起死回生シャンフロ   作:しづごころなく

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それは紛れもなくヤツさ


逃走・泥

 

 時に皆さんは、「クラッシュバンディクー」というゲームをご存知だろうか。基本的にはアクションゲームで、言うところの古き良き3Dアクションというやつだ。

様々な視点で追いかけられたり追いかけたりするという視界の移り変わりの激しいゲームで、後ろから岩が迫ってきている状況をインディージョーンズみたいな視点でプレイさせるというシステムはこのゲームが発祥。

 

 俺が今、その追いかけられる側になっているというところに目を瞑れば懐かしむ暇くらいはあったのかも。

 

「難易度調整ってのがないわけ??」

 

 暗闇の中を俺は駆ける。森林の中を縦横無尽に。別にこいつが相手じゃなきゃ戦うのもやぶさかじゃなかった。俺はそう思いながら作戦を考える。

 

「あそこしかないか」

 

 方向を右に転換、奴に追い付かれないように加速しながら逃げる。

 

「たった今からサードレマに逃亡開始、全力で時間を稼ぎながら宿に滑り込む。宿にならモンスターバリアの一つや二つあるだろ!」

 

 考えた作戦はこれだ。今一番近い街はサードレマ。そこに全力で逃げて、快適なプレイのためにおそらく作られているであろう見えない壁を利用する。これっきゃない。

 

 後ろを一瞥すれば、見事に薙ぎ倒されている木々。あれに潰されたらたまったもんじゃない。

 

「なんでこうなったかなぁ…」

 

 視線の先に写っているのは、黒い毛に全身を覆われた狼。明らかに挑んじゃいけないタイプの敵。ELDEN RINGで例えるなら序盤で神肌ーズに挑む様なもの。

 

 夜襲のリュカオーン。インターネットじゃ名前と、ブレまくった画像しか存在が確認されない、このゲームにおいてたった7体しかいない「7つの最強種」が一角。

 

 現在俺は、そいつと追いかけっこをしている。ただし、森林という防御壁があってやっと五分五分の速さの、平地じゃ間違いなく追い付かれる極めて理不尽なゲーム。

森林があって五分五分とはいうが、ちょっとずつ距離が縮まっているため、多分実際は六分四分くらいなのだろうけれど。

 

 

 このゲームは、MMOというゲームシステムの性質上、俺が最も得意とする「トライアンドエラー」が出来ない。前謎の弓使いと戦った時はなんかずっと俺と戦ってくれたから成立したが、他は違う。

 

 加えて、ネットの情報によるとこいつは、「デスペナルティ」を持っているらしい。それも激重。ダクソ無印の「あいつ」レベルのクソ仕様ではないと信じたいが、聞くところによれば一部武器が装備できなくなるとかそんな感じらしい。

 

 その情報も怪しいっちゃ怪しいので重くないことを祈る。

 

 ちなみに、ダクソ無印の「あいつ」は、食らえば一撃の毒攻撃に加えて、それでデスするとなんと復活時に体力が半分になる。解除条件も特定のアイテムが必要と割ときつい。

 

 特にダークソウルは敵の攻撃力がアホなので、普段も三発でデスするのに、こいつのデバフを喰らうとなんと一発になったりするのだ。終わってる。

 

 

 そんなことを思い返しているうちに、サードレマを阻む湖沼に到達した。まさかこいつをここまでしょっ引いてくるとは自分でも驚きだ。見たこともない敵たちがうじゃうじゃいるが、全部ガン無視する。

 

 毒が飛んできたり色々だが、全部避ける。この状況では1フレームが仇になる。それを証明するかのように俺の後方ではモンスターが死んでいく音がポンポン流れる。レエアエネミーなんかは賢いのかもう逃げている。

 

 が、そろそろ限界が来た。もうかなりギリギリのところに狼さんがいる。

 

「さあて、時間稼ぎよろしく頼むよ、

 

 エリアボスさん!!」

 

 

 エリアボスのゾーンに入った瞬間、断頭の大鎌(ブラック・サイズ)のバフ効果を使用する。STRとAGIが1.5倍になる。

 

 そして俺は目の前にある沼を、大きくジャンプした。

 

「エリアボスの姿が見えないってことは、どうせ沼の中から出てくるんだろ。じゃあ、跳ぶしかない」

 

 しかし、この程度のバフで超えられる沼ではない。当然俺はこのまま行くと沼に着地する。だが、狙いはそれじゃない。

 

 俺の足元スレスレのところで、土竜なのか魚なのかわからない存在が口を開ける。

 

