おしのこ!   作:すさ

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おまけですの

「ねぇ、クー」

 

「はい。お母様」

 

 クリソベリルはPCからひょっこり顔を出す。側にはファイルや書類が積まれてはいるもののすっかり目の下の隈が改善したミヤコの笑みがそこにはあった

 

「あなたにバラエティの仕事を頼みたいのだけれど」

 

「へ……?」

 

 オフィスデスクの上に両手を組みながら肘を突く

 クリソベリルはぴえヨンとの配信は多いものの最近は裏方に徹していて、メディアの上ではこれといって爪痕を残すことが出来ずにいる。降ってわいた話にも思えて目を丸くしながらも次の言葉を待った

 

「迷走衆って知ってるでしょう?」

 

「んえぇっ!?」

 

 クリソベリルは大きく慄いた

 迷走衆。それは謎のサングラス集団から一定時間逃げると賞金を貰えるそんな素敵な番組であり、クリソベリルもよく知っていた

 

「正確には私たちの事務所から六人までって話が来ていて……アイでしょ、アクアにルビーと有馬ちゃんMEMちゃん、あなたで調度六人じゃないって思ったのよね」

 

「あの、それは。大丈夫なのでしょうか……?」

 

 実質独占なのではであるとか自分が出ていいのかであるとか様々な懸念がありクリソベリルは難色を示してしまう

 うふふ、とどこか悪い笑みをミヤコは浮かべていて

 

「アイとアクアはマストでB小町が出たら数字取れるよねって。誰か一人出したいなら出して良いって話だったから」

 

「……そんな貴重な一枠に、わたくしが?」

 

 そうよ? と悪びれもせず頬杖を突いていた

 えぇ……とクリソベリルは零してしまう

 

「みんなで共演できるなんて早々ない機会だとは思わない?」

 

「……それはそうですが」

 

 おずおずと言うとうんうんと頷いて朗らかな笑みをした

 

「賞金で焼き肉でも食べましょ?」

 

 まるで勝利を疑っていない笑顔を向けてきた母にはクリソベリルはただ苦笑いを浮かべるしかなかった

 

 

 

 各々何となくストレッチするなり、軽くランニングするなり、エアロバイクを使うなりして準備を固め迷走衆当日に至る

 

「ベルさんにくっつけば良いのかな……?」

 

「どうかな。あんまり固まるとヤバイかも。ミッションによっては閉鎖されるエリアとかあるし」

 

 そっかぁと当日合流したあかねはアクアに頷く

 あかねは隠れることを視野に入れガチ目に考えて紺のジャージに身を包み、水色のジャージに身を包んでいるアクアと共に地図を睨んでいる

 

「ぜーったいにお兄ちゃんと逃げ切ってやる……!」

 

「鼻の下伸ばしててあったまくるわ! 目にモノ見せてやりましょう、ルビー!」

 

「……燃えてるねぇ」

 

 桃色ジャージのルビーが白色ジャージの有馬かなと謎の結束を固めているところへ黄色ジャージのMEMが挟まれていた

 二人の熱気にたじたじといった様子ながらも一人黙々と手首や足首を回している

 

「……みんな楽しそうだね。クーちゃん」

 

「ええ」

 

 星野アイはルビーと同じく桃色のジャージ姿でクリソベリルはいつもの如く貴族令嬢衣装のまま少し遠くからその様子を眺めていた

 

「……クーちゃんとなるべく一緒に逃げたいな」

 

「わたくし、あーちゃんの盾になる覚悟ですの」

 

「……そっか」

 

 風で靡く金髪が朝日に被り少し眩しい。星野アイはその横顔を見上げて口を真一文字にする

 

「ちょっと離れて行動してみよ?」

 

 折角ですからね、とあっさりと了承をすると星野アイは嬉しそうに笑みを作る

 

 間もなくカウントダウンが始まりゲームが始まった。二分後排出される四名の鬼から逃げるべくバラバラに散っていく

 

