おしのこ!   作:すさ

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B小町

 ルビーは鏡に写る自分の姿を星野アイと重ねる

 まだ、全然届いてないように見えていた。しかし、踊らなければならない

 クリソベリルの拍手の音に合わせて有馬かな、MEMと息を合わせて踊る

 

 JIFの頃とは比べ物にならない緊張感があった。ただでさえいきなりドームは一足とびの偉業で星野アイの力なくして実現は不可能なものだった

 星野アイ引退ライブに託つけたおまけではいけない。そう考えると責任が重くのしかかってくる

 躍りもどこか精彩を欠けてしまう。ルビーはほんの少しがっかりとしていた

 

「──あんたまぁたつまらないこと考えてるんでしょ?」

 

「そ、そんなこと……」

 

 水分補給の最中に有馬かなからそんなことを言われてしまって言い淀んでしまっていた

 

「先輩は……気にしなさすぎで」

 

「言わなかったっけ。わたしは貰えるものは貰う主義なの」

 

 あまりにばっさりと切られるものだからすっと目を細めて、ふぅんとどこか反抗的な態度とってしまってもいた

 

「たった三人しかいないんだから。あなたもしっかりしないと星野アイに食べられちゃうわよ?」

 

 有馬かなはそう言ってから立ち上がり背中を見せる

 不思議とその背は震えて見えた

 

「なんだか不器用だよねぇ」

 

 MEMのそんな言葉にルビーも笑みを溢してしまっていて

 目が覚める思いをした気がした。頑張ろう、と意識を切り替えて立ち上がった

 

 曲に乗って踊る。やることはJIFのころとはそこまで変わらない

 むしろ出来る曲数事態は限られているから練習量としては楽にも思えてしまう

 そもそも、今回の主役は星野アイであることは間違いない。新生B小町をアピールする絶好の機会には違いないがやはり求められてるものは大きくも思えていた

 

 そんな折、B小町との合同練習の日はあっという間に訪れた

 星野アイを先頭に三人がレッスン室に入室する。簡単に自己紹介を済ましてから各々の顔を見る

 確かに星野アイほどのものは感じられない。しかし、だからといって油断して良い理由にはならなかった

 

「みんなでアイドル歌ったぶりかな。興味はあったしあのままさよならとかじゃなくてよかったぁー」

 

「わかります。面と向かってすぐさよならとかなんだか寂しいですからね」

 

 そう語る生真面目そうな彼女は隣のややふんわりとした雰囲気の女性と笑みを向け合っていて

 ああこの人達もいなくなってしまうんだ、と寂しくなる思いは隠せなかった

 

「何回か顔合わせると思うけどね、私は……別に芸能界と縁を切る気はないから」

 

「えぇー。なにそれ肖りたいですー!」

 

「そうだそうだー。わたしらも混ぜろー!」

 

 あはは、とその人は笑っていて。ああ、と察する

 ルビーがルビーである以前から見たことがある顔であった。世間が星野アイを知るずっと前から見つめてきてくれたそんな人だった

 

「──あっ。私の顔に何か付いてる?」

 

「い、いえ……そんなことは」

 

 そっか、とその人は目を落としていて

 綺麗で凛々しい顔立ちの人だった。とても30代の顔には思えぬ顔を向けていた

 

「やっぱりアイにどことなーく似てるね」

 

「えー、ほんと? さてはわたし可愛すぎるねー?」

 

 ずばり言われて。星野アイはすかさず誤魔化す

 あはは、と母に遅れて娘は一緒に笑っていた。こっそり冷や汗をかいていた

 

「私がここで学んできたことも全部教えるから、着いてきてね」

 

 その真剣な眼差しに圧倒されながらもルビーは大きく頷く

 きっと学び取ることは多い。有馬かなとMEMの顔もどこか引き締まって見えた

 

「──なんかルビーに教えるんだってみんな張り切っちゃって」

 

 ふふ、と星野アイは笑みを作っていて。ルビーはただその瞳を見つめ返す

 その輝く瞳は二人だけにわかるように細まっていて

 

「……アイ様」

 

 ルビーは胸の前で両手を組んでいた

 どんなことがあっても、星野アイは推しだった

 

