「お動物園ですわぁーっ!」
「そうだね。クーちゃん」
帽子に眼鏡、マスク姿の完全防備の星野アイが頷いた。星野家とクリソベリルは動物園に来ていた
星野アイによると前々から行きたいとは思っていたらしい。それなりに強い希望だった
「絶対にはぐれるなよ。絶対だぞクリソベリル」
「案外心配するよね。お兄ちゃんも」
「わたくし流石にあーちゃんからは離れませんわ」
なるほど、と双子の声が重なった。最近は星野アイと行動を共にしているからはぐれないとするといっそ簡単に説明がついてしまった
よしいくよー、との星野アイの棒読みがあってなんともしまらない入園をした
「あっはぁ……パンダさんですわぁ~! 何してらっしゃるのでしょうか!」
恍惚の表情で柵に引っ付いている貴族令嬢がいた
パンダがタイヤの遊具を寝ながら蹴っていた
「えぇ、うそ。寝相悪いしほぼクーちゃんじゃん。どうしよう……飼えるかな?」
星野アイはぴたり、と柵に片手をつく
真顔でそんなことを言っていた
「確かに目元とか似てなくはないけど……いや流石に冗談か。はぁー面白いなぁ、あははは!」
アクアが頑張って流していた。推しは守護らねばならぬ、そんな一途な思いを感じていて
うふふ、とクリソベリルは笑みを張り付けて音もなく星野アイの背後を取った
「ごめん。ごめんね、アクア。絶対部屋をけものの臭いになんかしないから……許して」
クリソベリルの手刀が星野アイの脳天に綺麗に直撃していた。結局母に抱き締められたアクアだったがその目の色はややしんでいた
「良いんだよ。大丈夫。少しずつ……少しずつ覚えていこうね」
笑みを浮かべてはいたが世界がモノクロになっていた
求めてはいたがこれではなかったようだった
「かわいい~っ!」
アクアは目がやや死んだがルビーはこれを堪能して目を輝かせていた
かわいい言われてるとパンダがタイヤをもっと蹴ってる気がした
パンダを堪能した一行はモルモットふれあい広場に足を運んでいた
篭にモルモットを一匹入れられる形でふれあえるのだが、これが人気を博しているようで。座るとこあるしちょうど良いよね、といった星野アイの安易な決定ではあったのだが
「──おかわいらしいですわ~!」
モルモットの背中をめっちゃ撫でていた
手袋が多少けもの臭くなっても気にならない。クリソベリルはかわいいものには弱いところがあった
「ん~?」
星野アイはモルモットを篭に乗っけられて未知との遭遇を果たした気になった
つん、と指先でしてみれば熱も鼓動も伝わるからか弱い存在なのはわかる。しかし、どうしたら良いかわからない。なのでとりあえず見つめてみた
「……?」
それはそれは名残惜しそうな顔をされてる気はする。人間ではないから表情は見えないけれど何となく目線があったりするから
モルモットは鼻をひくひくさせている。星野アイはこんなところで最大の壁にぶつかっていた。これはいよいよどうして良いかわからないと宇宙を感じていた
「くっそお、俺もたくさん見つめられたい!」
アクアは目を強く瞑り拳を震わせる
モルモットは激しく撫でられていたが返って丸くなって落ち着いていた
「いつも見てくれてるじゃない」
ルビーはモルモットの背を優しく撫でながらアクアを嗜める
それはそうなんだけどもっと見つめられたい、と兄に涙ながらに語られてしまい主に妹の目は死んだ
星野アイはモルモットに宇宙を感じてしまったからかゴリラ見に行こう、と珍しく積極的に方向性を示し。一行はゴリラを見ることと相成った
「ゴリラさーん!」
「ゴリラさーん!」
星野アイとクリソベリルが同時に休んでるらしいゴリラに向かって手を振る
施設の中のダウナーゴリラはふと星野アイとクリソベリルを一度見て顔を下げ。少し時間を要してから目線を星野アイとクリソベリルに向けていた
「すっげぇ……二度見した。さすが森の賢者」
「やっぱりわかっちゃうかぁ。ゴリラさんにも」
