ここまでお付き合いしてくださった皆様に感謝を……。
いつの間にか戦いが終わってしまった。隔離された電脳空間で突如乱入してくるフォルテを見ながら、目まぐるしく変わる三つ巴の戦況に付いていけず、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「なにこれ……、ロックマンやフォルテもすごいけど、それに付いていけるんだ。ドリームウイルス……」
ドリームウイルスは、かつて戦った時よりもずっと強くなっていた。しかしそれ以上に強くなっているはずのロックマンとフォルテ相手に喰らい付き、必死に戦う姿に思わず見入ってしまう。
ドリームウイルスはまだまだ粗削りだった『1』に登場した性質上、歴代最弱のボスとまで言われていた。設定やデザインこそ評価されど、決して強いという印象を持つものは少ないだろうし、アニメ版ではそこらの少し強めのウイルスに分類されてしまうほどだ。だがそんな彼が今、こうして目の前で戦っているのだ。その事実を噛み締めながら、俺は戦いの行方を見守る。
「ははっ、すごいなぁ若さって。私なんていつの間にか主人公やライバルに勝つの諦めちゃったのに……」
そしてついに決着がついた。プリズムコンボを食らわせフォルテが閃光に包まれる。でもフォルテの事だ、恐らく完全にデリートはされてないだろう。もしかすると先ほどからダメージを食らって不安定な電脳空間の隙間から離脱したかもしれない。
『どうだい、僕の雄姿は見てくれたかい?』
背後から声をかけられ振り返ると、そこにはサイバースーツ姿ではない、年相応の少年の姿、帯広シュンがいた。
「えぇ、凄かったわよ、あなたの事を評価してたつもりの自分が馬鹿みたい、本当にすさまじい才能っていうのは歳なんか関係なく現れるものね」
彼らのように才能豊かな小学生時代なんて送ってこなかった。社会人になりそれなりに仕事もこなしてきたと思うけれど、結局私は彼らのような天才にはなれないまま大人になってしまった。そして今でこそこの世界を外部からの視点で見ることが出来ているチートと、色綾まどい本人が持っている才能を武器に何とかここまでやってこれた。
もちろん努力だって効率的に出来てると思うし、何よりも今のネットエージェントとしての地位に見合う力は持ってると思うし、この世界でも上から数えたほうが早いくらいの力はあると思っている。だけどそれでもやっぱり、彼らには遠く及ばない。だから素直に憧れてしまえる。眩しい光に手を伸ばしたくなってしまう。それがどれだけ無駄なことだと分かっていても……。
『まどい、どうかしたのか?一人で何か思いつめたような顔をしているぞ』
ふと我に帰ると、心配そうにこちらを見るシュン君の顔があった。いけないいけない、今は大事な場面なんだから余計な事を考えないようにしないと。
「ごめんなさいね、若者の輝きにちょっとおばさん嫉妬しちゃっただけよ」
わざとらしくウインクをして見せる。昔は自分も彼らみたいに輝けると無条件で信じてた、きっともうあの頃には戻れないんだろうなと思いつつ、彼の手を取り現実世界へと戻るために歩き出した。
「いいわね、若いってまだまだ可能性が広がってるもの」
俺の差し出した手を見つめながら、ゆっくりと首を横に振るシュン君。
『残念だけど、僕は一緒には行けない』
「あら、確かに乱入したフォルテは倒したけど、ドリームウイルスももう戦えない、だからフルシンクロを解いてここに来たんでしょ」
『確かに、勝てこそしなかったが、負けたわけじゃない、熱斗とは引き分けだよ。それに僕はもう現実世界には戻れないんだ』
そう言って手のひらをこちらに向けると、まるでナビのように半透明に透けて見える、慌てて手を掴もうとするがすり抜けて触れることが出来ず、俺の手は宙を切っただけだった。
『まいったね、フォルテを倒すために絶対にやらないと決めていたフルシンクロの臨界点を超えてしまったんだ。今の僕は現実と電脳を行き来する力はない。もう完全に電子の海を漂う幽霊みたいなものだ。だから僕が行くべき場所は……』
背後に空間の裂け目が出来て、そこから一筋の光が降り注ぐ。
「そう……、ごめんなさい、私にもっと力があれば。きっとあなたの手を掴むことが出来たのに」
