偽物の輝きは、本物には劣るから   作:りっくんちゃん

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7,アイドル勧誘

 高校の入学式が終わり、数日がたった。アクアくんとはそこそこの友人関係を築けていると言えるだろう。

 

 席が隣だから英語などのコミュニケーションが必要な科目では大体ペアになるし、お昼ご飯も何回か食べた。お弁当を持ってくるあたり、家族仲がいいのは本当らしい。良かった良かった。

 とはいえ、恋人でもないから一日中一緒にいるわけじゃない。私は私で仲のいいグループがあるし、放課後で遊びにいくことがある時はだいたいそのメンバーだ。入学式後の土日はカラオケすっぽかした埋め合わせに使っちゃったし。アクアくんも孤高オーラを出してるけど、コミュニケーション能力が低いわけじゃないからなんだかんだ男子とは仲良くやれてそう。女子は顔の良さからまだ遠巻きに見てる感じかな。リンは完全に嫌っちゃったけど。

 ルビーちゃんとは週明けの月曜日に謝罪された。私も謝って、同級生として仲良く、と言うことで連絡先を交換して結構やり取りしてる。なんでも彼女はアイドル志望だとか。ビジュアルは文句のつけようないし、あとはメンバー次第ってとこかな。

 

 まあ、そんなこんなで波乱の幕開けとなった高校生活もなんとか安定した日常になった。まあ、刺激的な何かを求めて入学したわけじゃないし、それでいいんだけど。

 

 授業が終わり、仲良しグループで遊びに向かおうとすると携帯の通知音がピロリン♪となった。開けてみるとルビーちゃんからだ。なんでも、話したい重要なことがあるらしい。はて、なんのことだろう。

 気にはなるが、流石に友達の輪を抜けていくほどのものか、と言う問題がある。多分遊びが終わるのは6、7時ぐらいになるし、それからでもいいか聞いてみるか。

 そうやってちょっと遅めか後日にしてほしいと送ると、じゃあ、19時に事務所で!、ときた。

 

 え、苺プロでやるの?

 

 

 

 

「ダメってわかってるのに、なんで私はいつも流されちゃうの〜。」

 

「あはは、一緒にアイドル頑張ろうね、かなせんぱーい。」

 

 放課後、アクアに呼び出されて身だしなみをちょっと整えてきてみれば、用があるのは生意気な妹の方だったし。アイドルをやろう、なんてとんでもない勧誘だった。

 そりゃあ、多少なりとも容姿を買ってくれたのは嬉しいし、カンフル剤としても申し分はないけどさ。私、女優有馬かな、というレッテルからいきなりアイドルに転向するのは躊躇われた。メリットよりデメリットの方が大きい、そう思ったから断ろうと思ったのに。

 

 この、朴念仁に唆されて契約書にサインを押してしまった。

 

 いや別にいいけど!最終的に流されたのは私なんだからいいけどさ!ちょっと思うところはないわけ⁉︎そもそも連絡から思わせぶりなメッセージだったし、それでやること勧誘て。挙げ句の果てに私に可愛いなんて言ってさ。ホストかよ!

 

 そんな風に責任を押し付けて現実逃避しているけどハンコを押してしまった以上、覚悟をきめるしかない。とはいえ、そう簡単に気持ちをリセットとはいかないわけで。

 

「はあ〜元天才子役の終わった私と顔がいいだけの自称アイドル一般人のユニットかあ。どうせ、またsnsで「オワコンの道辿ってて草」とか言われるんだろうなぁ…。」

 

「わーお、辛辣ー。」

 

 まあオワコン扱いは今に始まったことじゃないし、そんなこと今さら言われたところで気にならないけどさ。

 

 実際問題、アイドル個人が売れるのは困難を極める。

 現在のアイドルはユニットを組んで複数人で活動する形態が主流だ。実際、ルビーが考えているのもそうだろう。様々な個性や美形な顔が一つの画面に収まっているのは、視聴者が自分の好みに合った推しを見つけることができやすいし、それぞれのファンが一塊になってその活動を支援してくれるから大衆の目にもつきやすい。それは肯定する。

