レッドが入山する前に一人の男が山に登っていた話

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シロガネ山の陽炎

シロガネ山を歩く。

それがどれほど難しいことなのか、おそらく多くの人は知らないだろう。

 

人の手も碌に入っていないこの鬱蒼とした森は、少し立ち入るだけでもどこから入って来たのかが分からなくなってしまうこと安請け合いだ。

さらには原理は分からないが方位磁石も利きやしない。

きっとノズパスだって北を向くのに苦労する筈だ。

 

しかも野生のポケモンたちは、少しでも森に入って来た人間を待っていましたと言わんばかりに襲ってくる。

狩りが目的なのではない、ただ力の誇示が目的なんだ。

 

そして山頂へと続く道中には、急勾配の坂道や難所と呼ばれる崖、岩場と続いて、山の洞窟がある。

それぞれが意図も容易く人の、そしてポケモンたちの命を刈り取る姿をしている。

 

なにより山頂付近はもっと酷い。

シロガネ山は独立峰ということもあってか、常に山頂付近は強風が吹き荒れている。

さらには夏場以外、常に雪が舞っていて地面も凍る。

そんな場所だからちょっと気を抜けば誰であっても簡単に足を滑らせ、そのまま山の麓まで転がり落ちてしまう。

 

だが、そんなシロガネ山の恐ろしさを、実際に知る者はほとんどいない。

 

 

いや、伝聞としては聞いたことがあるのかもしれない。

 

やれ、シロガネ山に住まうポケモンたちは、常に戦いの場に身を興じていて、人が山に立ち入ろうものなら四方よりその命を獲りにくる、だとか。

やれ、そこのポケモンたちはどれをとってもチャンピオン級のポケモンたちで、シロガネ山から降りて来たら最後、これまでのポケモンバトルは蹂躙されてしまう、だとか。

やれ、かつて最強と呼ばれたトレーナーが山の中腹で、ポケモンたちによって殺されていた、だとか。

やれ、昔シロガネ山に挑んだ人間の骸が森の中を歩けば転がっていることもあって、今では自殺スポットとして有名、だとか。

 

そんな噂は枚挙に暇がない。

 

とはいえ、これらの噂のうち、当たっているものもあれば当たっていないものもある訳で……。

噂は独り歩きするとは言うものの、いざそれを耳にした時には若干呆れざるを得なかった。

 

俺の立場からしてみればそんな噂があるお陰か、人が好き勝手に立ち寄って来ずに救われている部分はあるのだけれど。

今後もこれが継続するのを願いたいねぇ。

 

 

 

さっきの話からも分かる通り、そもそもこのシロガネ山には人なんてまず立ち入って来ない。

それこそ時折恐いもの見たさでお偉いさんから許可を取らずに無断で侵入してくる無謀なトレーナーや、強いポケモンに惹かれた密猟者くらいだ。

そういったバカ共は、シロガネ山の5合目まででさえも立ち入ることが出来る者はほぼいない。

時折5合目を越えて行く者は、だいたいが仏さんになりやがる。

 

ひこうタイプのポケモンを使って山に登ろうするやつも過去にはいたが、野生のポケモンたちが下から破壊光線やらなにやらでバンバン狙ってきたり、飛べるポケモンたちが無視をするなと言わんばかりにしつこく追い回すのを目にしたことがある。

その結果、そういった連中はだいたい道中で撃ち落されて仏さんだ。

 

だから山頂に近づくには、難所を越え岩場を越え、途中一切光の届かない洞窟を抜けて、はじめて山頂付近に近づけるって寸法だ。

しかもシロガネ山なんて4000mを優に超える山だ。

高山病のリスクだってある。

 

まったく、自然現象とはいえ、よくもまぁこんな山が作られたもんだと呆れ返るもんだ。

いや、或いは神様ってやつが、人間に対する試練の場として作ったのかもしれねぇが。

……こればかりは妄想か。

 

 

そうしたことが色々と積み重ったせいかは分からないが、この場所は古くから聖域とされてきた。

まさに人が立ち入ることを許されざる地、禁足地というやつだ。

 

それのお陰か、この地は有史以来荒らされることなく、今尚古くからの威容を現代でも魅せてくれている。

こればかりは今後も守っていかなければならないだろう。

 

そして人々はそんなシロガネ山をこう呼ぶのだ。『霊峰シロガネ』と。

 

 

 

今この場所は、かつてカントー地方において最強のトレーナーと謳われ、今では世界的権威とも言われるオーキド博士のお墨付きをもらって、初めて立ち入ることが許される。

風の噂では2つ以上のリーグを制覇するほどの実力者でなければ、オーキド博士もお許し下さらないのだとか……。

 

現代でそんな強さを誇るのは、カントー・ジョウト地方ではチャンピオンのワタルぐらいだろうか。

あるいはガラル地方に目を向けると、マスタードという壮年のチャンピオンが強いと聞く。

 

そのワタルにしたって、この山が聖域ということで立ち入って来ることはない。

ワタルの故郷、フスベシティといえば伝統を大事にする文化を持った町。

ドラゴンを恐れ、ドラゴンを敬い、そしてドラゴンと共に育つ文化を持つ町で育った彼が、聖域と呼ばれる場所へと足を踏み入れることを躊躇させているのかもしれない。

 

マスタードに関しては、そもそも多忙だし、遠い。

 

あるいは、そのワタルに勝つことができたトレーナーが、最近では二人いるという話も聞いたことがあるが……。

果たして本当の話なのかは、俺が知る由もない。

 

そんな山で、俺はこの10年間山岳警備隊紛いの役職に就いている。

 