『いや、いいんだ。世界を統べるくらいの力を一時は得た僕が言うのもなんだけど、力があれば運命をねじ伏せれるわけじゃない。僕はまどいと熱斗の力じゃない部分に救われたからね』
光の粒子となって消えていく彼を見送ることしかできない自分の無力が悔しくて、涙が溢れてくる。せめて最後に一言だけでも声をかけようと口を開くが、言葉が出てこない。
「私の方が大人なのに……、情け無いなぁ……」
『まどいは責任感を持ちすぎだよ、僕や熱斗を守ろうとしてくれるのはわかるよ。ありがとう、君のような大人がいることが、僕にとっての救いだった。でも君は君にしか出来ないことをしてくれ。そしていつかまた会おう』
その瞬間、電脳空間が崩壊し始めた。
『おっと、きちんとまどいを現実世界に送り返さないと熱斗にどやされるな。あいつ僕に対して友達になろうなんて言ってきてさ、人の過去も何も知らないくせにまったく」
そう言いながらも嬉しそうな表情で語る彼を見て、熱斗君の持つ人を惹きつける魅力を感じ取る。
『すまないが、最後の挨拶をする暇もなくてね。ありがとうって伝えておいてくれ。それと、まどいの泣き顔を見るのは僕で最後にしろってね』
目を覚ますと、どうやら無事に現実世界に帰ってこれたらしい。体を起こして周囲を見渡すと、マンションの一室に周囲のサーバーはすべて停止しており、部屋の中には倒れている熱斗君が一人。あれだけの騒ぎを起こしたのに、誰一人として様子を見に来ていないところを見ると、恐らくオフィシャル達も事態の収集に忙しくてそれどころではないのだろう。
『まどい!よかった、ずっと寝たっきりになって心配したんだよ!』
カラードマンがPETの中で大泣きしながら飛び跳ねている。
「ごめんね、心配かけて」
倒れてる熱斗君にもロックマンが声を掛けている。むくりと起き上がる熱斗君を見るに体の方も大丈夫そうだ。
「お疲れ様、熱斗君。本当によく頑張ったわね」
俺は彼に近づき労いの言葉をかける。しかし彼はまだどこか納得がいっていないようで、浮かない顔をしていた。やはりシュン君との戦いは彼にとっても大きなものだったようだ。もしかしたらシュン君が現実世界に戻れなくなったのは自分のせいだと思っているのかもしれない。
そっと彼の手を握る。彼の手は小さく震えていて、それは戦いの恐怖なのか、あるいはシュン君を助けることが出来なかった悲しみの感情か、その両方かもしれない。そんな彼の手にもう片方の手を重ね、優しく包んであげる。
「ねぇ熱斗君、あなたはまだ子供なんだから、今は思い切り泣いてもいいと思うわ」
俺の手に包まれた彼の手は、次第に大きく震えだし、やがて嗚咽と共に、抑えきれない感情を吐き出した。確かにゴスペルの野望を止めることには成功した。でも目の前で一人の少年を救うことが出来なかった。熱斗君の気持ちが痛いほど伝わってきて、俺まで悲しくなる。
「俺、あいつの友達になるって約束したんだ。そんで絶対現実世界に連れ戻してやるって、だけど……」
それ以上言葉を続けることが出来なくて、ただひたすらに涙を流し続ける。熱斗君はこれから先、多くの人と出会い、別れを繰り返して生きていくことになる。その時、この子の隣に居てあげられる奴が俺みたいに中途半端な奴でいいんだろうか。熱斗君を見る目がかつて憧れた主人公としてというのが自分の中で抜け切れてないんじゃないだろうか。
そんなんじゃだめだ。熱斗君が背負っているものを少しでも軽くすること。それが一生懸命に頑張り続ける彼に対して、大人として出来ることなんじゃないのかな。だから、今だけはこうやって甘えさせてあげよう。熱斗君が落ち着くまでの間、彼の手を握り締める。
こうしてネットマフィア『ゴスペル』による一連の事件は幕を閉じた。その後一緒に科学省に戻り、熱斗君にシュン君の伝言を伝えると顔を赤くしながら、いつかネットの海にいるであろうシュン君を探し出すことを決意した。
「だって俺、あいつの友達一号だからさ!」
そう言って元気に笑う熱斗君がまぶしい。俺もこのまぶしさに負けてられない、次はいよいよ『3』に入る、原作からズレて来た世界はきっと今まで以上に激しい戦いが待っているだろう。そんな世界を彼だけに背負わせない。よし、大人の意地って奴を見せてやりますか!
