レベル約30まで一気に上げてしまったものは、もはや初心者ではないのかもしれない。今更ながら、例の首無し騎士に挑むのは本当に無謀なことだったように思える。あの時は本当に偶然出会っただけなので、これも運命の巡り合わせだったのかもしれない。
おかげでレベルがおかしいくらいに上がったが。
「…そうなると「跳梁跋扈の森」の門番が本当にちょろくなってしまう」
噂に聞くと、ファステイアと二つ目の街セカンディルの間には橋がかかっているらしく、そこに大きな蛇が居座っているそうだ。3人くらいで推奨レベル10とされているため、今の俺では相手にならないかもしれない。
そんなことを真面目に考えながらその橋に向かっていった。
…
「負けてんだが」
宿で目が覚めた。負けましたねぇ。見事に。敗因は間違いなくスリップダメージだろう。あと生き物だから攻撃が読みにくいこと。一回噛みつかれたらすごい速度で体力が削れてった。
「あと武器が…」
結果的に、俺は無惨にもここで目を覚ましたというわけだ。
「このゲーム、あんまり舐めてると死ぬな」
レベル差でゴリ押せないゲームというのは、魔物が潜む。それも、序盤にスリップダメージ使うようなボスを配置指定る場合はなおのこと。
「ちゃんと対策しよ…」
お店に寄って、毒対策の薬を適当に買っていく。また、俺でも使える適切なレベルの武器も。
普通にちゃんと対策していけば勝ててしまったあたり、随分俺も鈍ったらしい。ああいう舐めたことすると思惑にハマってしまうと再びわかった。
「セカンディル、あんまり情景変わんないなあ」
宿に入ってリス地を更新、街並みを見て回っていったが、ファステイアとあまり絵面が変わらない。それでも、多少うは武器の品揃えなんかは変わるわけで。
「弓あったー!」
武器屋を見て回ると、俺好みのする弓を見つけた。丈夫そうな金属製の青い弓。名前は「青い剛弓」。使えるかはわからないが、装備するのは手だろう。矢も多めに適当なのを買っておき、店を出た。
「試してみよう」
セカンディルの周りを適当に見て回っていれば、ゴブリンが当たり前のように複数体見つかる。
「アレでいいか」
少し離れた場所で、弓を構える。矢を差し込み、持ち上げて強く引っ張り、静止。
「ふーっ……」
静粛。
矢が飛んだ。
「命中…上手いね」
その矢は見事にゴブリンの頭を貫いていた。それに戸惑い、周囲のゴブリンが矢が飛んできた先を確認しようと走ってくる。
「即ポイント変更」
急いで場所を変え、今度は横から狙う。
「ファイア」
時に、魔剣士は、何も「剣に炎を纏わせること」しかできないのではない。燃えないものなら、大体纏わせられるのだ。つまり、矢の先端、鏃もその例外ではない。
「実質的魔弓」
再度引き直し、放つ。今度は胸元に命中。頭ではなかったが、火が燃え移って2体を同時に燃やせた。
「絶対現実の俺と命中率違うだろ」
打っていて気づいたが、このゲーム、いや、VRゲーム全てに通づるのかもしれないが、現実の運動神経があまり関係ない。そりゃあ、リアルで出来た方がすごいのだろうが、だからこそゲーマーが活躍できているのかもしれない。
「ラスト一発、本気で行こう」
最後に残った一匹のゴブリンから、あえて距離を取る。スコープは無く、裸眼による敵の把握と位置の調整。
「…」
もはやゴブリンが点である。
「放とう、我が矢を」
少しばかりカッコつけて、明鏡止水を生み出す。シン、と周りが静かになる。弓を持ち、上げ、引く。
「
実際に、オリンピックに出たことのあるアーチェリー選手がこの台詞をルーティーンとしているそうだ。その真似ではないが、弓の英雄の象徴である彼の名を用いて、矢を放った。
弓は高速で飛来し、脳天を貫いた。
「…当たってんけど」
これには俺も驚いた。まさか当たるとは、半分くらい多分偶然だろ、と。
「でも、楽しいなこれ」
これまでのシャンフロをプレイしていて感じたことは、自分しか知らなくて寂しさを感じていたそれを、自分が紡ぐことがとても楽しいということだった。
俺以外知るものがいないという特別感かもしれないし、或いはそれをすることで記憶がフラッシュバックしてくれるからかもしれない。ともかく。