 ガブリ。

 

 噛まれたのは俺ではない。泥堀り(マッドディグ)である。誰に噛まれたのかって?決まってる。夜襲のリュカオーンに、だ。

 

 完全に予想通り。こいつはモンスターだが、知能が高い。俺を殺すためには、この土竜を邪魔だと思うに決まっていた。

 

「ギシャアアアアアアア!!」

 

「は??」

 

 想定外の鳴き声に、つい後ろを見る。見えたのは、泥堀り(マッドディグ)がポリゴンに包まれる姿だった。

 

「ワンパン…マジで言ってやがるのか」

 

 仮にもエリアボスだぞ。HPだって高いに決まっている。それをワンパン…

 

 俺は、そのエリアを抜けて、再び草原に戻った景色を見ながら走る。そして、森林に入った段階で、

 

「やーめた」

 

 足を止めた。

 

「逃げるのも醍醐味かもしれないけど、せっかくラスボス格に挑めるんだ」

 

 レベル差は多分100くらいある。勝ち目なんざない。だが、無理難題に挑むのがゲームの本質ではなかろうか。

 

「やろうか」

 

 夜襲のリュカオーン戦、開始。

 

 

 夜襲のリュカオーンが、殺意100%と言わんばかりに爪を振るう。多分あれでも死ねる。

 

「ベクトルはどうせ上」

 

 ジリ貧になれば絶対に負ける。だから挑むのは電撃速攻だ。

 

 初手の一撃を、パリィ。

 

 右手の爪を弾いた上で即座に弓に持ち替え、矢を引く。狙う位置は決まっている。

 

「眼球」

 

 矢を放ち、当たったかどうかを確認する前に武器を持ち換える。俺の立てた作戦はごくシンプルだ。眼球を射抜いて、鎌で切る。これを繰り返す。なので、一発でも矢を外せば終わりである。

 

断頭の大鎌(ブラック・サイズ)に持ち替えて、対象を視界にとらえる。

 

「まず1ヒット」 

 

 眼球に思いっきり矢が突き刺さっていた。鎌で切ろうとする。が、瞬間右から衝撃が来る。

 

「ぐ」

 

 木にぶつかったことによってようやく、自分が吹っ飛ばされたことを自覚する。

 

「ダメージえぐいなおい」

 

 残りHP3て。二確じゃないか。回復薬をがぶ飲みし、もう一度やつを見る。やつの姿は、いつの間にかなくなっていた。

 

「は」

 

 脳が状況を理解するより早く、俺は右に跳んでいた。そこには上から噛みつこうとしていたリュカオーンの姿があった。

 

 だが、これは好機だ。弓に持ち替え、魔法を唱える。

 

「ファイア」

 

 炎を弓に纏わせ、それを撃つ。鎌に持ち替え。特攻。

 

「叩き落としてやるよ」

 

大きくジャンプして、振りかぶる。が、俺の視界に映ったのは、爪だけが燃えているリュカオーン。

 

「IQが高くて結構」

 

 こいつは俺の炎の矢を見て、「付与されるために作った炎なら付与対象変えられるんじゃね?」と考えたわけだ。俺のエンチャントは、一回だけなら聖火リレーが如く移し替えることができる。

 

 咄嗟に武器を持ち替え、パリィ。

 

「あちいよ」

 

 パリィできたはいいが、再び俺の武器に付与した炎を移すことはできず、腕が燃え出した。

ステータス欄にも「燃えている」という表示が出ている。継続ダメージと多少のデバフ。最悪だ。

しかもやけどみたいに対処すれば消えるもんでもないらしい。

 

 即座にその腕を地面に擦り付け、腕の炎を消化する。

 

 もう一度弓に持ち替え、放つ。再び鎌を持って切り掛かる。

 

「終わった」

 

 ああくそ。三発目なのに外した。舌打ちをしながら苦い顔をする。リュカオーンの眼球の少し横あたりに弓は刺さっていて、外したことがわかりやすい。

 

 自分の読みでは当たっているはずなのに、なんで当たってない…?手元がブレたか?

