っていうかほとんど戦闘してないなこれ………
かなside
私の名前は有馬かな
小さい頃は天才子役と呼ばれてて、皆がちやほやしてくれた。
でも、今やネット上ではオワコン子役とも呼ばれてる。
それでも地道にこの業界にしがみついて、ようやく掴んだ待望の主役級。
何が何でも良い作品にしたい!
その為だったら藁にも縋るわ。
でもダメだった。
基礎も出来てない役者の演技、既に4話まで公開済み。
視聴者の殆どが落胆し、失敗作の烙印を押している。
でも、まだ手遅れじゃない!
このシーンは原作でも屈指の名シーン、ヒーローとストーカーの対決!
そして、愛を知らない少女が初めて、誰かに守られて涙を流す。
私も何度も読み返しては、涙を流すくらいには好きなシーンだ。
ここで相方と呼吸を合わせて上手くフォローして、
最高の演技が出来れば、きっとまだ希望は………!
『ヒトリニサセネーヨ!』
(………)
無理無理無理無理無理!!!
フォローし切れないよこんなの!?
何でこんな演技でOKだと思うのよ!?
ここってもっと緊迫感があって、怖くて、おどろおどろしいシーンじゃなかったの!?
監督達にとって、演技ってそんなにどうでも良いの?
誰か、助けて………!!
そう思っていた時だった。
ピチャッ
(………え?)
水の、音?
音のした方へ振り向くと、そこに居たのは、
こっちに向かって歩いてくるストーカー役のアクアだった。
足元を見ると、水溜まりに靴を濡らしている事が分かる。
「ソイツは俺と同種の人間なんだよ。日の当たる場所に居れば干からびる、暗い所がお似合いなんだよ………」
アレ?何でだろう。
さっきはあんまり上手くないって思ったのに、
リハの時より、雰囲気が出てる………!?
アクアside
(よし、第一段階は成功だな……!)
俺には、アイみたいな才能は無い。
視線を釘付けにするオーラも、高い演技力も無い。
だから、使えるモノは全部使う!
(小道具にカメラ、照明や役者まで、全部使ってでもアイみたいになってやる………!!)
(次に第二段階、コイツの感情を焚きつける!)
演技ってのは、喋り方だけじゃない、
感情が乗ってようやく成り立つモノだ。
だから、コイツを怒らせるような言葉を浴びせる。
ただし、コイツにだけ伝わるように話さないといけないから、
耳元で………!
「お前、そばで顔を見るとブスだなぁ……」
「パソコンで加工しないとこんなモンか?」
「………は?何つったオメェ!!」
(ヨシ、そうだ、それで良い!)
「聞こえなかったか!?そんな女、守る価値も無いって言ったんだ!!」
完全にアドリブになってしまったが、これで少しは原作っぽくなるだろう。
それに、ここは原作の名シーンだ。
演出の意図や構図にテンポ、全てにおいて意味があるモノ。
俺は昔から『作者の気持ちを考えろ』っていう問題は得意だった。
名作を正しく汲み取れば、及第点は取れる筈。
(さぁ、土台は作ったぞ有馬かな!お前も本気でやってみせろ!!)
「何をしたって無駄だ……諦めて流されろよ!!」
このシーンの最大の見せ場は、『ヒロインの涙』
そこの一点を輝かせる為に、俺が『闇』を強く演出する。
より怖く、恐ろしく、そして気持ち悪く!
その為だったら殴られる事も躊躇わない。
「お前なんて、誰にも必要とされてない!身の程を弁えて生きろよ。夢見てんじゃねぇ!」
「この先も碌なことは無い、お前の人生は真っ暗闇だ………!!」
さぁ仕上げだ。
これはお前の得意技だろ?
頼むぜ、10秒で泣ける天才子役!!
「それでも……、光はあるから………!」
よし、ミッションコンプリートだ………。
『カット!』
「ふぅ………」
「あ、あのさ………」
「ん?」
カットが入り、俺は下がる事になった。
そこに、鳴嶋メルトが話しかけてきた。
「悪い、拳当たったよな?力入っちまった………」
彼から出た言葉は謝罪だった。
なんだ、そんな事か。
「別に気にしなくて良いよ、アレは当たりに行った結果だからな」
「え!?」
「それに、演技ってのは感情が乗ってナンボだからな。良い芝居だったよ」
「おかげで有馬も、本気を出せたんじゃないか?」
そして、次のシーンの撮影をする為の準備をしていた
その時だった。
ガシャァァン!!
「え?」
天井からガラスの割れる音が聞こえた。
そこからベチャリと音を立てながら何かが落ちてきた。
『ウウウウゥゥゥゥゥゥ………!』
現れたのは、家の中に出てくる黒いアレを人の形にしたような怪物だった。
今回はここまで。
次は戦います。