 

 

***

 

 

 

かつて俺は、今も噴火を繰り返す多くの火山や、荒涼とした砂漠、さらには鬱蒼としたジャングルのような豊かな森のあるホウエン地方のカイナシティで生まれた。

 

このカイナシティは古くから海上交通の要衝として知られ、昔から色んな地方の人間が顔を突き合わせてはポケモンバトルをしたり、あるいは情報交換をしあったり、そしてあちらこちらへと船で旅立っていく、そんな喧騒に満ち溢れた港町だった。

そんな港町で育ったせいか、俺は物心ついた時から既に、彼らと同じようにポケモンたちと共に見知らぬ世界へと旅立っていくものだと思っていた。

 

そのため俺は齢十三にもなると、持ち前の行動力を駆使して実家を飛び出し、ホウエン地方やジョウト地方、カントー地方にシンオウ地方などを旅して周った。

家を飛び出したばかりの時はカイナシティの近くで友達となったアチャモと共に散々バカやったものだ。

 

勿論先に挙げた地方の他にも色々と周った。

そのどれもが俺たちにとってかけがえのないものだったし、今でもその記憶は色褪せることなんてありはしない。

そんな俺とポケモンたちは、気付けば周囲から偉大なる冒険家として持て囃される様になった。

 

 

 

俺はそんな周りからの称賛の声を浴びせられ続け、いつしか俺に出来ない旅はないとさえ思うようになっていった。

 

そんな折のことだ、俺が旅に出てから久方振りに地元へと帰郷したのは。

俺がいると分かった時には、それはもうカイナシティのヒーロー、いやホウエン地方の産んだ英雄だ、なんて会う人会う人に言われたものだから、終ぞ舞い上がり続けてしまった。

 

「それ見たことか! 俺はガキの頃から大物になると言っていただろうが!!」

 

当時はそんな俺の声がよく町で聞けたかもしれない。

あの頃だってガキのまんまだったんだがなぁ。

 

そしてそんな時だった。

俺に対してホウエン地方のテレビ局から取材の話があったのは。

 

―――当時のテレビは今のものと比較すると、そんなに性能のいいモノではない。

いくらカラーテレビとはいえども、色調は濃すぎたり薄過ぎたり、よく映像に乱れが入ったりするものだった。

 

今のテレビと比較してみろ。

本当に天地の差だ。

 

それでも当時の人間にとってはテレビなんてものは一大娯楽だった。

だからテレビでちょっとでも人が褒められると、誰しもがその言葉に同調してその人物を褒め称えた。

そしてちょっとでも疚しいことがある人間をテレビで取り上げて苦言を呈すと、誰しもがその人間を憎んだ。

 

今から考えると異常ともとれる様相だ。

だが当時の俺も、俺たちもそんな娯楽に魅了されていた。

 

だからそんな娯楽の場に俺が出演できると聞くと、それはもう天にも舞い上がる気持ちになったものだ。

 

 

―――そうしてテレビの収録を迎えた日、俺は当時の共演者からこう言われた。

 

「これってそんなに凄い記録なんですか?」と。

 

「幾ら命の危険が溢れる場所をいくつも冒険したからといって、既に誰かしらの足跡が残る場所なんでしょ? それって価値あるんですか?」と。

 

「それこそ、まだ誰も足を踏み入れたことのないシロガネ山だとか。そんな足跡のない場所に行って、初めて冒険家と名乗るべきやないですか?」と。

 

 

当時の俺は増長していた面もあってか、そんなことを言われた結果意図も容易くカチンとしてしまった。

それにその人物の言っていることも強ち間違ってはいないと思ったのも事実だ。

だから俺はついついその人に対して言ってしまった。

 

だったらこの後、そのシロガネ山を冒険して来ますよ。それを以て、私も一流の冒険家の仲間入りさせていただきます。なんて。

 

今にして思えば、うまいことやり込められたな、とも思う。

だが、当時の俺はそんなこと知らなかった。

 

だからこそ、その代償は俺の苦難として襲い掛かって来た。

 

 

 

 

自慢ではないが、俺と俺のポケモンたちはそれこそ色んな地方で、色んなトレーナーたちと激戦を繰り広げてきた。

それに色んな野生のポケモンたちとも戦ってきて、生き残るという手法に関しては世界でも有数のものがあるんじゃあないかという自覚があった。

さらには旅の途中、四天王と呼ばれる人間やチャンピオンといった人間、ついでにジムリーダーたちとも友好を深め、共に切磋琢磨した時期もある。

 

それゆえに俺はちょっとした危機でも簡単に乗り越えられるという自信があった。

だからシロガネ山がなんぼのもんじゃいと、気を大きくしていた面が強かったのある。

 

 

一方で俺は、これまでの冒険において守ってきたものがあった。

それは人が立ち入り禁止にした場所に関しては、極力立ち入らないようにするといったものだ。

 

理由は簡単だ。

禁足地なんてものは、宗教や文化に根差しているものが多いからだ。

 

 

所詮俺は旅人、外部の人間だ。

外部の人間が禁足地へとズカズカと踏み入ることなんて、地元の人からしたら気分が悪いなんてものではない。

時代が時代なら、殺されてしまったとしても文句は言えない所業だとも言える。

 

故に俺は禁足地には立ち入らないようにしていた。

 

 

とはいえただの危険すぎる場所とか、そういったものであったら万全の準備をして入っていくがな。

 

この時のシロガネ山も、まさに万全の準備を整えてから入山することにした。

 

