偽物の輝きは、本物には劣るから   作:りっくんちゃん

5 / 9
4,知りたいこと、知られたくないこと

 

 アクアくんに戻ってくれと言われ、先ほど挨拶したばかりの寿みなみちゃんと共に校舎に戻ってきた。

 みなみちゃんも結構話すタイプっぽいし、会話をしようと思えばできると思うけど…

 

 気まずいよぉ〜。

 結局私の自己紹介ぐだったから、みなみちゃんに名前が聞こえてるかわかんないし。みなみちゃんの友達のルビーちゃんが取り乱した原因はきっと私にあるし。私が泣かした子の友達と一緒に帰ってるみたいなもんじゃん?流石にそれは私も何もない様には振る舞えないなぁ…。

 

「…マナさんは、アクアさんとどうゆう経緯でお友達になりはったんですか?」

 

 あ、名前はちゃんと通じてたらしい。話題も振ってくれてよかった。流石に気まずすぎるから、最近の国家情勢について議論でもしようか、なんてタブーもいいとこの話題を振りそうだったし。

 

「席が偶然隣だったんだよね。私、今日遅刻しちゃって遅れて入ってきたから悪目立ちしたんだけど仲良くしてくれて助かったんだよ。」

 

 まあ、初日からそのできた友達を無くしかけてるんですけどね。

 

「あら、そうなん?うちとルビーちゃんも席近かったから仲良うなったんですよ。」

 

「お、やっぱり。学校初日は席が近い人と話すよね。」

 

 タメだからお互いに敬語外そうと提案し、受け入れてくれた。想像通り、会話はスムーズに進むね。流石にお互いさっきのことは触れられないけど、ありがちな世間話でも十分でしょ。

 

「そういえば、遅刻しはったって言っとったけど、なんかお仕事でもしてはるん?」

 

 話題もひと段落し、思い出した様に先ほど私が言ったことを拾って質問してきたけど。はて、なんでいきなり仕事に結びつくんだろう。普通、寝坊とかが先に選択肢に来る気がする。やっぱ芸能科だとお仕事とかで休む人って多いかったのかな。でもちょろっと見た限りじゃ学校にそんな有名人いなかった気がするけど。

 

「いやーそういうわけじゃなくて単純に寝坊なんだけどさ。どうして?」

 

「うちのクラスにも遅れてきはった人がいてね。その子がお仕事やったんよ。」

 

 ああ、なるほど。たしかに自分のクラスでそういうケースがあったなら先にそっちを考えちゃうか。でも意外だな、一年生で朝から仕事があるほど売れっ子の人なんていたんだ。

 

「そんなすごい人が同じクラスなんだ。私も知ってるかな?」

 

「知らんわけないよ〜!その人はね、」

 

 ちょうど廊下の角に差し掛かろうとしたタイミングで向かいからも人が現れ、バッタリとぶつかりそうになった。

 

「あ、すみません。」「おっと、ごめ…。」

 

 ぶつかりそうになった人に謝ろうとして、その人の顔が目に入る。それを見た瞬間、ああ、この人がみなみちゃんのいう有名人なんだろうなってわかった。彼女なら確かに朝どころか今日の夜までスケジュールがびっしりだろう。

 

 黒くて長い、絹の様な髪。見つめたものを釘付けにする、独特な眼光。色気を醸し出す、口元のほくろ。それら全体が奇跡的に噛み合って現れる、独特な雰囲気。

 高校に通うほど余裕があるのかと疑問に思うぐらいには一世を風靡する看板役者。

 

「不知火フリルさんだ!本物だ〜!」

 

「…どうも。」

 

 不知火フリル。歌って踊れるマルチタレント。月9のドラマで大ヒットを叩き出し、そこから爆発的に人気が上昇した今をときめく大女優だ。当然、私だって知っている。この人に会うためのチケットなんて物があったら日本国民の半数は大金を払ってでも欲しがるだろう。けど、

 私はちょっと会いたくなかったな。

 そんな思いとは裏腹に、ここであからさまに逃げるわけにはいかないから、テンションをあげてミーハーなふりをする。

 

「前の朝ドラ見てました!纏う雰囲気というか、すごいかっこいいなって思ってましたけど、実際に見ると一段と綺麗ですね!」

 

「そう?ありがとう。」

 

「みなみちゃんの言ってたすごい人ってやっぱりこの人?」

 

「う、うん。」

 

 フリルさんの超然とした雰囲気に物怖じされたのか、黙っているみなみちゃんにも話題を振っておく。さて、この二人が同じクラスなら友達になって自然に話題から抜けられたらいいんだけど。

 

「あなた、知ってる。寿みなみさん。この前のミドジャンの表紙、みさせてもらった。すごい綺麗だった。」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

 ありがたいことにフリルさんからみなみちゃんに話題を振ってくれたけど、まずいかな。みなみさんの表紙は私も目を通してないし、そんなところまでチェックしてるのか。そうなると、次の話題は…。

 

「あなた、どこかで見たことある気がする。お名前を教えて?」

 

 まあ、そうなるよね。今日は初めて会った人にやたらと変な反応される。モテ期かな?

