おしのこ!   作:すさ

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おつき様は恋させたい ウルトラロマンティック

「わたくし、晴れてあーちゃんと映画デビューですわぁ!」

 

「マジか。いいとこ◯本新喜劇だと思ってた。大丈夫なのか……?」

 

「よかったね、クーちゃん」

 

 クリソベリルは今日も星野家にいて叫んでいた

 アクアにルビーもそれは驚きを隠せないようで

 

「……エキストラだから大丈夫、だと思う」

 

 ぽつり、と星野アイは原作“おつき様は恋させたい”を読み込みながら告げた

 その顔はどこか力なくて。その実、申し訳なくさえ思っていた

 

「わたくしあーちゃんと共演することになっちゃいましたわぁ!」

 

「……そうか」

 

 アクアはなんとか言葉にしたがあっ、とルビーは言葉を失ってしまう

 星野アイも遠くを見るような目をしていて。机にコミック閉じて置いた

 

「主人公のおつきちゃんなんだけど上が言うにはおつきちゃんに取り巻きがいないのはむしろ不自然だって思ってたみたいで。そこはエキストラ呼んでなんとか済ませようと思ってたみたいなんだけどそんな折にクーちゃんが見つかっちゃって……ああ、最悪。どうしてそんなことするの。クーちゃんをそんな……失敗した。変な監督だなとは思っていたけれどこんなことになるなんて。わたしどうしたら。あれ、というかこれわたしのせいだよね? わたしが──」

 

「母さん落ち着いて」

 

 目が死んでいた。滅茶苦茶推しが動揺していることは明らかだった

 アクアはとりあえず落ち着かせた

 

「監督さんにはそのままのわたくしで良いと言われまして。まぁそれでしたらと受け入れてみました」

 

 クリソベリルは天井を指差してそんなことを言っていた

 アクアは深く頷いてからやや首を傾げる

 

「……エキストラっていうと台詞はないってことだよね? 賑やかしって言い方はあんまりだけど確かに向いてるといえば向いてるかもしれないな」

 

 そうですわね、と頷いている。クリソベリルはいつも通りだった

 ふぅん、とアクアは溢して。ルビーもコップに注がれたジュースを一口しながらうんうん、と頷いていた

 

「ああ、どうしよう。クーちゃんがわたしのバーターだなんて思われたらどうしよう……」

 

 床にのの字を書いてどよん、としている人がいた

 いつも輝かしいばかりに光っている星野アイがそこまで落ち込んでいる姿はアクアとルビーをして初めてみる姿で。そこまでか、と衝撃を受けていた

 

「えっ。へぇ? わたくしようやくあーちゃんに食べてもらえますのね!」

 

 それはいっそ語弊がある表現から始まった

 

「クーちゃん、そうじゃないよ。あなたはもしかしたら、みんなに笑われちゃうかもしれないし。傷付けられちゃうかもしれないし──」

 

「わたくし。そういうの、どんとこいですわ」

 

 へ? と星野アイは目が点になっていた

 うふふ、とクリソベリルは笑う

 

「わたくし役者になるの……というか、あーちゃんと共演するの夢だったんですの! 叶っちゃいましたわ! わたくし、それが叶うならへちまの真似でもしてやりますわよ!」

 

 クリソベリルは両手を広げて胸を張った

 へちまって、と星野アイは思わず笑みを見せてしまう

 

「一度は……というより何度も破れた夢でしたけれど。こんな機会もう二度とありませんわ。そう思いませんこと? あーちゃん」

 

「……。そっか」

 

 星野アイはクリソベリルに手を取られる。その手はいつも温かく親しみ深いものであった

 どうしてもと。それ意外はスカウト飲まないとまで言って社長に二人同時に拾われて。星野アイとは対照的に何度も何度も破れた夢なはずだった

 クリソベリルがそれでも折れなかったのはやはり自分の存在が大きかったことだろう。それは星野アイをして、想像できることだった

 

「……これたまにある絶対戻ってこないやつだ」

 

「……やらせてあげようよ。慣れない役もらってなんやかんやストレス貯まってたんだよママも」

 

 アクアとルビーはなにかを察してコップに注がれたジュースを二人して飲んで生暖かい目線を向けていた

 そうだな、とアクアは深く頷いた。迷子みたいになっている推しを見てはなにも言えなくなっていた

 