「えっ。うわーーっ!」

 

 そして、クリソベリルに付き合ってエアロバイク等で鍛えていたアクアが簡単に捕まるというスタートを経た

 

「ああ……そんな。アクアくん」

 

「……あのバカ。なんやってるのかしら」

 

 有馬かなにつれられてあかねは共に物陰に隠れながらしっとりとその退場を悼む

 

 所変わり、ルビーとMEMもメールに反応して端末を取り出す

 二人は見通しの良い場所で行動を共にしていた

 

「えぇっ!? お兄ちゃん確保!? そんなーーっ!」

 

「そっかあ……油断大敵だね」

 

 ルビーは頭を抱え、MEMは遠くを見つめる

 簡単には捕まらないだろうと思っていたアクアがこれだけ早く捕まってしまい、ショックは隠しきれずにいた

 

「──アクアくん。大丈夫、救済カードがあります。わたくしが助けますからね……!」

 

 一方クリソベリルは、最早カメラが追い掛けられぬほどの神出鬼没ぶりでエリアを縦横無尽に散策していて遠くの鬼の気配がわかるほど鋭い勘も有するとあってはヤバイのでは、と今更スタッフ側が審議を行うほどであった

 

 そんなこんなで与えられた記念すべき最初のミッションは──アラーム解除。迷走者の肩に付けられたアラームを二人一組になって解除するなるミッションであった

 

 ルビーとMEMは一度遠くの鬼に見つかって追いかけられたが入り組んだ道を利用することで撒くことに成功し、再び合流してアラームを解除しあう

 

「──あぁ、近いからやっちゃったけれど、ベルさん大丈夫かなぁ……心配だよ」

 

 MEMはミヤコの仕事を手伝うことや、ユーチューバーとしての交流もあるためにクリソベリルとのふれ合いが増えていてベルさん呼びするまでになっていた

 

「えっ。クー姉さんは最強だから……例えば鬼に囲われても逃げられると思う」

 

「あはは、そんなまさかぁ……」

 

 この時にはMEMにつられてスタッフもまさか、と笑う程度には冗談に聞こえていた

 

「……よしっ出来たよ。かなちゃん」

 

「危な気なさ過ぎない?」

 

 あかねが真っ先に有馬かなのアラームを解除するも怪訝な顔をされてしまう

 アラーム解除こそし返したものの、隠れる作戦が上手くハマりすぎて怖くなってきていた

 

「偶然だよ……?」

 

「……偶然なら仕方ないわね」

 

 あかねに作られたような笑みを向けられて有馬かなは仏頂面を浮かべる

 捕まる覚悟であかねを連れ出したまではよかったが、こうして危機を脱することができてしまっている。不服だがあかねと肩を寄せて隠れることを認めたようでもあった

 

「……すごい。見事に相手がいませんわ」

 

 真っ先に電話を掛けたアイにはもうやっちゃった☆なることを言われ、次に掛けたルビーには大丈夫だよ☆なる謎の激励をもらい。隣にいるらしいMEMには謝られてクリソベリルは愕然としていた

 しかしまぁ未だに鬼は四人であり最悪囲われても逃げられる自信は無くはなかったため、まぁ良いかとこれを無視しようとか考えていると電話が鳴った

 

『ベルさん相手いる……? やりましょ?』

 

 電話口から端的に述べてきたのはフリルであった

 獣のような勘を有していて速度的に捕まえられないクリソベリルとギャラと数字的に捕まえられないがなぜか解除に意欲を示さないフリルが出会い、番組が救われた音がする

 

「助かりましたわ……フリルさん。鬼を四人相手しながら二時間ほど逃げなければならないところでした」

 

 ざっと風景を説明されただけであったがクリソベリルは降り立つ。呆けた顔を浮かべながらフリルは歩み寄りクリソベリルのアラームを解除した

 

「……フィジカルギフテッド」

 

「フィジギフですの……?」

 

