『氷狼』ルーディア   作:如月SQ

100 / 176
リクエスト頂きました、一つ前の世界のお話です。
100話記念にどう足掻いても暗くなる話でいいんですかね…?
まぁいいか…ではどうぞ。


【沼の蓮の葉】

『嘘つき』

 

『嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき…』

 

『エリオットの…バカ…バカバカバカ!ただ、側に居てくれるだけで、それだけで良かったのに…』

 

『一人に…しないでよ…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

道の端で、買い込んだ食料を地べたにぶちまけ、仮面をした少女が上半身を曲げて嘔吐している。

道行く人々はその少女を見るものの、関わりたくないとばかりに足を早めて通り過ぎていく。

やがて胃液だけを吐き出した少女は、ゲホ、と小さく咳をして、肩を落として立ち上がった。

 

「はい」

 

そんな少女にコップに入った水が差し出された。

それを胡乱な目で見返す少女は、それを差し出した人物のあまりの怪しさに、更に警戒心を高めた。

鼠色のローブに、フードを目深に被り、マフラーで鼻まで隠している姿。

怪しむなというほうが酷な姿だ。

 

『…なんですか貴方は』

 

「吐き戻して口の中、気持ち悪くないですか?ほら、今魔術で出したばかりなので、なんにもしてないですよ」

 

『必要ありません。自分で出せます』

 

少女は口元に水の球を作り出すと、仮面を少しずらし、口に含んだ。

ぐちゅぐちゅがらがらと口をゆすぎ、吐瀉物まみれの地面に吐き捨てる。

そしてその吐瀉物も地面がめくれあがり、地中へと埋まっていった。

 

「ほー、無詠唱魔術ですか。その若さで大したものですね…確かに余計なお世話だったようで…はいどうぞ」

 

その怪しい男はいつの間にか、地面にぶちまけられた食料を拾い終えていて、袋に詰めなおしたものを少女へと手渡した。

土まみれになっていたものもあった筈なのに、妙に綺麗だった。

 

「では、僕はこれで。お大事に」

 

そう言って何も要求する事も、過度に同情する事もなく、呆気なく去る男に、少女はなんとも言えない感情を抱く。

一人になりたくない、けれど人と関わりたくない。

相反する二つの感情の間で揺れる少女は、氷で作り出した腕でリンゴを掴み、齧りついた。

好いた男に捨てられ、悪阻に苦しむ今の少女にとって、男は丁度良い距離感であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、また会いましたね」

 

『…どうも』

 

「ふむ、奇遇ですね、同じ依頼だ」

 

『…なんなんですか、貴方は。私に何か期待してるんだったら他所を当たってください』

 

「ははは、これは手厳しい。とはいえ僕ももうおじさんですから、こんな若い子に手を出そうなんて考えてないですよ」

 

『…じゃあなんなんですか』

 

「流石にその若さで妊娠してる、腕と足を欠損してる子が危ない事しようとしてるんです、手助けしたくなるのが人情ってものでしょう」

 

『…綺麗事ですね。反吐が出ます』

 

「あははは、本当に手厳しい」

 

 

 

 

 

『…………ありがとう、ございました』

 

「おやぁ、遂にデレ期ですか?」

 

『……』

 

「あはは、問答無用で凍らせられるとは相変わらず手厳し…あれ、これ本当に動かな…おーい、すみませーん、謝りますからー溶かしてくださーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご出産おめでとうございます」

 

「ほら、今日は僕が見てますから気分転換してくると良いですよ」

 

「此方の方が乳母をやってるそうで、数日なら預ける事が出来ますよ」

 

「風の噂で結婚したとか。お祝いに来ましたよ」

 

「成る程、ご両親が…心配でしょうね。わかりました、泥船に乗った気分でお任せください!なんてね」

 

「それじゃ、お元気そうで良かったですよ。鼠の件は申し訳なかったですね、見つけ次第処分してくださいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんで!なんで貴方が!』

 

少女の悲鳴のような声が響く。

既に少女の魔力は枯渇寸前…目の前の鼠色のローブの男の魔術のレジストに全力を注いだ結果、少しずつシーローン王国兵を逃がす事しか出来なかった。

守る筈だった拠点を捨てる直前、少女は男の前に立ち、問いかけた。

 

「僕がヒトガミの使徒だからですよ」

 

『…え……』

 

