これからも色綾まどいさんの魅力をお伝え出来たら幸いです。
光祐一朗の研究室。事前に科学省の間取りは調べてあったし、外部からの客も多いためか、すんなりと目的の部屋までたどり着くことが出来た。恐らく地下の騒ぎも知らずにここで急遽入った仕事をしているのだろう。
意を決してドアをノックする。中から返事はない。もう一度ノックすると少し遅れて声が返って来た。
「すいません、今少し仕事で立て込んでまして、どちら様ですか?」
「息子さんの光熱斗君のことで大事なお話をお持ちしました。お仕事中なのはわかっていますが、どうかほんの少しだけでもお時間頂けないでしょうか?」
そう言うと、扉の向こう側で息を飲むような音が聞こえた気がした。そしてしばらく沈黙が流れた後、部屋の主である光祐一郎の声が再び響いた。
「どうぞお入りください、ロックはされてませんから」
「失礼します」
中はきれいに片づけられた部屋だった。デスクには書類やファイルなどが整然と並べられている。デスクの上には熱斗君と奥さんを撮った笑顔の写真と、ロックマンの画像データをプリントアウトして写真風にしたものが額縁に並んで飾られていた。
「熱斗のことで大事なお話があるということでしたが、できれば手短にご説明いただけますか?」
そりゃそうだ、現在久しぶりの家族の時間を臨時の仕事に邪魔されて、一刻も早く地下の立食パーティに戻りたいと思ってるのだろう。少しこちらを急かすように言ってきた。現在進行形で熱斗君とロックマンがピンチなのだ。こっちも無駄な時間はかけてられない。
俺は持ってきたカバンの中から一枚のデータカードを取り出して光祐一朗さんに手渡した。
「単刀直入に申します、このカードの中にはWWWの仕掛けたプロテクトをすり抜けるパスコードのデータが入ってます。今地下では息子さんがWWWの作戦を防ぐためにロックマンと共に戦ってるんです。どうかこのデータを熱斗君にお渡しして頂けないでしょうか。中身も調べて頂いて構いませんし、私のナビも光さんにことが終わるまでお預けします」
俺に出来ることは頭を下げて誠心誠意お願いすることだけだった。突然現れた見知らぬ女を信用する要素は何一つないし、傍から見ても怪しすぎる。それに事情を詳しく説明しようにも俺はWWWで顔が割れている数少ないオペレーターだ。
「あなたはWWWオペレーターの色綾まどいさんで間違いありませんか?」
「はい、信じてもらうことが難しいことは百も承知です。ですが、そのデータの中身を一目だけでも見て頂けませんか。光さんならそれがどういった用途のものかすぐにわかるはずです」
中身さえ見てもらえればこれがウイルスの類ではなく、ある種のプロテクトをすり抜けるために作られたパスだとわかるはずだ。それさえ確認してもらえれば熱斗君に連絡が取れるかもしれない。無論WWWの幹部が手渡したデータカードなど中身を見るのにも慎重にならざるをえないし、そもそもデータを見ずにオフィシャルに通報されるかもしれない。
しかし、そんな俺の心配をよそに、受け取ったデータカードを自前の作業用PCに差し込むと、光祐一朗はすぐに解析を始めたようだった。
数秒もしないうちに結果が出たらしく、彼は画面を見ながら言った。
「すいませんね、万が一ということもあるので解析しましたが、害のあるプログラムではありませんでしたよ、もう熱斗にはメールに添付して送りましたので心配ありませんよ、まどいさん」
「あ、あのぉ、そんなに簡単にいいんですか?私が言うのも変ですが、普通もっと警戒しません?」
最悪の事態も考えていただけに拍子抜けもいいところだった。いくらなんでもセキュリティ意識低すぎないか? だが、彼の答えは至極当然といった感じで返された。
「実は少し前に熱斗から電話で相談されてたんです、WWWのプロテクトが掛かってるから何とか出来ないかって、こっちからロックマンを通して解析をしてる最中だったんですが、これが思いのほかよく出来た構造だったので、少し困ってたんですよ。わざわざありがとうございます」
「でもそれって私を信用する理由になってませんよね?」
「いえ、息子からあなたのことは相談されてました。色綾まどいさん、WWWの現役幹部でありながら、息子たちのために協力し、大人としてあの子たちに道を示してくれたことを父親として感謝しています」
えっ、熱斗君、俺の事お父さんに話してたの!?もしWWWが壊滅した後は頼れるのは熱斗君だけで、間接的にお父さんにもお世話になろうと思ってはいたけど、展開早くない?んでお父さんもよく俺の事信じたな、自分で言うのもあれだけどWWWの幹部でオフィシャルに指名手配されてる悪党よ、俺。
「実は水道局の事件の後、熱斗からあなたのことも相談されてましてね、ずいぶん真剣に悩んでましたよ。私はそんな息子を信じて見守ることを決めました。あなたにも色々な立場はあるでしょうが、息子含め今もWWWの犯罪に苦しんでいる人たちのためにリスクを犯して私に会いに来てくれた。私は自分と息子たちの判断を信じます」
うわっ、なんてすごい人なんだろう。熱斗君にしてこの親ありなんだ。器が大きすぎる。こんな立派な父親がいるんだ、熱斗君があんなに立派に育つのも納得だ。きっと単に優秀なだけじゃなくて人として尊敬できる何かがあるのだろう。