 でも、複数人が集まって一つのグループ、というのは諸刃の剣だ。仮に売れて、バラエティやニュースに出させてもらえることになったとしても、モデルや俳優が取っている席一つをメンバー全員で共有することになる。必然、そうすれば発言時間や画面の出演時間は短くなり、個々の印象は薄くなる。

 

 すなわち、私の様にアイドルをメインにするのではなく、女優として売れるためにアイドルをする場合、その短い時間で視聴者の目に焼き付ける何かが必要になる。

 

 ただでさえ、映像媒体に多様性が生まれ、アイドルも飽和したこの時代、ユニットそのものが売れることさえ難しいのに、そこから卒業後の進路のことまで考えると、アイドルになることは良いことばかりじゃないのだ。

 

「そもそも、私とあんただけでやるの。少なすぎない?」

 

 それこそ、数十人でやる様なグループに入ってしまえば埋もれてしまうことは必至なため、それはいいんだけれど。二人というのも厳しいだろう。それは時代の流れを逆行することになる。昭和の様に歌唱力と容姿、ビジュアルさえあれば売れていた時代じゃないのだ。せめてもう一人か二人は必要でしょ。

 

「それについてはダイジョーブ!もう、声はかけてあるから。」

 

 はぁ?聞いてないんですけど。少ないと言ったのは私だけど私以外に声かけてるってのも気に食わないんですけど。

 

「誰だ?それ。俺も聞いてないぞ。」

 

 ちょっと拗ねてたらずっと黙ってたアクアも話に入ってきた。こいつも聞いてなかったのか。

 

「ふふーん、それはねえ…」

 

 自信満々の笑顔でルビーは口を開こうとして、ピンポーン、と鳴るインターホンに邪魔された。

 

「あ、噂をすればだ!はいはーい、今開けまーす。」

 

 バタバタとしてルビーが出て行った。おい、まだ答え聞いてないんですけど。来た人が声をかけている人なんだろうけどさ。

 置いて行かれた私はアクアに話しかける。

 

「あんた、本当に聞いてなかったの。嘘ついてるんじゃないでしょうね。」

 

「本当だ。そもそも、あいつがメンバーに心当たりがないって泣きついたから俺が有馬を推薦したんだし。あいつの友達も他の事務所に入ってるから無理って話だったんだが。」

 

 本当に聞いてなさそうだ。それに、アクアから私を推薦してくれたんだ。それなら…なら、まあいっか。社長のミヤコさんに聞いても心当たりはないらしい。それなら、一体誰がくるんだろう。

 

「ごめんごめーん、もう一人はこの人です。どうぞ!」

 

「ごめんください。えっと、ルビーちゃんに呼び出されてきたんですけど、海月愛です。」

 

 その黒髪の女の子が入ってきた時、本当に驚いた。ルビーには彷彿とさせる、なんて表現をしたけれど、そんなもんじゃない。まるで、アイの写し身のような、私が子役時代みたそのままの姿の少女が、そこに現れたから。

 

「今日来てくれてありがとう。どうぞ座って!」

 

「えっと、別にそれはいいんだけど、今日って結局なんの話なのかな?なんか、企業秘密みたいな話があるんだったらやめておきたいんだけど。」

 

 私に気づいて会釈してくれたけどそれに対応できるほど余裕はなかった。天才アイドルそっくりな彼女と、アイドルの資質があるルビーでアイドル?そりゃあ売れるだろう。売れないわけがない。

 

「ちょっと待て、もう一人って海月のことか?俺は聞いてないぞ、というか反対だ。そもそも…」

 

 でも、私は?そんな星の様に輝く二人の間に挟まる私はどうなる?