少女の顔から色が抜け落ちる。

男の声色は真剣で、嘘には思えなかった。

思わず膝をつく少女に、男は重ねて告げた。

 

「…ふふ、あの時、君の首をへし折った時は楽しかったですよ。それに、君が絶望する様を傍らで見ているのは…最高の娯楽でした」

 

少女はその時察した、今までの自分の苦労を、傍で支えてくれていた筈の彼は、ずっと嘲笑っていたのだと。

少女の瞳から強い喪失感により涙が流れる。

純粋に慕っていた男の裏切りに、少女の心はズタズタに切り裂かれた。

 

「いずれ戦力を整え、『龍神』に挑ませて貰いますよ。それまでお元気で、ね」

 

そう言ってわざわざ、肩をポンと叩いて去っていく男の背中を、少女は見ている事しか出来なかった。

 

『あぁ…あぁあああああああああ!!!』

 

嵐の中、少女の慟哭が雨と風の中に消えた。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

『……これに懲りたら、二度と私に逆らわないで下さい』

 

「ごほっ…わかった…ニャ…もう…あんたには関わらニャいニャ…げほっ」

 

「もう…なにもしないの…許して…欲しいの」

 

仮面の少女の足元、猫耳と犬耳の獣族が、身体中ボロボロの状態で踞っている。

真新しかった制服も、所々が破けてしまっていた。

立ち上がれもしないそんな様子の二人に。

 

『…ふん。『水蒸』』

 

少女は追撃で無数の水を放つ。

 

「ニギャアァ!」

 

「いやぁああ!」

 

身体中を水浸しにされた獣族の二人は羞恥と屈辱、そしてそれ以上の敗北感と恐怖に悲鳴をあげた。

 

『さっさと行きなさい。目障りです』

 

少女のその言葉に、二人は身体中の痛みに顔をしかめながらどうにか立ち上がり、ヨロヨロと立ち去っていったのだった。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

「フハハハハハ!我輩の身体を芯まで凍り付かせるとはな!キシリカの言うラプラスに迫る魔力というのは伊達ではないようだ!」

 

『光栄です、陛下』

 

「フハハハハハ!堅苦しいな!だがまぁそれも良かろう!フハハハハハ!」

 

『それで陛下は本当に私に会いに来ただけなのですか?』

 

「そうだ!キシリカがあまりにも褒める故に気になってな!うむ、ズバリ嫉妬である!興味もあったがな!ふむ、期待以上であった!フハハハハハ!」

 

『そうですか…ふぅ』

 

「なんだ、ため息なんぞ吐いて。貴様は曲がりなりにも我輩に勝ったのだ!笑え笑え!フハハハハハ!」

 

『ふははは』

 

突如起きた魔王の襲撃、それを撃退した『氷狼』は魔法大学及び近隣諸国での名声を高めていくのだった。

そして魔王はなんと魔法大学に入学、魔法大学及び『氷狼』の周りは騒がしい日々を送る事となる。

 

『はぁ…』

 

少女はため息を吐くが、祝い事の時の魔王は明るく、場の盛り上げ方が上手かった。

彼の姿が見えなくなると寂しく思うくらいには、ムードメーカーとなっていたのだった。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「―――…私…いや、僕は君の事が好きだ」

 

雨の森の中、女装を解いた少年は、半裸のまま、仮面をつけた少女の肩に手をのせて宣言する。

その真剣な瞳を見た少女は、震える手で仮面に手を伸ばした。

仮面を顔の横に外した少女は、残った右目からポロリと涙を溢した。

 

『やっと…言ってくれたんだ…忘れられてるのかと…思った』

 

「…っ!ごめん!ごめんね!僕が臆病なせいで…!ごめんね…!」

 

二人はひし、と抱き締めあう。

数年ぶりの幼馴染みとのちゃんとした再会に、二人の心に暖かい物が溢れていく。

やがて身体を離した二人は見つめ合い、そっと唇を重ねる。

そして、そのまま少年は少女の身体を優しく押し倒した。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「はは、ちとしくじっちまったぜ…」

 

少女の父は失った左腕と左目を指し示しながら言う。

 

「これで…少しはお前の気持ちがわかるな」

 

そう言って苦笑する父に、少女は手を振り上げた。

 

パチン!