なんせいつかは登ろうと思っていた山だ。

今やっとその時が来た、とワクワクしたものだ。

さらには自分の名声も挙げられるチャンスと来た。

ここで燃えなきゃ男が廃るといった心持で準備をしていた。

 

 

とはいえ、だ。

シロガネ山なんてものは男の気迫なんて小さなものとして受け止める深さがある。

今振り返ると、この時の俺には蛮勇ばかりが先行して、慎重さが欠けていた。

 

無謀な行いに対しては、その代償を自分で受け止めなければならない。

自由であるためには、如何なる事象に対しても、その責任を全うせねばならない。

 

俺はこの言葉の意味を、シロガネ山に辿り着くまで本当の意味で理解していなかったに違いないのだ。

 

 

 

***

 

 

 

当時からオーキド博士は名の通った一廉の人物として知られていた。

それこそまだ世界的権威と呼ばれる前でさえも。

 

だがそれも不思議な話ではない。

かつてはカントー最強と謳われた御人だ。

そんな人がマサラタウンなんていう、言ってはなんだが何もない辺鄙な田舎町で研究を始めたと聞けば、誰だって目を向けてしまうといったものだ。

 

 

なぜ、そんな場所で研究を行う?

貴方に相応しいもっといい場所で研究すればいいじゃないか。

 

どうしてポケモンバトルの世界から足を洗う。

お前なら世界に通用するはずだ!

 

 

独立したばかりの頃はそんな声が大きかったと、オーキド博士本人から聞いたことがある。

おそらくだが俺も当時のオーキド博士を取り巻く人間の一人だったとしたら、周囲の人間と同じような思いを抱いていたのかもしれない。

 

けれど当時のオーキド博士は、そんな詰め寄る人たちに対してさえも大人の対応を見せ続けた。

 

 

確かにポケモンバトルは面白い、世界に目を向けるのもいいだろう。

だがそれ以上に、ポケモンという不思議な生物を研究し、それを学術的にまとめ上げる。

これに勝る偉業はあるだろうか!?

 

私はその偉業を誰よりも早く成し遂げて見せる!

それこそが私と共に戦ってくれたポケモンたちに対する礼儀であり、ポケモンと共に暮らす人々の生活をより豊かなものにする手段だと考えているのだ。

 

 

そんな啖呵を切ったのだと、当時を知る記者からは聞いたことがある。

その結果、当時から最強トレーナーとして名声の高かったオーキドは、博士としての名声も獲得するようになった。

 

 

そんなオーキド博士から、俺はシロガネ山入山の許可を貰った。

博士も俺のことを知っていたお陰なのか、かなりスムーズに許可をいただくことが出来たのは僥倖だった。

きっとこれもテレビの効果なのだろう、なんて当時の俺は考えていたけれど。

 

 

後年になって知ったのだが、オーキド博士にはテレビだから許可を出した訳ではなかったらしい。

むしろ各地のトレーナーから俺の実力を知って、その上で判断を下してくれたのだとか。

 

頭が上がらないぜ。

 

 

 

許可証を貰ってから暫くして、俺はポケモンたちと共にシロガネ山に挑んだ。

テレビもついて来ようとしたが、さすがに守り切れないからとなんとか強引に止め置いて、一人で入山したのだった。

 

 

結論から言えば、俺はシロガネ山の山頂まで達することが出来た。

そこから見た景色は、まるでカントー地方とジョウト地方の全域を見渡せると思わせるような絶景が広がっていて、只々自然に対する畏敬の念が溢れる場所だった。

 

しかし、この場所に登れてよかった、という気持ちだけでは終われなかった。

 

ここに来るまでは、道中、リングマやらドンファンやらに狙われたのを返り討ちにしたり、バンギラスと真っ向勝負をすることになったり、ハガネールに土中から襲われたりと、苦難の連続だった。

 

だが俺もオーキド博士からも評価される身、彼らの追撃を何とか凌いで山頂へと歩き続けた。

だけれども、戦えば戦う程に身体に傷は増えていき、ついにはまだ山頂まで暫くあるという所で傷薬さえも枯渇したのだ。

 

そんな時である。

彼の伝説の三鳥が一体、ファイヤーと対峙したのは。

 

光の一切も入ってこないシロガネ山の洞窟の内部にて、そこにいるだけで煌々とすべてを照らす光の塊。

オレンジ色のような、黄色のような大型の体躯をしていて、翼やたてがみや尻尾(尾羽)は炎を模している火の化身。

 

その眩いばかりの激しく燃え盛る炎の翼は、俺たちの命さえも燃やし尽くさんと動きだした。

 

 

やられてたまるか! タダでは死なんぞ!

 

 

そんな思いが功を奏したのか、疲弊しきった身体に鞭を打ちながらも、俺とポケモンたちはなんとか洞窟の外でファイヤーを撃退することに成功した。

 

とはいえ相手は伝説のポケモン、俺たちはその試練に打ち勝ったはいいものの、もはや身体に力が入らず倒れ伏せてしまう始末。

さらに言ってしまえば、既に9合目を超えて強風が吹く中、身体を休ませるような場所さえも見つからない。

 

手持ちのポケモンたちもほとんどが瀕死、つまりは誰も助けなんてものを呼ぶことが出来ない状態だった。

 

 

俺たちはここで死んでしまうのか。

俺が向こう見ずなばっかりに、こいつらを殺してしまうのか。

ああ、なんて最低最悪な群れの長だ。

 

神様よ、もしいるのであれば俺の命はどうなってもいい。

叶うことならポケモンたちを救ってやってくれ。

 

 

そんな思いが胸中を駆け巡る。

だがどれだけ願ったところで、そんな奇跡なんて起こりやしない。

 