 

「え、自己紹介してもいいんですか!海月愛です。ファンです!同じ学校、学年で嬉しい、よろしくね!」

 

 嘘です。正直よろしくしたくないです。名前とかは全然言っても問題ないけど、長く接しているとボロが出る気がするからできれば今日限りにしておきたい。

 

「うん、聞いたことない。雰囲気も違うから人違いだったみたい。ごめんなさい。」

 

 セーフです、とりあえずセーフ。でもやっぱりバレそうな気がするから離脱したいです。って、顔を近づけて、そんなに穴が開くほど見つめないでほしい。

 

「そ、そんな近くにフリルさんの顔があると、緊張しちゃうから離れてほしいな〜。」

 

「…?あなたの顔も相当綺麗だから、今更緊張なんてしないでしょ?。」

 

 そりゃそうだけど。正直顔の良さは負けてないけど、それとこれとは別だよ。というか、自分の顔と他人の顔じゃあ天と地ほどの違いがあるでしょうが。なんだこの娘、天然か?

 

「モデルとか、アイドルとかやってみない?私の紹介なら社長も歓迎すると思うけど。」

 

「うーん、ごめんね。そういう職業は興味がないかな。誘ってくれたのは嬉しいけど遠慮させてもらうね。」

 

 これはホント。不知火フリルから直接スカウトなんて聞く人が聞けば卒倒ものだろうけど、スカウトそのものには断り慣れてるし。それに、あまりそう言うことは本当にやりたくない。

 

「そう、残念。でも、確かにやめておいた方がいいかも。」

 

 誘ってきたのはフリルさんの方のくせに、断られた彼女はさほど残念そうじゃない。興味の対象から外れた、と言うよりは、まるで捕食者が狩りの前に観察する様な…

 

「私に似てるかな、って思ったけど根本的に違う。」

 

 きっと、あなたは女優に向いてる。

 

 カエルが蛇に睨まれて動けなくなる様に、確信を持って放たれたその言葉は私を一瞬硬直させる。

 …やっぱり、前評判は当たってるね。バレたくないのならこの人に直接会わないほうがいいとは聞いていたけど。外聞気にして中途半端に関わる前に、なりふり構わず逃げた方が良かったか。

 

「褒め言葉として受け取っておくね。」

 

 とはいえ、私も覚悟してなかったわけじゃなかったから。そんな言葉にあからさまに動揺するほど甘くはないよ。

 

 

 

 

 それからしばらく妙な雰囲気が続いたけど、あたふたしながらも健気に頑張るみなみちゃんのおかげで険悪な終わり方にはならずに、多少の雑談をして別れた。二人は教室に用があるらしく、一緒に教室に向かったのを見送ったけど、あの様子なら友達になるんじゃないかな。

 

 それにしても、流石に疲れたなあ。

 

 席に座って片手をあげて身体全体で伸びをする。今日は入学式と授業がいくつかあるだけだから、さほど問題ないと思ってたんだけど。まさかこうも衝撃的な出会いが続くなんてね。

 

 アクアくん。ルビーちゃん。二人のことは私は知らない。会ったのは間違いなく今日が初めてだ。あそこまで容姿が整った二人に会ったことがあれば、私は忘れることはないだろう。

 でも、二人は私のことを知っている様な振る舞いだった。いいや、違うかな。私と誰かを重ねて見ていた様だった。

 私を初めて見た時の幽霊を見た様な顔。もし、私の推測が正しければ、私の自惚れじゃなければ、

 

 私をB小町のアイと重ねたのであろうことは想像に難くない。

 

 何せ、私自身が彼女のライブ映像とかをテープが焼き切れるほど見て、所作を真似したんだから。さらには、()()と教えてもらって彼女のシミュレーションは補強してある。だから、そこは間違いないだろう。事実、親戚とかにはアイに似ているとまで言われたのだし。アイというアイドルは私たちからしてみれば世代じゃないけど、私みたいに親が熱心なファンなら子供もファンになることはあり得る。

 

 だが、それだけなら少し妙だ。

 