俺は改めて彼に深く頭を下げた。そして顔を上げると、そこには熱斗君そっくりな優しい笑顔があった。
「もしよろしければあなたのことも聞かせてもらえますか?きっとお力になれると思います」
「でしたら、時間もあまりありませんので、このデータを見てもらえませんか?私が集めたWWWの情報がすべてこの中に詰まっています。きっと熱斗君とロックマンの助けになるはずです」
いい機会だ、万が一司法取引をすることになった時のために用意していたWWWの機密データ。オフィシャルに伝手がなかったし、無駄になるかもしれないけど一応用意しておいたこの中身があれば、熱斗君たちの助けにもなるはずだ。俺が差し出したデータカードを受け取ると、光祐一朗さんはそれをじっくりと眺めていた。しばらくして、彼は俺に向き直って言った。
「息子たちのためですか……。わかりましたあなたがくれた情報は決して無駄にしません」
「私はこれからWWWの作戦に戻らないといけません。熱斗君をよろしくお願いします」
ふと壁に掛けられた時計を見ると時間もあまり残されてない、この科学省の重要エリアに長居することは俺にとってもリスクが高いし、万が一この現場を見られたら光さんにだって迷惑をかけることになるかもしれない。実はカラードマン経由でエレキプログラムのデータ転送の手筈が整いつつあるとの連絡も来たので、もうすぐロックマンとエレキマンの戦いも始まるのだろう。エレキ伯爵の脱出経路の確保もしなくちゃいけないし、俺はまだWWWでいなければならない。この作戦が成功してドリームウイルスの完成と原作との相違点さえ確認出来たら。雲隠れする準備もしなくちゃいけないし大忙しだ。
「ありがとうございました光さん」
俺はもう一度だけ頭を深く下げると、そのまま振り返らず部屋を出た。
さぁ、最後の仕事が残ってるぞ、ここから怪しまれないようにエレキ伯爵を回収してWWWの本部に戻らないと……。
「あっ!熱斗君の心配し過ぎて、私のこともWWW壊滅後にできたらどうにかしてほしいって光さんに頼むの忘れてた!」
しまった、絶好の俺の今後をどうにかできる可能性のある重要人物に会えたのに、咄嗟のエンカウントだったから、忘れちゃったよ。そのためのデータまで渡しといて、お願い忘れるとか何してんのよ俺!
「今から戻って……、時間もないし格好も付かないわよね……。私って本当にドジ!」
はぁ、過ぎたことはしょうがないか、とにかく熱斗君さえ無事ならどうにでも巻き返せるはず。頑張れ熱斗君、世界の平和のために、ついでに俺の明るい未来のためにも頑張ってくれたら嬉しいなぁ。好感度稼げてるかな?なんかやることなすこと裏目に出てることも多いし、好感度上げ作戦も不安になってきたかも。……大丈夫だよね?
『光祐一朗』
熱斗君のパパで、ロックマンを創り出した世界トップクラスの科学者。専門はネットナビ研究。熱斗君に似て人が良く人望もあるため、熱斗君が顔パスで気軽に科学省に出入り出来てるのもきっとそのため。
大体困った時はパパが何とかしてくれると言っても過言ではない。
そんな国を代表する科学者なのだが肩書は主任、国をあげてネットワーク産業に力を入れているという割に扱いが低すぎるのではないだろうか?
仕事が忙しく中々家に帰れないが家族を大事に思っている。
熱斗が悩んだり困っときに相談するのはロックマンだが、二人して悩んだ時は一番にパパに相談。今作ではまどいのことも相談済みだし、プロテクトの件も割とすぐに相談している。
大人としてまどいを信じた息子の意見を尊重しつつも、きちんと自分なりに色々調べて裏取りもしたし、実際にまどいと一度会ってみたいと思っていた。
『色綾まどい』
爪が甘い悪役。熱斗のお父さんチェックはクリアできた。
別組織をガンガン攻撃して壊滅させていたのが、オフィシャルを通じて熱斗パパにもばれてるのに気づいてない。保身にも走る大人だが、今回は熱斗君のことで頭がいっぱいで、自分を助けてもらえるようにお願いするのをすっかり忘れる。
行き当たりばったりな行動も多く(本人的には一生懸命、ナイスアイデアと自画自賛することもある)本人の意図しないところに影響を与えがち。
なお今回の件も、オフィシャルに潜入は悟られてないが「光さんの研究室にアポイントなしの見知らぬ若い女性が仕事中に出入りしていた」という変な噂が立ち、のちのち光パパが困ることになる。
『カラードマン』
シリアスは苦手。万が一トラブルになったら防犯システムで大暴れしてまどいが逃げる時間を稼ぐつもりだった。
『熱斗君』
発電所の電脳にプラグインできなくて困っていると、パパから突破できるパスコードを転送されて、無事にロックマンをプラグイン出来た。遅れを取り戻すかの如くシリーズ屈指の高難易度ステージを突き進む。
『ロックマン』
送られてきたパスコードがパパが作ったものではなく、プロテクトを用意した側の人間が用意できるものだと薄々は勘付いてる。でも今は目の前の時間に集中するため熱斗君にも話していない。
『マハ・ジャラマが作ったプロテクト』
ワイリーに直接スカウトされた凄腕プログラマー、マハ・ジャラマが作ったプラグイン対策プロテクト。
熱斗パパには及ばずとも高度な技術力で作られてるため、正面からの突破はロックマンでも不可能だし、熱斗パパも少し手こずる。今回はまどいからのパスコードのおかげで何とか突破可能。