そう、本来だったら起こりやしなかったのである。

 

俺たちの命が尽きようとしたその時、遥か遠方より温かな光がゆったりと近づいてきた。

その光は倒れ伏せた俺たちの方へと真っ直ぐに、されど悠然と飛んできては、やがて俺たち全員を包み込む。

そして身体に残っていた傷も、体力でさえも、なにもかもを回復させて魅せた。

 

まさしく奇跡としか表現しようのない出来事だったと言えるだろう。

 

その温かで優しい光に包み込まれていた俺は、徐々にうすぼんやりとする意識をなんとか繋ぎ止めながらも、その光の主を探った。

そこにいたのは、虹色の翼や尾羽を持つポケモンだ。

 

それが『ホウオウ』というポケモンだと知ったのは、その出来事よりも遥か後のことになる。

 

ホウオウに対して感謝を述べようとした俺であったが、あまりにも温かで柔らかい光に包まれて、感謝も言えないままに遂に意識を手放したのだった。

 

 

 

その後暫くしてから目を覚ました俺たちは、例の光の主を見つけ出すことも出来ず、そのまま山頂へと登り切って景色を堪能した後に下山したのであった。

 

 

 

―――下山した際には、既に登山口にマスコミが詰めかけていた。

 

誰もがシロガネ山の実態を知りたかったのだろう。

俺に対して遠慮することもなく問いかけてきたのであった。

 

だが俺は、この山であったことを誰かに話す気にはなれなかった。

上手くは言えないが、それが山に対する礼儀なのかと思えたからだ。

 

だからひたすらに沈黙を貫いていると、マスコミからは「どうせ5合目辺りでスゴスゴと帰って来たんだぜ」「もしくは道に迷って帰って来たから何も言えやしないんだ」なんて言われた。

 

それでもなお沈黙を貫く俺。

 

すると翌日には新聞に「嘘だらけの冒険者」「虚栄に塗れた栄光」なんて文字が踊り、テレビでは俺に対する非難が飛び交うようになった。

 

そんな出来事のせいか、街を歩けば一般の人でさえ、俺に対して「嘘つき」と呼ぶようになっていった。

数少ない友人たちからは、「どうして本当のことを言わないんだ」と詰められるようになり、いよいよ俺は肩身が狭くなって逃げるように田舎町へと引っ越すことにした。

マサラタウンだ。

 

 

そして、そういった経験を経ても俺はシロガネ山のことを言いふらそうとしなかった。

それはあの山で遭遇した奇跡に心を奪われ、それと同時に理解した恐ろしさに惹かれたからだった。

 

なによりも、奇跡の主に対してお礼をしなければならないと、そう思うようになっていった。

 

 

それからというもの、俺は暇さえあればオーキド研究所へと顔を出した。

オーキド博士になら、シロガネ山で起きた出来事を話すことが出来ると思ったからだ。

 

 

博士も俺の話を真剣に聞いてくれた。

そこで俺は奇跡の主の名前が『ホウオウ』だと知ったのだ。

 

 

それからというもの、俺の心はシロガネ山と『ホウオウ』に憑りつかれた。

 

 

時には博士の許可を貰っては入山し、山に生息するポケモンたちと戦いながら山頂へと至っては、あの日のお礼をする。

またある時はホウオウ伝説の足跡を辿って各地を放浪する。

 

そんな生活を続けていた時、博士は俺に対して一つの提案をしてきた。

それはポケモンリーグ公認のシロガネ山専門の山岳警備隊の仕事をやらないか、という話だった。

 

 

 

***

 

 

 

以来、俺はこのシロガネ山を見て回り続けている。

そのお陰か、俺も、俺のポケモンたちも昔と比較してかなり強くなったと自負している。

それに色んな戦い方も覚えた。

 

このシロガネ山にはなぜかポケモンセンターがある。

ジョーイさんに理由を聞いたところ、無許可で立ち入ってしまった人たちを休ませるための場所としての役割があるんだとか。

そう言った人たちは基本的にポケモンセンターに辿り着く前に、手持ちのポケモンのほとんどを瀕死にしてやって来るらしい。

その際にポケモンを回復させ、そのうえで俺はそんな彼らが無事に下山できるように護衛の役割も担っている。

とはいえ下山して最初に行く場所はトキワシティの警察署だが。

 

あとは野生のポケモンたちの中で、縄張り争いに敗れたポケモンが下山するのを防ぐ役割もポケモンセンターの役割なんだとか。

俺がその代行をしているけれど。

 

そしてそんな山奥にあるポケモンセンターへと、俺はジョーイさんたちやジュンサーさんたちを護衛して連れて行かなければならない。

彼女たちはこの山中のポケモンたちと対峙するには、実力が少し足りないからだ。

 

さらには時折世間の目を隠れて暮らしたいといった人たちも入山してくる。

そう言った人たちはポケモンリーグから正式に許可を貰ってから入山してきているらしいが、俺が言うのもなんだが奇特な人たちだ。

 

そんな人たちの護衛も俺は任されている。

 

さらには密猟者との戦いだ。

やつらはそれこそ、ポケモンバトルといった手法を用いずに、様々な手法でポケモンを乱獲しようとする。

 

そういった奴らと戦う時には、もはやポケモンバトルとは言わない、なんでもありの戦いになってしまう。

詳しくは言わないがな。

 

 

 

そんな戦いばかりで、どうやって腕を磨くのかと思われるかもしれない。

しかしこの山には奴がいる。

そう、ファイヤーだ。

 

