おしのこ!   作:すさ

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星野愛久愛海

「ただいまーっ!」

 

「──今帰った」

 

 星野アイに遅れて斎藤社長が事務所に帰って来た

 斎藤社長はミヤコ、貴族令嬢服のクリソベリルの方に片手を広げてから奥へ消えていく

 

「おかえり、アイ」

 

 PCから目を離してミヤコは挨拶する。星野アイは手を合わせて拝んだ

 当人は困ったような微笑を浮かべていて

 

「おかえりアイさん」

 

「おかえりアイ様」

 

 ただいま。と星野アイはバック等の荷物をソファーに置いてからアクアとルビーに笑みを向けていた

 ふぅ、とほんの少し吐息を溢してからマスクを取りカーディガンとシャツを脱いでからキャミソール姿になりキッチンへと向かう

 

「ごはんは食べたの?」

 

 言いながら帽子を投げて手を洗っていた

 クリソベリルが投げられた帽子をキャッチして立ち上がる。道中カーディガンとシャツを拾ってから奥へ消えていった

 

「食べたよ、アイさん」

 

 そうなんだ、と母はほんの少しアクアの方を向いてから手元に視線を戻していた

 クリソベリルが湯気を醸すフェイスタオルを両手で広げるように戻ってきて、星野アイはこれを掴み顔を埋めていた

 

「うううー」

 

「……」

 

 そんな姿をクリソベリルは思わず見つめてしまって。ほんの少し堪能してから星野アイはタオルを返した

 タオルを畳みながらクリソベリルは背を向けて再び奥へと消えていく

 

「クー姉さんがわたしのライブ映像撮っておいてくれたって」

 

「へぇ。それは見なきゃだねー」

 

 アクアとルビーに柔らかく笑みを向けて机を挟んだ対面の席に座った

 戻ってきて早々クリソベリルは目を向けられてやや考えた後デスクから自分のスマホを取り、操作していた

 

「どうぞ」

 

「ありがとねー」

 

 スマホを横に倒して星野アイは再生ボタンをタッチする

 三人が踊る度に歓声が聞こえて来るようで、思わず笑みを浮かべてしまっていて

 クリソベリルはキッチンに向かい、マグカップを洗っていた

 

「……二人も見る?」

 

 こくこく、と兄に続きルビーも頷く。星野アイは立ち上がって息子と娘の間に座った

 おー、とかへー、とか三人並んでから感嘆を溢していて。クリソベリルも表情を柔らかくしてしまうところがあった

 

「お紅茶でよろしかったですか?」

 

 お盆に乗せて三人のマグカップを机においていく

 星野アイはスマホに夢中だった

 

「──ああ。助かるよクリソベリル」

 

「ありがとう、クー姉さん」

 

 アクアとルビーは一旦母が両手もつスマホから目を外して笑みを向けていて

 クリソベリルはただ頷いてその対面に座っていた

 

「ルビーはとっても躍りが上手だね」

 

「アイ様の振り付け何度も何度もみて練習したから!」

 

「そっかあ」

 

 うんうん、と頷きながら星野アイは目を細め笑みを浮かべる

 もう転ぶ準備をする姿は影すら感じさせない。やっぱりルビーは輝いて見える、とも思っていてどこか安心してしまうところがあった

 

「ありがとう、クーちゃん……カメラマンも出来たの?」

 

「なにかを固定するのは得意ですわ」

 

 そういえばそうだねー、と笑みを送る

 クリソベリルはスマホを貰うとドレスの中にしまっていて

 

「俺の舞台のヤツも見るか? 母さん」

 

「うんうん見る見るー!」

 

 稽古のヤツだけど、と前置いてスマホを渡す

 輝く瞳をスマホに向けていて

 

「怪物に変えられた王子の役で。やり堪えがある役だよ」

 

「あかねちゃんはヒロイン役なんだね?」

 

「そう。商人の娘」

 

 ふぅん、と星野アイは思わず溢す

 むすっとした顔をルビーは浮かべていて

 

「──これお兄ちゃん楽しそう」

 

「……どちらかというとあかねが楽しんでたな」

 

 うーん、とルビーは兄のスマホを見ながら唸っていて

 クリソベリルはそのやり取りで大体の演目の内容を察したようでもあった

 

「そのお話、いつも愛するということは難しいと考えさせられてしまいますわ」

 

「なんだか複雑そうなお話だね……?」

 

 むむ、と星野アイは唸っていて

 アクアとあかねが手を取って踊っているそんな場面を凝視していた

 

「──アクアはその場に合わせた演技ができるんだね」

 

「あかねが合わせてくれてるのもあるけど、なんだかこの役は……はまったんだよな」

 

「それでもスゴいよ。天才、天才!」

 

 そうかな、とアクアは頬を染めてから頬を掻いていた

 母は興奮したようにこれに答えていて嬉しそうだった

 

「お兄ちゃん……これですごくあかねさんと仲良くなりそう」

 

「そ、そんなことはないさ。ルビー」

 

 じ、と妹は疑いの眼差しを向けていく。兄は冷や汗をかいていた

 うん、と星野アイは満足そうに頷いていてアクアに端末を返した

 

「なんか見てたら踊りたくなっちゃった! 踊ろうよ、アクア!」

 

「えっ?」

 

 アクアは耳を疑ってしばらくその場で停止していた

 

 

 