あっ、そうそう、エンディングではみんなでおくデン谷にキャンプに来ました。光家一同に今回の件で協力してくれたケロちゃんや日暮さんの市民バトラーや、オフィシャルの炎山君。クラスメイトのデカオ君、やいとちゃん、メイルちゃんも。
「ほえ~、大したもんでマスな、見る見るうちに魚を捕まえていくでマス!!」
「やり方なら教えるよ、日暮さんもやってみる?」
いやはや、上手いもんだね。あんなふうに手づかみで魚を捕れるようになるには、一体何年かかることやら……。あ、ちなみにケロちゃんと俺は料理班ね、別に料理とか上手なわけじゃないんだけど、アウトドアでの食事は男の役目っていう気がしない?俺だけかな、火おこしとかも楽しいし、ほら、この日のために買った火起こし兼用火消し壺と、風を送り込む小型コンプレッサーとかもう準備万端って感じ。
「まどいさん手慣れてますねぇ、もう炭の方は準備万端ですね。それじゃ私、熱斗君が捕まえたお魚を串うちしちゃいますね」
元気いっぱいにケロちゃんが熱斗君の方に駆け寄っていく、ありゃ、日暮さんが足を滑らせて小川に落ちちゃった。そのビックリで熱斗君も体勢崩して咄嗟に掴んだケロちゃんに抱き着いてる……。
「ははっ、子供は元気が一番、勇ましいよね!それよりもやっぱりBBQといえば肉でしょ、この前のゴスペル絡みのニュースで特別手当が出たから奮発していい肉買ってきちゃったぜ!!!」
「ってか、なんでいるんですか砂山さん。私呼んだ記憶ないですよ」
テンガロンハットが似合う男、砂山ノボル。いや確かにケロちゃんは誘ったけどあんたには連絡してないはずだよね。ケロちゃんと一緒に来てるし食材も持ち込んできたからいつの間にか馴染んでるけど!ってか似合うよアウトドア、スペアリブなんてBBQで俺初めてだよ。
「もちろんゴスペル壊滅の立役者たちがBBQパーティするなんて面白そうじゃないか」
「インタビューは全部お断りですよ、なんてったって機密事項とかも多いですし、まだ後始末もたくさん残ってるんですから」
「OKOK、わかってるさ。それよりも実はネットエージェント通して頼みたいことがあってさ。ここならまどいちゃんと光さんもいるし話しやすいだろ、まだ企画書も通してないし俺の頭の中だけの構想なんだけど、俺のテレビマン人生最高の企画アイデアがあるんだ!」
そう言いながら彼は一枚の企画書を見せてくる。今時全部データ化してPETで転送すればいいのに、わざわざ一枚の紙に手書きかぁ、そういうところ嫌いじゃないよ。
「どうやらお前をライバルとして認めないわけにはいかないようだ……、色んな意味でな」
「へへっ、ライバルか!良いぜ、俺もお前には負けない!ロックマンもな!」
『うん!僕だってブルースには負けないよ!』
『俺はただ、炎山様の命令に従うまでだ……』
ありゃりゃ、あっちも同世代のライバル同士で青春っぽい会話してますわ。
「いいねぇ、一方はオフィシャルが誇る最年少SSライセンスを取った伊集院炎山、もう一方は科学省のネットエージェントで世界を二度救った光熱斗、この二人がライバルとして互いに競い合う姿は最高に視聴率が取れるぞ!!!」
「もう、企画通ったつもりでいます?まだ私も光さんも何もOKしてませんよ」
「ノープログレム!!!俺はこの企画にすべてを掛ける覚悟なのさ、何が何でも口説き落として見せる!!!」
熱く語る砂山ディレクターの熱意に思わず笑ってしまう。こういう熱い人を見るとこっちまでテンションが上がってくるんだよねぇ。俺と同い年なのに、年齢とか才能とかでへこんでないで、一つの物に撃ち込み続ける。この姿勢は俺が見習わなくちゃいけない部分だよな。
そうだ、俺だってやってやるぞ。熱斗君に負けないくらい強くなって、胸を張って隣に並び立つ相棒になってやる!!!