奴は暇な時には俺たちに対して戦いを挑んでくる。

そして決着が付くまでバトルを行うのが奴にとっての習慣となってしまっているらしい。

もはや腐れ縁とさえ、言ってしまってもいだろう。

 

まったく、いい迷惑だ。

 

 

 

 

なんてことを考えながら俺はシロガネ山のポケモンセンターへと続く道を歩く。

 

正式な道とはいえ、この道もなかなかに険しい。

場所によっては滑りやすい岩場があったり、地面が脆くなっていて崖崩れを起こしやすい場所もある。

 

整備すればいいのにとも思うが、そもそも整備できる人もポケモンも入って来れないんだから無常である。

 

そんな道を俺は慎重に歩き続ける。

野生のポケモンたちも、さすがにそんな場所で戦うのはルール違反なのか、襲ってくることはない。

 

そうしてゆっくりゆっくりと歩いていたところ、突如空をつんざく様な鋭い鳴き声が響き渡った。

 

この声の主は、どうやら余程俺のことを探し回っていたらしい。

声がする方向へと俺が顔を向ければ、そちらの方向からすごい勢いで飛んできているのが目についた。

 

 

ファイヤーの野郎、遠目からでも分かるぐらい、嬉々としているじゃあねぇか。

あの野郎、またバトルするつもりだな。

まったく、しょうがねぇな。

 

身構えた俺ではあったが、難所をさっさと越えるべく、慎重に、されど急いで足を動かすことにした。

そうやって難所を歩いていると、ファイヤーが俺の頭上を飛び回り、今か今かと俺が難所を抜けるのを待ち始めた。

 

言ってみたら、奴なりの『急げ』という合図である。

俺はそんな合図に呆れながらも、さっさと難所を抜けるべく足を動かした。

 

 

―――難所を抜けた先には、ちょっとした広場がある。

野生のポケモンたちは自身を鍛える際に、いつもそこでバトルを行っていた。

言わば天然のバトルスタジアムである。

 

俺がそこに着いた頃には、ファイヤーは悠然とした態度でそこに待機していた。

 

俺はそのファイヤーの姿を目に捉えると、相棒バシャーモをいつものように繰り出した。

 

ほのお対ほのお、向こうがひこうタイプの技を使える分有利ではあるが、それでも俺はバシャーモで行く。

それはバシャーモのエースとしての自覚を最優先に考えたからだ。

 

ファイヤーもバシャーモの姿を捉えるや、如何にも嬉しそうにしながら戦いの準備に入る。

二体のそんな姿を見ていると、これ幸いとモンスターボールから出てくる他の5体。

やれ、俺を戦わせろ。いや、俺だ。いやいや、私を出せ。なんて声の大合唱を始めてしまう。

どいつもこいつも自分勝手な奴らめ。

 

だが、俺の群れは基本的にこれでいいと思う。

なんせ俺自身がそうなのだから。

 

人もポケモンも、基本的に自分と似たような奴と群れを成す。

それは良いこともあれば、悪いこともあるとは思うのだが、それでも俺たちは今の姿で様々なことを成し遂げてきた。

だから時代から必要とされなくなるまでは、この姿のままでいいのだ。

 

さて、こちらも、そしてあちらファイヤーも準備が整ったな。

 

「やるか、相棒。」

 

俺はバシャーモに対してその一言だけ伝えると、そのまま戦闘へと移行した。

 

 

 

***

 

 

 

先日のファイヤーとの一戦の後、俺はいつものようにシロガネ山の見回りを行っていた。

いつものように森は鬱蒼としていて、いつものように川は澄んでいる。

そしていつものようにポケモンたちの唸り声や、怒号が聞こえてくる。

そんなシロガネ山の見回りだ。

 

あの時のファイヤーとの戦闘は、なんとかこちらの勝利で幕を閉じることができたのは幸いだった。

お陰でしばらくはファイヤーも大人しくしていることだろう。

 

とはいえだ。

それで俺の仕事がなくなるわけではない。

今日も朝からポケモンセンターまでの道のりを見て回ったり、空から密猟者がいないかを見て回ったり、あるいは山間部に暮らす人々がトキワシティまで買い出しに行くために降りて行くのを手伝ったりしていた。

 

そしてその日、俺はその任務のついでに、久方ぶりにマサラタウンを訪れることとなる。

というのも、シロガネ山の現状について一か月に数回はオーキド博士へと伝えるということも、俺の職務の範疇であるためだ。

 

相も変わらず、俺はオーキド博士に対して「あそこの植生は」だの、「現状のシロガネ山のポケモンの縄張りについては」だの、「ファイヤーの炎について」だのを伝えていた際に、オーキド博士からとある話を聞かされた。

 

「近々、もしかしたらじゃが、若いトレーナーがシロガネ山を訪れるかもしれんのでな。もし登ってきたら、その時はどうか気にかけてやってはくれんだろうか。なんなら彼の壁として立ちふさがってくれてもいいぞ。とはいえ、果たして壁になれるかはお前さん次第じゃがのぉ。」

 

……かもしれない、と言うわりには既に登ることが確定しているようにも聞こえる。

ここまでプッシュするということは、いわゆるオーキド博士の秘蔵っ子というやつかもしれない。

いずれにせよ、密猟者や不審人物等と間違わないように気を付けなければならないな。

 

 

 

―――翌日、マサラタウンを後にした俺は、トキワシティへと連れてきた彼ら、彼女らと共に山間部の集落への帰路へと着いた。

基本的に山は15時以降に登ることは推奨されていないし、そもそもシロガネ山の山間部の集落に戻ることでさえかなり時間が掛かる。

 