 いつの間にかアラームを解除してあったのを見てフリルは呟く

 ラインを交換し連絡を取り合い有馬かな経由で広まってベルさん呼びされるまで至った仲だがクリソベリルはフリルの生態をいまいち掴みきれておらず、こうして突拍子もない言葉をぶつけられると思考停止してしまった

 

「ベルさんはやっぱりすごいってこと。リスペクトしちゃう」

 

「そ、そうでしょうか……?」

 

 褒められているのだとわかり、照れ笑いのようなものをクリソベリルは浮かべる

 

「絶対逃げ切って?」

 

「ええ、頑張りますわ……フリルさんもどうかお気をつけて」

 

 互いに激励を向け合って。二人は別れる

 その撮れ高が高かったためか、それともフリルが途中から飽きて隠れるのをやめてしまったからか間もなくフリルが捕まってしまい迷走者達にも激震が走る

 

「そんなーっ! フリルさーーん!」

 

 ことにクリソベリルの取り乱しようはすごいもので大声を察知した鬼が色々と察してそちらへいかないという配慮すら見せていた

 賞金アップ系のミッション2、鬼放出系のミッション3と迷走者が減る中でも主にクリソベリルとルビー、MEMの活躍によりクリアしていき。ミッション4に移り変わった

 ──君たちの中に、鬼がいる。そんな出だしから与えられたミッションに迷走者達に衝撃が走った

 

「……なるほどね。アクアくんが簡単に捕まった訳がわかったかも」

 

「そういうことかぁ……!」

 

 顎に手を添えて感慨深そうに頷き。有馬かなも察したように頭を抱える

 二人は簡単に移動しつつも未だに仲良く隠れていた

 

「──めっけ」

 

 すっ、と物陰から星野アイが出てきた

 

「わ、いやああぁっ!」

 

「あ。かなちゃん……」

 

 あかねは半狂乱になって逃げ出した有馬かなの背を見送りつつ。星野アイと視線が交差する

 ふっといつか誰もを魅了した柔らかな笑みを向けていて

 

「……逃げないの? あかねちゃん」

 

「その……はい」

 

 ぽん、と肩を叩かれて。あかねはあっさりと星野アイに確保された

 なんか調子狂うなぁと星野アイは思いつつあかねと共に牢屋を目指す

 

「よく考えたらアクアくんが牢屋にいますし寂しくありませんよね!」

 

「なるほどねー!」

 

 カメラの回ってない所でそんな雑談をしつつ。無事あかねを牢屋まで運ぶ

 あの後すぐに別の鬼に捕まりしょんぼりしてる有馬かなとも合流し、いよいよ牢屋は大所帯になっていく

 

「出たな救済カードミッション……ッ!」

 

 メールに反応したアクアが言うと皆も端末に注目する

 牢屋の投票で高かった迷走者一人を鬼の集まるエリアにて最大四枚ある救済カードを持ち出すなるミッションだった

 勝ったな、とこれに頷くのはアクアである

 

「あっ、わたしクリソベリルさんにしよ」

 

 牢屋に入るほぼ全員の意志がフリルによって決まり。選抜して来たクリソベリルが特別会場に来た

 クリソベリルかよ、と流石にヤバさを体感し本気を出してきたスタッフから13人もの鬼の中に放り込まれるなることを聞かされたがクリソベリルはこれを静かに頷くことで承諾する

 

「わたくしが……すべてを取り戻しますわ」

 

 スタートのボタンの前に立って息を整える。ボタンを押すとバーが上がり、平日の交差点の如く蠢く鬼の中にクリソベリルが一人解き放たれる

 中腰でもクリソベリルは速い。完全に鬼の目を盗み、一枚目に至る

 そもそも見付かって誘導してしまえば良いのだ。そう気付きわざと見付かってから何人か引き付けつつ角に追い詰められたと思わせつつ障害物の上を飛び越しこれを撒く。そうして警備が薄くなった所で二枚目を確保し、直ぐ側にあった三枚目も危なげ無く確保した

