ウマ娘 ~アンノウンソウル~ 作: しぐ
せめて月一投稿はしたい。
「んー、この前のレース……最後の踏み込みが甘かったかな。もう少し強めにしても最後まで脚が続くって分かったから今日のトレーニングで試してみようかな」
「あたしもスパートのタイミングが何となく違う気がする。やっぱりコーナー超えてからの方がベストかなー」
教室でジェーンとフォートが最近のレースについて盛り上がってます。
基本的に二人は同じレースに出走することがないのですが、デビュー戦で競り合ったからなのかこうやってお互いの走りに関する話をするようになりました。
「お二人はジュニア期を出走中心で進むのですね」
「まーなー。あたしは実戦の方が学べる事が多いだろうってトレーナーがさ」
「私も実践の方がいろいろ確認しやすいので。サクトリーはレース出ないの?」
「私は阪神JFに向けてレースは控えています。レースでの経験も大切ですが、トレーナーさんが怪我のリスクを考慮してジュニア期はトレーニング中心にすると」
三者三様それぞれが見据えた目標に向かって走っています。
その横でただ一人、私は何も言わずにただ微笑みを浮かべる他ありません。
「フィリアは10月からレースが始まるんだよね?それまでしっかりトレーニング積めるね」
「……うん、今から実に楽しみだねえ」
会話が始まった時からずっと、ただ話を聞き続けていた中で急に話を振られたので反応が遅れてしまいました。
「ダート路線も年末にG1あるんだっけ?フィリアもジュニア級の目標はそこ?」
「今はまだ何とも言えないかな。……とりあえずどこかのレースに出てみないとねえ」
当たり障りのない言葉を選んで無難な返事を返す。
本音を言うと少しだけ、良くないものを感じました。
何故この流れで私に話を振るのか、と。
ダート路線は10月までレースがありませんのに、今レースでの活躍の話に乗れるはずがないというのに。
「……ジェーンさんは三冠路線が目標でしたね?朝日杯前に中距離レースへの出走はするのですか?」
「あー、確か9月にあったよな。どうせ目指すなら慣らすつもりでやってみるのも良いんじゃないか?」
私の様子に勘付いたのか二人が話題の方向を変える。
知り合ってまだ日が浅いジェーンの言葉に悪気はないことは分かってますし、それを責めるつもりはありません。
それでもある程度感情の動きは発生してしまうし、それを誤魔化そうとすれば違和感が起きてしまいます。
私はこの先、ジェーンとこれまで通りの関係を続けられるのでしょうか……?
初めて芝のコースを走った時、そのあまりの走りにくさに驚いたのを今でも覚えています。
スピードを出そうと踏み込んでも、力が上手く伝わらず失速してしまう。
最初はその時点での実力があまりにへなちょこだからだと思っていたけれど、いくらトレーニングしても芝が脚に絡みつくような感覚がなくなくなりませんでした。
こんなことではレースで活躍するどころかデビューすら、トレーナーとの専属契約すら望めないと正直絶望していました。
そんな時に私の本当の適性を見抜いた上で契約を持ち掛けてくれたトレーナーさん。
彼は私の悩みと的確に向き合ってくれ、決断を押し付けることなく道を示してくれました。
『後悔しない未来を選べるように自分の気持ちをしっかり伝えると良いだろう』
ジェーンのトレーナーさんにいただいたアドバイスもあり、みんなと一緒にデビューしたかった私は適性矯正を選ばずダートの道へ向かいました。
今となってはどちらが正解だったのか、分かりようがありません。
ただ、この選択がもたらした結果は私の望む形ではありませんでした。
あるいは一年を捧げていればもっとマシな未来だったかもしれないと……そんなタラレバを毎日考えてしまいます。
ジェーンとフォートがマイル路線でお互いにしのぎを削っています。
トリーはティアラ路線の入口である阪神JFを最初の目標としトレーニングやレースに励んでいます。
では私はどうかと言えば、ジュニア級のダートレースが10月まで無いのでトレーニングの日々です。
同期がレースに挑んで先へと進む脇で、黙々と。
この状況で焦るなという方が無理ですよ。
「はぁはぁはぁ……あと、2本」
日々繰り返されるトレーニング。
徐々に回数や負荷が増えていくことからちゃんと成果が出ていることは分かります。
トレーナーさんが組んでくれているメニューを疑うつもりはありませんが、身近な存在の活躍を知ってしまうとどうしても意識してしまいます。
「フィリアさ~ん、少し休憩にしましょ~。フォームが、安定しなくなってますよ~」
「え……あ、はい」
いつもなら指定本数を走りきるまで休憩を入れないのに、今日は珍しいです。
それほど気持ちが散漫だったのでしょう。
「負荷の増加、過剰でしたかね~?少しお時間いただければ、再調整しますよ?」
「いいえ、そちらに問題はないです。こちらの私情ですので」
私と専属契約を結んでくださった
一見物腰柔らかい緩やかな雰囲気でありつつも、言うべき事ははっきりと伝えてくださります。
一年間掛けて適性矯正をするか、ダートに転換するかの選択を提示された時は悩みましたが、そういった事でも誤魔化しなく伝えてくださるのは私にとってはありがたい事です。
「私情……ですか?というと、同期のご友人のことですね?」
やはり気づかれていました。
芝かダートかの選択肢を提示した時にも、ダートへの転属を薦める理由として皆の事を出していました。
私の中で何を重視しているのか早々に見抜かれていたようです。
「ごめんなさい、自分の事より友達の事を理由にするなんて良くないですよね」
「どんな形であれ、切っ掛けは必要です。大切なのはそれからどうするか。そもそも、始まらなかったらどうにもならないですよ~」
人によっては『勝負の世界でそんな甘いことは捨てろ』と切り捨てる。
そういうやり方が合うウマ娘もいるのでしょうけど、そこまで冷淡になれない私にとってその考えを尊重いただけるのはとてもありがたい事です。
「周りがレースで大なり小なり、結果を出している中で、自分はトレーニングを続けるしかないというのは……心理的に来るものがありますからね。いまフィリアさんが抱えている不安は、あって当たり前のものですよ」
「ですが、焦ってどうなるものではありませんから。それで怪我をしてしまってトレーニングが遅れてしまっては元も子も……」
焦りを抱えたままの行動しても結果は伴わない。
むしろ冷静なら起こらないトラブルを招いて、却って遠回りになりえます。
出来ることに集中して耐え忍ぶのが今の私に出来ること。
「そういった冷静な考えが出来ること、それがフィリアさんの長所です。こちらから言わずとも力の入れ所をきちんと見極めてくれるのでとても助かります。……あ、私の立場で言っていい事ではないですね」
言いながら少し苦笑いする様子に、私も気持ちが落ち着きます。
生田トレーナーの何とも言えないフワフワした雰囲気はこういう時とてもありがたいです。
「少し遅れたスタートになりますが、10月以降のレース……そして年末のダートG1制覇を一先ずの目標に、じっくり確実に積み重ねましょうね」
「私もその意志に応えられるように、よりがんばりますねえ」
私には私の戦いがあります。
芝のような華やかさとは違う、砂に塗れた泥臭さ。
これまでダート路線を盛り上げて来た先人達のように、進むと決めた道を走るのです。
プロット段階ではジェーン以外のウマ娘はほとんど描写のないモブ同然でした。
書いている内にどんどんキャラクターが作られていく謎現象起こってます。