暗闇の中、シロガネ山を歩くというのは自殺することと同義と言ってもいいだろう。

故に俺たちはトキワシティへと下った際には、必ずトキワシティで一泊して、翌日に全員で帰ることを義務付けていた。

 

そして俺が彼ら、彼女らと共に山間部の集落へと戻った時には、既に正午に差し掛かろうとした時だった。

それから暫くした時のことだ、日頃そこでは見かけない歳若なトレーナーが俺たちの後を追ってきたかのように集落へとやって来た。

 

そのトレーナーの年の頃はおおよそ10歳を少し過ぎた程度だろうか。

おそらく俺がかつてカイナシティを飛び出した頃よりも、もしかしたら若いのかもしれない。

 

だけれども肩に電気ネズミポケモンのピカチュウを乗せ、悠然と佇んだその少年の姿は、まさしく歴戦の猛者とも言えるような風格を纏っていた。

 

そもそもこのピカチュウ、パッと見ただけだが全身に無駄な筋肉がない。

まず間違いなく強い。

 

 

 

そうか、この少年がオーキド博士の言っていた若いトレーナーか。

この風格なら歳なんて関係ない。

まったく、恐ろしい子がいるもんだ。

 

そんなことを考えつつも、俺はその少年に対して声を掛ける。

 

「おう、少年! 少年がオーキド博士の言っていたトレーナーだな? どこの出身だ?」

 

だけれどもその少年は無言を貫いたまま、こちらを見つめ続けてきた。

 

なんだ、聞こえなかったのか?

それとも、いきなり大人に声を掛けられて身構えたのか?

あるいは言葉が通じていないのか。

 

 

疑問に思っていた俺であったが、その直後に少年から腹の虫が鳴り、ボソっと「……腹、減った。」と言ったのを聞いて、俺は噴き出した。

 

「そうか、腹が減っていたのか! それならちょうどいい、俺の家に来なよ。俺もこれから飯にしようとしていたところだ。ちょっと時間が掛かるが、ご馳走してやる!」

 

俺がそう言って家に向かって歩き出すと、少年は突如として目を輝かせて首を大きく縦に何度も振り、俺の後を追って来た。

 

 

 

―――家に着くや否や、俺はトキワシティで買い貯めたものを蔵へと納めてから、少年に対して「蕎麦は食えるか?」と聞いた。

家にあってすぐ食べられそうなものがそれしかなかったからだ。

 

すると少年は首を縦に振って了承を意を示したので、俺は以前から搔き集めていた山菜を洗ってから蕎麦へと放り込んで少年に提供した。

簡易的な山菜そばだ。

 

もちろんポケモンたちにもポケモンフーズの他にも、山菜を練り込んだポケモン用のお菓子を与える。

 

少年も少年のポケモンたちも、実に美味そうにパクパクガツガツと食べ始めると、あっという間に皿が空になった。

これは提供して正解だったなと、俺は独り言ちる。

 

 

それから俺たちは使った皿等を洗った後に、一服してから本題に入った。

 

「少年、少年はオーキド博士から許可を貰ってこのシロガネ山に入山した。そういう認識でいいんだな?」

 

俺は少年に問いかける。

すると少年は無言のまま、今度は首を縦に振ることで俺の言葉に同意を示した。

 

「そうか、この山に来たのは、やはり修行か?」

 

少年はその言葉にも首肯する。

ふむ、なるほどな。

 

「分かった、存分に修行をしていけ。だが腹が減ったらいつでもこの村落に来い。俺がいたら、飯を食わせてやる。」

 

俺は少年に対してそう伝える。

間違いなくこの少年はポケモンバトルは強いのだろう。

 

だが、さっきのやりとりで確信した。

こいつは抜けている、いろいろと。

ならば大人の俺がせねばならないのは、こいつの抜けている部分のサポートか。

 

まぁ、こいつがもう少し大きくなるまでのことだろうが、それもありだろう。

それよりもだ。

 

「少年、名は?」

 

少年はボソりと「……レッド」と名乗る。

 

「そうか、レッド。お前さん、さっきも聞いたがこの山には修行に来たのだろう? だったら俺ともポケモンバトルをしないか?」

 

これでも、そこそこ強いんだぞ~と俺はレッドに伝えると、レッドはまたしても目を輝かせながら首肯した。

 

「よし、では行くか。さすがにこの村落ではできないから、今から少し山登りをして戦いの場へと移るとしよう。」

 

俺が椅子から立ち上がりながらレッドにそう伝えると、レッドも俺同様に立ち上がりながら嬉しそうに俺の後を着いてくる。

きっと、こいつは呆れる程に純粋なんだろう。

 

そうして俺たちは村落を出て山道を歩いていると、レッドが珍しく、主体的に俺に対して声を発してきた。

 

「……あんた、名前は?」

 

「うん? あー……、言ってなかったか。悪い悪い。俺はゲンという。」

 

改めてよろしく頼むぞ、レッド。と俺が言えば、レッドは嬉しそうに首を縦に振っていた。

 

 

 

***

 

 

 

「ちぃ、いよいよ俺も追い詰められたってわけか!!」

 

俺は今倒れた俺自身のポケモンをボールに戻しながらレッドに対して声を発する。

この少年は言葉数がとても少ないが、バトルだと雄弁だ。

それがわかっただけでもこのバトルには価値があったとも言えるだろう。

 

とはいえだ。

このままバトルが進行すれば、俺は十中八九負けてしまう。

なぜならポケモンの能力が仮に五分だとしても、俺個人の技量かレッドに及ばないことがバトルの途中から判明したからだ。

とはいえ、簡単に負けてしまうのは、長いことこの山に住む者として許せなかった。

 