 

「来ると思ったよ」

 

「くっ……あーちゃんも悪の組織に洗脳されたのですのね……!? 許し難いですわ!」

 

「うんうん、そんな感じかもねー」

 

 星野アイは鬼であるということは事前に知らされていたものの設定は詰められておらず割と普段通りに楽しんでいた

 花を持たせようとしているのか普段は看破するようなフェイントに見事に引っ掛かりやられたー、とあっさりと負けを認めるじゃれ合いを見せてその後ろにある四枚目を確保する

 瞬間鬼に囲われて逃げ道を無くしたように思えたが鬼の頭上を軽く飛び越えて入口に着地し、ボタンを押す

 

「や……やりましたわっ!」

 

 ガッツポーズすると爽やかな笑みを向ける。額に汗が滲み息切れこそあったもののクリソベリルは成し遂げたのだ

 鬼が蠢く中で四枚の救済カードを持ち出し自分も捕まらないという番組でも二度と見られないであろう快挙だった。もはやスタッフ全員が笑うしかない状態に陥っていた

 

「じゃあじゃあ……アクアくん。フリルさん。あかねちゃんにかなちゃん先生でお願いしますわ!」

 

 先生言うな! と有馬かなに突っ込まれつつ。四人は牢屋から解放される

 

「俺は助かるだろうと疑ってなかった」

 

 アクアはなぜか自慢気に堂々と出てきてぽんとその肩に手を乗せる

 全幅の信頼を寄せられていた事を知り、擽ったさのあまり毛先を指で弄りだす

 

「……すごかった。アクション映画に出れそう」

 

「実はスタントマンはちょっと考えつきましたの……止められましたが」

 

 アクアに続きフリルが出てくる。なるほどね、フリルは笑みを浮かべながら二の腕辺りをつんとしてきた

 スタッフが数字が出る確信を得たため続行を下されたのはこの辺りだった

 

「……ありがとうございます、クリソベリルさん。素晴らしい演舞でした」

 

「唯一のわたくしの取り柄ですから……負ける訳にはいきません」

 

「お見逸れしました」

 

 あかねは丁寧に一礼してから迷走者側に戻っていく

 最後に有馬かなが出てきてクリソベリルを見上げた

 

「ありがとう……ベルさん」

 

「どういたしまして」

 

 短いやり取りだったがそれだけで分かり合うものがあった。パニクちゃって捕まったしもうあんたの後ろに引っ付くわとあかねに宣言するまで眺めていた

 

「よく頑張ったね。クーちゃん」

 

 声がしてクリソベリルは振り返る

 牢屋の前には桃色ジャージに身を包む星野アイが存在した

 

「年甲斐もなくはしゃいでしまいました」

 

 なによりだね、と頷いて。満足そうな笑みを浮かべている

 

「……楽しかった?」

 

「はしゃぎ過ぎるほどには」

 

 そっかぁ、と星野アイは残念そうな顔を一瞬浮かべてからクリソベリルと見つめ合うこと暫ししてカウントダウンがゼロになる

 それはインターバルの終了を意味していた

 

「──はい、捕まえた」

 

 クリソベリルは星野アイに抱き締められて捕まった

 巨星乙なるメールがアクアから届き抱擁を終えた二人が苦笑いを浮かべ合う

 

「おつかれ。またあとでね……クーちゃん」

 

 投げ掛けられる言葉に腕をまっすぐに伸ばして親指を立てて進む

 一歩一歩穏やかに進んでいき、そのまま自ら牢の中へと入っていった

 

 

 

「……なぁ。斎藤クリソベリルとクリソベリルでトレンドに並んでるぞ」

 

「はぇ……?」

 

 アクアがスマホを向けてくる。その回の迷走衆の放送終了後、ただ一人逃げ切ったアクアをさておいてクリソベリルが注目されることになりなんかお嬢様で速いやつとネタにされるまでに至った




推しの子完結記念。お疲れ様でした
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