「そんなことないって言いたかったよ。わたし……ごめんね、クーちゃん」

 

「大丈夫です、あーちゃん。わたくしの心配よりもご自分の心配をして下さいまし」

 

 あああ。とついに星野アイは堪らなくなったようで。クリソベリルの薄い胸の中で泣いた

 クリソベリルはそんな彼女を優しく抱き締めて背中を叩くのだった

 

「……こういうのってなんていうんだっけ?」

 

「お姉さまでしょ」

 

 そっか、とアクアは微笑んでいた

 よかったねママ、とルビーもなぜかほろりときていた

 

 

 

「滅茶苦茶スッキリしました。ありがとうございました」

 

「……わたくし。全然全く気にしてませんわ」

 

 結局二人して土下座していた

 類は友を呼ぶ。アクアもそう溢さずにはいられなかった

 

「クーちゃんさ」

 

 えぇ、と起き上がった星野アイに顔を会わせようと顔を上げた

 しかし、その双眼はいっそ信じられないくらいには黒く光っていた

 

「──なんかあったら言ってね。わたし、自信がある。どんな相手でも冷静に対処できると思うんだぁ」

 

「……なにかありましたらね」

 

 くす、とクリソベリルは笑みを向けた

 彼女の笑顔が消えようものならわたしは何をするか自分でもわからない。今さらだが星野アイはある意味でクリソベリルという存在も弱点と化していた

 

「くそお、俺も母さんにそういうこと言われたい……っ!」

 

「黙ってなさい」

 

 アクアが羨ましがっている横でルビーは細目で睨んでいた

 はぁ、と大きく溜め息をついて星野アイは立ち上がる。そろそろ夕食にしようと思っていた

 

「あっ。あーちゃん。よろしかったらわたくしが作りますわよ?」

 

 ……。星野アイは一瞬固まった

 そっか。うっかり天国の檻から檻ごと落っこってきちゃったんだね、と確信すらした

 

「……お願いしても良い?」

 

「はいですわぁ!」

 

 星野アイは手を組んで小首を傾げた

 そんな彼女にクリソベリルは早速腕捲りをして、手袋を外したのだった

 

「オムライス……」

 

 ぽつりと星野アイが溢す

 どんどんどん、と運ばれたそれはオムライスだった

 どこか不格好だけど、ちゃんと形にはなっていて

 

「オムライスか。こんな器用なことできたんだな、クリソベリル」

 

「わたくしオムライス一筋ですの」

 

 アクアの指摘にクリソベリルの笑顔がやや曇った

 へぇ、とアクアは感心したように溢していて。スプーンでさらって口に運ぶ

 ほう、と一口食べると唸っていた。オムライス一筋と言うほどはあったらしい

 

「うん。とってもおいしい! クーちゃんありがとう!」

 

 スプーンで一口掬ってのルビーの一言だった

 いえいえ、とクリソベリルはくねくねしていた

 

「アクア。またあーんしてほしい?」

 

 そうだ、と思って星野アイは食を一回止める。アクアはやたらあーんすると喜ぶことを見抜いていた

 母からすると親しみを込めてそんなことを言ってみただけなのだけど。いやいや、とアクアは赤面して首を横に激しく振っていた

 

 そっか、とやや残念ながらスプーンで掬って一口食べる

 つらい時、悲しい時、アクアとルビーがまだお腹にいた時。こっそり作ったことや無理矢理作ったこともあって。しかしその味は変わらず星野アイの前にあった

 

「懐かしい……懐かしいなぁ。オムライス」

 

 星野アイのスプーンは進んでいた

 ただひたすらに口に運んでいた

 

「……。なぁ、クリソベリル」

 

「なんですの?」

 

 アクアは半分くらい食べたところでクリソベリルを見る

 彼女はやや首をもたげていて

 

「おまえの分どうした?」

 

「えっ。ないですわよ?」

 

 バカ野郎、とアクアは溢した

 星野アイとルビーすら顔をあげていて。信じられないものを見る目をしていた

 

「えっ。だって炊飯器に三人分しかありませんでしたし。まぁ最悪わたくしは帰ってお夕飯なんてこともできなくは──」

 

 クリソベリルのそれはたまに暴走した

 美味しく食べたあとに結局キッチンに星野アイが立つことになるのは言うまでもなかった

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