そんな風にワイワイ騒いでいると、熱斗君と炎山君が二人仲良くこっちに寄って来た。あれ、どうしたの怖い顔して?
「今口説くって聞こえたけど!俺の相棒なんだけど!」
「まどいに相応しいのは確かな腕を持ったネットバトラーだ、テレビ局のディレクターでは彼女の相棒は務まらん!むろん、熱斗もだ」
「なにぉ!」
あ~、はいはい、いつも通り仲良しさんだね。なんていうか年相応というか、炎山君もいつものクールなキャラは熱斗君と絡んでるとどこかおいてきちゃうんだよね。いいねぇ、親友って感じで。
「ははっ!任せときな君たち二人が雌雄を決する大舞台を用意して見せるぜ!俺は光さんに企画書見せてくるぜ!」
「だめですよ、せっかく久しぶりに奥さんと二人きりでゆっくりお話ししてるのに、砂山ディレクターは焼き場に専念してください。ほら、熱斗君が捕まえてくれた魚の串うちも完了しましたよ」
光さんに突撃しようとした砂山さんをケロちゃんがナイスタイミングで止める。さすがアナウンサー、きちんと周囲を見て気遣い出来るいい子だよね。
こうして楽しいキャンプの時間は続いていく。これから先、どんな戦いが待っているのかわからないけど、熱斗君とロックマン、それに炎山君とブルース。彼らを支えるみんながいればきっと大丈夫。だから今は思いっきり楽しもう、そしてこれから先の未来も、こんな楽しい時間が過ごせるように頑張ろう。
「用意した焼き鳥から焼きあがって来たわよ、ほらほら、どんどん食べなさい!」
とりあえず焼き鳥を言い争いをしてる熱斗君と炎山君の口に突っ込んで黙らせよう。
「お姉さんいっぱい食べる子好きだなぁ」
「どっちが食えるか勝負だ炎山!」
「望むところだ熱斗!」
『熱斗君、程々にしなよ』
『炎山様……』
ウラインターネット奥深く、元WWWエリア……
「ふん、この辺りのフォルテコピーの処理はあらかた終わったか……。Sの依頼とはいえ、それなりに楽しめたな。いつかあいつを超えるためにもオリジナルとも戦ってみたかったが……。隠れてないで出て来い、こんな崩壊した電脳空間の奥深くに潜り込めたんだ、それなりに楽しめる相手だろう。WWWかゴスペルの残党か……、なに?……、フハハ、まさかこんなにも早く依頼された対象を発見できるとは俺も運がいい、奴は払いが良いからな貴様の命にいったい幾らの値が付くだろうか!」
次はいよいよ最終章。熱斗君とまどいの物語も締めの展開に。
感想、誤字報告いつもありがとうございます。もうしばらく続きますので次回からはエグゼナンバリングでも屈指の名シナリオをお楽しみください。