では、どうぞ!
アクアside
あの後俺達は解散し、
台本の確認と、ドラマの映像の確認を行なっていた。
「麦茶持ってきたよー」
「あ、ありがとうおじさん」
おじさんが麦茶を持って来た。
少し一息つこうかな………。
「さっき見てたのって、ドラマの台本?」
「ああ、台本と、ドラマの演出について少し見直してたんだ」
「演出?」
「うん、ダメな企画に、演技の出来ない役者陣」
「それだけ聞いたら激ヤバな気がするけど……「でも」ん?」
「有馬から事情を聞いて改めて観ると、脚本と演出は役者に合わせてるのが分かるんだ」
「ふむふむ」
「ダメな演技でも、『観れる作品にするテク』ってのが色んな部分で使われてるのにも気づいた」
「へー」
「裏方は優秀、ヒロインはバリバリの実力派。これなら色々とやりようはありそうだなぁ………」
「なるほど………。そういえば、撮影っていつになるの?急に決まった事なんだろうし、結構大変だと思うけど………?」
「明日」
「明日!?いくら何でも早過ぎないか!?」
「だから俺も少しキレそうなんだよ………」
「気をつけてね?それと、明日は雨だから、風邪とか引かないようにタオルとか持って行ってね?」
「ごめんおじさん、ありがとう」
そして、俺は翌日の撮影に向けて、早めに寝るのだった………。
浩司side
「ふぅ………」
裏でコッソリ聞いてたとはいえ、
改めて考えても、とんでもないスケジュールだな………!?
アクア君、大丈夫かな………?
「浩司さん、どうかしたんですか?」
「あぁ、星野さ「ア・イ!」……アイさん、アクア君の事で少し………」
「できればさん付けもやめて欲しいけど、そこは流します。それと、アクアの事って?」
「いえ、明日、アクア君がドラマの撮影があるとの事だったので………」
「あ、ミヤコさんやルビーも言ってたヤツだね!でもそれがどうかしたんですか?」
「何だか、少し嫌な予感がして………」
「………無茶な事はしないでくださいね?」
「!………ええ、分かってますよ」
やっぱり、星野さんには敵わないな………
翌日………
アクアside
さて、翌日になり、俺は撮影現場に来ていた。
場所は、ちょっと離れたところにある大きめな廃倉庫だった。
そこで有馬から今回の撮影を説明された。
「ドラマっていうのは、部屋の中で主役級の役者が本読みやリハーサルをして、それを元に監督やディレクターがコンテを切る。撮影現場でドライやカメリハランスルーを踏んでから本番」
まぁ、それが俺たちの知ってるドラマの撮影の流れだな。
「……っていうのが一般的なんだけど、このロケ地は1日しか確保出来なかったらしいから、ドライからランスルーは全部一纏めでリハーサル扱い!練習は一回切りよ!」
オイオイ、段取りが雑過ぎないか………?
「ウチの監督でももうちょっと丁寧な段取りしてたぞ?」
「予算も時間も無いのよ………」
それは昨日の説明の時点で察してはいたが、これはちょっとなぁ………。
「よー、かなちゃん」
「あ、メルト君」
そんな説明を聞いていると、紫髪の少年がこちらに話しかけて来た。
アイツは確か主演の………?
「今日の雨ヤバない?撮影延期にして欲しかったわ〜」
「ちょっと雨漏りしてる所もあるみたいだけど、全然平気よ?」
「いや、湿気があるとさぁ、髪が広がるんだよねぇ。しかもここジメジメしてて不快だし……」
「あ、そうだ紹介するね?こっちの人は今日のストーカー役の………」
あ、俺の紹介か。
しっかり挨拶はしておかないと。
「星野アクアです。よろしくお願「よろー」………」
あ、あのガキ………!
落ち着け、ここでキレてもマイナスになるだけだ。
だが………、
「アイツ態度悪くね?名前も聞けて無いんだけど?」
「あの子の名前は
「トントン拍子で売れてる子にはよくある事よ……って、これ私にもブーメランだな」
「某アイドル事務所とかは、教育がかなりしっかりしてるから、礼儀正しいし、現場の好感度も高くてハズレが無かったりする。沢山の現場に使われるには、それなりに理由があるのよ」
「というわけで、挨拶は大事な仕事よ。ほら!」
「お、おい……!」
そう言って、有馬は俺をスタッフ陣の方に押して行った。
そして、1人の男に挨拶をする。
「えっと、初めまして、苺プロ所属の『星野アクア』と申します。本日はよろしくお願いします」
「あぁ、プロデューサーの鏑木だ。よろしく」
この人が鏑木勝也…。
アイと何らかの関係にあり、俺達の父親かもしれない男。
隙を見てDNA鑑定に回せる物を回収しておかないとなぁ………。
「今の人がこの現場の責任者よ。あの人の意見が監督やディレクターを通して現場に伝わるわ」
「モデル事務所との繋がりが強い人でね、今回のキャスティングも殆どあの人の仕事なの」
「とにかく顔面至上主義で、私やアクアを使ってもらえたのも、そのおかげね」
『リハーサル始めまーす!』
「はーい。ほら、行くわよ!台本はちゃんと頭に入ってるでしょうね?」
「当たり前だ」
しかし、俺はヒロインに付きまとうストーカーの役か………。
未遂に終わったとはいえ、アイを殺そうとした奴の演技をする事になるとは、
何の因果かなぁ………。
あの時、烏丸おじさんがいなかったら、間違いなくアイは殺されてただろう。
おじさんには本当に感謝しかない。
いつか俺とルビーが料理を作ってお礼でもしようかな?
