おしのこ!   作:すさ

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おしのこ!

 パチリ、と目を覚ます。じっとりと額に汗が滲んだ

 はぁ、と肩で息をして片手で汗を拭う。端末を確認してから、すっと目を細め布団からでて立ち上がった

 

「おはようございます。お母様」

 

「おはよう、クー」

 

 顔を洗ってすでに起きているミヤコに挨拶してからお茶を淹れてPCを立ち上げる

 そんなことをしていると奥から斎藤社長と一緒に星野アイが現れた。斎藤社長が手帳を見ながら今日の予定を話していてそれを星野アイはうんうん、と歩きながら聞いている

 着替えはもう済ませていて、クリソベリルよりもずっと早く起きていたことが伺えた

 

「いってくるねークーちゃん、ミヤコさん!」

 

 手を振ってから斎藤社長と事務所を後にする

 クリソベリルもこれに手を振り返し見送っていた

 

「おはよう」

「おはよー」

 

 間もなく、アクアとルビーが起きてきて顔を洗って手を洗う。ミヤコが作ってくれた料理を食べて歯を磨いてから制服に着替えていた

 

「忘れ物ないか? ルビー」

 

「えーと……うん、大丈夫だよお兄ちゃん」

 

 ハンカチよし、とスカートのポケットをまさぐって確認する

 制服のリボンが曲がっていたのでアクアが片手でつまんで直していた

 

「いってくる」

「いってきまーす!」

 

 兄の腕を取り元気に出ていく。クリソベリルはアクアとルビーに手を振った

 事務所にはミヤコとクリソベリルだけが残っていた

 

「お母様」

 

「……なあに。クー」

 

 言うか言うまいか迷って。口を開いた

 

「わたくし、あーちゃんとルビーちゃんのドームライブいけないかもわかりませんわ」

 

「──どうして?」

 

 それが心底意外だったのか探るような声を出していて。うーん、とクリソベリルは唸った

 返答に困ってもいた。釈然としない反応に母はふぅ、と息を吐いていて

 

「あなた、ずっとずっと見たがってたじゃないの……どうして急に」

 

「外せない用を思い出してしまって……残念ですわ」

 

 声を落とす。クリソベリルとしても不本意そうでもあった

 そう、とミヤコは目尻を下げてしまう

 

「──席は確保しておくから気が変わったら言うのよ?」

 

 ありがとうございます、とクリソベリルはPCごしに母に笑みを向けた

 その日の業務の進みはどこか滞って見えた

 

 

 

「ただいまー!」

 

「お邪魔しまーす」

 

「こんにちはー」

 

 ルビーが有馬かなとMEMを引き連れて帰ってくる

 おかえりなさいまし、とクリソベリルは笑みを向けていて

 三人はもう本番も近いためそのままレッスン室に直行していた

 

「ただいま」

 

 ルビーに遅れて舞台稽古帰りのアクアが帰ってくる

 そのころには辺りはすっかりと真っ暗になっていて。しかしその顔はどこかやりがいに溢れたものに見えた

 

 おかえりなさいまし、と例の如く挨拶をする。アクアはそのままどっかりとソファーに座った

 クリソベリルはデスクから離れてマグカップにお茶を淹れるとアクアの前に置く

 

「ありがとう」

 

 言いながらアクアは端末を操作してあかねとビデオ通話していた。そうしていると大体の練習を終えた三人がレッスン室から戻ってくる

 ルビーは首にかかるタオルで汗を拭いていて。アクアを確認すると早速兄の隣に腰を降ろした

 

「──おかえり、お兄ちゃーん!」

 

「はいはい。ただいま」

 

 簡単に挨拶を済ませてから笑みを向け合う

 やれやれ、と有馬かなはソファーに腰を降ろし。その隣にMEMも腰を降ろした

 

「一つ、よろしいですの?」

 

「……クー」

 

 対面に座るミヤコに心配そうな顔をされる

 クリソベリルは目を落として少し考えたようにしてから口を開いた

 

「みなさんからお誘いを受けておいて何ですけれどわたくし、ライブの日に行けないかもしれませんわ」

 

 ええ、とのルビーの声が事務所内に反響する

 ──星野アイとルビーが共演する舞台。そしてそれは星野アイがアイドルとして飾る最後の舞台だ

 信じられない、と目を見開いていた

 

「クリソベリル。本当に良いのか?」

 

「──良い悪いといったら最悪ですわ。わたくしも非常に残念でなりませんの」

 

 アクアがオフィスチェアに座るクリソベリルに目を向けてから俯いた

 がっかりするだろうな、と溢していて

 

「……なにか理由があるんですよね?」

 

 アクアの端末に映るあかねからそんなことを訊ねられる

 クリソベリルは曖昧な笑みを浮かべてから首を左右に振っていた

 

「困ったら意味深に笑うのやめたら。ベルさん単純なんだから出来てないわよ」

 

「まあ。かな先輩ったら」

 