 

『…私は確かに貴方を許せないと言いました。家族として見れないと…けど!同じ目にあって欲しいなんて、死んでも思いません!』

 

涙を浮かべながら叫ぶ娘に、父は面食らってしまう。

憎まれてるとすら思っていたのに。

ぶたれた頬がジンジンと痛む。

 

パチン!

 

「自己満足で娘を泣かせないで下さい旦那様!」

 

反対の頬を同じく涙を浮かべた二人目の妻に叩かれた。

何時も使用人としてのスタンスを取ったままの妻のその行動に、父は呆気に取られた。

 

ぺちん

 

そして、一番目の妻…助け出したにも関わらず心を失っていた妻、その妻が力の入っていない手で父の頬を叩いた。

 

「……」

 

その瞳は何も見ていないというのに、涙を浮かべ、父を責めているようだった。

 

「…すまん、ごめんな…ごめん」

 

父は三人をまとめて抱き締めた。

 

「なんもかんもダメだなぁ…俺は…本当に、ごめんな…」

 

そう言って涙を流す父に、抱き締めるその父の温もりに、二人の母の暖かさに、少女は凍り付いた心が溶け始めるのを感じたのだった。

 

『…仕方ないから、今回だけは許してあげます、父様…』

 

少女がそう呼ぶと、父は一瞬驚きに目を見開き、涙を流しながら笑ったのだった。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

閃光と爆音、そして衝撃。

気を失っていた少女は、目を覚ました時、自分に覆い被さるものに気付いた。

二人目の夫、青髪の魔族の少年の顔が目の前にある。

けれど、どうにもその目の焦点が合わない。

 

『…どう、したんですか…?』

 

少女が問い掛けると、少年は目を細めニコリと笑い、口からゴポリと血を吐いて、力尽きたように動かなくなった。

びちゃり、と血が少女の顔を濡らす。

突然の事に混乱した少女は、少年の身体を不意に見下ろしてしまう。

自分の身体に覆い被さっていた少年の身体は、下半身がなかった。

それに気付いた、気付いてしまった少女は、遅れて治癒魔術を使うものの、少年の体は既にピクリとも動いていなかった。

 

『あぁ…あぁああ!嘘だ!嘘だそんな!っぐ…』

 

体を起こそうとした時に唐突に感じた下腹部の激痛に、少女は動きを止める。

自分の股の間からじわじわと溢れる血と、下腹部の激痛。

顔をしかめた少女の瞳が涙で滲む。

 

『折角…治った…のに…こんなのって、ない…よ』

 

少女はそこで血を流しすぎた事によって意識を失った。

やがて目を覚ました時、少女は告げられる。

二番目の夫が亡くなった事。

胎の中がズタズタになってしまい、もう子供を望めない体になった事。

そしてそれら一連の出来事の最中、自分の魔石病を治す為に尽力してくれたクリフが亡くなってしまった事。

それらを告げられた少女は、あまりの衝撃の強さに、その場で気絶してしまった。

その夢の中でヒトガミに「ベガリットに行かなかったら後悔する…って言ったろ?」とニヤニヤとした雰囲気で言われ、ひどく嘲笑われた。

それに対して少女は頭を下げた。

これ以上家族を傷つけないてください、なんでもします、と。

それに対してヒトガミはすう、と笑みを引っ込め、『龍神』オルステッドを殺せ、と告げたのだった。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

『龍神』に挑んだ結果は惨敗だった。

持てるもの全てを使い、最後には赤毛の男と猫耳の獣族の剣王二人が助力にきたにも関わらず、歯も立たなかった。

腕を切り落とされた少女は芋虫のように這いずり、『龍神』に涙ながらに頭を下げた。

 

『お願いします、家族を守りたいんです…ヒトガミを…諦めてください…!』

 

そう叫ぶ少女から視線を外しながら、『龍神』は答える。

 

「…いや、それは出来ん。だが、貴様が奴を裏切り、俺の下につくならば…貴様の家族を守る術を授けよう」

 

「っ…!騙されるな!どうせこいつの口から出た適当な出任せだ!」

 

赤毛の男はそう叫ぶものの、少女は既に限界だった。

心も、体も。

少女は再度地面に頭を擦り付けると、言葉を紡いだ。

 

『お願いします…どうか…あれから私達を…助けてください…!』

 

血を流しすぎて寒気のする体をガタガタと震えさせながら、少女は『龍神』に再度頭を下げた。

それに対して『龍神』は腕を組んで少女を見下ろして頷いた。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「…やり過ぎましたな、教皇の孫とはいえ」