っと、今は撮影に集中しないと。
数十分後………
『はい、一旦止めまーす!』
「ふぅ………」
「何よ、普通に演技出来てるじゃない!何が裏方志望よ?」
「いや、こんなの練習すれば誰でも出来る事だ。他の人の邪魔をしない程度に下手じゃないだけで、俺自身には何の魅力も無いからな……」
烏丸おじさんが神隠しに遭っていた間の話になるが、
俺が有馬と競演した10数年前のあの日、有馬が見た俺の演技は、
あくまで、『年齢と中身のギャップが引き起こした異質感』だ。
逆にいえば、精神年齢に肉体が追いついた今となれば、
俺は何処にでもいる唯の役者という事だ。
「期待してたなら悪かったな」
「ううん、まぁ、ちっとも期待してなかったと言えば嘘になるけど、十分過ぎるくらいよ」
まぁ、それならそれで構わないが………。
「それにアクアの演技って、ずっと努力してきた人の演技って感じがして、私は好きだよ」
「………」
「細かい技術が親切で丁寧っていうか、自分のエゴを殺して物語に寄り添ってるっていうか………」
「もしかしてそれは、他の人には分からなくて、長く役者をやってる私達以外にはどうでも良い事かもしれないけど………」
「オイオイ、変に気ぃ使うなよ」
「そりゃ使うわよ!これでも一応座長よ私!」
「それに、主演級の仕事なんて、私にとっては10年ぶりの大仕事だし、より一層頑張らなきゃ!」
「まぁ……、確かに最近見ないし、まだ役者続けてたのかって思ったからな」
「ウグァ!?ま、まぁ……、私にとっての闇の時代は、大分長かったわ………」
あ、結構心に刺さってるヤツだこれ。
「ずっと仕事も貰えずに、ネットでは終わった人扱いされて、それでも稽古だけは続けたけど、何の為に努力してるのか分からなくなって」
「『引退』って言葉が何回も頭に過った事もあった………」
「………」
「でもね、こうやって実力が評価される時期が来たのよ!本当に今まで辛かったけど、続けてきて良かったって思ったの!」
「だから、別にアンタがめちゃくちゃ凄い演技をしなくたって、アンタがこの仕事を続けてるって分かっただけでも、私は嬉しかった」
「こんな前も後ろも真っ暗な世界で、一緒にもがいてた奴が居たんだって、それだけ分かっただけでも十分よ………」
そう言った有馬の顔は、何処か寂しそうで、嬉しそうな表情を浮かべていた。
(………そういえば鏑木は何処だ?)
そう思い周りを見ると、
鏑木は、カメラマンと一緒に喫煙所に向かっていた。
(タバコか……吸い口に付いた唾液とかでDNA鑑定は出来るが、少なくとも吸い殻は3本は欲しいなぁ………)
(銘柄は、マルボーロのメンソールか………)
そう考えていると、鏑木とカメラマンの会話が聞こえてきた
だがその内容は、俺を怒らせるには十分だった。
「撮影の再開はまだか?メルトはこの後雑誌の撮影が入ってるけど?」
「もう直ぐですよ。キャスト陣は有馬さんが宥めてくれてるので………」
「かなちゃんねー、使い勝手が楽で良いよね」
「誰にでも良い感じに尻尾振ってくれるから、雑に据えとくには丁度良い」
(………は?)
「『有馬かな』っていう名前は一応世間には浸透してるし、事務所を抜けてフリーになって、ギャラも殆どタダ同然でネームバリューも使えるんだから得したよ」
「まぁ、演技にうるさいのだけは面倒だけどね、このドラマはあくまでも宣材。演技力なんて求められてないのに、そこだけは分かってないみたいだけど………」
そう話した後、鏑木とカメラマンは喫煙所を後にした。
だが………。
『でもね、こうやって実力が評価される時期が来たのよ!』
(何だよそれ、評価なんかされてねぇじゃねぇか………!)
有馬、世の中大体そんなもんだぞ。
寧ろ、適切な評価なんて与えられる方が稀な事だ。
(目的のものは採取できた。でも………)
「せっかくここまで来たんだ。滅茶苦茶に暴れてやるよ………!!」
浩司side
(アクア君、バチバチにキレてるなぁ………)
俺は、アクア君が出るドラマの撮影現場に勝手に潜入していた。
カメラとかには映って無いし、邪魔にならない所で見てたけど、
もの凄い嫌な予感がするんだよなぁ。
杞憂に終われば良いんだけど………。
(あと強いて言うなら、もの凄い寒い)
風邪、引かなきゃ良いなぁ………
というわけで、第十三話でございました。
焼き増しみたいになって申し訳ないです。