「……星野アイ以外が微妙? ていうかおつきの側のヤツ浮いてる?」
「はあぁ? どこが微妙だっていうのよ。クーちゃんのどこが浮いてるっていうのよ! ブスブスブゥーース!」
ルビーはスマホの画面をポチポチ両手を器用に使い滅茶苦茶打っていた
「え?」
さっ、と目の前に白銀の手袋をした片手が見えた
振り向くと複雑そうな顔を浮かべたクリソベリルがいた
「お見せなさい」
あまりにもな剣幕だったためぽすん、と片手に素直にスマホを置いてしまう
眉間にシワを寄せたようなどこか見たこともない表情を浮かべていて不安になってしまう
「……こわさないでぇ」
涙目でぷるぷるしていた。クリソベリルは眉を下げてルビーを見つめる
一つ頷いてルビーの端末を片手で適当にスクロールしているのだった
「お返ししますわ。プライベートなものを……その、申し訳ありません」
う、うん。とルビーは意外に早く返って来たスマホを見た
批評らしきものをすべて見たようだった
「ルビーちゃん。今後わたくしあえて見るなとは口に致しません。節度を守って見る分には稀に……いや一生に一度くらいはそれは勇気にも力にもなることもあるかもわかりませんから」
「……うん」
指を口元にやりながらクリソベリルを見上げる
あんまりそうしていると後ろに倒れてしまいそうで。とても大きな佇まいだった
「しかし、淑女たるもの。そんな下世話な者達に心を右往左往されてしまってはいけません。そういうものはお好きな殿方ですとか、お兄様ですとか、お母様ですとかの大切な人にして差し上げなさい」
「で、でも……なんかたくさん嫌な気持ちになるの」
ルビーは返してもらったスマホに目を落としていて
クリソベリルは屈んで笑みを向ける
「その人たちはかわいそうな人たちなのですわ。リア充大爆発せしめることに人生を費やさざるを得ない状況に追いやられてしまった人たちなのです。賢いあなたならわかりますわよね?」
「……。うん、わかる」
こくり、と頷いた
ちょっと乱暴でしたわね、とクリソベリルはひとつ頷くとルビーを見て呟いた
「ごめんあそばせ。その、おスマホは壊れてませんでしたか?」
「うん、大丈夫だよ。むしろ嬉しかったかも。知ってた? 最近のスマホってとっても頑丈なの!」
ルビーは大袈裟に両手を広げる
そうなのですわね、とクリソベリルは微笑を浮かべて大きく頷いた
「妹の危機を感じた! お兄ちゃんを遂行する!」
「遅いよ」
「今解決いたしましたわ」
な、なにぃ。と狼狽えるアクアがいた
そんな今日も星野家にいるクリソベリルだった
「もはや住んでるだろクリソベリル。そこんとこどう思ってるんだ」
側を歩くアクアがそんなことを言い出す。買い物メモと買い物カゴを片手に買い出しにいく貴族令嬢がいた
クリソベリルだった。めっちゃ目立っていた
「でもクーちゃんって結局のところ家族じゃない?」
アクアの隣を歩くルビーももはや日常のように対応しているのだがおもに主婦がざわざわとしていた
貴族令嬢と良い顔の子供二人。やたら詰め込んであるのに涼しい顔で持ち上げられてるカゴ。視点が迷子になっていた
「確かに表向きはそうだったか……たまに忘れるけど」
「──どうして」
アクアがそんなことをいうものだからクリソベリルの目から一筋の光が落ちた
「もう……そうやってお兄ちゃんはまぁたクーちゃんをいじめて。大好きでしょ、もはや」
「うーんまぁでもある意味でライバルかなって……」
アクアは両手を後頭部にやって遠くを見ていた
人が散っていく。目立っていても当人たちが堂々としていればみんなそんなもんか、と思ってくれるようで
「わたくしも大好きですわよ。アクアくん」
クリソベリルは親指を立ててそんなことを言っていて
はははおもしろーい、とアクアは棒読みだった
「ふぅん、なるほどね。じゃあそういうことにしちゃおうかな」
「おいおい……そもそもまぁまぁ歳離れてるだろ」
ルビーはいっそバカにしたような物言いであった
細目になるアクアは呆れたように溢していて
「えぇ~? そうなのぉ? わたしによく似た誰かさんのことはずうぅっと好きそうだけどねぇ。同い年じゃん」
「それとこれとは全然まったく違うだろうが!」
ルビーは結局アクアの胸の辺りを指でつんつんしていた
クリソベリルは思わず気を失ってしまいそうになった
これほどの仲良しパワーを見せつけられたら堪りません。今さらだがクリソベリルは微笑ましいものが大好物だった
