NPCの説明を受けるに、今あるメインジョブに加えサブジョブを入れられる。事前情報通りだと喜んでいたのだが、この「サブジョブ」、思った以上に「サブジョブ」なのだ。ステータス補正をかけるだけでメインではない、と。なんと悲しいことか。それだと…
「弓使えねえじゃん」
本来の目的が達成できない。一応、魔剣士でも弓は使える。だが、それで使ったところで結局は本職に勝てない。
「スキルガーデナーってのもあるらしいし、やること多いな」
漢字では特技剪定所と書くそれは、自然に得られてかつ熟練度のあるスキル同士を連結させ、別のスキルに昇華させられるそうだ。まだやるには早いようにも感じるし、触れなくてもいいだろう。
「メインクエストがないと少し迷うけど、やっぱり敵倒さないと」
この手のゲームはいくつかの街を渡っていくうちに自然と強くなっている。だから、
そんな道筋はガン無視して変なところにでも行こう。
「やっぱりこうしなくちゃ」
目の前にいるのはなんか絶対今戦っちゃいけないタイプの首無し騎士。装備は雑魚、ステータスも弱いのに勝てるわけはない。
普通なら。
このゲームは普通じゃない。敵の倒し方が何億通りもある。そこまで自由度が高いなら、明らかに強いこいつも、倒せるかもしれない。
「そもそも首無しならどう倒すんだって話だけどね」
多分胸のところに剣刺さったら勝てるでしょ、と適当なことを呟きながら早速胸元向かって首切り包丁を差し込もうとする。相手は動かない。
「……出オチ」
カァン、と無惨な音が鳴った。このうさぎさんが持ってた包丁では、鎧を貫けないらしく、壊れこそしなかったものの弾かれた。そりゃあそうと言えばそうなのだが、もうちょっとくらい手心があってもよかったのではないだろうか。
「危な」
目の前を剣が通る。一体首がなくてどうやって位置を感知しているのか知らないが、あれは多分一発で死ぬ。掠るくらいなら大丈夫だとは思うが。その剣を一歩下がって避け、拳を握って腹に一撃入れる。
「いってぇ!!」
攻撃したのはこちらだというのに、むしろこっちがダメージを食らった。手が痺れ、つい手を振って紛らわそうとする。即座に事前に買った回復薬を飲み、HPを回復する。
「近接諦めよう」
今の攻撃力ではまともに戦えない。MPを消費し、今使える最も強い呪文である「ファイア」を唱える。
「……魔法耐性あるじゃんそれは」
まっっったく効いていない。しかも、「魔法耐性がある」とは言ったが、実際はついていない。素の状態で間に合っている。
「詰んだんだけどどうしたらいい?」
虚空に相談する。返事は当然ながら帰ってこない。近くに仮に人がいても解決はしなかっただろう。森でレベルを上げたおかげでレベル13くらいまで上がってはいるが、想像するにあちらはレベル50とかある。こちらが非力すぎる。
相手の剣が闇のオーラを纏う。あれは食らったら確実に一撃だ。後ろに下がって避けよう…。
そう考え後ろに下がろうとしたが、後ろには壁があった。トン、という壁に当たる音が悲しく響く。ゴツゴツとした壁は、絶壁のようでもあった。
「…!!」
いつの間にか追い詰められていたようだ。こちらの武器は貧弱な剣一本とカスな肉体。比べてあちらは非常に硬い鎧とその鎧すら裂けそうなほど強そうな剣。
「まずった…」
その剣が大ぶりに右から振られる。このままいけば、右の脇腹から裂かれて死ぬだろう。やっぱり格上に挑むのは馬鹿だったか。
(こんなことしても死にゲーじゃないわけだしどうしようもなかったわけか…)
そう思考した瞬間、「死にゲー」という言葉をトリガーに、とある光景が思い浮かぶ。
大弓を持った上裸の男が刀を振り、こちらはそれを受けることしかできず、火花を散らしながらだんだん後ろに追いやられる。後ろには壁があった。和製ではあれど木製のため、このまま裂かれて死ぬ。それを受けていた男は、R1ボタンをタイミング良く押す。それに連動するように、画面内の無口な男は刀を前に出す。
甲高い弾き音が鳴り、上に表示された横に長い橙色のゲージが、端っこまで行き切る。すると、大弓を持った男に赤い点が見える。次の瞬間、その刀は男の赤い点に突き刺さっていた。