 

 リュカオーンが口を開く。

 

「マジかよ」

 

 俺のことを直で行くつもりらしい、一口でパクリされる光景が目に見える。すでに斧を振るモーションを行なっている俺は頑張って交代しようとするも、間に合わない。

 

「…まあ、初トライにしちゃ悪くない結果だった…」

 

 世界が闇に包まれる。このまま噛み砕かれて終了、見事俺はデバフを喰らってひとつ前の町にリスポーンし…ない。

 

「まだいける」

 

 口が閉じられる直前の口内に、鎌を突き立てる。鎌がストッパーとなって、口が半開きの状態でキープされる。鎌が刺さったせいか、リュカオーンが暴れる。

 

 鎌を引っ張って、掘り進むように口内を突き進む。急げ、噛み砕かれるぞ。口の外に向かって歩を進める。

 

「…待て」

 

「むしろ、今なんじゃないか?」

 

 鎌を引き抜くと同時に魔法を使用。

 

「ファイア」

 

 鎌にまとった炎と共に、それを斬りあげる様に振る。

 

「GYAAAAAaaaaaAA!!」

 

 耳を劈く悲鳴が飛ぶ。俺はリュカオーンに異物と判断され、吐き出された。

 

「口ん中炎で溢れてるだろうな、お前が切り倒した木材たくさん詰め込んどいたし」

 

 実は俺は、先ほど口の中にいたタイミングで、木材を取り出しまくっていた。炎を纏った鎌で斬りあげると同時に、木に火を燃え移らせて口の中にポイ捨て。

 

ちなみに木材は俺を倒そうとするリュカオーンが切り倒しまくってくれた木々。一部がアイテム化していたので拾っておいた。リスポーン後アイテムが持ち越されるんだから当然しょうもない木々でも拾っておくよね。まさかこんなすぐに使い道ができるとは思っちゃいなかったけど。

 

「今しかねえ」

 

 唾液に塗れながらゆらりと立ち上がり、鎌を構える。眼球が狙いどころだろう。バフをかけながら、ジャンピングアタック。まるで、登場時に鎌を振りながら範囲攻撃をする、よくいるバーサーカーのように。

 

 眼球の前で鎌を振るう。それに気づいた狼が爪を光らせる。爪は押し出され、鎌も押し出され。

 

 そして。鎌と爪がぶつかり合った結果、鎌は耐久力の限界に到達し、壊れる。

 

(…くっそ、鎌がイったか)

 

 爪はそれでも勢いをとどめず、胸に突き刺さる。

 

  爪が胸に突き刺さるその瞬間。彼の思考は活動を加速させた。

 

(やばい、終わる、負ける)

 

 その、ゆっくりと思考が進む世界の中で彼は焦りながらも、本能で鎌に比べれば見劣りする剣を取り出し、咄嗟にパリィした。アイテムボックスを即座に展開、弓に持ち替えようとする。

 

 が、第二刃とでも言わんばかりの左腕が彼を叩き潰した。

 

 あれに荒れた戦場で、リュカオーンが腕を退ける。何事もなかったかのように、その場に背中を向けて去ろうとする。空中に、何かが舞っていることにも気づかずに。

 

 砕けた様な音が鳴る。パリン、と。

 

「…」

 

 弓を取り出し、構える。撃つのは、矢ではない。剣だ。

 

(剛弓を買っておいてよかったよ、剣を矢にできる。)

 

 飛んでいった剣はリュカオーンの首に刺さり、リュカオーンは不意をつかれたことによって後ろを向く。

 

 が、誰もいない。

 

 死神の鎌の存在に気づく者は誰もいない。剣を囮にした鎌による一閃。見事に首に切り込みを入れ、進んでいく。

 

 鎌の進みが、止まった。

 

「硬ったい…なあ、おい!!」

 

 リュカオーンが首を振り、吹っ飛ばされる。転がりながら、ダメージをやっぱり食らう。

 

「あそこまでやって、無理なのか…?」

 

「賭けに近かったのに」

 

 

 俺は、奴の第二刃たる爪を咄嗟にパリィした直後、アイテムボックスからガラスの容器に入った蘇生用ポーションを取り出していた。それを空中に放り投げて、俺が死んだ地点に落ちるようにした。

 

 自分でも、あり得ないことをやってる自覚はある。そもそも、人を蘇生するポーションなんてものは協力プレイでしか使われない代物だ。なぜなら、マイセルフで蘇生することなど想定されておらず、誰かに復活させてもらうことが前提だからだ。

 

 事実これを渡してくれた恐らくレアNPCであろうやつは、「お一人ですけど買われるんですか?」と言ってきた。ぶっちゃけこの時の「お一人ですけど」という忠告をあんまり聞かずに買ったものだから、こんなことをやれるとは思ってもいなかった。

 