「はーい、わたしの好感度がたくさん上がったよー」

 

「わたしの好感度ももれなく付いてきました」

 

 そんな二人の声がいっそ可笑しくて。笑ってしまっていた

 その日は顔合わせだけの予定だったけど、新旧入り交じって踊ることも出来てしまった

 

 練習が一段落して。クリソベリルがレッスン室に入室する

 どかっ、と澄ました顔で氷入りのバケツを置く。冷えたスポーツドリンクを持ってきていた

 

「お疲れ様です」

 

「助かるー。ありがとねークー姉さん」

 

 ルビーはこれに真っ先に駆け寄って。氷の中にあるペットボトルを掴んだ

 

「貰うわねベルさん」

 

「頂きますねぇ。クリソベリルさん」

 

 有馬かな、MEMもこれに続き。他三人が後から取る

 

「ありがとねー。クーちゃん」

 

 星野アイは最後に向かって顔の横にペットボトルを当てていた

 ふふ、とクリソベリルは思わず笑みを溢していて

 

「あれが……クリソベリルさん、ですか」

 

「アイちゃんの……イイ人!」

 

 どこか冗談めいた二人の反応ではあったが、なんだか凄まじい誤解を受けてるとルビーは呟かざるを得なかった

 バケツを持って早々に撤退するその背を星野アイは目で追っていた

 

 合同練習が一段落して。星野アイを含む四人とルビー、有馬かな、MEMはソファーに座ってクリソベリルにもてなされていた

 

「座ってるだけでなんか出てくる……?」

 

「わたし間違ってた……クリソベリルさんがアイちゃんをって思ってたけど。これはハマるかも」

 

 二人はぐでーんとなって即落ちしていた

 なんやかんややってくれる環境には慣れていない様子でもあった

 

「……私は元から感謝してたよ。クリソベリル、あなたに」

 

 その人は貰った紅茶缶に目を落として溢していた

 そうなんですの、とやや困惑しながらもクリソベリルはいつになく真剣な眼差しを向けていて

 

「──アイは、絶対にわたしたちの前では弱みは見せないから」

 

「……」

 

 求められるようなそんな目を向けられて星野アイは目尻を下げてしまう

 理想の星野アイを演じること。それはずっと意識し続けていることでもあった

 

「──それはどうなのでしょうか?」

 

 すっ、とクリソベリルは目を細めていて

 前で組んでいた手を握る

 

「あーちゃんは……星野アイさんはあなたたちと踊る時、本当に楽しそうな顔を浮かべる。本当に成し遂げたような顔を浮かべますから」

 

「──そうなの、アイ?」

 

 嘘を言ったつもりはないにせよどこか語気が弱くなっていってしまい、その人は見破るように聞き返していた

 

「うーん。わたし、よくわからないかも!」

 

 クリソベリルを一瞥してから星野アイは柔らかな笑みを向ける

 そっか、とその人はあまり詮索せず笑顔を作っていた

 

「ベルさんのそれは単純に付き合った年数の違いって感じよね……?」

 

「アイ様とクー姉さん……わたしはもう慣れちゃったけど慣れちゃいけないんだよね」

 

 ぽつり、と有馬かなが溢すとそれにルビーも便乗する

 なるほどねぇ、とMEMはそれにただゆっくりと頷いていた

 

「──ねぇ。クーちゃん」

 

「……なんですの?」

 

「わたしだって、ちゃーんと感謝はするんだよ?」

 

 大好き、と唇だけで言っていた。二人はしばし見つめ合ってすらいて

 あーあ、なんて声が上がっていた

 

「いいなー……わたしもアイちゃんからたくさんたくさん愛されたいなー」

 

「明らかに良いところだから黙ってましょうねー?」

 

「二人ともやめてよ。私笑っちゃうから!」

 

 二人に目を向けて可笑しそうにその人は笑っていて、星野アイもつられて笑ってしまっていた

 このやり取りだけで四人の結束が感じられるようで。クリソベリルも自然と表情が柔らかくなってしまう

 

「みんな……みんなありがとう。こんなわたしを、支え続けてくれて」

 

 星野アイはそんな人たちに囲まれて瞳を輝かせながら微笑んでいた

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