二人の前にいるルビーは得意顔を浮かべていた
しかしアクアは正直、脱帽していた。人間みたいだ、とはいうが同じ霊長類なのだ。わかってもおかしくはないだろう。美醜の違いまでその感覚まで備わっているのだとするともはやそれは人間よりも優れ──
「ゴリラさんかっこよろしいですわぁ~!」
クリソベリルが今一度手を振るとゴリラが腕を持ち上げた
ゴリラにゴリラ扱いされる。やりかねない
アクアはなにかを察して閉口した。別にゴリラはそんな小難しいことは考えていなかった。そういうことにしてほしい、そういう顔をした
「へぇー。人間よりずっとずっと握力があるんだってゴリラさん」
スマホに目を落としつつルビーはそんなことを溢した
文明の力を感じた一瞬であった
「そうだよ、ルビー。ゴリラは人間の10倍近くは握力があるんだ。力持ちだね」
そうだね、とルビーに素直に笑みを向けられて。アクアはまんざらでもない顔をした
年齢を逆算していくと一番の年長は実はアクアだ。本来はこういう方向でいきたいらしい
「クーちゃんはもらいますよー!」
星野アイのその掛け声でゴリラは一度胸を叩いていた
あっはっは、と星野アイは腹を抱えて笑っていてクリソベリルの背中を軽く叩いていた
「許してくれた気がする! スッキリ!」
推しが楽しそうだった
よかったね。アクア、ルビーは母に向かってひたすら穏やかな笑みを浮かべていた
ゴリラをやたら堪能してルビーの希望でゾウさんを見ることになった
確定事項だった。一行の脚は速かった
「でかいねー」
「大きいねー」
うん、と星野アイは感心してしまう
一際目を輝かせているルビーがいる中で二人の後ろで腕を組むアクアとクリソベリルがいた
「……ゾウの鼻と勝負してみたいですわ」
「なんか普通に勝ちそうで困る。こう……ジャイアントスイングじゃないけど」
ふくく、とクリソベリルは口元に片手をやって声を殺して笑っていて
おいおい、とアクアは呆れていた。クリソベリルのツボはたまに自爆するのだ
「そうだ、クリソベリル。拳を掲げてみてくれ」
えっこうですの? とあっさり片手を掲げてしまう
それはそれでどうなんだ。アクアは微妙な顔をした
「あっ、ゾウさんお鼻を上げてる! ながーい!」
「うんうん。きっと動物園の仲間がなんか上げてたから上げてみたんだねー」
クリソベリルに背中をさらしていて星野アイからは見えてないはずなのだが、そんなことを溢していて
すごいすごい、とルビーは飛び上がっていた
「……ゾウは頭が良いからたまーに人間に付き合ってくれるんだよ」
「はぁー。アクアくんは相変わらず変わったことを知ってますわねぇ! 学者さんとかいかがですの?」
流石に一発で成功した例は見たことないんだけどな。感心しているクリソベリルを横目にそう呟いた
腕が疲れてきましたわ、とか涙目で訴えるので下げてください、とアクアは敬語でお願いした
「……まぁまぁ堪能したけど。どうだった?」
星野アイがペットボトルを一口して訊ねてくる。園内で好きなジュースを買って四人はテラス席に座っていた
三人とも普通に飲んでいるが星野アイが星野アイなだけあってストロー持参の上で吸っていて
「楽しかったですわ!」
それはよかった、と星野アイは思う
たまにはみんなで実家挨拶するのも良いかもしれないよねとも思った
「……思い出は共有してこそだな」
「うん、反省してるよ。アクア」
星野アイの一言にアクアは氷付いた。珍しくルビーに肩に手を置かれていた
星野アイは常に成長し続けている。これはその片鱗でもあった気がした
「ゾウさんの鼻長かったね!」
ながかったねぇ、と星野アイは感嘆する
本日は供給過多でそろそろ消えますわ、と確信してるクリソベリルがいた
「かえろっかぁ」
そろそろ夕方だ。お腹もすいてきたので適当に何か買っておうちで食べよう、そう星野アイは決着して。アクアとルビーと手を繋ぎつつ家路につくのだった