レブラは即座に、致命の包丁を前に押し出した。ほとんどのアクションゲームには、この制度がある。きっとこのゲームも例外ではない…。
「隙あり…!」
甲高い弾き音が鳴り、騎士の剣が後ろに弾かれる。所謂パリィ、ありとあらゆるゲームにある、「ジャストガード」の形容。そして何より、ゲームによってそれぞれ武器の耐久値を無くしたり、敵の態勢を崩したり、反射したり、とパリィの性能とは全く変わったものになるが、どのゲームでも共通している部分がある。
「パリィ」は隙を作る。
持っていた包丁を爆速でインベントリに仕舞い、即座に走って距離を詰め、騎士の腕を思いっきり捻る。
「腕捻じ切るとかはSTRが足りないけど、ここまで捻ればお前は剣を手放すよな…!!」
剣が、落ちる。それをレブラが握る。やはり性能がいいだけあって、非常に重い。たまらず片手剣であるというのに、両手持ちになる。
「使わせてもらおう、性能がいいんだろ…!?」
口がニヤリと大きく歪む。「はは、」と笑い声が漏れる。これこそやはり、ゲームの面白いところだろう。自身の考えが通り、ものの見事に「ワンチャン」ができる…。力関係がたった今同じくらいになった。黒々とした片手剣は、実に余るほど重い。されど、それさえあればこの騎士くらいは倒せるだろう。
「レベル差…?ステータス差…?そんなの知らん」
「お前SEKIROの連戦踏破完全クリアしたことあるわけ?」
不敵な笑みを浮かべ、剣を構える。非常に重く、STRが間に合ってないことは目に見える。それでもそれを持ち、駆け出した。
「いらっしゃいませーー!!」
剣の形は違えど、夢と誇りは忘れず。
彼にとっての大剣は、見事に首無し騎士にダメージを与えた。重すぎて、一撃打つたび息が切れる。振り返れば、騎士は徒手空拳の構えをとっていた。
「ステゴロか…最悪だ」
確かにパワーでゴリ押せるだろう、レブラのようなあいつにとっての紙装甲など。近づかれたらはっきり言って負けである。今度こそ終わったか、と思ったが、レブラは諦めなかった。
「見せてやるよ…」
インベントリから最初に持っていた兵士の剣を取り出す。この技は、最初に打っても効かなかった時のリスクが大きい。そもそも隙が多いし。
「これが、魔剣士の真髄だ」
ファイア、と唱えて剣に炎を纏わせる。剣が燦々と燃える。赤黒い紋章が剣に刻まれ、煌々と光る。
魔法剣士、通称魔剣士。魔法を剣に纏わせたりすることで、攻撃力を増大させる、できることの多い役職。或いは、魔法を単体で打つこともあるだろうが、それらの器用さも含めて魔剣士である。
森での実験で、魔剣士は初期状態で魔法を剣に纏わせることができるようだと判明した。まだ弱い自分では効果時間も非常に少ないし、普通にファイア打った方が威力が高いかもしれない。
それでも、今やりたいと思っていることを再現するには絶好の特性だ。
そしてそれを走って向かって来ている騎士に向かって勢いよく、
投げる。
騎士はそれに気を取られ、腕の鎧で弾こうと腕を振るう。その隙が、天秤をひっくり返す。
「それが、隙になるってわけだ。囮だよ」
走りながらアイテムポケットを漁り、黒い剣を取り出す。相変わらず重すぎるそれを、騎士が剣に気を取られている間に両手の安定した握り方にする。
レブラの目に、幻影でも赤い大きな点が見える。それを見て口の端がつい上がる。
その赤い球は、紛れもなく俺の窮地を救った「パリィ」…いや、この場合は「弾き」だが、それを思い出させた作品「SEKIRO」における「表示されれば勝ち確定、あとはとどめを指すだけ」ということを指すトレードマークだった。
そんなものこのゲームにはない。だが、それでも、そのマークは俺を歓喜に包んだ。
息を大きく吸い、両手で確かに剣を握り、胸元に向かって突き刺せる体勢に移行する。
「忍殺…いや、不死斬りッ…!!」
「…ッ!!」
突如として、目の前に拳が迫る。鎧に固められたその拳は高速で向かってくる。それでもレブラは、引くことをしなかった。よく、よく、慎重に攻撃を視て、刹那のうちにくるりと体重を剣の重さに預けて回転する。
「射し込む!」
その回転の勢いのまま、フェンシングでレイピアを突き刺すように、両手で持ち手を掴みながら胸元に向かって勢いよく押し出す。