俺は、ありとあらゆる作品の技や台詞をもっと言いたいのだ。それ相応の場面と状況を用意して。たとえ俺以外に伝わらずとも。
「ロールプレイに程近いけど、僅かに違う。言うなれば…」
「リバイバルプレイ、とか?」
ゲームの楽しみ方は多種多様。そんな楽しみ方があってもいいだろう。ロールプレイは、口調や考え方までも真似するが、それを俺がやっても楽しくはないし、何より俺はたくさんの作品の再現がしたい。なら、キャラを固定してしまってはお仕舞いだろう。
「これからはそれを目標にするか」
目標は、自分が再現したい作品の技や台詞の限りなく近い再現。モノによっては難しいものもあるだろうが、できるだけやってみよう。
「喉乾いたー」
ヘッドギアを外して、近くにあった水をとって補給する。少しばかり休憩を取り、一旦今日はやめよう、と考えてヘッドギアをしまおうとする。
するのだが。
俺は直後、ヘッドギアを頭につけて再びベッドにダイブしていた。
「MMOやめらんないんだけど」
ゲームをやるのが久しぶりすぎてその楽しさに気づいてしまった俺は、いつの間にかまたVRの世界へと入り込んでしまっていた。
『ユニークシナリオ「弓の真髄、即ち」の発生条件を達成しました。受注しますか? YES NO 推奨レベル:90』
「????」
このゲーム、もしかして「ユニークシナリオ」とやらが連発するようなゲームなのだろうか、と悪い推測を入れてしまう。弓を打つのが楽しくて何本も打ちまくっていたらいつの間にかこんなメッセージウィンドウが。
「い、イエスで…」
とりあえず受けておいて損はないだろう、とYESを選ぶ。今回もどうせ何もないだろう、とたかを括ってもう一度弓を構える。
「へべれけっ」
次の瞬間、視界は暗転し、知っている天井が映った。
「今の後頭部の衝撃は…弓だな」
先ほど、一瞬だけ鋼鉄の衝撃が走った。あれは紛れもなく鏃が頭の後ろを突き刺した証。リス地になっていた宿を出て、先ほどいた場所まで戻ってくる。
「えーと、確かさっきの矢はこっちから…」
矢がきた方向を感覚で探り、そちらへ進んでいく。少し段差がある場所があったので、下を見て降りる。そしてまた前を進もうと前を向いた瞬間、
「ぐえっっ」
前頭葉に矢が突き刺さった。しかも、今見たからわかったが、この矢、めちゃくちゃ質がいい。俺の使っている市販のものとは比べ物にならない。鋭さがケタ違いだ。そもそも、レベル30を弓一本で倒せるってどういう火力してるんだよ。
「3回目〜」
ずっと前を見続け、警戒を続けてみた。一本目を回避…しようとしたが間に合わず腕に刺さる。それも気にせず歩く。すると、また打ってきた。今度はしっかり、余裕を持って避ける。よし、これでかいけ…
「…曲がったよね今確実に!」
後頭部に刺さったあたり、ほぼ確実だろう。
4回目。矢を握ってみようとした。早すぎて失敗。
「5回目」
矢をよくみて、何度も何度も避け続ける。避けるたびに矢が曲がり、弾幕が増える。避けきれず死亡。
「6」
ここまでくると死に戻り系主人公のようであるが、ある意味間違っていないのかも。今度こそ、と矢を避ける。たまにブロックも混ぜながら。これでやっとわかった。
今、矢を打ったやつは丘の上から打っている。そして、ヒトが打っている。間違いなく。
「こっちも反撃してやるよ」
位置がわかったので、弓矢を持って前に進む。そして、撃たれたポイントの丘を狙って、集中……
「へ」
全然違うところから撃たれた。そりゃあそうだ。位置を変えるのは当たり前。
「7」
やはり避けに専念するのが正解なのかもしれない。だんだん、慣れてきたし。俺が今まで何回死んできたと思ってるんだよ。こんなもん序の口。
「右、ジャンプ、かがむ」
避け方を口に出しながら弓矢を避ける。うん、だんだん動体視力が矢に追いついてきた。見てから避けるのに慣れてきている。ちょうど今撃たれた弓矢もほら、この通……
「弓変えるのはズルくない?」
先ほどよりも加速している。おそらく弓が変わったのだろう。先ほどよりも硬く強いものに。
「8」
弓のチェンジも気にしながら避ける。…口では簡単に言えるけど、そんな簡単には行かないようだ。
