あの後、直ぐにゴロー先生を呼んでお腹の子の具合を確かめて貰った。
双子の片割れである子の死が確定してしまった時は先生も言葉を無くしていた。
母の様子は何も変わらなかった。
だが双子の死因は母によるものだったという事が明らかになった。
母は深夜、お腹を圧迫するように押し付けたり押し込んだりしていたのだ。
これまで母はこれまでの経緯もあり監視カメラを最低限のプライベートはありながらも付けられたり脈拍なども図れるよう医療用の時計の様なものも腕に付けられていた。
ゴロー先生はその時計から送られるデータを確認していたのを良く覚えている。
そして母は生まれる我が子を愛していてとても子を害するような行動や言動は一切先生の前ではなかった。
俺の前でもそうであり、精神病院に居た事など言われなければ分からないぐらい普通にしか見えなかった。
それが異常そのものであったと見るかそれとも俺含め母もこの病室でアイドルのライブを見ている時の姿を信じ幸せに向かい歩いていく姿を見るかを問われ後者を選んでしまったと悔いていた先生は一通りの騒動の最中、母から言われた言葉に絶句した。
「自分がこの子たちを産む」
母は精神病院にいた事もあり決して体が丈夫という事もなく、また精神的にも不安定な所が多すぎる。
堕ろす選択肢しか現状俺の母の命を救うしかなかった。
お腹の子供がもう既に片方死んでいると伝えてもそれは変わらず聖母の様な笑みすらあった。
自分自身がその子を殺してしまった事さえ分からないのか、それともその上で言っているのか、結局父が憔悴しきった顔で母を説得に来るもそれでも尚変わらず寧ろ一層頑なになった。
先生が俺の顔を見た。母が俺の顔を見た。父が俺の顔を見た。
三者三様の顔を視た。
既に死んだ命の隣。死期はすぐ其処にある事が何故だか分かった。
このまま産めば死ぬだろう。
母を視る。
このまま産めば産後不良で死ぬ。
父を視る。
この後母が死ねば死ぬ。
死の点が視える。
母と父の命を背負いそれでも生きられぬ命を負った救われない命を視る。
――俺が触れば――
死を視る。
死を視る。
死を視る。
死を視る。
死を視る。
死の点を突けば、母と父は救われる。
突かなければ、全員死ぬ。
――俺の指が、母の腹へと向かっていく。
俺の弟妹を殺す為に。
――――――――
死の間際、ゴローは今までに起きた人生を走馬灯の様に体験していた。
自らの推しであるアイドルのアイが妊娠していて、かと思えばパートナーも病院に付き添わない状況で未成年の親となると宣言しあまつさえそれを隠しきってみせると意気込む豪胆な彼女に迫る危機にそれを止めんとしたが為にこうして死の狭間を彷徨っている。
その際に自分が今まで担当してきた中でもトップクラスに印象に残る出来事の一つを思い返す。
余命少ない短命の少女に推しのアイドル妊娠からの自分の死に並ぶ医者として自分が最も苦渋を飲んだ悲しい事件。
自らが担当した者は精神病院にて療養していた筈の女性。
元女優であり事故で演技の道を断たれた為に精神を摩耗してしまった患者であり病院内に居ながら何故か病院内で妊娠してしまったという経緯を持つ女性の担当をした時の事である。
そして自分は婦人科医として
望まぬはずの妊娠をした彼女は、それでもお腹の子を愛していたが精神不安定時にお腹の子を自ら殺してしまいしまいには
残ったのは胎の子供と父親とそうして病院で仲良くなったシキ君。
自らの愛した妻が亡くなったショックで自らの息子を殴り殺そうと発狂した所を必死に取り押さえそれでも尚被害を止めきれずまだ息のある命でもあったお腹に残された命すら殺してしまい現場は地獄絵図となった。
シキ君は別の病院へと運ばれその件以降会えていない。
この件は精神病院で当時連続婦女暴行事件があった犯人が自供したという形で世間には衝撃を持って伝えられた。
テレビで伝える報道によると父親である彼はその犯人の自供を知る事無く取り押さえられた後に首を吊って亡くなったと聞いたのでシキ君の事を心配するばかりだった。
同じ推しを好きになった(強弁)彼がどうか強く生きてくれる事を願うばかりだった。
死の瞬間に思い出すのは何故か親の顔でもアイドルの顔でもなく、昔自分が守り切れなかった彼の顔――蒼い瞳に虹彩が極彩色に輝く神様みたいな瞳だった。