「……もう先輩いらないから。わかった?」

 

 目を丸くするクリソベリルに有馬かなは顔を赤くして懸命な声をあげていた

 

「もっといってやってくれ有馬」

 

 アクアに名指しで賛同され。ソファーの上でびくり、と飛び上がる

 クリソベリルはただ遠くをみていた

 

「本当にいいの、クー?」

 

「お母様……わたくし、お母様の子供で幸せでしたわ」

 

 まぁ、とミヤコは片手で口を覆っていた

 どこか深刻そうな顔を浮かべていて

 

「ああ、わたくし……この戦いが終わったら結婚するんですの。北斗七星の側で光る星が見えますわ。あーちゃん……後は頼みますわね」

 

 祈るように両手を組んでクリソベリルはソファーに深く腰かける

 ただただ遠い目をしていた

 

「なんか死亡フラグ乱立しだしたぞ」

 

「いよいよキてるねぇ」

 

 MEMがソファーに深く腰掛け直して嘆くアクアの方に顔を向けた

 アクアは片手を頭にやってから迷った末に有馬かなに自らの端末を預けた

 

「えっ。ちょっなによっ!」

 

 半ば押し付けられる形ではあったがこれを有馬かなは受け入れていて。クリソベリルに歩みよりその顔を耳打ちするように近付けた

 

「なあ……もしかしてあいつ関連なのか? クリソベリル」

 

「あいつがどいつかは定かではありませんけれど一つ確かなのは……決着はわたくしが着けるということですわね。あなたの手は煩わせません」

 

 目を鋭くさせてから、ぎちぎちと片手を握っていた

 その横顔を見てアクアはため息をついていて

 

「──母さんはこのことを?」

 

「知らない方が幸せなこともありますわ……それに、勘違いで終わることもありえますから」

 

 アクアは考え込むような顔をしてから小声で訊ねる

 対してクリソベリルはどこか悟ったような口調で目を向けていて

 

「やっぱり仲良すぎない……? あれに勝てる?」

 

「もしもかなちゃんなら勝てそう……?」

 

 ひそひそ、と話し合っている有馬かなとあかねの二人がいた

 有馬かなとあかねが狙うアクアの間によく分からないけど星野アイとやたら親しいクリソベリルが挟まり、二人は一周回って仲が良くなりつつあった

 

「わたし、納得出来ないよ。クー姉さんが見てくれないなんて! そんなのやだからね!?」

 

 ルビーがクリソベリルの二の腕にすがり付く

 ふ、とクリソベリルは儚げな笑みすら浮かべていて

 

「わたくしが死んでも代わりはいますわ」

 

「マジにいい加減にしろよ。ふざけてるのか真面目なのかどっちなんだ」

 

 妹の後ろで眉間に皺を作り腕を組んでいた

 アクアに本気で怒られてぴくり、とクリソベリルはして

 

「ルビーちゃん。晴れ舞台、どうだったのか……あとで是非教えて下さいましね」

 

 ルビーの肩に手を置いて微笑む

 それを聞いてはなおもすがり付くようで

 

「や……やだぁ! クー姉さんが見てくれないとやだもん! アイ様だって絶対そういうもん!」

 

「……大丈夫。わたくしを信じて集中してくださいまし。折角の催しです。楽しくなくてはそれこそみなさまがガッカリしてしまいますわ」

 

 なんかようやくマトモめいたこといったな、とアクアは溢していて

 ルビーは涙目になりながらその栗色の瞳を覗いていた

 

「……この通り家族ぐるみなのよねぇ。あんたも大変だわ」

 

「諦めちゃダメだよ!」

 

 そこうるさい、とアクアに注意されてしまう有馬かなとあかねがいた

 よく考えるとベルさんアクアと近くない? 、思わぬ伏兵だね、という共通の話題で最近急接近したばかりなので距離感が掴めていないところはあった

 

「やだ。絶対にやだもん……」

 

 クリソベリルは人差し指で受け止めるようにルビーの涙を拭った

 ルビーは堪らず、クリソベリルを抱きしめていて

 

「見てくれないとこうなんだから……!」

 

「……困りましたわね」

 

 ルビーの背中を叩きながらクリソベリルはその日を思った

 アイとルビーが共演するそんな晴れ舞台の日を。夢見ていた

 

「ただいまー!」

 

 事務所の扉が開かれて元気よく挨拶する。ほぼ全員の注目が集まった

 星野アイ。一際輝く瞳を持つその人と草臥れたように背を丸めながら斎藤社長が入室する

 クリソベリルは未だに抱きしめてくるルビーの肩を軽く押して離れさせてから潤んだ瞳を覗くように見つめ、ただ静かに頷いた

 

「おかえり、アイさん」

 

「おかえりなさい、アイ様」

 

 うん、とアクアとルビーに満面の笑みを向けてから帽子を投げる

 丁度膝に収まりクリソベリルは小さく息を漏らしてから片手で掴んで立ち上がった

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