 が、自己蘇生する方法がないわけではない。それがこの方法だ。自分の死亡地点の空中に復活用ポーションを放り投げ、ポリゴンとなって散る前に割れる様にする。ポーションの落下時間、自分の位置、状況を把握してやっとできる技だ。

 

 MMOである性質上、TASでもできるか分からない。相手の動きはランダムだから、当然である。しかし、俺は賭けに勝った。それでも、勝てない。

 

 目の前に再び迫る爪を見ながら、俺はため息をつく。立ち上がったばかりなのにこの距離の爪は、流石にキツいだろうよ。

 

 そも、このゲームにおける蘇生手段というものは少ない。死んだ後にすぐさまポリゴンになり出すあたりがそれを象徴しているだろう。

だからこそ、この蘇生用ポーションもレアNPCから高額で購入してやっと手に入る代物で、俺も1つしか持っていなかった。

 

 つまるところ。

 

 俺の残機はもうない。…そもそも、あの自己蘇生がもう一回できる自信もないし。

 

 

「つーか、武器も少ないだろ」

 

 剣の予備ならあるが、それも数少ない。あと残っているのは弓くらいである。

 

 リュカオーンの爪がやけに遅く見える。もう目の前にあるというのに。

 

「シンプル、地力か…」

 

 目の前に迫る爪を見ながら、俺はそうボヤいた。立ち上がったばかりなのにこの距離の爪は、流石にキツいだろうよ。

 

 …地力が足りない?

 

「だからなんだ。」

 

「どんなに勝ち目がなくても勝ちをもぎ取る。いつもそうやってきただろ」

 

 

「ファイア」

 

 この瞬間。ゲーマーたるレブラは、ハイリスクな勝負に挑む。言うところの「分の悪い賭け」。

 粗悪品の剣に纏った炎が燃え盛る。これにて、魔力が底をつく。

 

 纏わせる動きのままに、彼は体を一回転させた。まるで、踊るように。爪が掠りでもすれば直撃して大ダメージを喰らうこと請け合い。

 

 完全なるノーガードで、攻撃と防御の比率を100:0として諸刃の剣を差し込む。

 

 

「クソ、」

 

 賭けの結果は、

 

「最大値」

 

 ドロー。

 

 剣はリュカオーンの体を切り裂いた。炎による威力強化も相まって効いてはいるだろう。が、リュカオーンの攻撃もまた、当たっていた。

 

 

「がふ」

 

 …しかし、特筆すべきは、その『当たり方』である。正確に言えば、爪は当たっていない。爪は回避した。が、手がものの見事に腹に直撃している。

 

 

 リュカオーンのSTRはバグり散らかしている。具体的にはA150くらいはあるかもしれない。俺だってさっき上から腕で叩き潰された時は蘇生以外に解決方法はなかった。

 

 そのため、俺のHPは相当削れ、腹に当たったその肉体の衝撃により、結論から言えば俺は…吹っ飛んだ。

 

 一瞬のうちにいくつもの景色を見届け、衝撃と共に地面に転がる。

 

「あっ、うぐっ、やば」

 

 落ち着いたタイミングでステータス欄を確認してみれば、

 

「はぁぁぁぁ……っ!!残り1…!!」

 

 HPは残り1だった。首の皮0.1枚つながっている。

 

 しかし、状況は絶望的だ。HP1、復活ポーション無し、回復用ポーションもただ夜にちょっと素材を取ってくるくらいだと思ってたので宿に置きっぱ。剣はぶっ飛んだ衝撃で俺の手を離れ行方不明。

 

 

 小鳥が囀る音がする。なんだか気温が上がってきた様な気もする。視界に一瞬影が映る。

 

(は、おい待てふざけんなこんな消化不良でーーー)

 

 朝日の昇る時間だ。

 

まだいるかもしれないと急いでふらつく足で走りながら先ほどの場所まで戻る。だが、遠目でわかる。

 

「逃げられた…!!!」

 

 リュカオーンは、帰宅したらしい。

 

 




お久しぶりです。リアルが忙しすぎてエタってました。久しぶりに休みが来たので書けました。また忙しい日々が始まると思うのであまり希望を持たずにお願いします。文字修正もできるかどうか…
ちなみに、自己蘇生はやってることマジでやばいです.だってリュカオーンが足を退けるタイミング、自分が死亡するであろう位置、ポリゴン化までの時間を全て把握して予測しなきゃいけないんだから.サンラク君でもできるかわかんないよこれ.
P.S.文体がかなり変わってますが精神上の変化って奴です.前の私の文体も愛してあげてください.
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