 

「ああ…先生か、そう、なんだろうな…」

 

「もう少し上手くやるべきでした。こうなってしまって残念です。貴方は、よい生徒でした…」

 

「…僕は、救いたかっただけだった。貴方達から彼女達を守れなかった時のような思いを、したくなかっただけだったんだ…」

 

「それは…」

 

「ああ、でもそうだ、やり方を間違えた…一人救う為に平和に暮らしていた家族が、いくつも不幸になった…その末に本当の意味で救いたかった彼女も…ひどく、傷付いた」

 

「あの方に好意を抱いていたのですか?」

 

「…そうか?そう、なのかもしれないな。恋に溺れて、何も見えていなかった…。溺れることなかれ、か…ミリス様は、見ておられるんだなぁ…」

 

「……残念です、本当に…おやすみなさいませ」

 

「ああ……すまない…すまない…すまなかった…」

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

『ほら、この人がママが仕えてる人だよ』

 

「おー…じーじ?じーじ!」

 

「……」

 

『あはは、すみません…違うよルーシー。じーじじゃないよ、オルステッド様。オルステッド』

 

「おー?オーテッ!オーステッ!」

 

「……ふ、可愛いな」

 

『…わあ、オルステッド様の口からそんな言葉、出るんですね』

 

「…………」

 

「ホーホゥ」

 

少女の肩に乗った銀色の梟が身を震わせて鳴いた。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「オルステッド様!ママちゃんと帰ってくる?」

 

「ああ…大丈夫だろう。危険は少ない。他にも手助けしてくれてる仲間はいるからな」

 

「ホッホウ」

 

「でもでも、危ない事してるんだよね?大丈夫かなぁ…」

 

「案ずるな、彼女は俺にとっても必要な存在だ、むざむざとやらせはしない。真に危険が迫れば手助けもしよう」

 

「わぁ、ありがとうオルステッド様!オルステッド様がそう言ってくれるなら安心だね!ね、オウル!」

 

「ホーホーウ」

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

『…オルステッド様、スペルド族の村が疫病に侵されてるって知ってましたね?』

 

「む…ああ…今まで何度も試したが、俺には彼等を治す事は出来なかったからな…お前には酷な話ではあるが。それに時間をかける事は出来なかった」

 

『…そうですか…』

 

「…すまんな」

 

『いえ、オルステッド様は…未来を見据えてますからね、仕方ない事もあるでしょう。ただ、私の心の準備が出来ていなかっただけです。…とりあえず様子を一人で見てきます。アリエル様からお借りした彼等が疫病に罹ってしまったら申し訳ないですからね』

 

何処か刺のある言葉を残し、白髪の女は立ち去る。

その後ろ姿を、『龍神』は少し気まずそうに、けれどかける言葉も見つからずに見送った。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「あれぇ、お姉ちゃんじゃないですか」

 

恩人の緑髪の男に垂れかかる女を見た白髪の女は目を見開いた。

それは、二番目の夫を失った後、姿を消した妹の姿だった。

厭らしい笑みを浮かべ、くすくすと笑いを溢す妹を認識した白髪の女は、そちらに気を取られてしまい、緑髪の男の口から飛び出した青い粘体を、かわす事が出来なかった。

そのまま倒れこむ白髪の女を、妹は嘲笑う。

 

「あははははははは!!!なんて無様!化け物の癖に、家庭なんか作って。何勘違いしてるんだか…でもこれで化け物もおしまい!私は憧れの人と家庭を持って、ここで幸せに暮らす…誰にも邪魔はさせない」

 

妹は据わった目で、覚めない眠りについた白髪の女を見据える。

その妹の目元には深い隈が刻まれていた。

まるで数日起きたままのような、酷い隈であった。

 

「…それじゃ、行きましょうか。これで村も平和になる筈。一緒にお昼寝しましょう?」

 

妹は踵を返し、目の虚ろな想い人を連れ、姉をそのまま放置し村へと足を進めたのだった。

その背後で、白髪の女のつけていた悪趣味な指輪が、パキン、と音をたてた。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「受け…きれないっ!あっ」

 

水帝の女は真っ二つにされて崩れ落ちた。

 

「まだあたしはやれる!…やれ……」

 

猫耳の獣族の女は心臓を貫かれ仰向けに動かなくなった。

 