「9」
「10」
「11」
「12」
「13」
「14」
剣で弓を弾く技術を手に入れた。少しは楽になるだろう。
「15」
…
「30」
「31」
かなり距離も縮まり、弓の主も少しばかり見えてきた。性別すら分からないが、それでも間違いなくあれは人影だろう。
「42」
執念。
「56」
ついに手前まで来た。ありゃあ男だ。中肉中背、そして何より…あの感じ。
目が見えていない。
察するに、NPC。つまり、これはユニークシナリオとやらの影響で出てきたキャラクターなんだろう。いいだろう、やってやるよ。PKじゃかったっぽいし。
「59」
「68」
アーサー・ペンシルゴンはこの日、シャングリラ・フロンティアで久しぶりに最初の方の街へ戻ってきた。とあるアイテムを買いに来ただけだったのだが、彼女はそこでとんでもないものを見ることになる。
「何…アレ」
一人のプレイヤーが、弓を避け続けている。青い髪をしていて、見るからに初心者を抜けきれていない感じの装備。
「……誰だろう」
ペンシルゴンは知り合いがシャンフロでも始めたのかとPNを見る。が、書かれていたのは「レブラ」のみ。全く思い当たらない。が、
「あんなプレイする奴がいるなんて、面白くなってきた」
件の青年は、いまだに弓矢を避けている。矢を避け、その矢は曲がり、またそれを避け。剣で弾き、蜻蛉返りをして無理に避け。地面に炎を撃ってはそれを目眩しとしてまた突撃。腕に一撃当たる。速攻で回復した。
「とんでもない」
屈んでやり過ごし、ジャンプで避ける。剣で弾き、弓を構えて打ち返す。先ほどより早い弓が飛ぶ。それを即座に避ける。
ズンズンと距離を詰め、ついには弓を打っていた存在のところまで辿り着いてしまった。
上から、一本の事前に撃たれていたであろう矢が降ってきていた。
その矢は見事にその青年の頭を貫、くことは無かった。彼はその場でジャンプし、体を空中で回転させて矢を斬った。着地しながら、その剣をそのまま弓を打っていたものの首元に当てる。
「いずれ、どこかで会えるといいな」
ペンシルゴンは、彼は今クエスト中なのだと察した。邪魔しては報酬が二分される可能性があるため、間に入りたい気持ちを抑えて、その日は諦めることにした。
「はっ、はっ、チェック、メイト」
「…見事だ」
首に剣が当たっている橙色の髪の男は、手をあげ、投降を示した。
「…名前は?」
「レブラ」
「レブラ。そうか。お前…」
「弓の真髄を知りたくはないか?」
両目が剣の傷跡で潰されている男は、飄々と告げた。
「…知りたい」
レブラは答える。
「いい返事だ。少し、見せてやろう」
彼は、後ろに置いてある大型の弓を手探りで取り、それを構え,狙いを遠くの地面に向けた。
「Quo‘Vatis」
矢が放たれ,見えないほど豪速で飛んでいく。直後,地面が抉れた。
「もはや兵器」
レブラは言わずにはいられなかった。矢が地面を抉るってなんだよ。
「弓の真髄とは,即ち,『貫く』ということである」
「…あなたの名前は?」
「…破戒,とでも」
物騒だなあ,とレブラは思いつつも彼をそう呼ぶことにした。弓の精度,火力,どれをとっても光るものがあると,一目で分かったからだ。
ユニークシナリオ「弓の真髄,即ち」。弓を使い脳天を貫いたことのある人物全員に発生するユニークシナリオ。しかし,大抵のプレイヤーが,それを未達成で終わらせることになる。難易度,というよりは,精神力を問うものであるからだ。
「破戒さん,弓,教えてくれません?」
「意気や善し」
彼は,そう告げて何処かに行ってしまった。
「えっ」
「探せ…ってこと?」
あまりに広大すぎるこの大地で,たった一人の人物を探し出すなんてクエスト,そりゃあほとんどの人間が諦めるわけである。
「……索敵範囲が膨大すぎるね」
そう言いながらレブラは,早速近くを探し始めた。
本日のゲーム雑学。
大乱闘スマッシュブラザーズのストーリーモード(アドベンチャーモード)のタイトル「灯火の星」は、入れ替えると「星のカービィ」になる。「星の火(ー)灯(ィ)」。が、偶然である。
ペンシル、今回は外道じゃないらしい。