 ミヤコの計らいでレッスン室を使って音楽をかけて踊ることと相成った

 

「こう、かな?」

 

 母の華奢な腰に手をやって反対の手は伸ばしてから重ねる。ごくり、とアクアはしていた

 長い睫毛にまるで陽の光のような瞳。す、と通った鼻筋。なにかを求めるかのようにほんの少し開かれた唇。近くで見てしまうと、どうしても奴隷になってしまう。狂わざるを得なくなってしまっていた

 

「その、俺に合わせ……いや大丈夫そう、か」

 

 クリソベリルが音楽をかける。適当に揺れながらステップを踏む

 心を通わせるのならこれだけで良い、と悟ってしまうところがあった

 

「──見てよ、クー姉さん。あのお兄ちゃんの顔」

 

「まあ仕方がありませんわね」

 

 母と息子二人の躍りはゆったりとしたものでどこか終わりが見えない

 壁を背にルビーは苦笑いを浮かべていて。クリソベリルはそんな二人にただ微笑んでいた

 

「なんだか楽しいねーアクア」

 

「か、母さん……!」

 

 キラキラとした瞳と笑顔が真っ直ぐとアクアを捉えていて

 感無量、といった様子であった

 

「次、わたしもやっていいー?」

 

「はいはいー」

 

 星野アイはアクアを見つめながら答える

 モテモテだねー、と舌を出していて。アクアは悶えた

 

「母さん……!」

 

「なぁに。アクア?」

 

 ああ、とアクアは目を潤ませて頬を染め口を結ぶ

 極楽浄土はここにあった。そう悟っていた

 

「……アイ」

 

「だからなぁに? アクア」

 

 真剣な眼差しを向けても母はこれを目を細めて受け入れていて目の前がぼやけていくようであった

 推しを見ていたいのに感動が勝っていた

 

「──ありがとねー、アクア」

 

「アイ……母さん……っ!」

 

 最後に星野アイはアクアを抱き締める

 アクアもこれ以上ないほど強く抱き締めていて

 

「ふふ、くるしいよーアクア」

 

「はっ。いけない!」

 

 あはは、ところころ笑ってからクリソベリルに目を向ける

 クリソベリルは頷いていて、ルビーは促されるままに兄の前に立った

 

「あっあっあっ。やっぱり……無理ぃ!」

 

 腰に手を当てたその時点で赤面されてしまって。アクアはいっそ微笑んでいた

 これ以上ないくらいには浄化されていた

 

「むむっ。お兄ちゃん、わたしのこと嘗めてるでしょ!?」

 

「嘗めてなんか……ないが?」

 

「自信ない感じじゃない!」

 

 えい、と兄の腰にすがり付くように手を回す

 ぐえっ、とアクアはいろんな意味でダメージを受けていた

 

「も、もうこのまま揺れようよ」

 

「ええ……?」

 

 言いながらも妹の背に手を回して揺れていた

 互いの鼓動がわかって気が気でなかった

 

「本当にルビーはお兄ちゃん大好きなんだねー」

 

 星野アイはやはりこれを痛恨のスルーした

 クリソベリルは苦笑いを浮かべてしまっていて

 

「ど、どうかな……? お兄ちゃん?」

 

 ひょこ、と顔を出される。母譲りの長い睫毛にまるで宝石のように輝く瞳が今は蕩けて溶けだしそうにも思える。押し付けすぎたのか通った鼻の頭の方がやや赤らんでしまっていた。唇は艶っぽく光って見えていて。近くで見てしまうと、どうしてもときめいてしまう。やはり狂わざるを得なくなってしまっていた

 

「うまいうまい」

 

 アクアの語彙はもはや消失してすらいた

 うふふ、とルビーは擽ったそうに笑っていて

 

「やった! だーいすき!」

 

 何度目かわからぬ告白をされる

 うんうん、と頷いてからその華奢な体を抱き締めていて

 

「俺も大好きだ……ルビー」

 

「……嬉しい」

 

 吐息と共に溢されて。ゆっくりと揺れていた

 おー、と星野アイもこれには唸るまであった

 

「わたしも混ぜてーっ!」

 

 突進するところからやるらしく、星野アイは駆け出して手を広げる

 やがて母の手は息子と娘を捉えた。三人で笑みを向けあっていて

 クリソベリルは前で手を重ねただ穏やかに見つめていた

 

「クーちゃんもおいでよー! アクアを団子にしちゃおう!」

 

「あ、アイ……!」

 

 そんな声をかけられてしまってやや迷ったが、クリソベリルはゆっくりと歩み寄っていた

 アクアはわかりやすく動揺していた

 

「……その、苦しくありませんの?」

 

 首を横に振る。そうですの、と最早日本語すらままならないアクアに困ったような笑みを向けていて

 長い睫毛に栗色の瞳が爛々と輝く。高さのある通った鼻筋はどこかの絵本から飛び出したのだと誤解すらしてしまえた。唇は張りがあり柔らかそうに見えていて。近くで見ると庇護欲を掻き立て思わず抱きしめてしまいたくなるような魅力があった

 

「──今さら遠慮するなよ、クリソベリル」

 

「あら。アクアくんもそんなこと仰るのですのね?」

 

 えいですわ、とクリソベリルが軽く引っ付くとアクアは瞳を震わせて頬を染めていた

 結局アクアを中心に音楽関係なくしばらく回っていき、勢い付いて誰がともなく目を回すまで続いた

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