「……すまない、ルーディア」

 

赤毛の男は上半身だけとなり血を吐いて事切れた。

 

「ああ…今いく…」

 

緑髪の男は直前に何かを見て、首をはねられた。

 

「こんな光景がお前の求めてた事なのかよ!ルーディア!」

 

茶髪の男は直後縦に真っ二つにされて即死した。

 

「…ごめんね、ルディ…」

 

白髪の男は傷つき動けない体で涙を流し、胸を貫かれて死んだ。

 

 

 

 

 

「いやぁああああ!やめて!やめてよぉ!なんでそんなひどい事が出来るの!?」

 

スペルド族の村で老若男女が次々と殺されていく光景に、妹が半狂乱となる。

 

「助けて!ルイジェルドさん!ルイジェルドさん…?」

 

そんな妹に、首だけとなった想い人が差し出された。

 

「あ、あぁあああああ!!!殺してやる!殺してや、あがぁ!」

 

叫んで走り込んできた妹を地面に叩きつけ、背中を踏みつける。

 

「い、痛いよ、助けて…助けてよ…ルイジェルドさん…」

 

涙を流す妹に、白髪の女は言葉を送る事なく。

 

「ルイ―」

 

背中ごしのその心臓に、爪を突き立てた。

目を見開いたまま、緑髪の男の首に手を伸ばして事切れた妹を踏みつけながら、闘神鎧を纏った白髪の女は。

ルーディア・グレイラットは、此方を驚愕の目で見つめる『龍神』オルステッドに、ゆっくりと視線を向けた。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「な、なんですか貴方達は!」

 

「ゼニス・ラトレイアがここにいるな。我々はミリス神聖国の者だ。ラトレイア家から要請があった、娘を連れ戻せと」

 

「なっ…!ゼニス様はグレイラットです!パウロ・グレイラットと結婚した…」

 

「そのパウロ・グレイラットはもう死んだのだろう?生活も儘ならないだろう。ラトレイア家からは治療の目処がたっているから、と多少無理矢理でも連れ出せとのお達しだ」

 

「止めてください!奥様をこれ以上苦しめないでくださっキャッ!」

 

「邪魔をするな!」

 

突き飛ばされた女は頭をぶつけたようで、額から血を流した。

 

「う、う…」

 

踞る女を気にした風もなく、ミリス神聖国と名乗った者達は家の中へとズカズカと入り込み、金髪の視線の定まらない女を抱えた。

 

「良し、確保した。行くぞ」

 

その顔立ちや身体的特徴等を暫し確認する。

そしてそのまま足早に家から出ていった。

 

「う…奥様…ぁ…」

 

「お母さん!」

 

隠れているように言われていた娘が飛び出し、女の応急手当てをする。

幸いにも傷は深くなく、出血と止まっていた。

けれど女は、そのままガクンと頭を垂れて気絶してしまった。

 

 

 

女はその後急速に衰弱していった。

精神的にかなり弱りきった様子であった。

 

「ごめんなさい…旦那様…ごめんなさい…奥様…ごめんなさい…」

 

意識は薄く、譫言のように謝り続ける日々。

そして…看病の甲斐なく、女はそのまま衰弱しきり、息を引き取る。

運命の悪戯か何かか、ほぼ同時刻、ミリス神聖国にてラトレイア家に戻された女は、妊娠した事で身体へかかる負荷に耐えられずに、息を引き取った。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「おめでとう、アイシャ姉さん、アルス兄さん」

 

「ありがとう、ルーシーちゃん」

 

「ありがとうルーシー」

 

「ホッホウ」

 

三人と一羽だけの結婚式。

ただ、アイシャとアルスの結婚を祝うだけの、小さな式。

 

「…もう、三人だけ、なんだね」

 

ルーシーの寂しげな声に、二人の表情も歪む。

 

「そうだね…でもきっとここから増えてくよ、ね、アルス君…いえ、アナタ」

 

そう言ってアルスの胸にすり寄るアイシャに、アルスは顔を赤くしつつも、肩を抱いて、強く頷いた。

 

「ああ。これから増やしてみせるさ」

 

そんなアルスの男らしい発言に、自分からふったにも関わらず、アイシャは顔を赤らめて照れ笑いした。

幸せそうな二人に、ルーシーは笑顔で祝福をするのだった。




ミタさんさん、誤字報告ありがとうございました。
修正しました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。