 彼らが、単純にアイのファンというだけならあまりにも反応が過剰すぎる。

 アクアくん、と初めて呼んだ時の、一瞬浮かべた泣きそうな顔。ルビーちゃんが私を見て、ママ、と呼んだこと。二人の整った輝く様な容姿。

 ここまで揃えば流石に不自然だ。アクアくんやルビーちゃんが自分の推しをママ呼ばわりするやべーファンという選択肢もないわけじゃないけど、今日話した限りでは少なくともアクアくんの方はそんな感じはなかった。

 

 私たちが生まれた年ではアイが16歳。そのタイミングでは、たしか不意に訪れた休止期間があったはず。それからしばらく、アイのグラビア撮影はなく、水着の撮影もスタイルを強調するものはあっても地肌を露出させることはなかった。そして、

 

 

 アイには双子の子供がいると言う事実を、私は知っている。

 

 

 アクアくんたちの家族構成を私は知らないけど、そこから鑑みるに二人の両親は…

 

「ってやめやめ。そんなことを知ってどうするんだ、ってはなしだし。」

 

 故人の墓は暴くものじゃない。二人はまだ生きてるけど、そんな込み入った話は失礼千万だし、結構妄想も混ざってるからね。

 

 私はあくまで、アクアくんの隣の席の友達。アイに似ているからって理由で距離を取ろうとしたのかもしれないけど、私的には一クラスメイトとして仲良くなりたいし。そんな理由で距離を置いてあげるほど、私は優しくない。

 

 気分転換に携帯を開いて、ストリーミングサービスのあるアプリを立ち上げる。調べる単語は、今日は甘口で。通信料がかかっちゃうけどまあ、そのくらいは誤差だ。

 フリルさんと話した時に彼女はアクアくんの存在を知っていた。なんでも、そのドラマの最終話に出ていたらしい。もちろん、私だって今日あまは知っていたけどキャストは有馬かなさんぐらいしか知らないし、1話を見て大体の趣旨は理解したから。

 確かに、最終話の評判は聞いてたけど、途中で切った作品を追いなおすには時間も心身の体力も足りないから見ていなかった。

 原作は読破しきっているけど、オリジナル展開がドラマは多すぎて途中から見ると訳がわからなくなるんだよね。

 

 とはいえ、同級生が出ているなら別だから最終話のストーカーくんが出てくるところまで見ようと、再生ボタンを押す。

 

 ゆっくりとした時間が流れ、気がつけば空模様は雨になっていた。暗い教室の中、ディスプレイが私の顔を照らす。

 

「へぇ、こう言う演技をするんだ。」

 

 確かに、名作と言えるクライマックスだった。終わりよければすべてよし、なんて映像媒体では全く当てはまらないけど、見終わった感想は面白かったのだから十分だろう。

 有馬かなさんの泣く演技はもちろん、最後のカットインも綺麗だった。鳴滝メルト?くんの演技も最終盤には気持ちがのってる。

 

 そして、それを引き出したアクアくんが演じるストーカーの気持ち悪さ。

 

 基礎に忠実で、演技そのものが特別上手いわけじゃない。目を惹くスター性も無い。もちろん、ストーカー役にフォーカスが当たってしまえば問題だからそれらを抑えた可能性もあるけど。

 

 でも、巧い演技だ。

 

 演出の意図を理解して、カメラの画角から建物の構造まで理解していないとできない俯瞰演技。どの角度で映るのが、自分が気味が悪く見えて、鳴滝メルトくんがカッコよく見えるか、立ち位置を誘導しながら演技している。そして彼に耳打ちしたタイミングで何かしら悪口でも言ったんだろう。そこから急加速度的に全体の演技レベルが上がって有馬かなさんの本気が出せた。

 いきなりかなさんが本気を出せば、前後の演技の落差で視聴者は違和感を覚える。ここからクライマックスだと、衝撃に備えろ、と視聴者に覚悟をさせるクッション役。それをアクアくんは俯瞰演技で気持ち悪さ、と言う気色の違う感情を抱かせることで全うしてみせた。

 

 どちらかといえば役者、と言うより演出家の仕事でもあるけど、それができる地力のある役者は間違いなく需要があるだろう。

 

 そして、その演技はきっと…

 

 そんな思考は、教室の扉が開く音がして中断された。

 

 扉の先にはさっきまで、私の頭の中を占有していたアクアくんが驚いたように立っていた。ふふっ、彼の頭の中では私がとっとと帰るような薄情な女の子にでも映ってたのかな。

 

「お疲れさま。ルビーちゃんは大丈夫だった?」

 

 大丈夫なら、少し、お話ししましょ?




 評価、感想ありがとうございます。他の人の意見を見るとこう言うふうに受け取ってるんだな、と改めて考え直せるので感謝しかありません。
 モチベーションにも繋がるので是非是非お気軽にお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。