう観客には星野アイっぽく笑みを作り、唇を指差してアピールする
どことなく満足そうな顔を浮かべてペンライトを振ってくれるので、胸を撫で下ろしていた
「──爆レスをあげる」
ようやく落ち着きを見せた躍りの中で、ルビーは兄の顔を見た
忙しいのに来てくれたらしい。ルビーをイメージする赤、MEMをイメージする黄のペンライトを指の間に挟み、有馬かなをイメージする白のペンライトは反対の手で持って澄ました顔で振って応援している
その隣でスマホを片手に三色ペンライトを片手の指の間に挟む剛の所業をしている貴族令嬢服のクリソベリルの顔も見えた
こちらに気がついたのかペンライトを振っていて。負けじとアクアも競うように体全体を振っていた
そんな二人の躍りは会場を巻き込みそれはそれは輝いているようにも思えて。ふっ、と自然と笑みが溢れてしまっていた
「あなたのアイドル──サインはB! Chu!」
どうせだから、とルビーは最後に兄に向けて投げキスしておく
アクアは胸を抑えて気をやってクリソベリルに介抱されていた
気が休む間もなく次の曲が始まる。有馬かな、MEMと目を向けあってから躍りを再開した
「ルビーちゃんぐっすりですわねぇ」
ミヤコが運転するその車中の助手席でクリソベリルは笑みを向ける
ルビーはアクアの腕に引っ付いて離れない。兄はされるがままになっていた
「……たくさん緊張してたからねぇ」
MEMが感慨深くこれに答える
有馬かなはその隣でただひたすら窓から見える景色に目を向けていた
「わたしたちのライブ……どうだった? アクア」
「悪くは、なかった」
アクアは少し考えてからそう告げる。ふん、と鼻をならされてしまっていた
「歯切れが悪いわね」
「……次があるんだろ?」
それを言われて有馬かなはいよいよ黙ってしまっていた
星野アイとの共演。その日は刻一刻と迫っていた
「──アイ様の期待に応えないと」
ぱちり、とルビーは目を覚まして決意していた
起きてたのか、と兄は小さく息を吐いていて
「ちゃんとわたしのことも見ててね。お兄ちゃん」
「それはもちろんだ、ルビー」
アクアは妹に柔らかく笑みを作った
ルビーは身を捩ってから兄の腕を引き寄せ、再び目を閉じた