勢いよくそれが刺さり、胸元を貫通した。騎士の動きが止まる。この騎士は首無し。なら、忍殺ではなく、これは不死斬りなのだろう。
不死の騎士はそのまま膝からがくりと崩れ落ち、自分の持っていた黒剣と共に光に塗れた粒子となって消えてしまった。
「おっっっも…」
剣がカランと落ちる。割と限界も限界であった。しかし、この膨大なレベル差をどうにか埋めた。このゲームの自由度の高さに本当に助けられた。敵の武器を奪えなかったら、確実に負けていた。
「でも、勝ちは勝ちだ…危なかったよ本当に」
レベルが確実に上がった。それもかなりの量。これは、かなり期待できそうだ。貯まったステータスポイントをうまいこと振ってからステータス欄を開いた。ちょっとやっそっと、優秀なスキルでもあればいいのだが。
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PN:レブラ
LV:29
JOB:魔剣士(片手剣使い)
13000マーニ
HP(体力):40
MP(魔力):25
STM(スタミナ):25
STR(筋力):30
DEX(器用):15
AGI(敏捷):35
TEC(技量):20
VIT(耐久力):25
LUC(幸運):8
スキル
・パワースラッシュLv.2
・ソードガード
・ファストステップ
・一艘飛び
・フレイム・プライ
・アクセル
・袈裟斬り
・フェンススラッシュ
魔法
・ファイア
・ファイアボール
装備
左右:致命の包丁(右)
頭:無し
胴:兵士の軽鎧
腰:兵士の腰当て
足:訓練用靴
アクセサリー:無し
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ここまで一気に上げられたのは非常に大きい。そのままドロップ品も一緒に確認してしまおう。
「えっ」
首無し騎士を倒したはずが、出てきたのは黒々とした鎌だった。こういうのは、普通さっきの剣とかが出てくるものだと思うのだが。艶やかに光るその鎌は、意外ささえありながらも強いと一目で分かった。
名前は『
この鎌は首を切られた騎士の断頭の原因だったのだろうかとか、考えることは色々あるがそれは一旦あと回し。
とりあえずインベントリに突っ込み、別のドロップを確認する。
『黒騎士の革鎧』。アレが着ていた鎧ではなく、その内側にあったであろう機敏性に優れた服。それらが一式揃っていた。黒で統一された中に、白いラインが施され、装備してみると非常に着やすい。靴すらもその意匠を凝らされており、機動力を重視していることは丸わかりだった。
「せっかくだしこれも装備してみよう」
「!」
目の前に、ウィンドウとしか思えないそれが表示される。
『ユニークシナリオ「黒騎士の心残り」発生条件を達成しました。受注しますか? YES NO 推奨レベル:80』
「へ???」
「ユニークシナリオ」。全く聞き覚えのないそのワードについ呆けた声が出る。なんだそれ、推奨レベル80とかいけるのか、と。
レブラは、ストーリーを非常に重視するタイプのゲーマーだ。だからこそアニメや漫画を原作としたゲームは先に履修しておくのだが、その上で1キャラクターに注目した、言うなれば「Neir:Automata」における
「…レベルは高いけど、やんなきゃ損でしょ。そもそもこんな運がいいことがなかなかない」
まだレブラは知らないが、このシナリオの発生条件は「騎士の持っていた剣で胸元にとどめを刺すこと」である。そのため、発生すること非常に少なく、まだ発売してあまり時間の経っていないこのゲームでは非常に珍しいことだった。
「YESだ」
『ユニークシナリオ「黒騎士の心残り」が受注されました』
「…」
何か来るのかと身構える。
…が、いくら待っても何も起きない。身構えて損した。
「これも、自分で見つけろってことなんだろーなぁ…」
ため息をつきながら、俺は足取りをファステイアに戻していった。とりあえず次は、セカンディルという場所にいってみようと思う。できれば弓もチャレンジしてみたい。
弓にはやっぱりロマンがあると思いませんか。
私は弓大好きですよ。
今日のゲーム雑学
ライザのアトリエは、なんと今年で25周年。あのポケモンのアニメと同期である。すごい。