 

「そりゃあ、お兄ちゃんには相談してませんから。マナちゃんには確かに伝えてなかったね!」

 

 埋もれるに決まってる。いくら私が演技に自信があったとしても、それに何の意味もない。セルフプロデュースもクソもなくなる。

 

「海月愛さん。私と、そこにいる有馬かな先輩とアイドルやってくれませんか。」

 

 それなら、それなら、私がアイドルをやる意味は…。

 

「え、やらないけど。」

 

 …。

 

「「え、やらないの⁉︎」」

 

 不覚にもルビーと声が被った。いや、そんなことはどうでもいい。

 

「え、なんで!マナちゃんなら絶対売れるよ?お金がっぽがっぽだよ?みんなにチヤホヤされるんだよ?」

 

 なぜその側面を強調する。あんた、そういう理由でやりたいってわけじゃないでしょうが。というか本当に初めていま、勧誘したのか。

 

「うーん、別にお金に困ってないし。チヤホヤされたくもないし。絶対嫌、って理由があるわけじゃないけどやりたい理由もないからなあ。そんな消極的な理由でやりたくないんだよね。」

 

「…ということだ。そもそも海月は似た様なスカウト何度も蹴ってる。芸能活動全般興味がないぞ。」

 

 …なんでそこでアクアが補足するのよ。知り合いなわけ?というか驚きで視野が狭まってたけど、言われてみればうちの制服着てるわ。後輩か。

 

「えーやろうよー!一緒にやったら絶対楽しいよー。」

 

「そこ、無理強いするな。」

 

 海月愛にまとわりつくルビーを捕まえて、奥の部屋にアクアが連行していった。部屋に私と彼女だけになる。社長さんもいるけど話そうとする様子はない。

 

「有馬かなさんですよね。子役の頃から見てました。今日あまも最終回、特にすごい演技だったと思います。」

 

「…ありがと。」

 

 不意に褒められて、少し嬉しくなる。まさか、ストレートに感想を言ってくれる人がいたなんて。

 

「同じ学校だなんて知りませんでした。かな先輩はアイドルするんですか?」

 

「かなさんのままでいいわよ。まあ、成り行きでね。」

 

 目の前でバッサリと断る姿を見せられると再び後悔の念がぶり返してくるけど。

 

「あんたも、断ってたけどいいの?ルビーの言い方は下品だけど、アイドルになったら間違いなく売れると思うわよ。」

 

 冷静にはなれたけど、あっさり断った理由が気になって深掘りしてみる。アイとそっくりな容姿、ということからアイドルをするのは既定路線だと思ってしまっていたから。それでやっぱやる、なんて言われたらまた私絶望感に打ちひしがれるけど。

 

「うーん、なんていうか、本当に興味がないんですよ、テレビとか人前に立つ仕事。」

 

 そう語る彼女の横顔はあいも変わらず美しい。けれど、少しだけ、ほんの少しだけ、私の芸能人としての嗅覚が異変を感じ取った。

 

「私の容姿がいいことは否定しませんよ?それは事実でしょうし。ただ、そうやって色んな人に見られたからですかね、私のことをあんまり他の人に見てほしいって思わないんです。」

 

 ずっとアイそっくりだった雰囲気から、徐々に、別の空気が漏れ出す感覚。どこかで、いや、()()()()で見たことのある歪な感覚。

 

「だから、モデルとかアイドルとか女優とか、やりたいって思ったことないんですよ。別に。まあ、さっきも言った様に嫌ってわけじゃないんですけど。」

 

 話しすぎちゃいました、という言葉を最後にその歪な雰囲気は元に戻った。いまは、アイと同じ様な天真爛漫な笑顔だけ。その表情になんの違和感もないから、さっき感じたものは嘘だったのではないか、と錯覚させるほどに完璧な笑顔だ。

 

 でも、あの感覚は、確か…。

 

「うへぇ…お待たせしました。」

 

 もう少しで答えが出そうだった手がかりが、変な声出して戻ってきたルビーによって霧散した。ほんとコイツ、余計なことしかしないわね。

 でもまあ、これだけ考えて、答えが出ないんだったらいいか。また今度、考えてみよ。




 なぜか一話あたりの文字数が少しずつ増えてる。
 ちなみにこの話が少ないな、と思った方がいらっしゃったらそれは前話のせいです。あの話でなんとか初日を終わらせたかったので無理やり収めたらああなりました。今回もそこそこ多いです。

 かなちゃん可愛いですよね。本作ではアイドル活動に関わらないので出番減っちゃいそうですが。アニメの声優さんも凄いあってるので好きです。
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