「──はっ。いけません。危うくトリップするところでしたわ。長女でなければ危うかったですわ」
それで忘れてしまった買い物メモを確認し直す
やめろよぉ、とか言いながら嬉しそうなアクアとつんつんするルビーがいた。まだやっていた
「人参、じゃがいも……たまねぎ。豚肉?」
「カレーだそれ!」
かくん、とカゴを確認しながら首を傾げているとアクアが指差して指摘してくる
確かにカレールーあった気がする。そっか、と買い物メモ見ながら大きく頷いていた
その後ドスン、とレジにカゴ置いてカードで払いレシートありがとうですわした。もちろん全部荷物はクリソベリルが持ち帰った
「ただいまー」
「あっ。おかえりなさいまし」
あっ、珍獣がいる。まぁた飼育員さんが檻から出しちゃったなぁと星野アイは靴を脱ぎながら思った
アクアとルビーも玄関まで走ってきた
「母さんおかえり!」
「ママおかえり!」
「ただいまぁ。アクア、ルビー……」
アクアとルビーを優しく抱き締める
それを見ていてクリソベリルは危うく気体になりかけていた。わたくし消えるんですの? と思ってさえいた
「ああもお、ちゅーしちゃうから。あっ、待ってアクア! 逃げないでアクアぁ! ママのちゅーからぁ逃げないでぇーっ!」
さっ、と身を小さくさせてどたどた、と駆ける。アクアの行動はそれはそれは速かった。全力疾走だった
ルビーは素直に唇を落とされたもののあはは、ともはや何度目かも分からない呆れがきて口の端をひくひくさせている
星野アイさんは負けていません、とよく分からない感想をクリソベリルは抱いていた
「クーちゃん」
はい、とクリソベリルは星野アイに鞄を渡された
風呂は温めてますわ。たすかる。買い物いってきましたわ。ありがとう。帰りますわ。いかないで。そんなやり取りを目だけで終えてすれ違った
この間なんと十秒にも満たなかった
「えっ……なに。なに今の、ママ?」
「ナイショー」
ルビーですら若干引いていた。実のところ星野アイもよくわかっていない
クリソベリルとの付き合いはなんだかんだ長いしそもそも思考回路が単純だからなんか攻略できてしまったのかも、とは思っていた
「……」
風呂に入り終わって。ふぁー、とターボドライヤーを髪に当てる
そのついでに星野アイはエゴサしていた。片手に収まるそれから見えるのは心ない言葉だ
ずもも、と自分でもよく分からない感情が胸の内を焦がした
いや自分のことは百歩譲っていいのだ。良いのだけどそれがあんまりないことにも腹立つ。わたしの演技は完璧ってなに、とすら思った。そしてクーちゃんのことを見てしまった。ああやっぱり、と思ってしまったそんな自分が恥ずかしかった
ごはん作らないと。頭を切り替えてドライヤーをおいて乾いた髪を櫛でとかしつつ後ろで束ねて纏めた
「……母さん大丈夫?」
主にグツグツ煮込んでいる鍋を見ながら目を死なせていた
あまりに鋭いとしまいにはちゅーしちゃうよ、アクア。星野アイは先程知った息子の弱点を利用しない手はないと考えていてしょうがないから自然な流れでちゅーしたいとも思っていた
「いただきます」
「いただきますわー!」
三人の食卓にはもはや馴染んでいる珍獣がいた
星野アイの親友候補のクリソベリルだ。およそカレーを食べるための服装をしていない
「はふはふですわ!」
「火傷しないようにね」
はい、とクリソベリルは口元にカレールーをつけながら答えた
そんな姿を見て。なんか色々どうでもよくなっちゃったな、と星野アイは食が進んだ
「……なにやってるのアクア」
「言ってなかったっけ……? 俺母さんが料理作ってくれる度に拝んでるんだ」
うへぇ、とルビーは舌を出して
あまり視界に入れたくないようでカレーの方だけ向いて食べ進めていた
「冷めちゃうよ。アクア」
「いただきます。アイ」
良い顔の良い声でそんなことを言っていた
ふふふ、と星野アイは笑みを浮かべていて。子供達が食べているところを見て自分の食は止まってしまっていた
「ごちそうさまでしたわ」
「早いねぇ。お粗末様でした」
「いえ。絶品でしたわ! 本当になんでもできますのね、あーちゃんは。わたくしも今度から拝んでもよろしくて?」
想像で拝むクリソベリルとアクアを並べてみた
それはやめてほしいなぁと星野アイは強く思って笑みを向けた
なお洗い物はクリソベリルが十分くらいですべてやってくれた