負けるにせよ、せめてギリギリまで追い詰めてやりたい。

それこそが過去に色々とあった俺の、最後に残ったなけなしのプライドだった。

 

俺の手持ちは残り一体、対するレッドの手持ちは残り二体、かなりの危機的状況にあっても、俺は尚も勝ち筋を探し求める。

 

相手の場には手負いのリザードン。

そしてこれまで倒したのはピカチュウ、ラプラス、カビゴン、フシギバナ。

とくると、残りの一体はカメックス。

さっきの食事の時に見た。

 

であれば、残りのこちらのエース、バシャーモでリザードンをスムーズに倒したとしても、タイプ相性的には圧倒的に不利。

それでも意地を見せる時だと気合を入れる。

 

よし、それじゃあ頼むぞ相棒。

そう言ってからボールを投げようとしたところ、突如としてけたたましく鋭い鳴き声が俺の後方から響き渡る。

俺はその鳴き声のためにボールを投げるのを止めて、声がする方へと振り返った。

すると、遠方から嬉しそうに飛んできているファイヤーの姿が目に入った。

 

あいつめ、わざわざこんな時にやって来なくてもいいだろうに。

 

そのファイヤーは俺の近くにまで飛んで来ると、突如として地面に足をつけ、翼を大きく広げてはレッドに対して威嚇を始めた。

対するレッドは、そのファイヤーの姿に少し困惑しているようにも見える。

 

「おい、ファイアー。これは俺とレッドの勝負だ。邪魔するんじゃないよ。」

 

だが俺のその言葉では、ファイヤーを退かせることが出来なかった。

 

ファイヤーは何を思ってレッドを威嚇しているのか。

俺と、俺のポケモンたちをライバルとして認めていて、だからそんな俺を倒そうとするやつは許さないというやつなのか。

或いは、面白そうなポケモントレーナーがいたから勝負を挑みたいのか。

 

いずれにせよ、こいつはもはや誰にもレッドと戦うという権利を譲る気はないということなんだろう。

 

俺の口から溜息が零れる。

そしてボールに入っている相棒に対して、すまないと一言詫びを入れてからファイヤーへと向き直る。

 

「おい、ファイヤー! そんなにレッドと戦いたいなら、ひとまずは俺の指示に従ってもらうぞ! いいな!?」

 

するとファイヤーは嫌がるそぶりを全く見せず、俺の方を見つめては嬉しそうに首を縦に振った。

 

こいつめ……。

 

「ということだレッド、悪いが俺の六体目はファイヤーということで許してくれないだろうか? 詫び替わりに、そちらのリザードンの回復の時間を設けることで手を打ってくれると助かる!」

 

俺の言葉を受けたレッドは、まるで待っていましたと言わんばかりに目を輝かせては何度も何度も首を縦に振る。

レッドもレッドで、戦うことが本当に好きなのだろうな。

 

そしてレッドのリザードンの回復を待ってから、俺たちのバトルは再開された。

 

はじめはファイヤーもリザードンも飛び上がったと思ったら、そのまま空中を縦横無尽に飛び回りつつ、お互いに相手の隙を作り出そうと自らの炎で牽制を行う。

 

そして時が経つにつれ、互いに激しくぶつかり合いを始めた。

片や翼に炎を纏いながら相手にぶつかっていき、片や爪で相手が近づいてきたところを切り裂こうとする。

 

 

俺もレッドも、その乱戦を地上から見上げることしかできなかった。

なんせ二つの火の玉が交わる度に大きな音が鳴り響くから、声を張り上げても向こうに届きはしないのだ。

だから俺たちは只管その行く末を見守るしかなかった。

 

 

そして数十度に渡るぶつかり合いの後、二体はそのままとんでもない速度で俺たちの元へと落ちてきた。

ド派手に土埃を捲り上げ、二体は傷を負いながらも、尚も相手を倒さんと対面の敵を睨みつけている。

 

 

 

その数瞬の後、俺とレッドは同時に戦うパートナーへと声を掛けた。

 

「ファイヤー!」

 

「リザードン!」

 

「「だいもんじ!!」」

 

 

その声を聞くや否や、二体は相手に対して強力な火球を放ち、それがぶつかり合って強力な熱風を巻き起こした。

 

 

 

***

 

 

 

ポケモンリーグの本場、カントー・ジョウト地方において最強のジムと言えば、おそらく十人中十人がこう答えるに違いない。

トキワジムだ、と。

 

なんせジムリーダーは、生ける伝説と名高いレッドと同格と目されているグリーン、その人だからだ。

 

 

 

数多のトレーナーがそのジムを攻略するためにグリーンに挑むが、柳に風とばかりにグリーンはそれを容易く受け流す。

 

勿論グリーンとてジムトレーナーだから手加減をする。

しかし、そうであっても伝説と肩を並べる存在には容易に勝つことが出来ないのだ。

 

 

―――そんなトキワジムの前で、四人の男女が立ち話を行っていた。

 

一人はジムの主、グリーン。

かつてチャンピオンとなった頃より数年経ち、その体躯は当時と比べても大きくなっていた。

 

一人はそのグリーンの幼馴染にして、伝説であるレッドとも関係の深いリーフ。

彼女も歳を経て、幼さを若干残しながら、よりその美しさに磨きが掛かっていた。

 

一人はシズク、眼鏡を掛けた妙齢の女性。

この女はシロガネ山にて山岳警備隊の仕事に就いているゲンという男の配偶者だ。

 

そして最後の一人、この中では一番歳若い少年は、グリーンたちを相手に不敵な笑みを浮かべている。

その少年の名をゴールドという。

 

 

グリーンはその少年の笑みに若干呆れながらも、仕事を任せるために声を掛ける。

 

「それじゃあ、任せたぞゴールド。あのバカレッドにいい加減、山を降りてこいと伝えてくれ。」

 

次いでリーフもゴールドに対して伝言を頼んだ。

 

「そうそう、この前だって三人で旅行に行こうって言ったのに、ゲンさんやファイヤーたちとバトル三昧で忘れていたっていうじゃない! いい加減降りてこないと怒るわよって!!」

 

そんな二人の頼みに対して、ゴールドは笑みを崩さずに返答する。

 

「そこまで言うんでしたら、お二人とも行けばいいじゃないですか。レッドさん、喜びますよ。」

 

「はぁ、あのね。あのバカは私たちを見たらもっとバトル欲が強まるの。それにグリーンはジムの運営でなかなかここを離れることが出来ないし、私だってナナミさんの手伝いや、博士の仕事の助手、それにポケモンリーグのお仕事と多忙なのよ。そのうえでシロガネ山なんて、とてもじゃないけれど登る気にもなれないわ!」

 

ゴールドに対して喰いかかるかの様にリーフが反論する。

実際、今この4人とシロガネ山の2人のうち、仕事に就いていないのはレッドとゴールドぐらいなものだった。

 

そのゴールドもまだ旅立って一年程度の少年ということもあり、まだまだ仕事に就くには早すぎる。

つまり実質無職と言えるのはレッドくらいなものだった。

 

とはいえレッド自身、ふらりと山を降りたかと思えば、気付けば違う地方へと渡り、そこで武者修行がてらに賞金を稼いできては再度シロガネ山に籠る。

そんな生活を送っているためにお金自体はある。

 

「まぁまぁ、リーフちゃん。そうかっかしないで。あの時はうちの旦那も悪かったんだから。」

 

憤るリーフを窘めるようにシズクが声を掛ける。

それに対してリーフは「でも!」と反論しようとするが、それさえも「まぁまぁ」と窘めては場を取り仕切る。

 

次いでシズクは改めてゴールドに向かい合って言葉を発する。

 

「それじゃあ、ゴールドくん。気を付けていってらっしゃい。それと、うちの旦那を見かけたら、今日はあなたの好物を用意しているんだから、早めに帰って来なさいと伝えておいてね。」

 

「はは、ゲンさんもシズクさんには敵わないってことですね。わかりました。見かけたら伝えておきます。」

 

ゴールドがシズクに対して快活に返答した直後、ゴウッという大きな、地面を揺らすような音が鳴り響いた。

方角は……、西の方、シロガネ山だ。

 

「凝りもせず、今日もバトルか。この感じ、ファイヤーとリザードンか? あるいはバシャーモか。」

 

グリーンがシロガネ山の方を見ながらそう呟く。

 

この轟音は前々から時折鳴っていたのだけれども、レッドが数年前にシロガネ山に登るようになってからはより頻繁に発生するようになっていた。

発生の原因は、先に挙げた三体の炎タイプの大技だ。

互いに相手に当てようと発射しても、その技同士で相殺されてしまい、その結果トキワシティまで聞こえる程の轟音と衝撃波がシロガネ山で生まれる。

 

そしてシロガネ山を見てみれば、その炎の影響か、他の箇所とは比べ物にならないくらいに温度が上昇するのか、シロガネ山に陽炎がかかる始末だ。

 

そんなシロガネ山を見て、リーフとシズクは溜息をついてから言葉を発す。

 

「まったく、人の迷惑を考えないのかしら!」

 

「うちの旦那にも、帰ってきたらキツくお灸をすえないといけないわね。」

 

女性陣の怒り方を見て、グリーンは再度ゴールドに対して声を掛けた。

 

「この姿を見れば分かるだろう? これ以上、女性陣の期限を損なわないように、さっさとレッドに勝ってあいつを山から引きづり降ろしてくれよ。」

 

するとゴールドは先程の笑みを崩さぬままに、「はは、頑張ってみますよ」と言葉を発する。

それから彼は、一つのモンスターボールを手に取り太陽にかざす。

 

「なんせ、今回は俺も太陽に協力してもらっているんだ。こいつがいるのに負けられない。」

 

 

 

 

 

それから数時間後、彼らは温かな光を持った主と出会うことになる。

ゲンが探し求めていた光の主に。




呼んで下さってありがとうございます。
ご感想等いただけると勉強にもなりますし、励みにもなります。
よろしくお願い致します。

以下にちょっとしたQ&Aコーナーを設けました。

Q1,主人公ゲンの名前の由来は?

A1,幻という意味でのゲンです

Q2,ゲンのパーティーは?

A2,決めていないです。皆さんでお好きに考えて下さい。

Q3,なんでレッドと競り合えているの?

A3,以下の要因があります。
・シロガネ山に10年いたために鍛えられた
・レッドにとっては他地方のポケモンもいて、初見殺し感があった
・そもそもレッドはシロガネ山での修行にまだ入っていない

そんな条件でも負けるんですよね~

Q4,主人公の世代は?

A4,あんまり決めていないのですが、おおよそ20代後半から30代半ばのつもりで書いています

Q5,なんでシロガネ山に集落があるの?

A5,シロガネ山に元アイドルのおばあさんがいるってことでインスピレーションを受けました。そんな人目を避けて暮らしたい人たちの集落があってもおもしろいかなと。
なお、まったく設定が活かせなかった模様。

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